創作企画「冥冥の澱」2
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来ねぇな? 宵。
「月影よう。確かに、おれたちは狐ヶ崎にいるから来いって言ったよなぁ?」
「ああ」
真っ暗闇に狐火が灯る中、ふたりきり。
おれと、神狐、月影は、狐ヶ崎宵を待っている。
「あっ……」
「ん? どうした? 月影」
「いや、なにも」
「いやいや。お前さん、今、しまった、みたいな声出したろう?」
「……時光、誓って、我のせいではないぞ」
「なにがだよ?」
隣にいる月影は、言い渋るが、問い詰めた。
「腹の中に、宵の記憶がある……」
「……おい。それじゃあ、来れる訳ねぇだろうがよ!」
よくよく聞いてみると、宵は、袖に入れた光る石を落として帰ってしまったらしい。それが、宵の記憶。あの、夕焼け色の石。
「約束ごと忘れてるってのかよう」
「そうなるな。だが、次の新年には来るはずだ」
「あのな、生者の一年は長げぇんだ。おれたちには、一年も百年も変わらねぇがよう」
可哀想に。さぞ、心細いだろう。
「月影、狐ヶ崎神社に巫女がいるだろう? その娘の夢枕に立つってぇのは?」
「ならぬ。あの娘は、狐憑きではない。干渉すれば、心を壊す」
「……そうかい。そもそもなぁ、“それ”がおかしいんだよなぁ。なんで、狐ヶ崎の者に狐が憑いてねぇんだい?」
「嫡男にのみ、狐を与えるとした者がいるからだ」
馬鹿だねぇ、人間ってのは。つくづく、守り甲斐のねぇ生き物だねぇ。みぃんな、堕落しちまうねぇ。
でも、そういうところが愛しいねぇ、おれは。おれと、おんなじだから。
力を持てば、振るいたくなる。人なんて、簡単に殺す。
銭を持てば、使いたくなる。人なんて、欲の塊だ。
名誉を持てば、失いたくなくなる。人なんて、名声に縛られるもんだよ。
自縄自縛の、雁字搦め。おれも、そう。死してなお、狐の腹の中にいる。きっと、永久に。
狐ヶ崎という土地に、自ら縛られている。
生き死にの分かれ道で、お前さんと出会ってから、おれの天命を理解した。
おれのさだめとは、“狐ヶ崎の礎”になること。
人生の終わりも終わり、妻子じゃなくて、狐が待ち受けていて。そして、おれを一呑みした。
それから、ずうっと、ここにいる。独りだったが、そんなものだろうと思っていた。人殺しの行く末なんて。
けど、最近は、ふたりでいる。狐ヶ崎時光は、孤独ではなくなった。
狐ヶ崎宵。神狐を喚び出し、怒りを買い、一度は殺された者。仏と違って、神は祟るからなぁ。
宵は、面白い奴だ。神狐に憑いてもらえば、気に入らねぇ奴らなんか、皆殺し出来たのに。それをしなかった。代わりに、神狐と縁を切ろうとして。まあ、そりゃ、失敗したが。
「どうにかしてやりてぇもんだな」
おれは、死者だ。どうにも出来ない。死人には、死人の領分がある。
「宵は、おれとおんなじなんだよ。力も金も名誉も幸福も、持てば自由でなくなるって、知ってんだ。でも、出来るなら、欲しいよなぁ?」
「月影よう。確かに、おれたちは狐ヶ崎にいるから来いって言ったよなぁ?」
「ああ」
真っ暗闇に狐火が灯る中、ふたりきり。
おれと、神狐、月影は、狐ヶ崎宵を待っている。
「あっ……」
「ん? どうした? 月影」
「いや、なにも」
「いやいや。お前さん、今、しまった、みたいな声出したろう?」
「……時光、誓って、我のせいではないぞ」
「なにがだよ?」
隣にいる月影は、言い渋るが、問い詰めた。
「腹の中に、宵の記憶がある……」
「……おい。それじゃあ、来れる訳ねぇだろうがよ!」
よくよく聞いてみると、宵は、袖に入れた光る石を落として帰ってしまったらしい。それが、宵の記憶。あの、夕焼け色の石。
「約束ごと忘れてるってのかよう」
「そうなるな。だが、次の新年には来るはずだ」
「あのな、生者の一年は長げぇんだ。おれたちには、一年も百年も変わらねぇがよう」
可哀想に。さぞ、心細いだろう。
「月影、狐ヶ崎神社に巫女がいるだろう? その娘の夢枕に立つってぇのは?」
「ならぬ。あの娘は、狐憑きではない。干渉すれば、心を壊す」
「……そうかい。そもそもなぁ、“それ”がおかしいんだよなぁ。なんで、狐ヶ崎の者に狐が憑いてねぇんだい?」
「嫡男にのみ、狐を与えるとした者がいるからだ」
馬鹿だねぇ、人間ってのは。つくづく、守り甲斐のねぇ生き物だねぇ。みぃんな、堕落しちまうねぇ。
でも、そういうところが愛しいねぇ、おれは。おれと、おんなじだから。
力を持てば、振るいたくなる。人なんて、簡単に殺す。
銭を持てば、使いたくなる。人なんて、欲の塊だ。
名誉を持てば、失いたくなくなる。人なんて、名声に縛られるもんだよ。
自縄自縛の、雁字搦め。おれも、そう。死してなお、狐の腹の中にいる。きっと、永久に。
狐ヶ崎という土地に、自ら縛られている。
生き死にの分かれ道で、お前さんと出会ってから、おれの天命を理解した。
おれのさだめとは、“狐ヶ崎の礎”になること。
人生の終わりも終わり、妻子じゃなくて、狐が待ち受けていて。そして、おれを一呑みした。
それから、ずうっと、ここにいる。独りだったが、そんなものだろうと思っていた。人殺しの行く末なんて。
けど、最近は、ふたりでいる。狐ヶ崎時光は、孤独ではなくなった。
狐ヶ崎宵。神狐を喚び出し、怒りを買い、一度は殺された者。仏と違って、神は祟るからなぁ。
宵は、面白い奴だ。神狐に憑いてもらえば、気に入らねぇ奴らなんか、皆殺し出来たのに。それをしなかった。代わりに、神狐と縁を切ろうとして。まあ、そりゃ、失敗したが。
「どうにかしてやりてぇもんだな」
おれは、死者だ。どうにも出来ない。死人には、死人の領分がある。
「宵は、おれとおんなじなんだよ。力も金も名誉も幸福も、持てば自由でなくなるって、知ってんだ。でも、出来るなら、欲しいよなぁ?」