ふたり揃っての休日。特に出かける予定もない。

「靖及さん」
「なんだ？」
「ちょい仕事するんやけど、体貸してや」
「ああ」

　ソファーに腰かける靖及さん。俺は、その膝に座って、抱き締めるように腕を首に絡ませ、肩に頭を乗せる。
　そのままの姿勢でスマホで、ちゃちゃっと株をやった。結果は、プラス。問題なし。

「終わったで～」
「そうか」

　スマホをローテーブルに放る。そんで、また、靖及さんを抱き締める。

「好きやなぁ」
「俺も司が好きだ」
「知っとる～。おおきにな」

　何度言われても、なんやこそばゆくて、嬉しいもんやな。

「司」
「なんや？」
「愛してる」
「知っとる。俺も、愛してるで」

　六本ある腕で抱き締められると、えらい幸せやなぁ、思う。

「靖及さん、キスしたって」
「……ああ」

　そっと、額にキスを落とされた。それから、頬に。その後、唇に。

「靖及さんは、ほんま優しいなぁ」
「そうか？」
「そやで」

　俺やったら、濃いやつかましたるとこやで。

「もう、今日はなんもする気せんわぁ。昼は出前……そうやな、ピザとって、映画でも見たいわ」
「そうしよう」
「なに見たい？」
「司の好きな映画」
「スティング！　スティング見てや！」
「ああ、見る」

　スマホを取って、ピザを注文して、テレビで映画を流す。
　スティング。1973年のアメリカの犯罪コメディー映画。ちんけな詐欺師が、伝説的な賭博師と組んで、ギャングに殺された師匠の復讐をする物語。
　スティングっちゅうのは、刺すとかそんな意味なんやけど、俗語では、「騙す」っちゅう意味になる。
　俺の一番好きな映画。アンタにも、見てほしい。ほんで、欲を言えば、好きになってほしい。そういう、好きなもんをいっぱい共有していきたいねん。
　アンタのせいやで。俺がこないに我が儘になったの。
　靖及さんの好きなものも、全部知りたい。全部、俺に教えてや。

◆◆◆

　スティングを見終わった。

「どやった？」
「面白かった。仕掛けがいい」
「せやろ？！　俺も、そこが好きやねん！　あと、賭博師がめっさシブい！」
「そうだな」

　柔らかく微笑む靖及さん。好きやわぁ。
　そこからは、感想会やった。あのシーンがどうとか、こうとか。感情移入したとか、なんとか。

「あ、せや。ポップコーンあるやん。あれ、食べながら、もう一本見てや」
「そうしよう」
「次は、グランド・イリュージョンがええな」

　グランド・イリュージョン。2013年のアメリカの犯罪映画。4人組のマジシャンが、マジックショーで銀行から大金を盗む、景気のええ話や。
　靖及さんが、楽しんで見てくれたらええな。