創作企画「冥冥の澱」
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休憩時間の15時頃、過呼吸で倒れた砂江砂絵は、医務室へ運ばれた。
「はぁ……はぁ……はぁ……うぅ……ひぃっ……」
「砂江さん、大丈夫。大丈夫ですから」
医療班所属の猫俣茶々が、砂江の背中をさする。
砂江は、指先から血の気が引いており、固まった指は、何も持てない。だから、猫俣が、砂江の口元に袋を当てている。
もうダメ。苦しい。苦しい。助けて。助けてください。
砂江は、涙を流しながら、助けを求めた。愛する者に。そして、目の前の彼に。
15分後。砂江の呼吸は、元に戻った。
「すいません、猫俣さん……」
「何言ってるんですか。謝ることないですよ」
「はい……ありがとうございます……」
その朗らかな笑顔に、幾分救われる。
「問診、いいですか?」
「はい……」
「本日の体調は?」
「低気圧による頭痛と、体のダルさと、肩凝りと、あとは生理痛が……」
「そんなに重なると、過呼吸を引き起こすこともありますね」
「そ、そんなの、そんなの、いいんです。ワタシ……ワタシ……」
砂江は、再び涙を流し始めた。両手を膝の上で握り締め、震わせている。
「……愛してたのに」
「え?」
「8年も連れ添ってきたソシャゲが、終わるのです……ワタシの精神的支柱のひとつだったのに…………」
「お辛いですね」
「う、うぇ……あぁああっ…………」
ワタシの推し。世界で一番の推し。人生の光。ワタシ、アナタを失うの?
いつかは、終わりが来ることなんて、分かっていた。でも、そのいつかは、今ではないと思っていた。分かっていたはずなのに。誰も、喪失の痛みから逃れることなど出来ないことは。
担当アイドルユニットの色、紫色のハンカチで、涙を拭う。
「砂江さん、いつも言ってるじゃないですか。“アナタが美しい物語になりますように”って。きっと美しい終わりになりますよ」
「はい……そうですね……それを見届けて、記憶して、思い出を抱き締めて、生きていきます……」
「温かいものを食べて、お風呂に浸かって、きちんと睡眠をとってくださいね」
「はい。仕事に戻ります」
「お大事に」
猫俣に一礼し、砂江は、医務室を後にした。
ワタシの大切なもの。ずっと抱き締めていたいもの。美しい物語。
ワタシ、アナタを愛してるよ。いつまでも、いつまでも、愛してるよ。忘れない。この辛さも痛みも、全てを現在の力にするから。未来を輝かせるから。
物語よ。どうか、星のように道を照らしていて。
ワタシの大切なアナタ。アナタは、明け方の東の空にたなびく雲のような人でした。
「はぁ……はぁ……はぁ……うぅ……ひぃっ……」
「砂江さん、大丈夫。大丈夫ですから」
医療班所属の猫俣茶々が、砂江の背中をさする。
砂江は、指先から血の気が引いており、固まった指は、何も持てない。だから、猫俣が、砂江の口元に袋を当てている。
もうダメ。苦しい。苦しい。助けて。助けてください。
砂江は、涙を流しながら、助けを求めた。愛する者に。そして、目の前の彼に。
15分後。砂江の呼吸は、元に戻った。
「すいません、猫俣さん……」
「何言ってるんですか。謝ることないですよ」
「はい……ありがとうございます……」
その朗らかな笑顔に、幾分救われる。
「問診、いいですか?」
「はい……」
「本日の体調は?」
「低気圧による頭痛と、体のダルさと、肩凝りと、あとは生理痛が……」
「そんなに重なると、過呼吸を引き起こすこともありますね」
「そ、そんなの、そんなの、いいんです。ワタシ……ワタシ……」
砂江は、再び涙を流し始めた。両手を膝の上で握り締め、震わせている。
「……愛してたのに」
「え?」
「8年も連れ添ってきたソシャゲが、終わるのです……ワタシの精神的支柱のひとつだったのに…………」
「お辛いですね」
「う、うぇ……あぁああっ…………」
ワタシの推し。世界で一番の推し。人生の光。ワタシ、アナタを失うの?
いつかは、終わりが来ることなんて、分かっていた。でも、そのいつかは、今ではないと思っていた。分かっていたはずなのに。誰も、喪失の痛みから逃れることなど出来ないことは。
担当アイドルユニットの色、紫色のハンカチで、涙を拭う。
「砂江さん、いつも言ってるじゃないですか。“アナタが美しい物語になりますように”って。きっと美しい終わりになりますよ」
「はい……そうですね……それを見届けて、記憶して、思い出を抱き締めて、生きていきます……」
「温かいものを食べて、お風呂に浸かって、きちんと睡眠をとってくださいね」
「はい。仕事に戻ります」
「お大事に」
猫俣に一礼し、砂江は、医務室を後にした。
ワタシの大切なもの。ずっと抱き締めていたいもの。美しい物語。
ワタシ、アナタを愛してるよ。いつまでも、いつまでも、愛してるよ。忘れない。この辛さも痛みも、全てを現在の力にするから。未来を輝かせるから。
物語よ。どうか、星のように道を照らしていて。
ワタシの大切なアナタ。アナタは、明け方の東の空にたなびく雲のような人でした。