創作企画「冥冥の澱」
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赤い赤い、朝焼けを見た。初日の出を、ひとり見ていた。美しい光。
新年がきた。元日には、狐ヶ崎家の者は、皆、静岡県静岡市葵区川合にある狐ヶ崎神社へ詣でる。まあ、私の母はいないんですけど。今でも、元気に旅をしているので。
今年は、巫女の狐ヶ崎雪夜さんの神楽舞が披露され、神狐に奉納された。
その後、甘酒が振る舞われる。通常の巫女服に着替えた雪夜さんが、私にそれを持ってきてくれた。
「宵くん。明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます。雪夜さんの舞、お見事でした」
「ありがとう。ねえ、宵くんに、お願いがあるの」
「なんでしょう?」
「…………狐ヶ崎を、壊してほしいの」
「雪夜さん……」
ああ。そうなんですね、あなたも虐げられてきたんですね。
「私からも、頼みがあります。この神社の蔵の鍵を貸していただけませんか?」
「宵くん、それは…………」
「禁じられているのは、百も承知です。ですが、必要なんです。お願いします、雪夜さん」
「……分かった。私に任せて。取って来る」
「ありがとうございます」
私の望むもの。氏神、稲成空狐の力。それを借り受けたい。
数分後。雪夜さんは、怪しまれないよう、ゆっくりと自然に私の元に戻ってきた。
「宵くん、これが、その鍵」
「お借りします」
「どうか、お願いします。私、自由に生きたいの…………」
「必ず、狐ヶ崎の呪いを解きます」
私は、境内を散歩してきます、と言って、蔵へ向かう。
大きな蔵。ずっと昔からある、蔵。
古びた鍵で、古びた錠前を開ける。戸を開くと、中は埃っぽく、窓からの明かりしかなかった。
ここで探すべきは、始祖、狐ヶ崎時光の書いた書物。奥まったところに積まれていたそれを全部鞄にしまい、私は何食わぬ顔で、皆の集まりの中へ戻る。和綴じの本が崩れたりしないか、少し不安だが、顔には出さない。
「雪夜さん」
「宵くん」
「お返ししますね」
「うん。戻しておく」
「よろしくお願いします」
これ以上、家にすり潰される者を出してはいけない。私が、終わらせて見せる。
◆◆◆
家に帰り、自室へ戻る。
「ふぅ…………」
あそこへは、誰も入らないから、バレてないはず。
私は、鞄から、狐ヶ崎時光の書を取り出す。全部で、八冊。
平安時代の書物を読むのは、難儀した。しかし、弱音は吐いていられない。
一冊目は、支えた主についての記録だった。二冊目は、方々を回って食べ歩いたものの感想。そして、三冊目。
『狐ケ崎にて、稲成空狐と出会い、おれの生は様相を変えた。その神狐は、おれを救った。おれが、全てを差し出したからだと言う』
『子々孫々に、神狐と話す術を授ける。望月の夜。心の臓の上に、然るべき呪言を描き、ここに記す文言を口にせよ。さすれば、神狐と会えるであろう』
これか。これが、神狐と会う方法。
必要なのは、満月の夜。それから、まじない。そして、言葉。
やるなら、今月だ。早い方がいい。
次の満月は、1月7日。
私は、その夜を待つことにした。
新年がきた。元日には、狐ヶ崎家の者は、皆、静岡県静岡市葵区川合にある狐ヶ崎神社へ詣でる。まあ、私の母はいないんですけど。今でも、元気に旅をしているので。
今年は、巫女の狐ヶ崎雪夜さんの神楽舞が披露され、神狐に奉納された。
その後、甘酒が振る舞われる。通常の巫女服に着替えた雪夜さんが、私にそれを持ってきてくれた。
「宵くん。明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます。雪夜さんの舞、お見事でした」
「ありがとう。ねえ、宵くんに、お願いがあるの」
「なんでしょう?」
「…………狐ヶ崎を、壊してほしいの」
「雪夜さん……」
ああ。そうなんですね、あなたも虐げられてきたんですね。
「私からも、頼みがあります。この神社の蔵の鍵を貸していただけませんか?」
「宵くん、それは…………」
「禁じられているのは、百も承知です。ですが、必要なんです。お願いします、雪夜さん」
「……分かった。私に任せて。取って来る」
「ありがとうございます」
私の望むもの。氏神、稲成空狐の力。それを借り受けたい。
数分後。雪夜さんは、怪しまれないよう、ゆっくりと自然に私の元に戻ってきた。
「宵くん、これが、その鍵」
「お借りします」
「どうか、お願いします。私、自由に生きたいの…………」
「必ず、狐ヶ崎の呪いを解きます」
私は、境内を散歩してきます、と言って、蔵へ向かう。
大きな蔵。ずっと昔からある、蔵。
古びた鍵で、古びた錠前を開ける。戸を開くと、中は埃っぽく、窓からの明かりしかなかった。
ここで探すべきは、始祖、狐ヶ崎時光の書いた書物。奥まったところに積まれていたそれを全部鞄にしまい、私は何食わぬ顔で、皆の集まりの中へ戻る。和綴じの本が崩れたりしないか、少し不安だが、顔には出さない。
「雪夜さん」
「宵くん」
「お返ししますね」
「うん。戻しておく」
「よろしくお願いします」
これ以上、家にすり潰される者を出してはいけない。私が、終わらせて見せる。
◆◆◆
家に帰り、自室へ戻る。
「ふぅ…………」
あそこへは、誰も入らないから、バレてないはず。
私は、鞄から、狐ヶ崎時光の書を取り出す。全部で、八冊。
平安時代の書物を読むのは、難儀した。しかし、弱音は吐いていられない。
一冊目は、支えた主についての記録だった。二冊目は、方々を回って食べ歩いたものの感想。そして、三冊目。
『狐ケ崎にて、稲成空狐と出会い、おれの生は様相を変えた。その神狐は、おれを救った。おれが、全てを差し出したからだと言う』
『子々孫々に、神狐と話す術を授ける。望月の夜。心の臓の上に、然るべき呪言を描き、ここに記す文言を口にせよ。さすれば、神狐と会えるであろう』
これか。これが、神狐と会う方法。
必要なのは、満月の夜。それから、まじない。そして、言葉。
やるなら、今月だ。早い方がいい。
次の満月は、1月7日。
私は、その夜を待つことにした。