創作企画「冥冥の澱」
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あんたの結婚式、あたしが考えてあげる。十年以上前、そんなことを言った。
だけど、弟の北斗は、いまだに恋人がいない。ちゃんと働いてるし、ちゃんと見た目にも気を使っているし、ちゃんとひとりで暮らしているのに。
しいて言うなら、肝が小さい。口下手。根暗。
だからなの? 恋人がいないのは?
そんな弟が、私は心配だ。今日は、久し振りに、北斗の家にやって来た。
そうしたら。玄関先に、北斗と知らない着物の男がいた。よく見ると、ふたりは手を繋いでいる。そして、家の中に入っていく。
「ちょいちょいちょいちょーい!」
あたしは、思わず走りながら声を上げて、閉まりかけのドアにハイヒールを差し込んだ。
それから、ドアに手をかけてガッと開く。ヤベ、ネイルチップ一枚とれた。
「えっ?!」
「北斗さん、どなたです?」
「あ、姉です……」
「はじめまして。こんにちは。あたし、十星子。北斗のひとつ上の姉。職業は、ウェディングプランナー。ちなみに既婚者」
左手薬指の結婚指輪を見せる。
「姉さん、この人は、その……」
「真咲黎命っていいます。俺は、北斗さんの————」
「黎命くんは、僕の恋人です……!」
顔を赤く染めながら、北斗は言う。
「まあまあまあまあ! やっぱり!」
あたしは、ふたりを押して、家の中に入った。
「ふふふふ! だと思ったのよー! よかったわねぇ、北斗! あんた、35年間、独りだったものねぇ!」
「ね、姉さん……それは……」
「違いますよぅ。結構前から、付き合いはあったんですよぅ」
「え!? それって、つまり……」
そういうことなの? あの北斗が?
「セフレ!?」
「ご明察で。聡明なお人だなぁ」
「…………」
レイメイくんは薄く笑い、北斗は真っ赤になった顔を両手で覆っている。
◆◆◆
「黎命くんは、こんな小心者で口下手で根暗な男でいいの?」
あたしの言葉を聞き、北斗は服をぎゅっと握り締めた。文句があるなら、かかって来なさい。
「北斗さんがいいんですよぉ。俺みたいなのを、運命だなんて言うから」
「あらぁ。運命。運命ねぇ。相変わらず、“そういう”のが得意なのねぇ。あんたの仕業でしょ? マンションのポエムとかさぁ!」
「違うよ……」
「最近どうなの? 仕事の方は?」
「最近、は、バレンタイン関連ばかりだよ」
「業績は?」
「……社内で一番だよ」
「言霊使いだものねぇ! 当然よねぇ!」
おほほ。流石、あたしの弟だわ。
「言霊使いなんですか? 北斗さん」
「それは…………」
「子供の頃から、作文とか感想文で賞を取りまくってたのよ! これで喋れたら、完璧な言霊使いなのにねぇ!」
「へぇ。そいつは凄げぇや」
「姉さん…………」
「それで、結婚式はするの?」
「姉さん…………!」
「へ? 結婚式?」
「あたしが、バッチリ考えてあげるわ! 任せなさい!」
「ごめんね、黎命くん……」
「へへへ。まさか、人様に祝わわれるたぁ。びっくりだねぇ」
「ダブルタキシード? あ、黎命くんは着物だから、神前式かしらね? なんでも、あたしにかかれば朝飯前よ!」
愛し合う者を祝福するのが、あたしの仕事ですもの。可愛い弟と、その恋人のことだって、もちろん祝うわ!
だけど、弟の北斗は、いまだに恋人がいない。ちゃんと働いてるし、ちゃんと見た目にも気を使っているし、ちゃんとひとりで暮らしているのに。
しいて言うなら、肝が小さい。口下手。根暗。
だからなの? 恋人がいないのは?
そんな弟が、私は心配だ。今日は、久し振りに、北斗の家にやって来た。
そうしたら。玄関先に、北斗と知らない着物の男がいた。よく見ると、ふたりは手を繋いでいる。そして、家の中に入っていく。
「ちょいちょいちょいちょーい!」
あたしは、思わず走りながら声を上げて、閉まりかけのドアにハイヒールを差し込んだ。
それから、ドアに手をかけてガッと開く。ヤベ、ネイルチップ一枚とれた。
「えっ?!」
「北斗さん、どなたです?」
「あ、姉です……」
「はじめまして。こんにちは。あたし、十星子。北斗のひとつ上の姉。職業は、ウェディングプランナー。ちなみに既婚者」
左手薬指の結婚指輪を見せる。
「姉さん、この人は、その……」
「真咲黎命っていいます。俺は、北斗さんの————」
「黎命くんは、僕の恋人です……!」
顔を赤く染めながら、北斗は言う。
「まあまあまあまあ! やっぱり!」
あたしは、ふたりを押して、家の中に入った。
「ふふふふ! だと思ったのよー! よかったわねぇ、北斗! あんた、35年間、独りだったものねぇ!」
「ね、姉さん……それは……」
「違いますよぅ。結構前から、付き合いはあったんですよぅ」
「え!? それって、つまり……」
そういうことなの? あの北斗が?
「セフレ!?」
「ご明察で。聡明なお人だなぁ」
「…………」
レイメイくんは薄く笑い、北斗は真っ赤になった顔を両手で覆っている。
◆◆◆
「黎命くんは、こんな小心者で口下手で根暗な男でいいの?」
あたしの言葉を聞き、北斗は服をぎゅっと握り締めた。文句があるなら、かかって来なさい。
「北斗さんがいいんですよぉ。俺みたいなのを、運命だなんて言うから」
「あらぁ。運命。運命ねぇ。相変わらず、“そういう”のが得意なのねぇ。あんたの仕業でしょ? マンションのポエムとかさぁ!」
「違うよ……」
「最近どうなの? 仕事の方は?」
「最近、は、バレンタイン関連ばかりだよ」
「業績は?」
「……社内で一番だよ」
「言霊使いだものねぇ! 当然よねぇ!」
おほほ。流石、あたしの弟だわ。
「言霊使いなんですか? 北斗さん」
「それは…………」
「子供の頃から、作文とか感想文で賞を取りまくってたのよ! これで喋れたら、完璧な言霊使いなのにねぇ!」
「へぇ。そいつは凄げぇや」
「姉さん…………」
「それで、結婚式はするの?」
「姉さん…………!」
「へ? 結婚式?」
「あたしが、バッチリ考えてあげるわ! 任せなさい!」
「ごめんね、黎命くん……」
「へへへ。まさか、人様に祝わわれるたぁ。びっくりだねぇ」
「ダブルタキシード? あ、黎命くんは着物だから、神前式かしらね? なんでも、あたしにかかれば朝飯前よ!」
愛し合う者を祝福するのが、あたしの仕事ですもの。可愛い弟と、その恋人のことだって、もちろん祝うわ!