創作企画「冥冥の澱」
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ひとり、真っ白な部屋で目覚めた。
ここは、どこ?
そう思っていると、ドアがノックされる。
「失礼します」
「えーと……」
「まあ! 大変、先生を呼んで来ますね」
看護師さんだ。ここは、病院?
やって来た医師によると、私は、1ヶ月間意識不明だったらしい。なんでも、私のように倒れていた人は、私以外はもう起きて退院したとか。
「何か、質問はありますか?」
「あの、キツネガサキヨイって誰ですか?」
◆◆◆
記憶障害。私は、私のことを何ひとつ覚えていない。
男。20歳。誕生日は、4月11日。牡羊座。春には、大学3年生になる。哲学科に在籍。身長、174cm。体重、61kg。
どれも、自分のことだという気がしない。
それに、この部屋。私の部屋。
自作らしい絵。ボトルシップ。ミルクパズル。古びたレシピノート。待ち受けが狐の画像になっているスマートフォン。
人物像が見えて来ない。何が趣味なのか、分からない。
「宵さん」
襖が開く。
「……あ、はい。あなたは?」
「狐ヶ崎花。あなたの母です」
「お母、様?」
「はい」
「すいません。何も覚えてなくて……」
「あなたの大切な人が来ています。会いますか?」
「大切な人?」
「宵さんの恋人です」
「恋人……? が、いるんですか?」
「ええ」
こんな人間に? こんな空っぽな人間に?
「会います。話したいです」
「こちらにお呼びします。ふたりで、話すといいわ」
母が去り、しばらくして、ひとりの男の人が来た。
「こんにちは。ええと、すいません、お名前は?」
「こんにちは。五藤陽一、です」
「よういちさん。あ、陽一さん、ですね」
スマホに連絡先が登録してある。
「宵くん…………」
「はい」
「ごめんね」
抱き締められた。なんだか、懐かしい心地がする。
「どうして謝るんですか?」
「きみが大変な時に、何も出来なかったから」
「そう、ですか。私の家、私のせいで、めちゃくちゃになったみたいで……」
抱き締め返していいのか分からず、私は何も出来ない。
「砂江さんが内緒で教えてくれたんだけど、宵くんは、神様に操られていたんだって」
「その神様を喚んだのは、私だろうと聞きました。だから、私のせいなんですよ。きっと、罰なんですね。全部忘れてしまったの」
「そんなことない。宵くんは、いつも人のために、狐ヶ崎家を変えようとしていたんだよ」
「私、そんな立派な人間じゃないですよ。だって、こんなに空っぽなのに……」
陽一さんの抱き締める力が強くなった。
「宵くんは、ずっとその空っぽを埋めるために頑張っていたよ。いつも、誰にも心配させないように、笑顔で」
何故か、涙が出てくる。悲しいのか、嬉しいのか、よく分からない。
この、暖かな日だまりのような人が、私の恋人? 本当に? そんなことが、ゆるされるの?
「私……私は……ゆるされるなら、もう一度、あなたに恋をしたいです……」
恐る恐る、あなたの背中に手を回した。
ここは、どこ?
そう思っていると、ドアがノックされる。
「失礼します」
「えーと……」
「まあ! 大変、先生を呼んで来ますね」
看護師さんだ。ここは、病院?
やって来た医師によると、私は、1ヶ月間意識不明だったらしい。なんでも、私のように倒れていた人は、私以外はもう起きて退院したとか。
「何か、質問はありますか?」
「あの、キツネガサキヨイって誰ですか?」
◆◆◆
記憶障害。私は、私のことを何ひとつ覚えていない。
男。20歳。誕生日は、4月11日。牡羊座。春には、大学3年生になる。哲学科に在籍。身長、174cm。体重、61kg。
どれも、自分のことだという気がしない。
それに、この部屋。私の部屋。
自作らしい絵。ボトルシップ。ミルクパズル。古びたレシピノート。待ち受けが狐の画像になっているスマートフォン。
人物像が見えて来ない。何が趣味なのか、分からない。
「宵さん」
襖が開く。
「……あ、はい。あなたは?」
「狐ヶ崎花。あなたの母です」
「お母、様?」
「はい」
「すいません。何も覚えてなくて……」
「あなたの大切な人が来ています。会いますか?」
「大切な人?」
「宵さんの恋人です」
「恋人……? が、いるんですか?」
「ええ」
こんな人間に? こんな空っぽな人間に?
「会います。話したいです」
「こちらにお呼びします。ふたりで、話すといいわ」
母が去り、しばらくして、ひとりの男の人が来た。
「こんにちは。ええと、すいません、お名前は?」
「こんにちは。五藤陽一、です」
「よういちさん。あ、陽一さん、ですね」
スマホに連絡先が登録してある。
「宵くん…………」
「はい」
「ごめんね」
抱き締められた。なんだか、懐かしい心地がする。
「どうして謝るんですか?」
「きみが大変な時に、何も出来なかったから」
「そう、ですか。私の家、私のせいで、めちゃくちゃになったみたいで……」
抱き締め返していいのか分からず、私は何も出来ない。
「砂江さんが内緒で教えてくれたんだけど、宵くんは、神様に操られていたんだって」
「その神様を喚んだのは、私だろうと聞きました。だから、私のせいなんですよ。きっと、罰なんですね。全部忘れてしまったの」
「そんなことない。宵くんは、いつも人のために、狐ヶ崎家を変えようとしていたんだよ」
「私、そんな立派な人間じゃないですよ。だって、こんなに空っぽなのに……」
陽一さんの抱き締める力が強くなった。
「宵くんは、ずっとその空っぽを埋めるために頑張っていたよ。いつも、誰にも心配させないように、笑顔で」
何故か、涙が出てくる。悲しいのか、嬉しいのか、よく分からない。
この、暖かな日だまりのような人が、私の恋人? 本当に? そんなことが、ゆるされるの?
「私……私は……ゆるされるなら、もう一度、あなたに恋をしたいです……」
恐る恐る、あなたの背中に手を回した。