創作企画「冥冥の澱」
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仕事始め。市役所で、書類と向き合う。
文彩蔵は、テキパキと仕事をこなす。いつも通りに。
「明さん。こちら、よろしくお願いします」
「ああ」
出来上がった書類を、上司の狐ヶ崎明に渡した。
こちらをチラリとも見ずに紙束を受け取る、あなた。感謝の言葉ひとつもない。
そういう人だから。
狐ヶ崎明は、欠けている。情がない。
愛情。友情。情け。全部、持ち合わせていない。
本人は、気付いておらず、彩蔵は気付いている。
可哀想な人。孤高の人。憎らしい人。愛しい人。私の、全て。
こんな不毛な恋、捨てられるものなら、とっくに捨てている。
何故、少なくない人々が、狐ヶ崎明に惹かれてしまうのか?
見目は、良い。中身は、最悪。でも、そんな情のない人の、“唯一”になれるのではないか? 自分は、彼の“特別”になれるのではないか? そんな幻想を抱いてしまうのだ。
私だけに、愛を向けてほしい。そうしてくれるかもしれない。
彩蔵も、そういう夢を見ているひとりだ。
くだらないと、他人は嗤うだろうか? それなら、あなたの恋は立派なものなんですね。
嘲りも同情も、いらない。ただ、救いはほしい。
誰か、助けてくださいよ。
彩蔵の恋は、美しくない。地面を這いずり、泥にまみれるような恋。それでも、明に手を伸ばす。でも、そんな汚れた腕に、明は触れない。
あなたは、同性愛を嫌悪しているから、私は、“彩”になったんです。だけど、あなたは、家父長制の男尊女卑に染まった人だから、女にも愛をくれない。本当に、不毛な恋。
日に日に、あなたを憎悪していく。日に日に、あなたに執着していく。
ここは、袋小路。泥沼。世界の果て。
誰も、“私”を見付けられない。
◆◆◆
「明さん」
「……うるさい」
「ごめんなさい」
事後、明と“彩”は、布団の上に並んで座っている。
「どいつもこいつも、うるさい」
「…………」
彩蔵には、少なからず、明の、いや、狐ヶ崎家の現状が分かっていた。
次男、狐ヶ崎宵が家に反抗していること。母、狐ヶ崎花が家を出て行ったこと。女中たちが、男の言いなりではなくなったこと。その全てが、明は気に食わないのだ。
本当に、可哀想な人。
でも、私は最後まで側にいよう。そう思ってしまう私は、愚かだ。
ねぇ、好きなんです。大好きなんです。あなたのこと。
あなたのことを想うと、胸の中が熱くなる。そして、吐き気がする。
愛しいあなたよ、どうか、私の腕の中で死んでください。
文彩蔵は、テキパキと仕事をこなす。いつも通りに。
「明さん。こちら、よろしくお願いします」
「ああ」
出来上がった書類を、上司の狐ヶ崎明に渡した。
こちらをチラリとも見ずに紙束を受け取る、あなた。感謝の言葉ひとつもない。
そういう人だから。
狐ヶ崎明は、欠けている。情がない。
愛情。友情。情け。全部、持ち合わせていない。
本人は、気付いておらず、彩蔵は気付いている。
可哀想な人。孤高の人。憎らしい人。愛しい人。私の、全て。
こんな不毛な恋、捨てられるものなら、とっくに捨てている。
何故、少なくない人々が、狐ヶ崎明に惹かれてしまうのか?
見目は、良い。中身は、最悪。でも、そんな情のない人の、“唯一”になれるのではないか? 自分は、彼の“特別”になれるのではないか? そんな幻想を抱いてしまうのだ。
私だけに、愛を向けてほしい。そうしてくれるかもしれない。
彩蔵も、そういう夢を見ているひとりだ。
くだらないと、他人は嗤うだろうか? それなら、あなたの恋は立派なものなんですね。
嘲りも同情も、いらない。ただ、救いはほしい。
誰か、助けてくださいよ。
彩蔵の恋は、美しくない。地面を這いずり、泥にまみれるような恋。それでも、明に手を伸ばす。でも、そんな汚れた腕に、明は触れない。
あなたは、同性愛を嫌悪しているから、私は、“彩”になったんです。だけど、あなたは、家父長制の男尊女卑に染まった人だから、女にも愛をくれない。本当に、不毛な恋。
日に日に、あなたを憎悪していく。日に日に、あなたに執着していく。
ここは、袋小路。泥沼。世界の果て。
誰も、“私”を見付けられない。
◆◆◆
「明さん」
「……うるさい」
「ごめんなさい」
事後、明と“彩”は、布団の上に並んで座っている。
「どいつもこいつも、うるさい」
「…………」
彩蔵には、少なからず、明の、いや、狐ヶ崎家の現状が分かっていた。
次男、狐ヶ崎宵が家に反抗していること。母、狐ヶ崎花が家を出て行ったこと。女中たちが、男の言いなりではなくなったこと。その全てが、明は気に食わないのだ。
本当に、可哀想な人。
でも、私は最後まで側にいよう。そう思ってしまう私は、愚かだ。
ねぇ、好きなんです。大好きなんです。あなたのこと。
あなたのことを想うと、胸の中が熱くなる。そして、吐き気がする。
愛しいあなたよ、どうか、私の腕の中で死んでください。