創作企画「冥冥の澱」
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生まれたのが、間違いだった。
双子の弟は、大切に育てられ、私は、その下。いつも、いつまでも、弟のおまけ。
狐ヶ崎雪夜の人生は、始めから終わっていた。
陰陽師の婿を取るためだけに育てられる、駒。それが、私。私の22年。
大学を卒業したら、私は許嫁と結婚させられる。
嫌だ。嫌。でも、そんなこと言ったら、勘当されるに違いない。誰も、私を守れない。
私の意志も個性も自我も、無意味なもの。だったら、機械でいいじゃない。
私が私である必要なんて、ないのだ。
高慢な“狐ヶ崎の長男”である父。父の装飾品の母。父の後追いをする弟の雪光。
出来ることなら、全部めちゃくちゃにしたい。
力が欲しい。私に強さがあれば。人生を変革することが出来るはずなのに。
年月とともに積み重なった、私の恨み。降り積もった雪のような、怨讐。決して溶かしたくない、この感情。いつまで、これを抱えていられるの? 私も母のようになるの?
助けてほしい。救ってほしい。誰か、私を。お願いだから。
◆◆◆
「照雄さんのとこの宵くん、反抗期らしいぞ」
「反抗期、ですか?」
「無断外泊はするわ、勝手に恋人作るわで大変らしい」
「それは…………」
愉快ね。
「……大変ですね」
私は、父の話に、そう返した。
狐ヶ崎宵くんといえば、本家も本家の次男である。そんなに会話したことはないけれど。
“雪夜さん、コンにちは”
あの、手遊びの狐を作ることが好きな子。いや、もう成人したのだったか。
なんだか、とても意外なところから、私は救われたような気持ちになった。
狐ヶ崎の中にいながら、それに抗う者。その存在だけで、私は勇気付けられる。
もしかしたら、私にも出来る? 私は、私を救える?
今日は、狐ヶ崎の氏神の稲成空狐を祀る、狐ヶ崎神社の境内を掃除する日だ。私は巫女服を着て、箒で落ち葉を集める。
この神社に火を放つことを、何度夢想したことだろう。
宵くん。あなたは、狐ヶ崎を壊してくれるの?
それなら、私、あなたにつくよ。あなたの力になるよ。
私と同じ、夜に閉じ込められた男の子。
あなたは、とっくに夜から出ていたんだね。私も連れていってほしい。そのために、私は、もう少し頑張ろう。
新年には、この神社に、狐ヶ崎家の全員が集まる。その時に、宵くんに話しかけよう。あなたの味方だと、告げよう。
私は、色々なものを諦めてきた。私の人生は、ずっと他人のものだった。でも、私は私の人生を取り戻す。全てを取り返す。
そして、いつの日か、自由に生きるの。好きな服を着るの。好きなものを食べるの。好きな人を作るの。好きに生きて、好きに死ぬの。
私の人生に、“希望”なんてあったんだ。この光を握り締めて、私は生きよう。
双子の弟は、大切に育てられ、私は、その下。いつも、いつまでも、弟のおまけ。
狐ヶ崎雪夜の人生は、始めから終わっていた。
陰陽師の婿を取るためだけに育てられる、駒。それが、私。私の22年。
大学を卒業したら、私は許嫁と結婚させられる。
嫌だ。嫌。でも、そんなこと言ったら、勘当されるに違いない。誰も、私を守れない。
私の意志も個性も自我も、無意味なもの。だったら、機械でいいじゃない。
私が私である必要なんて、ないのだ。
高慢な“狐ヶ崎の長男”である父。父の装飾品の母。父の後追いをする弟の雪光。
出来ることなら、全部めちゃくちゃにしたい。
力が欲しい。私に強さがあれば。人生を変革することが出来るはずなのに。
年月とともに積み重なった、私の恨み。降り積もった雪のような、怨讐。決して溶かしたくない、この感情。いつまで、これを抱えていられるの? 私も母のようになるの?
助けてほしい。救ってほしい。誰か、私を。お願いだから。
◆◆◆
「照雄さんのとこの宵くん、反抗期らしいぞ」
「反抗期、ですか?」
「無断外泊はするわ、勝手に恋人作るわで大変らしい」
「それは…………」
愉快ね。
「……大変ですね」
私は、父の話に、そう返した。
狐ヶ崎宵くんといえば、本家も本家の次男である。そんなに会話したことはないけれど。
“雪夜さん、コンにちは”
あの、手遊びの狐を作ることが好きな子。いや、もう成人したのだったか。
なんだか、とても意外なところから、私は救われたような気持ちになった。
狐ヶ崎の中にいながら、それに抗う者。その存在だけで、私は勇気付けられる。
もしかしたら、私にも出来る? 私は、私を救える?
今日は、狐ヶ崎の氏神の稲成空狐を祀る、狐ヶ崎神社の境内を掃除する日だ。私は巫女服を着て、箒で落ち葉を集める。
この神社に火を放つことを、何度夢想したことだろう。
宵くん。あなたは、狐ヶ崎を壊してくれるの?
それなら、私、あなたにつくよ。あなたの力になるよ。
私と同じ、夜に閉じ込められた男の子。
あなたは、とっくに夜から出ていたんだね。私も連れていってほしい。そのために、私は、もう少し頑張ろう。
新年には、この神社に、狐ヶ崎家の全員が集まる。その時に、宵くんに話しかけよう。あなたの味方だと、告げよう。
私は、色々なものを諦めてきた。私の人生は、ずっと他人のものだった。でも、私は私の人生を取り戻す。全てを取り返す。
そして、いつの日か、自由に生きるの。好きな服を着るの。好きなものを食べるの。好きな人を作るの。好きに生きて、好きに死ぬの。
私の人生に、“希望”なんてあったんだ。この光を握り締めて、私は生きよう。