創作企画「冥冥の澱」
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
男は、横柄な態度で、女中を呼び止めた。
「おい」
「わたくし、そのような名ではございません」
女中の安田は、毅然と言い返す。
「お前の名前なんて、どうでもいい」
「安田と申します」
「はぁ……あの馬鹿のせいで、図々しくなったものだな……」
「わたくし、仕事がありますので、失礼します」
一礼し、安田は、狐ヶ崎明の前から立ち去った。
「お前たちの仕事は、狐ヶ崎に尽くすことだろうが!」
後ろから、安田を怒鳴り付ける明。しかし、彼女は振り返らない。
「お兄様、朝からお元気ですねぇ」
「宵…………」
後ろから現れた、件の“馬鹿”な弟、狐ヶ崎宵は、笑顔で兄に嫌みを言った。
「お前のせいで、お母様も女中たちも、おかしくなった」
「ご冗談を。元に戻ったんですよ。皆、自由に振る舞うようになっただけです」
「狐ヶ崎の規律の方が大切だ。これは、摂理だ」
「そんなローカルルール、知りません。その摂理とやらを抱き締めて、滅びの道を歩む気なんですか?」
「いい気になるなよ。宵、滅ぶのは、お前ひとりだ」
「では、勝負ですね。私が勝つか、お兄様が勝つか。楽しみですね」
宵は、不敵な笑みで言い退ける。
「弟の分際で……」
「その弟に負けたら、どうします? 当主の座をいただけます?」
「馬鹿が。寝言ばかり言うなよ、宵」
「あははっ! どちらが寝言でしょうね。では、失礼します。私、忙しいので。コン!」
宵は、どこかへ出かけて行った。
「…………」
残された明は、ただ、宵の後ろ姿を睨んでいる。そして、思う。
絶対に、すり潰してやる。お前如き。
◆◆◆
「幸子」
若い女中の名を呼ぶ。
「は、はい。なんでしょう、明様」
「部屋に来い」
「……わ、わたし……私は、もうそのようなことはいたしません……」
「なんだと?」
「明様が、私を愛していないこと、存じておりました。それでもいいと思っておりました。でも、私は道具ではありません。だから、もう、やめます」
「おい。お前、俺が目をかけてやったのに、逆らうのか?」
「私、私は……! 宵様につきました。あなたのことは、もう……」
「嫁入り出来なくなってもいいのか?」
「構いません……私は、自由に生きたいだけです……」
「……消えろ」
「ひぃっ……!」
「この家から、出て行け!」
恫喝。幸子は、震えながらも、言い返す。
「花様と宵様が、そんなことお許しになるはずがありません! 失礼します!」
幸子は、足早に去って行った。
気に入らない。気に入らない。何もかも、狂っている。全て、弟のせいだ。
明は、廊下の壁を殴った。
◆◆◆
朝早く起きて、朝食を用意する者。掃除をする者。狐たちの世話をする者。
家人を起こす者。身支度を手伝う者。予定を管理する者。
日用品を買い足す者。来客をもてなす者。門扉の前に立つ者。
そういった全ての人に、宵は感謝している。
全員、私が守るから。今度こそ。
昔のことを、思い出した。
“宵様。お誕生日おめでとうございます。こちら、プレゼントです。木彫りの狐の根付けですわ。内緒ですよ?”
あなたは、兄のせいで、遠くへ行ってしまったけど。
いつか、きっと、会いに行こう。
「今日は、どんなお祭りを開こうかな」
「おい」
「わたくし、そのような名ではございません」
女中の安田は、毅然と言い返す。
「お前の名前なんて、どうでもいい」
「安田と申します」
「はぁ……あの馬鹿のせいで、図々しくなったものだな……」
「わたくし、仕事がありますので、失礼します」
一礼し、安田は、狐ヶ崎明の前から立ち去った。
「お前たちの仕事は、狐ヶ崎に尽くすことだろうが!」
後ろから、安田を怒鳴り付ける明。しかし、彼女は振り返らない。
「お兄様、朝からお元気ですねぇ」
「宵…………」
後ろから現れた、件の“馬鹿”な弟、狐ヶ崎宵は、笑顔で兄に嫌みを言った。
「お前のせいで、お母様も女中たちも、おかしくなった」
「ご冗談を。元に戻ったんですよ。皆、自由に振る舞うようになっただけです」
「狐ヶ崎の規律の方が大切だ。これは、摂理だ」
「そんなローカルルール、知りません。その摂理とやらを抱き締めて、滅びの道を歩む気なんですか?」
「いい気になるなよ。宵、滅ぶのは、お前ひとりだ」
「では、勝負ですね。私が勝つか、お兄様が勝つか。楽しみですね」
宵は、不敵な笑みで言い退ける。
「弟の分際で……」
「その弟に負けたら、どうします? 当主の座をいただけます?」
「馬鹿が。寝言ばかり言うなよ、宵」
「あははっ! どちらが寝言でしょうね。では、失礼します。私、忙しいので。コン!」
宵は、どこかへ出かけて行った。
「…………」
残された明は、ただ、宵の後ろ姿を睨んでいる。そして、思う。
絶対に、すり潰してやる。お前如き。
◆◆◆
「幸子」
若い女中の名を呼ぶ。
「は、はい。なんでしょう、明様」
「部屋に来い」
「……わ、わたし……私は、もうそのようなことはいたしません……」
「なんだと?」
「明様が、私を愛していないこと、存じておりました。それでもいいと思っておりました。でも、私は道具ではありません。だから、もう、やめます」
「おい。お前、俺が目をかけてやったのに、逆らうのか?」
「私、私は……! 宵様につきました。あなたのことは、もう……」
「嫁入り出来なくなってもいいのか?」
「構いません……私は、自由に生きたいだけです……」
「……消えろ」
「ひぃっ……!」
「この家から、出て行け!」
恫喝。幸子は、震えながらも、言い返す。
「花様と宵様が、そんなことお許しになるはずがありません! 失礼します!」
幸子は、足早に去って行った。
気に入らない。気に入らない。何もかも、狂っている。全て、弟のせいだ。
明は、廊下の壁を殴った。
◆◆◆
朝早く起きて、朝食を用意する者。掃除をする者。狐たちの世話をする者。
家人を起こす者。身支度を手伝う者。予定を管理する者。
日用品を買い足す者。来客をもてなす者。門扉の前に立つ者。
そういった全ての人に、宵は感謝している。
全員、私が守るから。今度こそ。
昔のことを、思い出した。
“宵様。お誕生日おめでとうございます。こちら、プレゼントです。木彫りの狐の根付けですわ。内緒ですよ?”
あなたは、兄のせいで、遠くへ行ってしまったけど。
いつか、きっと、会いに行こう。
「今日は、どんなお祭りを開こうかな」