創作企画「冥冥の澱」
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ふたりは、光源に辿り着いた。
「なんだ? これ?」
時光さんが、それに触る。
「熱っちぃ!」
「大丈夫ですか?」
「ふーふー。熱くて持てやしねぇ」
「私も、やってみます」
そっと、夕焼け色の輝く石に触れた。
「特に、熱くないですね」
石を拾い上げる。片手で握り締められる大きさの、綺麗な宝石。
「これは、なんだか私のもののような気がします」
「そうかもなぁ。陽が来てから出たもんだからな。しまっとけ、しまっとけ」
「はい」
袖に、宝石をしまう。
「その石があった場所…………」
時光さんが、繋いでいた手を離し、しゃがみ込む。そして、闇を掬った。
「柔くなってるな。陽、手伝え。ここに、穴を開けるぞ」
「はい」
ふたりで、闇を掘る。私には、それは冷たく感じた。
◆◆◆
「わっ!」
「うおっとぉ」
私と、時光さんは、穴の中から出る。
「ここは、現世か」
「あ、あなたは……?」
「時光。それに、宵か」
直感的に分かった。あれは、私の体だと。私の姿の誰かは、私たちを見て、口端を吊り上げる。
ここは、どこかの屋根の上。
「よう、お前さん。そりゃあ、人の体だろう? 返してやれよ」
「ならぬ。そやつは、狐ヶ崎と我の縁を切れと言ったのだ。赦せぬ」
「そんなこと言ったのか? 陽。いや、宵か」
「覚えてません」
「そやつの魂・心・記憶を喰らったからな」
「はぁ、なるほど。この宵は、魂だけか。返してやれよ。神狐よ」
「汝れに言われようと、出来ぬな」
やれやれ、と時光さんは言う。
「なあ、“月影”よ。頼むよ。おれは、ずっと共にいるからよう。この様子じゃあ、大勢喰らったろう? 返してやれ、全員をよ。お前さん、神通自在の神狐なんだからよ、出来るだろ?」
「その名……汝れが寄越した名……」
笑顔を消す、月影さん。
「お前さんの気に入らない奴らだろうがな、みぃんな、おれの子なんだ。なあ、これから変わるかもしれねぇからよ。もう少し見守ってやってくれねぇか?」
「時光」
「なんだ?」
「汝れは、もう現を楽しめぬ。天へ還ることも出来ぬ。永遠に、我の腹の中よ。それでも、我を赦すのか?」
「赦すも何もねぇよ。おれは、全部をお前さんにやったんだ。なんの文句もねぇ。と、言いたいとこだが、たまには、おれと話しに来いよ。暇で仕方ねぇからよう」
「よかろう。なれば、我と時光の約定を改めよう。汝れが、我のものである限り、子孫らを害すことはない」
「ありがとよ」
「“狐ヶ崎”に帰るぞ、時光」
「はいよ。じゃあな、宵。現を楽しめ」
「時光さん、ありがとうございます。それから、月影さんも、ありがとうございます」
私は、深く礼をした。
「ははは。おれたちは、“狐ヶ崎”にいるからよう。また会いに来いよな」
「はい。必ず」
さよなら、時光さん。
暗転。私は、意識を失った。
◆◆◆
翌朝。神狐に喰われた者たちは、皆、元の場所に戻った。意識はない。全員、病院へ搬送された。
無傷の者。爪で裂かれた者、刺された者。
一番重傷なのは、狐ヶ崎明だった。右腕と右脚がなくなっている。
明は、3日後に、病院の個室で目を覚ました。
右側には、許嫁の女が。左側には、先に目を覚ましていた文彩蔵がいる。
「明さん……!」
「よかった……明さん、起きたのね……」
許嫁が、看護師を呼び出すボタンを押す。
「お前たち…………」
明が、上半身を起こした。
「私、私、明さんを守れませんでした。申し訳ありません」
彩蔵が、両目から涙を流す。
「……彩蔵」
明が、残された左手で、彩蔵の頬に触れた。親指で、雫を拭う。
「……ありがとう」
