創作企画「冥冥の澱」
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姉さん、僕たち、結婚式は出来ないんだよ。
「ほぇ?」
そう告げると、姉さんは、すっとんきょうな声を出した。
「黎命くんは、既婚者だよ」
「いやぁ、色々複雑なもんで」
「…………」
「姉さん?」
「びっっっっっっっっくりした!」
僕は、その声に驚く。
「え? でも、両想いなのよね?」
「う、うん」
「じゃあ、勝手にやりましょうよ」
「えっ?」
「なんて?」
僕たちは、何を言われたのか、分からない。勝手にやりましょうよ?
「だから、結婚式よ。列席者は、あたしひとりね!」
「姉さん……?」
「さあ、3人でプランを練るわよ!」
「ね、姉さん、勝手なこと言わないで……」
黎命くんに迷惑をかけたくない。結婚式なんて、そんな大それたものいらない。
「あのねぇ、北斗。よく聞きなさい。全ての愛は、第三者に祝福されなければならないの。それが出来ないくらい後ろ暗いなら、そんなものは捨てなさい」
「…………」
言葉に詰まる。隣に座る黎命くんを窺った。
「やっぱり、不幸にしちまったなぁ……」
「ちが————」
「何言ってるの? あんたたちは、あたしが祝福します。だから、ずっと幸せに決まってるじゃないの。黎命くんは、何式で結婚したのかしら?」
「神前式、ですけどぉ……」
「じゃあ、キリスト系か仏式でいきましょう。教会にも寺にも、当てがあるわ」
ああ、そういえば。僕が、姉さんのことを止められるはずがないんだった。
◆◆◆
姉さんの仕事は、物凄く早かった。一週間もかかっていない。
「ボクたちは、秘密を守ると、主に誓います」
「安心して、式を執り行ってください」
詰襟に白いスーツの牧師がふたり、人差し指を唇に当てながら囁くように言う。
ここは、矢木教会。プロテスタントだそうだ。ここにいるのは、5人だけ。
ふたりの牧師、矢木美世さんと五郎さんは、夫婦らしい。
僕たちは、信徒ではない。この教会は、それでも受け入れるのだと言う。
僕と黎命くんは、黒いタキシードを着て、祭壇の前に立った。
洋装の黎命くんは、とても新鮮で、神秘的だ。黒曜石の瞳に、黒は似合う。
「おふたりは、病める時も、健やかなる時も、共にあることを誓いますか?」
「おふたりは、自らの欲するところを為し、ここに辿り着きましたか?」
美世さんと五郎さんは、順番に尋ねた。
「は、はい」
「はい……」
僕と黎命くんは、答える。
「では、誓いのキスを」と、ふたりは言う。
僕は、そっと黎命くんの頬に手を添えて、口付けた。
ひとり分の拍手が聴こえる。
「おふたりに、祝福を」と、牧師たち。祈りを捧げている。
天窓から、降り注ぐ光が、僕たちを照らした。
黎命くんの、両手を握る。
「愛してるよ」
「俺も、愛してますよ」
指輪の交換はしない。鐘の音はしない。万人に祝福されることはない。
しかし、それでよかった。世界から、君を奪えるなら、それでよかった。
でも、たった3人でも、僕たちを祝福してくれる人がいる。
それは、世界からの祝福だった。
「ほぇ?」
そう告げると、姉さんは、すっとんきょうな声を出した。
「黎命くんは、既婚者だよ」
「いやぁ、色々複雑なもんで」
「…………」
「姉さん?」
「びっっっっっっっっくりした!」
僕は、その声に驚く。
「え? でも、両想いなのよね?」
「う、うん」
「じゃあ、勝手にやりましょうよ」
「えっ?」
「なんて?」
僕たちは、何を言われたのか、分からない。勝手にやりましょうよ?
「だから、結婚式よ。列席者は、あたしひとりね!」
「姉さん……?」
「さあ、3人でプランを練るわよ!」
「ね、姉さん、勝手なこと言わないで……」
黎命くんに迷惑をかけたくない。結婚式なんて、そんな大それたものいらない。
「あのねぇ、北斗。よく聞きなさい。全ての愛は、第三者に祝福されなければならないの。それが出来ないくらい後ろ暗いなら、そんなものは捨てなさい」
「…………」
言葉に詰まる。隣に座る黎命くんを窺った。
「やっぱり、不幸にしちまったなぁ……」
「ちが————」
「何言ってるの? あんたたちは、あたしが祝福します。だから、ずっと幸せに決まってるじゃないの。黎命くんは、何式で結婚したのかしら?」
「神前式、ですけどぉ……」
「じゃあ、キリスト系か仏式でいきましょう。教会にも寺にも、当てがあるわ」
ああ、そういえば。僕が、姉さんのことを止められるはずがないんだった。
◆◆◆
姉さんの仕事は、物凄く早かった。一週間もかかっていない。
「ボクたちは、秘密を守ると、主に誓います」
「安心して、式を執り行ってください」
詰襟に白いスーツの牧師がふたり、人差し指を唇に当てながら囁くように言う。
ここは、矢木教会。プロテスタントだそうだ。ここにいるのは、5人だけ。
ふたりの牧師、矢木美世さんと五郎さんは、夫婦らしい。
僕たちは、信徒ではない。この教会は、それでも受け入れるのだと言う。
僕と黎命くんは、黒いタキシードを着て、祭壇の前に立った。
洋装の黎命くんは、とても新鮮で、神秘的だ。黒曜石の瞳に、黒は似合う。
「おふたりは、病める時も、健やかなる時も、共にあることを誓いますか?」
「おふたりは、自らの欲するところを為し、ここに辿り着きましたか?」
美世さんと五郎さんは、順番に尋ねた。
「は、はい」
「はい……」
僕と黎命くんは、答える。
「では、誓いのキスを」と、ふたりは言う。
僕は、そっと黎命くんの頬に手を添えて、口付けた。
ひとり分の拍手が聴こえる。
「おふたりに、祝福を」と、牧師たち。祈りを捧げている。
天窓から、降り注ぐ光が、僕たちを照らした。
黎命くんの、両手を握る。
「愛してるよ」
「俺も、愛してますよ」
指輪の交換はしない。鐘の音はしない。万人に祝福されることはない。
しかし、それでよかった。世界から、君を奪えるなら、それでよかった。
でも、たった3人でも、僕たちを祝福してくれる人がいる。
それは、世界からの祝福だった。