創作企画「冥冥の澱」2
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9月14日。翼が1歳になった。
「おめでとうやで」
「おめでとう、翼」
靖及さんが、スマホで録画しながら言う。
「まんま」
「うさぎちゃんの誕生日ケーキやで」
「うしゃき」
用意した、生クリーム不使用の赤ちゃん用のケーキには、うさぎの形のフィナンシェが乗ってる。それを指差して、翼が笑う。
「うしゃき」
「せやで。はい、あーん」
「あー」
「美味しいか?」
「まんま」
「もっとか? 気に入ったみたいやな」
翼は、ケーキを残さず食べた。
「まま」
「なんや?」
「ぱぱ」
「どうした? 翼」
「靖及さん、3人で写真撮ろうや」
「ああ」
リビングの棚の上には、写真立てが並んどる。家族写真が増えるのは、嬉しい。
色んなもんを積み重ねて、生きていくんやなぁ。
翼は、どんな風に生きたい?
◆◆◆
翼が昼寝しとるうちに、少し休憩や。まあ、同じ部屋にはおらなアカンけど。寝返りうつから、うつ伏せになったら、戻さな。
「靖及さん」
小声で話す。
「なんだ?」
俺は、ぎゅっと抱き付いた。
「これまで、ありがとうな。これからも、よろしく頼むで」
「ああ、もちろんだ。司、ありがとう」
抱き締め返されて、幸せに包まれる。
「愛してる」
「……俺もや」
鍵野から飛び出して、東京に来たのは、アンタと翼に会うためやったのかもしれんなぁ。
俺は、どんな型に嵌められるのも嫌で。子供の頃から、家に反抗しとった。“鍵野”の押し付けも、性別の決め付けも、社会的な役割も、全部嫌やった。でも、網代司には、なりたかった。なんの後悔もない。相変わらず、女とか妻とか母とかの型には嵌められたないけど。保護者としての責任は、果たす。
家族3人のために、俺は生き抜くんや。
「靖及さん、俺な、100年くらい生きたるわ」
「そうしてくれると嬉しい」
「司ちゃん、強いからなぁ」
「そうだな」
“ウチは最強や!”
子供の頃に持っていた全能感は、大人になるにつれて薄れていった。でも、ずっと自信はあった。根拠なんか、いらん。
計算は得意や。それは、裏打ちされた自信になった。
けど、産後うつで、一度何もかも失くして。俺は、ボロボロになった。それでも、靖及さんが隣にいてくれたから、少しずつよくなって。将来のことも考えられるようになったし、何より生きたいと思った。
ずっと、この道を一緒に歩いてくれるやろ?
まあ、訊くまでもないから、訊かへんけど。
俺がまた、一歩も動けんようになっても、アンタがいれば大丈夫や。
この世界は、いつまでも3人のものやねん。
「おめでとうやで」
「おめでとう、翼」
靖及さんが、スマホで録画しながら言う。
「まんま」
「うさぎちゃんの誕生日ケーキやで」
「うしゃき」
用意した、生クリーム不使用の赤ちゃん用のケーキには、うさぎの形のフィナンシェが乗ってる。それを指差して、翼が笑う。
「うしゃき」
「せやで。はい、あーん」
「あー」
「美味しいか?」
「まんま」
「もっとか? 気に入ったみたいやな」
翼は、ケーキを残さず食べた。
「まま」
「なんや?」
「ぱぱ」
「どうした? 翼」
「靖及さん、3人で写真撮ろうや」
「ああ」
リビングの棚の上には、写真立てが並んどる。家族写真が増えるのは、嬉しい。
色んなもんを積み重ねて、生きていくんやなぁ。
翼は、どんな風に生きたい?
◆◆◆
翼が昼寝しとるうちに、少し休憩や。まあ、同じ部屋にはおらなアカンけど。寝返りうつから、うつ伏せになったら、戻さな。
「靖及さん」
小声で話す。
「なんだ?」
俺は、ぎゅっと抱き付いた。
「これまで、ありがとうな。これからも、よろしく頼むで」
「ああ、もちろんだ。司、ありがとう」
抱き締め返されて、幸せに包まれる。
「愛してる」
「……俺もや」
鍵野から飛び出して、東京に来たのは、アンタと翼に会うためやったのかもしれんなぁ。
俺は、どんな型に嵌められるのも嫌で。子供の頃から、家に反抗しとった。“鍵野”の押し付けも、性別の決め付けも、社会的な役割も、全部嫌やった。でも、網代司には、なりたかった。なんの後悔もない。相変わらず、女とか妻とか母とかの型には嵌められたないけど。保護者としての責任は、果たす。
家族3人のために、俺は生き抜くんや。
「靖及さん、俺な、100年くらい生きたるわ」
「そうしてくれると嬉しい」
「司ちゃん、強いからなぁ」
「そうだな」
“ウチは最強や!”
子供の頃に持っていた全能感は、大人になるにつれて薄れていった。でも、ずっと自信はあった。根拠なんか、いらん。
計算は得意や。それは、裏打ちされた自信になった。
けど、産後うつで、一度何もかも失くして。俺は、ボロボロになった。それでも、靖及さんが隣にいてくれたから、少しずつよくなって。将来のことも考えられるようになったし、何より生きたいと思った。
ずっと、この道を一緒に歩いてくれるやろ?
まあ、訊くまでもないから、訊かへんけど。
俺がまた、一歩も動けんようになっても、アンタがいれば大丈夫や。
この世界は、いつまでも3人のものやねん。