創作企画「冥冥の澱」2
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生きることは、苦痛だった。いつも、頭の片隅に“自殺”という選択肢がある。
例えば、こんな、駅のホーム。飛び込んでしまったら、死ねるだろう。
今日は、そう、寝坊して。よく知っている有名人の訃報があって。朝ごはんを焦がして。片方の靴下を裏返しで履いていて。嫌いな授業があって。大嫌いなクラスメイトと日直で。
とにかく、消えてしまいたかった。
特別、意味はないの。ただ、私はクラス中から、無視されている。いじめられてるのかな。でも、危害は加えられてないし。
もうすぐ、電車が来る。何歩か進めば、死に近付ける。
あーあ。いいことなんて、ひとつもなかった。
「……さよなら」
小さく呟いて、私は踏み出す。
「危ないっ!」
「え…………?」
誰かが、私の腕を掴み、引っ張る。
後ろに、背の高い男の人がいた。鍵の形をしたペンダントが、目につく。彼は、私を真っ直ぐ見つめて、手を放さない。
「どうしたの?」
「私…………」
固まっているうちに、乗るべき電車が発車する。
「な、なんか、ふらついて。寝不足だからだと思います」
口から、思いもよらない言葉が出た。嘘つき。
「本当に?」
「はい……」
じっと、私を見ている。心配そうに。
「それなら、いいです。まずは、呼吸してください」
「呼吸……?」
「あんた、死にかけたんだぞ。ゆっくり呼吸して、生きてることを実感しなきゃ」
「……はい」
言われた通り、息を吸って、吐く。心臓が脈打つのを感じた。
どうしようもなく、生きている。
「私…………」
何故か、涙が出た。
「おれ、網代翼。何かあってもなくても、話したければ、呼んでください」
腕を放され、差し出されたのは、一枚の名刺。
“網代便利軒 網代翼”
「……便利屋さん?」
「そうです」
「た、助けてください……私、どうしていいか、分からなくて……」
「はい」
「学校に行きたくない……」
「今日は、サボりましょう」
「サボる…………?」
そんな選択肢、あったんだ。
「好きな飲み物は?」
「え? えと、ココアです」
「事務所に来ませんか? すぐ近くだから。ココアもあります。スマホで、いつでも警察を呼べるようにしといていいですよ」
「はい……」
溶けかけていた防犯意識を、わざわざ思い出させてくれた。
「じゃあ、案内します」
「よろしくお願いします」
◆◆◆
着いたのは、綺麗に片付けられた部屋。事務机があり、書棚があり、ローテーブルがソファーで挟んである。
「かけてください。ココア、用意します」
「あ、ありがとうございます」
ソファーに座り、鞄を置く。
少ししてから。網代さんは、カップをふたつ持って来た。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
一口飲む。秋風で冷えていた体が温まる。
「単刀直入に訊きますが、学校の何が嫌なんですか?」
「理由は分からないんですけど、クラスメイト全員に無視されていて」
「なるほど。どうしたいですか? クラスメイトと和解したい?」
「あんな、あんな人たちと、今更仲良くなんて出来ません!」
驚くくらい、大きな声が出た。
「それじゃあ、割り切って、学校をツールだと思いましょう。幼稚なクラスメイトのことは、あんたがほっとくんだ」
「私が?」
「ああ。あんたは、孤独じゃない。孤高なんですよ。自分で選んだんだ」
「でも時々、凄く寂しいんです」
「学校外に友人を作りましょう。習い事でもいいし、ネットでもいいし」
「……あなたは?」
「おれ?」
「あ、すいません。迷惑ですよね」
「いいですよ。困った時には、いつでも呼んでください」
「はい……!」
木漏れ日みたいな優しい笑みで、網代さんは私に手を差し伸べる。
握手した手は、温かかった。
例えば、こんな、駅のホーム。飛び込んでしまったら、死ねるだろう。
今日は、そう、寝坊して。よく知っている有名人の訃報があって。朝ごはんを焦がして。片方の靴下を裏返しで履いていて。嫌いな授業があって。大嫌いなクラスメイトと日直で。
とにかく、消えてしまいたかった。
特別、意味はないの。ただ、私はクラス中から、無視されている。いじめられてるのかな。でも、危害は加えられてないし。
もうすぐ、電車が来る。何歩か進めば、死に近付ける。
あーあ。いいことなんて、ひとつもなかった。
「……さよなら」
小さく呟いて、私は踏み出す。
「危ないっ!」
「え…………?」
誰かが、私の腕を掴み、引っ張る。
後ろに、背の高い男の人がいた。鍵の形をしたペンダントが、目につく。彼は、私を真っ直ぐ見つめて、手を放さない。
「どうしたの?」
「私…………」
固まっているうちに、乗るべき電車が発車する。
「な、なんか、ふらついて。寝不足だからだと思います」
口から、思いもよらない言葉が出た。嘘つき。
「本当に?」
「はい……」
じっと、私を見ている。心配そうに。
「それなら、いいです。まずは、呼吸してください」
「呼吸……?」
「あんた、死にかけたんだぞ。ゆっくり呼吸して、生きてることを実感しなきゃ」
「……はい」
言われた通り、息を吸って、吐く。心臓が脈打つのを感じた。
どうしようもなく、生きている。
「私…………」
何故か、涙が出た。
「おれ、網代翼。何かあってもなくても、話したければ、呼んでください」
腕を放され、差し出されたのは、一枚の名刺。
“網代便利軒 網代翼”
「……便利屋さん?」
「そうです」
「た、助けてください……私、どうしていいか、分からなくて……」
「はい」
「学校に行きたくない……」
「今日は、サボりましょう」
「サボる…………?」
そんな選択肢、あったんだ。
「好きな飲み物は?」
「え? えと、ココアです」
「事務所に来ませんか? すぐ近くだから。ココアもあります。スマホで、いつでも警察を呼べるようにしといていいですよ」
「はい……」
溶けかけていた防犯意識を、わざわざ思い出させてくれた。
「じゃあ、案内します」
「よろしくお願いします」
◆◆◆
着いたのは、綺麗に片付けられた部屋。事務机があり、書棚があり、ローテーブルがソファーで挟んである。
「かけてください。ココア、用意します」
「あ、ありがとうございます」
ソファーに座り、鞄を置く。
少ししてから。網代さんは、カップをふたつ持って来た。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
一口飲む。秋風で冷えていた体が温まる。
「単刀直入に訊きますが、学校の何が嫌なんですか?」
「理由は分からないんですけど、クラスメイト全員に無視されていて」
「なるほど。どうしたいですか? クラスメイトと和解したい?」
「あんな、あんな人たちと、今更仲良くなんて出来ません!」
驚くくらい、大きな声が出た。
「それじゃあ、割り切って、学校をツールだと思いましょう。幼稚なクラスメイトのことは、あんたがほっとくんだ」
「私が?」
「ああ。あんたは、孤独じゃない。孤高なんですよ。自分で選んだんだ」
「でも時々、凄く寂しいんです」
「学校外に友人を作りましょう。習い事でもいいし、ネットでもいいし」
「……あなたは?」
「おれ?」
「あ、すいません。迷惑ですよね」
「いいですよ。困った時には、いつでも呼んでください」
「はい……!」
木漏れ日みたいな優しい笑みで、網代さんは私に手を差し伸べる。
握手した手は、温かかった。