創作企画「冥冥の澱」
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「網代さん……!」
「なんだ?」
「なんや?」
呼び止める声に、ふたりが振り向いた。
あああ。やってしまった。砂江は焦る。
「ひーっ! すいません、ミジンコです! ゆるしてください! だ、旦那様、の方に用がありまして。すいません、奥様」
「司でええで」
「司様……!」
「なんでやねん!」
司の渾身のツッコミが、砂江に入った。
「あわわ。司さん、司さん、ですよね。はい」
「そんなビビられると、なんか俺が悪いことしたみたいやんか」
「すいません……」
砂江は、何度も眼鏡を押し上げる仕草をし、狼狽している。
「それで、俺に用とは?」
「こちら、網代さんに、手渡しするように言われまして」
茶色の封筒を差し出す。
「何故この書類を、調査班のお前が?」
「ろ、廊下を歩いてたら、頼まれました」
「管轄外の仕事は断れ」
「せやせや。自分、ええように使われとるんちゃうか?」
「……あの、はい。その通りですね。つ、次こそは断ります」
この様子だと、何度も“頼み”を断れないでいそうだ。
「あのな、砂絵さん、ほんまにちゃんと断り。損するだけやで」
「は、はい。善処します」
「どないやねん!」
司の渾身のツッコミが、砂江に入った。
「おもろないねん」
「ごめんなさい」
「いや、謝るとこちゃうで」
「はい…………」
「まあ、ええわ。気ぃつけや。ほな、帰ろか」
「ああ」
網代夫妻は、帰っていく。
砂江は、並んで歩くふたりの姿を見て、愛しい者のことを想った。早く帰らなきゃ。
◆◆◆
二階建て。庭付き。ふたりの帰る場所。
鍵野から、ご祝儀としてもらった、否、司が奪ってきた土地には、網代の家がある。
同時に帰って来たので、「ただいま」と「おかえり」を言い合う。
「今日は、なんや疲れたわぁ」
「珍しいな」
「水子やってん。今日、祓ったの」
「水子……」
「キッツいで、あれは」
「司」
「ん?」
六本の腕が、司を包んだ。
「愛してる」
「愛してるで……!」
そのまま抱き合って、大きなソファーに倒れ込む。靖及の上で、司は頬杖をつき、笑顔でいる。
「めっちゃ好きやなぁ」
「何がだ?」
「靖及さんの全部」
ほんのり顔を赤く染めながら、司は幸せそうに言った。
◆◆◆
お清めの塩を撒く。家に帰る前には、いつもそうしている。
「よし」
ちらりと、左手の薬指を見た。ブルーダイヤモンドが付いたシルバーリング。大切な、アナタがくれた指輪。
「ただいま……! ゆ————」
「おかえりなさい、砂絵さん」
玄関に入るなり、ぎゅっと抱き締められた。
「お疲れ様です」
「……お疲れ様」
温かい血の通った、アナタ。ワタシの特別。
アナタを守るためなら、ワタシはきっと大丈夫。
「今日、叱られちゃった。頼みごと断れって。ワタシ、仕事を押し付けられてしまって」
「ちゃんと断ってください」
「うん、そうする」
靴を脱ぎ、揃えてから、奥へ進む。
「今日は、どんな一日だった?」
アナタの話を、聞かせてほしい。ずっと、ずっと、いつまでも。
「なんだ?」
「なんや?」
呼び止める声に、ふたりが振り向いた。
あああ。やってしまった。砂江は焦る。
「ひーっ! すいません、ミジンコです! ゆるしてください! だ、旦那様、の方に用がありまして。すいません、奥様」
「司でええで」
「司様……!」
「なんでやねん!」
司の渾身のツッコミが、砂江に入った。
「あわわ。司さん、司さん、ですよね。はい」
「そんなビビられると、なんか俺が悪いことしたみたいやんか」
「すいません……」
砂江は、何度も眼鏡を押し上げる仕草をし、狼狽している。
「それで、俺に用とは?」
「こちら、網代さんに、手渡しするように言われまして」
茶色の封筒を差し出す。
「何故この書類を、調査班のお前が?」
「ろ、廊下を歩いてたら、頼まれました」
「管轄外の仕事は断れ」
「せやせや。自分、ええように使われとるんちゃうか?」
「……あの、はい。その通りですね。つ、次こそは断ります」
この様子だと、何度も“頼み”を断れないでいそうだ。
「あのな、砂絵さん、ほんまにちゃんと断り。損するだけやで」
「は、はい。善処します」
「どないやねん!」
司の渾身のツッコミが、砂江に入った。
「おもろないねん」
「ごめんなさい」
「いや、謝るとこちゃうで」
「はい…………」
「まあ、ええわ。気ぃつけや。ほな、帰ろか」
「ああ」
網代夫妻は、帰っていく。
砂江は、並んで歩くふたりの姿を見て、愛しい者のことを想った。早く帰らなきゃ。
◆◆◆
二階建て。庭付き。ふたりの帰る場所。
鍵野から、ご祝儀としてもらった、否、司が奪ってきた土地には、網代の家がある。
同時に帰って来たので、「ただいま」と「おかえり」を言い合う。
「今日は、なんや疲れたわぁ」
「珍しいな」
「水子やってん。今日、祓ったの」
「水子……」
「キッツいで、あれは」
「司」
「ん?」
六本の腕が、司を包んだ。
「愛してる」
「愛してるで……!」
そのまま抱き合って、大きなソファーに倒れ込む。靖及の上で、司は頬杖をつき、笑顔でいる。
「めっちゃ好きやなぁ」
「何がだ?」
「靖及さんの全部」
ほんのり顔を赤く染めながら、司は幸せそうに言った。
◆◆◆
お清めの塩を撒く。家に帰る前には、いつもそうしている。
「よし」
ちらりと、左手の薬指を見た。ブルーダイヤモンドが付いたシルバーリング。大切な、アナタがくれた指輪。
「ただいま……! ゆ————」
「おかえりなさい、砂絵さん」
玄関に入るなり、ぎゅっと抱き締められた。
「お疲れ様です」
「……お疲れ様」
温かい血の通った、アナタ。ワタシの特別。
アナタを守るためなら、ワタシはきっと大丈夫。
「今日、叱られちゃった。頼みごと断れって。ワタシ、仕事を押し付けられてしまって」
「ちゃんと断ってください」
「うん、そうする」
靴を脱ぎ、揃えてから、奥へ進む。
「今日は、どんな一日だった?」
アナタの話を、聞かせてほしい。ずっと、ずっと、いつまでも。