創作企画「冥冥の澱」
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「濁っている! 水の流れを止めたな? 愚かな。水は、流さなくては濁る! 我は、今から、水を流すぞ!」
「失礼します。宵様、どうかされましたか?」
女中の田中が襖を開け、狐ヶ崎宵に声をかけた。
「宵は、喰ろうてやったわ。我は、狐ヶ崎の氏神。神狐、稲成空狐よ」
「神狐? 宵様?」
「邪魔だ。消えろ」
宵の影から、大きな尾のない狐が飛び出し、田中を一呑みする。彼女は、喰われた。
神の、粛清の夜が始まる。
◆◆◆
異変に気付いたのは、自身に憑いている天狐の様子がおかしくなったから。
『キューン…………』
怯えている。こんなことは、初めてだ。
そして、狐ヶ崎明の部屋に、何かがやって来た。人型の異形だが、澱みではない。しかし、それは、怨念の集合体だった。狐ヶ崎の血を引きながら、狐ヶ崎に虐げられた者たちの恨みの化身。
狐の耳と尻尾のついた、それ。両目はなく、真っ黒な穴からは、黒い液体が流れ続けている。代わりに、額には、大きな目がある。赤い瞳。憎しみに満ちた目。口は、縫われているが、笑っている。狐ヶ崎家の陰陽師としての装束を身にまとい、長く鋭い爪で、明を引き裂こうとしてきた。
「なんだ?! お前は?!」
攻撃を避けながら、訊く。
「アアアアアハハハハハハハ!」
狐の笑い声。
「……会話も出来ないゴミか」
内心の動揺を消そうとするように、明は吐き捨てた。
「天狐、喰らえ」
右手を、異形に向ける。
『コン』
明の狐は、それを一呑みした。
「ふん。雑魚だったな」
そう呟いた刹那、明の背中に、鋭い爪が刺さる。
「な、に…………!?」
「アアアアアハハハハハハハ!」
呑み込ませたはずの、狐と人が混ざった異形が、背後にいた。
「天狐!」
『コン』
異形から距離をとり、再び喰わせる。
しかし。
「アアアアアハハハハハハハ!」
部屋の隅に、またあの異形が現れた。
「なんなんだ、こいつは…………」
背中の傷が痛む。血が流れている。冷や汗が止まらない。
同時刻、この異形は、狐ヶ崎の血を引く者たちがいるところ全てに、現れていた。
狐ヶ崎の本家の、そこかしこに現れている。
戦慄の夜は、更けていく。
◆◆◆
「裁定せよ! 裁定せよ! 狐ヶ崎に相応しくない者は皆殺せ!」
狐ヶ崎宵の体を操る神狐は、高らかに叫ぶ。悠然と廊下を歩きながら。
「狐ヶ崎は、時光のようでなければならないのだ。そうでなければ、甲斐がない。面白くない。汚泥は、流さねばならぬ!」
神の裁きは、いつの世も理不尽で、容赦がない。
「失礼します。宵様、どうかされましたか?」
女中の田中が襖を開け、狐ヶ崎宵に声をかけた。
「宵は、喰ろうてやったわ。我は、狐ヶ崎の氏神。神狐、稲成空狐よ」
「神狐? 宵様?」
「邪魔だ。消えろ」
宵の影から、大きな尾のない狐が飛び出し、田中を一呑みする。彼女は、喰われた。
神の、粛清の夜が始まる。
◆◆◆
異変に気付いたのは、自身に憑いている天狐の様子がおかしくなったから。
『キューン…………』
怯えている。こんなことは、初めてだ。
そして、狐ヶ崎明の部屋に、何かがやって来た。人型の異形だが、澱みではない。しかし、それは、怨念の集合体だった。狐ヶ崎の血を引きながら、狐ヶ崎に虐げられた者たちの恨みの化身。
狐の耳と尻尾のついた、それ。両目はなく、真っ黒な穴からは、黒い液体が流れ続けている。代わりに、額には、大きな目がある。赤い瞳。憎しみに満ちた目。口は、縫われているが、笑っている。狐ヶ崎家の陰陽師としての装束を身にまとい、長く鋭い爪で、明を引き裂こうとしてきた。
「なんだ?! お前は?!」
攻撃を避けながら、訊く。
「アアアアアハハハハハハハ!」
狐の笑い声。
「……会話も出来ないゴミか」
内心の動揺を消そうとするように、明は吐き捨てた。
「天狐、喰らえ」
右手を、異形に向ける。
『コン』
明の狐は、それを一呑みした。
「ふん。雑魚だったな」
そう呟いた刹那、明の背中に、鋭い爪が刺さる。
「な、に…………!?」
「アアアアアハハハハハハハ!」
呑み込ませたはずの、狐と人が混ざった異形が、背後にいた。
「天狐!」
『コン』
異形から距離をとり、再び喰わせる。
しかし。
「アアアアアハハハハハハハ!」
部屋の隅に、またあの異形が現れた。
「なんなんだ、こいつは…………」
背中の傷が痛む。血が流れている。冷や汗が止まらない。
同時刻、この異形は、狐ヶ崎の血を引く者たちがいるところ全てに、現れていた。
狐ヶ崎の本家の、そこかしこに現れている。
戦慄の夜は、更けていく。
◆◆◆
「裁定せよ! 裁定せよ! 狐ヶ崎に相応しくない者は皆殺せ!」
狐ヶ崎宵の体を操る神狐は、高らかに叫ぶ。悠然と廊下を歩きながら。
「狐ヶ崎は、時光のようでなければならないのだ。そうでなければ、甲斐がない。面白くない。汚泥は、流さねばならぬ!」
神の裁きは、いつの世も理不尽で、容赦がない。