創作企画「冥冥の澱」2
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2月末。翼が寝返りをうてるようになった。
「靖及さん、見てや。翼が、ころころしとる」
「成長著しいな……」
ベビーサークルの中で、床を転がるのが楽しいらしい。
それから、なんでも掴むようにもなった。ガラガラやぬいぐるみを振り回して、遊ぶ。
抱き上げた時、俺のペンダントを掴んだ。
「これは、そのうち翼のもんになるんやで」
「あー」
「はいはい。引っ張るのはダメやで。放そうな」
「うぅ」
「ボール掴むか? ほら」
青色のボールを渡す。
「あー」
ボールを握った手を、ぶんぶん振る翼。
「元気やな」
「あ……」
ボールを投げた? 落とした?
「翼」
靖及さんが、ボールを拾って、翼に握らせた。
「うー」
翼は、また手を動かし始める。
春になったら。俺は、きっと歩き出せる。そんな気がする。
◆◆◆
3月のある日。
俺は、翼を抱えて、靖及さんが仕事しとる部屋に向かう。肘でドアのレバーハンドルを下げ、そのまま開いて、隙間に足を突っ込んでガッと開けた。
「靖及さん!」
「どうした? 司」
「翼、が、いつもと違うこと喋ってん!」
「なんて言った?」
「ほら、もっかい言うてみ、翼」
「ばー」
「ほら! さっきとちゃうけど!」
「さっきは?」
「まぁーって言うてた!」
「ぱ!」
「また違うこと言うた!」
「ぶー」
「靖及さん、録画! 録画せな!」
「ああ」
スマホを構える靖及さん。
「翼! ほら、カメラ見て喋るんや!」
「ぶーう」
「凄いで、翼! な! 靖及さん!」
「ああ……!」
「ばあー」
「ええ子や!」
翼に頬を寄せて、微笑む。
世界で一番可愛ええなぁ。
◆◆◆
『ばあー』
『ええ子や!』
ふたりが眠った後、寝室を出て、昼間に撮った動画を見返す。何度も。
司が、前のように笑っている。翼が、どんどん成長している。
「よかった……」
ふたつの命が、輝いて見えた。
啓蟄が過ぎて、司も翼も元気で。幸せだ。
ずっと、3人で歩んで行こう。例え、どんなに困難な道でも。この道に、果てはない。けれど、一緒に進もう。
痛みは、いずれ思い出になる。過去は、未来を輝かせるためにある。
ふたりの未来には、俺もいなくてはならない。司は、いつもそれを望んでいてくれる。俺がいないと、“空白”が出来ると、前に言っていたから。
ほんの少し、溢れた涙を拭う。
“俺と、結婚したってや…………!”
あの言葉がなければ、今はなかった。あの時、追いかけなければ、現在は全く別のものになっていただろう。今なら、自分の選択を誇れる。
司の隣に戻ろう。司が目覚めた時に、側にいないと嫌だから。
「靖及さん、見てや。翼が、ころころしとる」
「成長著しいな……」
ベビーサークルの中で、床を転がるのが楽しいらしい。
それから、なんでも掴むようにもなった。ガラガラやぬいぐるみを振り回して、遊ぶ。
抱き上げた時、俺のペンダントを掴んだ。
「これは、そのうち翼のもんになるんやで」
「あー」
「はいはい。引っ張るのはダメやで。放そうな」
「うぅ」
「ボール掴むか? ほら」
青色のボールを渡す。
「あー」
ボールを握った手を、ぶんぶん振る翼。
「元気やな」
「あ……」
ボールを投げた? 落とした?
「翼」
靖及さんが、ボールを拾って、翼に握らせた。
「うー」
翼は、また手を動かし始める。
春になったら。俺は、きっと歩き出せる。そんな気がする。
◆◆◆
3月のある日。
俺は、翼を抱えて、靖及さんが仕事しとる部屋に向かう。肘でドアのレバーハンドルを下げ、そのまま開いて、隙間に足を突っ込んでガッと開けた。
「靖及さん!」
「どうした? 司」
「翼、が、いつもと違うこと喋ってん!」
「なんて言った?」
「ほら、もっかい言うてみ、翼」
「ばー」
「ほら! さっきとちゃうけど!」
「さっきは?」
「まぁーって言うてた!」
「ぱ!」
「また違うこと言うた!」
「ぶー」
「靖及さん、録画! 録画せな!」
「ああ」
スマホを構える靖及さん。
「翼! ほら、カメラ見て喋るんや!」
「ぶーう」
「凄いで、翼! な! 靖及さん!」
「ああ……!」
「ばあー」
「ええ子や!」
翼に頬を寄せて、微笑む。
世界で一番可愛ええなぁ。
◆◆◆
『ばあー』
『ええ子や!』
ふたりが眠った後、寝室を出て、昼間に撮った動画を見返す。何度も。
司が、前のように笑っている。翼が、どんどん成長している。
「よかった……」
ふたつの命が、輝いて見えた。
啓蟄が過ぎて、司も翼も元気で。幸せだ。
ずっと、3人で歩んで行こう。例え、どんなに困難な道でも。この道に、果てはない。けれど、一緒に進もう。
痛みは、いずれ思い出になる。過去は、未来を輝かせるためにある。
ふたりの未来には、俺もいなくてはならない。司は、いつもそれを望んでいてくれる。俺がいないと、“空白”が出来ると、前に言っていたから。
ほんの少し、溢れた涙を拭う。
“俺と、結婚したってや…………!”
あの言葉がなければ、今はなかった。あの時、追いかけなければ、現在は全く別のものになっていただろう。今なら、自分の選択を誇れる。
司の隣に戻ろう。司が目覚めた時に、側にいないと嫌だから。