創作企画「冥冥の澱」
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機関に連絡はした。でも、もう間に合わない。
「来ないで! 来ないでぇ!」
砂江砂絵は、清めの塩を撒いたが、焼け石に水だ。
その巨大な異形は、大口を開けて、砂江の左腕を喰らった。
「テメェ! 返せよ! オレの指輪!」
痛みより、腕の喪失より、結婚指輪を奪われたことに怒りを覚える。
「返せ! 返せッ!」
意味なんてない。けれど、砂江は敵を殴る。
「返してください! ワタシの大切————」
ばくり。
「あ」
砂江の上半身と下半身が別れた。おびただしい量の血が地面に広がる。自身の下半身が、むしゃむしゃと喰われるのを、見ていた。
「……ごめんね。ワタシ、もう帰れないかも」
目の前が、暗くなる。
アナタが救ってくれたのに。独りで死ぬ。それが運命?
ワタシ、アナタを愛してるよ。死んでも、ずっと。
「ゆ……い……くん…………」
ワタシは、幸せでした。
◆◆◆
砂江砂絵は、死んだ。そして、荼毘に付された。
左腕と下半身の骨はない。少ない、遺骨。
遺骨を抱えて、砂江のパートナーは、歩く。
「砂絵さん。あなたの好きな海ですよ」
海辺に来た。冷たい潮風が吹いている。
しばらく、遺骨を抱き締めて、立ち尽くす。
あなたは、海を見るのが好きだった。海の生き物も好きだった。特に、深海生物が。
あなたは、生き物が好きだった。哺乳類も爬虫類も両生類も虫も鳥も、好きだった。植物も好きで、全てに物語を見出だしていた。
人間だけ、少し嫌いだった。でも、美しい物語であれ、と祈っていた。
その後は、遺骨と共に電車に乗る。
人目なんて、どうでもいい。
目的地で降りて、歩く。かつて、ふたりが通っていた大学を目指す。
「砂絵さん。ほら、僕たちが出会った場所ですよ。懐かしいですね。あなたと僕は、同じサークルで、色んな話をしましたね」
オタクだけのサークルに属していたふたり。辛いこともあったけれど、楽しい日々だった。
「寒くなってきました。帰りましょう」
あなたは、寒いのが苦手だから。暖かい家に帰ろう。
帰路を急ぐ。
「ただいま」
家の中は、静かで。とても広くて。寂しさだけが詰まっている。
「砂絵さん」
声が震えた。
「どうして、死んじゃったんですか? 僕を置いて行かないでくださいよ」
ぽたぽたと、骨箱に涙が落ちる。
「これから、どうすればいいんですか? 来期のアニメ、一緒に見ようって言ってたのに。好きなゲームの続編を、楽しみにしてたのに。担当アイドルの新しいソロ曲、まだ聴いてないのに。まだ……僕はあなたと話したいのに…………」
玄関で、遺骨を抱き締めたまま、膝をついた。
あなたは、僕の0番でした。
「来ないで! 来ないでぇ!」
砂江砂絵は、清めの塩を撒いたが、焼け石に水だ。
その巨大な異形は、大口を開けて、砂江の左腕を喰らった。
「テメェ! 返せよ! オレの指輪!」
痛みより、腕の喪失より、結婚指輪を奪われたことに怒りを覚える。
「返せ! 返せッ!」
意味なんてない。けれど、砂江は敵を殴る。
「返してください! ワタシの大切————」
ばくり。
「あ」
砂江の上半身と下半身が別れた。おびただしい量の血が地面に広がる。自身の下半身が、むしゃむしゃと喰われるのを、見ていた。
「……ごめんね。ワタシ、もう帰れないかも」
目の前が、暗くなる。
アナタが救ってくれたのに。独りで死ぬ。それが運命?
ワタシ、アナタを愛してるよ。死んでも、ずっと。
「ゆ……い……くん…………」
ワタシは、幸せでした。
◆◆◆
砂江砂絵は、死んだ。そして、荼毘に付された。
左腕と下半身の骨はない。少ない、遺骨。
遺骨を抱えて、砂江のパートナーは、歩く。
「砂絵さん。あなたの好きな海ですよ」
海辺に来た。冷たい潮風が吹いている。
しばらく、遺骨を抱き締めて、立ち尽くす。
あなたは、海を見るのが好きだった。海の生き物も好きだった。特に、深海生物が。
あなたは、生き物が好きだった。哺乳類も爬虫類も両生類も虫も鳥も、好きだった。植物も好きで、全てに物語を見出だしていた。
人間だけ、少し嫌いだった。でも、美しい物語であれ、と祈っていた。
その後は、遺骨と共に電車に乗る。
人目なんて、どうでもいい。
目的地で降りて、歩く。かつて、ふたりが通っていた大学を目指す。
「砂絵さん。ほら、僕たちが出会った場所ですよ。懐かしいですね。あなたと僕は、同じサークルで、色んな話をしましたね」
オタクだけのサークルに属していたふたり。辛いこともあったけれど、楽しい日々だった。
「寒くなってきました。帰りましょう」
あなたは、寒いのが苦手だから。暖かい家に帰ろう。
帰路を急ぐ。
「ただいま」
家の中は、静かで。とても広くて。寂しさだけが詰まっている。
「砂絵さん」
声が震えた。
「どうして、死んじゃったんですか? 僕を置いて行かないでくださいよ」
ぽたぽたと、骨箱に涙が落ちる。
「これから、どうすればいいんですか? 来期のアニメ、一緒に見ようって言ってたのに。好きなゲームの続編を、楽しみにしてたのに。担当アイドルの新しいソロ曲、まだ聴いてないのに。まだ……僕はあなたと話したいのに…………」
玄関で、遺骨を抱き締めたまま、膝をついた。
あなたは、僕の0番でした。