創作企画「冥冥の澱」
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暗くて寒い夜は嫌い。冷たく白い雪は嫌い。
私は、ずっと吹雪の夜の中にいる。
「寒い…………」
朝が、とても冷える季節。冬は嫌いだ。
「雪夜様、おはようございます」
お手伝いさんの声が、廊下から襖越しに投げられる。
「はい、おはようございます」
「本日は、京都の土御門様のお宅へ行くご予定です。では、失礼します」
「はい」
そうだった。弟の“付属品”としての務め。
静岡から、京都へ。以前なら、面倒に感じるだけだったけれど、今は違う。
宵くん。私、耐えるよ。まだ、大丈夫。
狐ヶ崎の正装である和服に着替える。薄い青地に、雪の結晶の文様。それが、私の正装。美しくて、冷たい着物。
私はもう、可哀想なだけの存在じゃない。吹雪が止んで、夜が明けるまで、私は生きるの。
◆◆◆
土御門のお家は、何度か来たけれど、やっぱり少し緊張する。私は、少し外の空気を吸いたくて、そっと縁側へ出た。何とはなしに歩く。
そして、曲がり角で、私は赤色にぶつかった。
「きゃっ。申し訳ありません……!」
「あら。雪夜さんやないの。ごめんなさいね。大きくて、驚いたやろ」
「……季楽さん。いえ、私の不注意です。すいません」
土御門季楽さんは、背が高くて、綺麗な赤色の髪をしている女性だ。日本舞踊をされていて、所作が美しい。
「お恥ずかしい。私、本当に、そそっかしくて……」
「まあ、そないに思っとったの? 雪夜さんは、小鳥みたいにかいらしいなぁ……」
「わ、私……可愛くないです……季楽さんは、お美しいです…………」
「おおきに、嬉しいわぁ。雪夜さんは、雪の妖精さんやね。あの鳥、雪夜さんみたいやわ」
「シマエナガですか? 私、そんなこと…………」
「そや、シマエナガやねぇ。雪夜さんにそっくり」
「ありがとうございます。あ、もう戻らないとですね……」
「そうやね」
ふたりで、室内へ戻る。それぞれの席へ戻る。その距離が、私はなんだか悲しかった。
帰り際、私は離れている季楽さんを見つめる。彼女は、私に気付いて、小さく手を振った。私は、慌てて一礼する。
失礼します。さようなら。
なんだろう? 心臓がドキドキしている。胸の内が、暖かい。
私は、許嫁のことが好きではない。あの人は、私を“狐ヶ崎”としか見ていないから。
あなたには、私のことが見えていますか?
季楽さん、あなたは私を見て、可愛いと言ってくれた。
もし、よろしければ、ずっと私を見ていていただけませんか?
私の心に、炎が宿った。私の夜に、火が灯る。
この火を絶やさないように。私は、吹雪から庇う。
私の炎よ、日々を照らして。
私は、ずっと吹雪の夜の中にいる。
「寒い…………」
朝が、とても冷える季節。冬は嫌いだ。
「雪夜様、おはようございます」
お手伝いさんの声が、廊下から襖越しに投げられる。
「はい、おはようございます」
「本日は、京都の土御門様のお宅へ行くご予定です。では、失礼します」
「はい」
そうだった。弟の“付属品”としての務め。
静岡から、京都へ。以前なら、面倒に感じるだけだったけれど、今は違う。
宵くん。私、耐えるよ。まだ、大丈夫。
狐ヶ崎の正装である和服に着替える。薄い青地に、雪の結晶の文様。それが、私の正装。美しくて、冷たい着物。
私はもう、可哀想なだけの存在じゃない。吹雪が止んで、夜が明けるまで、私は生きるの。
◆◆◆
土御門のお家は、何度か来たけれど、やっぱり少し緊張する。私は、少し外の空気を吸いたくて、そっと縁側へ出た。何とはなしに歩く。
そして、曲がり角で、私は赤色にぶつかった。
「きゃっ。申し訳ありません……!」
「あら。雪夜さんやないの。ごめんなさいね。大きくて、驚いたやろ」
「……季楽さん。いえ、私の不注意です。すいません」
土御門季楽さんは、背が高くて、綺麗な赤色の髪をしている女性だ。日本舞踊をされていて、所作が美しい。
「お恥ずかしい。私、本当に、そそっかしくて……」
「まあ、そないに思っとったの? 雪夜さんは、小鳥みたいにかいらしいなぁ……」
「わ、私……可愛くないです……季楽さんは、お美しいです…………」
「おおきに、嬉しいわぁ。雪夜さんは、雪の妖精さんやね。あの鳥、雪夜さんみたいやわ」
「シマエナガですか? 私、そんなこと…………」
「そや、シマエナガやねぇ。雪夜さんにそっくり」
「ありがとうございます。あ、もう戻らないとですね……」
「そうやね」
ふたりで、室内へ戻る。それぞれの席へ戻る。その距離が、私はなんだか悲しかった。
帰り際、私は離れている季楽さんを見つめる。彼女は、私に気付いて、小さく手を振った。私は、慌てて一礼する。
失礼します。さようなら。
なんだろう? 心臓がドキドキしている。胸の内が、暖かい。
私は、許嫁のことが好きではない。あの人は、私を“狐ヶ崎”としか見ていないから。
あなたには、私のことが見えていますか?
季楽さん、あなたは私を見て、可愛いと言ってくれた。
もし、よろしければ、ずっと私を見ていていただけませんか?
私の心に、炎が宿った。私の夜に、火が灯る。
この火を絶やさないように。私は、吹雪から庇う。
私の炎よ、日々を照らして。