創作企画「冥冥の澱」
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僕は罪を犯しました。
人を誑かしました。何人も、何人も。男も女も、それ以外も。
姦淫の罪を重ねました。何度も、何度も。
僕は、恋をしました。そうすると、みんなは怒って、僕に乱暴しました。でも、それは僕が罪人だからです。仕方ないことです。
毎日、誰かしらに殴られたり蹴られたり、罵られたりしました。
僕の恋は、踏みつけられました。その度、僕は、息を吹き込んで、恋を元の形に戻します。でも、完全に元に戻ることなどないのです。一度、ぐしゃぐしゃにした紙が、決して綺麗には戻らないように。
それでも僕は、恋を捨てられませんでした。罪深いのに、出来ませんでした。
ある日、僕の好きな人が、僕をゆるすと言ってくれました。
傷だらけの僕を、家に連れて行って、介抱してくれました。
けれど僕は、悪魔なのです。あの人が触れてはいけなかったのです。
あの人は、僕が悪魔でもゆるすと言いました。
主よ。どうか、あの人のことは、おゆるしください。
僕のことは、いいのです。あの人がゆるしてくれたから、もういいのです。
悪魔が自己犠牲の精神を持つなんて、おかしいですか?
悪魔の僕は、もう壊れてしまいました。
これが、罰なのですか?
◆◆◆
「ご両親に言わないの? その、傷のこと」
「ママとパパは、善い人だよ。僕のこと、心配するもん……」
「でも……」
その心配が、必要なんじゃないの?
「僕のこと、知られたくない……」
「……六助くん」
そっと、ふわふわの髪を撫でた。
「僕も、一緒に行くから。話そう? 六助くんが知られたくないことは、話さなくてもいいから」
「……僕……分かった。教会に、いるから」
傷だらけの君を連れて、僕は、矢木教会へ向かう。そこには、白い詰襟がついたシャツにスーツの牧師が、ふたりいた。
女性の方が、“パパ”こと、矢木美世さん。
男体持ちの性自認が女性の方が、“ママ”こと、矢木五郎さん。
「はじめまして。熊谷穣といいます。六助くんのことで、お話があって来ました」
六助くんは、僕の背後に隠れるようにして、俯いている。
「ろっくん……息子が、何か……?」
お父さんが口を開いた。
「六助くんは、怪我をしています。人に暴力を振るわれて」
「暴力……!? ちょっと、どういうことなの?!」
お母さんが、叫ぶ。
「理由は、言えません。ただ、六助くんは、悪くないです。それだけは、確かです」
「そんな……そんなことが……」
「ろっくん、おいで」
狼狽するお母さん。お父さんは、表情を変えずに、六助くんを呼んだ。
「パパ、ママ…………」
「ろっくん、怖かったね。辛かったね」
「ママとパパは、いつでも味方よ」
ご両親に抱き締められて、六助くんは、静かに涙を流す。
「熊谷さん。キミが、息子の好きな人なんだね?」
「それは……その、はい……」
お父さんは、青色の目で、僕を見つめる。
「六助を、どうか、よろしくお願いします。仲良くしてやってください。もちろん、ひとりの人間として」
「はい」
「ろ、六助は、いい子なのよ。人の幸せを祈れるし、勉強も運動も出来るし、それに、いつも元気で、笑顔が可愛いのよ…………」
お母さんが、六助くんと同じ、ピンク色の目に涙を浮かべながら話した。
「はい」
「息子を、よろしくお願いします……」
「はい」
このプロテスタント教会が掲げる教義は、“汝の欲するところを為せ”というらしい。
それなら、やっぱり。六助くんは、いい子だね。
人を誑かしました。何人も、何人も。男も女も、それ以外も。
姦淫の罪を重ねました。何度も、何度も。
僕は、恋をしました。そうすると、みんなは怒って、僕に乱暴しました。でも、それは僕が罪人だからです。仕方ないことです。
毎日、誰かしらに殴られたり蹴られたり、罵られたりしました。
僕の恋は、踏みつけられました。その度、僕は、息を吹き込んで、恋を元の形に戻します。でも、完全に元に戻ることなどないのです。一度、ぐしゃぐしゃにした紙が、決して綺麗には戻らないように。
それでも僕は、恋を捨てられませんでした。罪深いのに、出来ませんでした。
ある日、僕の好きな人が、僕をゆるすと言ってくれました。
傷だらけの僕を、家に連れて行って、介抱してくれました。
けれど僕は、悪魔なのです。あの人が触れてはいけなかったのです。
あの人は、僕が悪魔でもゆるすと言いました。
主よ。どうか、あの人のことは、おゆるしください。
僕のことは、いいのです。あの人がゆるしてくれたから、もういいのです。
悪魔が自己犠牲の精神を持つなんて、おかしいですか?
悪魔の僕は、もう壊れてしまいました。
これが、罰なのですか?
◆◆◆
「ご両親に言わないの? その、傷のこと」
「ママとパパは、善い人だよ。僕のこと、心配するもん……」
「でも……」
その心配が、必要なんじゃないの?
「僕のこと、知られたくない……」
「……六助くん」
そっと、ふわふわの髪を撫でた。
「僕も、一緒に行くから。話そう? 六助くんが知られたくないことは、話さなくてもいいから」
「……僕……分かった。教会に、いるから」
傷だらけの君を連れて、僕は、矢木教会へ向かう。そこには、白い詰襟がついたシャツにスーツの牧師が、ふたりいた。
女性の方が、“パパ”こと、矢木美世さん。
男体持ちの性自認が女性の方が、“ママ”こと、矢木五郎さん。
「はじめまして。熊谷穣といいます。六助くんのことで、お話があって来ました」
六助くんは、僕の背後に隠れるようにして、俯いている。
「ろっくん……息子が、何か……?」
お父さんが口を開いた。
「六助くんは、怪我をしています。人に暴力を振るわれて」
「暴力……!? ちょっと、どういうことなの?!」
お母さんが、叫ぶ。
「理由は、言えません。ただ、六助くんは、悪くないです。それだけは、確かです」
「そんな……そんなことが……」
「ろっくん、おいで」
狼狽するお母さん。お父さんは、表情を変えずに、六助くんを呼んだ。
「パパ、ママ…………」
「ろっくん、怖かったね。辛かったね」
「ママとパパは、いつでも味方よ」
ご両親に抱き締められて、六助くんは、静かに涙を流す。
「熊谷さん。キミが、息子の好きな人なんだね?」
「それは……その、はい……」
お父さんは、青色の目で、僕を見つめる。
「六助を、どうか、よろしくお願いします。仲良くしてやってください。もちろん、ひとりの人間として」
「はい」
「ろ、六助は、いい子なのよ。人の幸せを祈れるし、勉強も運動も出来るし、それに、いつも元気で、笑顔が可愛いのよ…………」
お母さんが、六助くんと同じ、ピンク色の目に涙を浮かべながら話した。
「はい」
「息子を、よろしくお願いします……」
「はい」
このプロテスタント教会が掲げる教義は、“汝の欲するところを為せ”というらしい。
それなら、やっぱり。六助くんは、いい子だね。