「あ、あきさ、ん…………」
彩蔵は、ますます涙を流す。それは、悲しさからではなかった。
「なんだ? これ?」
時光さんが、それに触る。
「熱っちぃ!」
「大丈夫ですか?」
「ふーふー。熱くて持てやしねぇ」
「私も、やってみます」
そっと、夕焼け色の輝く石に触れた。
「特に、熱くないですね」
石を拾い上げる。片手で握り締められる大きさの、綺麗な宝石。
「これは、なんだか私のもののような気がします」
「そうかもなぁ。陽が来てから出たもんだからな。しまっとけ、しまっとけ」
「はい」
袖に、宝石をしまう。
「その石があった場所…………」
時光さんが、繋いでいた手を離し、しゃがみ込む。そして、闇を掬った。
「柔くなってるな。陽、手伝え。ここに、穴を開けるぞ」
「はい」
ふたりで、闇を掘る。私には、それは冷たく感じた。
◆◆◆
「わっ!」
「うおっとぉ」
私と、時光さんは、穴の中から出る。
「ここは、現世か」
「あ、あなたは……?」
「時光。それに、宵か」
直感的に分かった。あれは、私の体だと。私の姿の誰かは、私たちを見て、口端を吊り上げる。
ここは、どこかの屋根の上。
「よう、お前さん。そりゃあ、人の体だろう? 返してやれよ」
「ならぬ。そやつは、狐ヶ崎と我の縁を切れと言ったのだ。赦せぬ」
「そんなこと言ったのか? 陽。いや、宵か」
「覚えてません」
「そやつの魂・心・記憶を喰らったからな」
「はぁ、なるほど。この宵は、魂だけか。返してやれよ。神狐よ」
「汝れに言われようと、出来ぬな」
やれやれ、と時光さんは言う。
「なあ、“月影”よ。頼むよ。おれは、ずっと共にいるからよう。この様子じゃあ、大勢喰らったろう? 返してやれ、全員をよ。お前さん、神通自在の神狐なんだからよ、出来るだろ?」
「その名……汝れが寄越した名……」
笑顔を消す、月影さん。
「お前さんの気に入らない奴らだろうがな、みぃんな、おれの子なんだ。なあ、これから変わるかもしれねぇからよ。もう少し見守ってやってくれねぇか?」
「時光」
「なんだ?」
「汝れは、もう現を楽しめぬ。天へ還ることも出来ぬ。永遠に、我の腹の中よ。それでも、我を赦すのか?」
「赦すも何もねぇよ。おれは、全部をお前さんにやったんだ。なんの文句もねぇ。と、言いたいとこだが、たまには、おれと話しに来いよ。暇で仕方ねぇからよう」
「よかろう。なれば、我と時光の約定を改めよう。汝れが、我のものである限り、子孫らを害すことはない」
「ありがとよ」
「“狐ヶ崎”に帰るぞ、時光」
「はいよ。じゃあな、宵。現を楽しめ」
「時光さん、ありがとうございます。それから、月影さんも、ありがとうございます」
私は、深く礼をした。
「ははは。おれたちは、“狐ヶ崎”にいるからよう。また会いに来いよな」
「はい。必ず」
さよなら、時光さん。
暗転。私は、意識を失った。
◆◆◆
翌朝。神狐に喰われた者たちは、皆、元の場所に戻った。意識はない。全員、病院へ搬送された。
無傷の者。爪で裂かれた者、刺された者。
一番重傷なのは、狐ヶ崎明だった。右腕と右脚がなくなっている。
明は、3日後に、病院の個室で目を覚ました。
右側には、許嫁の女が。左側には、先に目を覚ましていた文彩蔵がいる。
「明さん……!」
「よかった……明さん、起きたのね……」
許嫁が、看護師を呼び出すボタンを押す。
「お前たち…………」
明が、上半身を起こした。
「私、私、明さんを守れませんでした。申し訳ありません」
彩蔵が、両目から涙を流す。
「……彩蔵」
明が、残された左手で、彩蔵の頬に触れた。親指で、雫を拭う。
「……ありがとう」
「あ、あきさ、ん…………」
彩蔵は、ますます涙を流す。それは、悲しさからではなかった。