創作企画「冥冥の澱」
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
狐ヶ崎の分家筋、鍵野は、本家と袂を分かつことに決めた。時代錯誤な狐ヶ崎のやり方には、愛想が尽きたのである。
鍵野家の当主の“女”は、訣別の時を告げた。
それが、50年ほど前の話。
◆◆◆
「網代司さん」
かつて、“鍵野司”だった、あなた。
狐ヶ崎宵は、先日嫁入りした女に話しかけた。バーカウンターの隣に座り、オーナーの紗絡八卦にオススメのカクテルを注文する。
「なんや? 狐ヶ崎のぼん」
「宵です」
「“悪い子”の宵ちゃんな。“狐ヶ崎”に怒られるやろ、自分」
「ええ、まあ。あなたは、かつても今も“鍵野”だったことがありませんよね」
鍵野家の者は、基本的に“狐ヶ崎”と関わろうとはしない。
「俺は、因習と似非科学が嫌いやねん。ムカムカするわ。“ええ子”の明ちゃんには反吐が出るで、ほんま」
狐ヶ崎明に、“劣等の鍵野の女”呼ばわりされたことを思い出す。
「あはは。兄の悪口を聞くと、愉快な気持ちになります」
「宵ちゃん、なんやおもろくなったなぁ。“狐ヶ崎”なんて、滅ぼしたれや」
「善処します」
狐ヶ崎の呪いを完全に解くには、まだ時間がかかりそうだ。
「花さん、ひとり旅しとるんやろ?」
「はい。ヨーロッパを制覇するつもりみたいですね。今は、ロンドンにいるそうです」
「ほー」
水を得た魚のように、花は旅を満喫している。その様子は、家族の元に画像付きで送られてくるので、宵は嬉しく思った。
伴侶なしで、方々に行くことになっている狐ヶ崎の当主は、立腹しているが。
「宵ちゃん、顔もやけど、行動力も花さん似やったんやなぁ」
「そうですね」
「そういや、なんで、陽一ちゃんなん? 狐、アカンやん」
「なんででしょうね? 気付けば、陽一さんに甘えていました」
「狐みたいなもんに追い回されとった陽一ちゃんも、ようアンタを好きになったな」
「正直、嫌われてるかもと思いました」
「不思議やなぁ」
司は、腕組みをして頷きながら、しみじみと言った。
「司さんも、かなり不思議ですけどね」
「俺?」
「だって、いきなり結婚したじゃないですか」
「そら、俺の全てを賭けろ言われたら、賭けるやろ」
「なるほど。キラーワードですね」
自身が“世界で一番好き”というキラーワードを言ったことを、宵は知らない。
「私には、恋なんて、架空のお話でした。20年も、恋愛的な意味で人を好きになったことがなかったので。それどころか、好きな色も、食べ物も、全然分からなくて……辛かったです……」
「それ、家に殺されかけとったんやろな」
こともなげに言う司。“鍵野”であることを求められ、それを早々に拒否した者は、宵の反骨心を気に入っている。
「宵ちゃん、好きな色は?」
「夕焼け色です」
「好きな食べもんは?」
「和風おろしハンバーグです」
「上出来やん!」
ちなみに、司の好きな色は、赤と白。好きな食べ物は、酒のつまみ・串カツ・粉ものである。
「飴ちゃん、やるわ。何味がええんや?」
バッグから、飴玉を5つ取り出し、両手のひらに広げた。
「そうですね。では、りんご味で」
「ええで」
「ありがとうございます」
宵は、りんご味の飴を、指でつまんで、上着のポケットに入れる。
少し前まで、“狐ヶ崎”に囚われていた者。
10代の頃には、すでに“鍵野”をやめていた者。
人は、生まれながらに自由である。願わくは、全ての人が、思うままに生きられるように。今が闇の中でも、どうか、諦めないでほしい。
明けない夜はない? いつ明けるの? その時、自分は生きているの?
一粒の光を握り締められますように。
一筋の光が、あなたの側に差しますように。
夜が明けるまで、あなたが生まれた時から持っている宝石の光を灯していて。
鍵野家の当主の“女”は、訣別の時を告げた。
それが、50年ほど前の話。
◆◆◆
「網代司さん」
かつて、“鍵野司”だった、あなた。
狐ヶ崎宵は、先日嫁入りした女に話しかけた。バーカウンターの隣に座り、オーナーの紗絡八卦にオススメのカクテルを注文する。
「なんや? 狐ヶ崎のぼん」
「宵です」
「“悪い子”の宵ちゃんな。“狐ヶ崎”に怒られるやろ、自分」
「ええ、まあ。あなたは、かつても今も“鍵野”だったことがありませんよね」
鍵野家の者は、基本的に“狐ヶ崎”と関わろうとはしない。
「俺は、因習と似非科学が嫌いやねん。ムカムカするわ。“ええ子”の明ちゃんには反吐が出るで、ほんま」
狐ヶ崎明に、“劣等の鍵野の女”呼ばわりされたことを思い出す。
「あはは。兄の悪口を聞くと、愉快な気持ちになります」
「宵ちゃん、なんやおもろくなったなぁ。“狐ヶ崎”なんて、滅ぼしたれや」
「善処します」
狐ヶ崎の呪いを完全に解くには、まだ時間がかかりそうだ。
「花さん、ひとり旅しとるんやろ?」
「はい。ヨーロッパを制覇するつもりみたいですね。今は、ロンドンにいるそうです」
「ほー」
水を得た魚のように、花は旅を満喫している。その様子は、家族の元に画像付きで送られてくるので、宵は嬉しく思った。
伴侶なしで、方々に行くことになっている狐ヶ崎の当主は、立腹しているが。
「宵ちゃん、顔もやけど、行動力も花さん似やったんやなぁ」
「そうですね」
「そういや、なんで、陽一ちゃんなん? 狐、アカンやん」
「なんででしょうね? 気付けば、陽一さんに甘えていました」
「狐みたいなもんに追い回されとった陽一ちゃんも、ようアンタを好きになったな」
「正直、嫌われてるかもと思いました」
「不思議やなぁ」
司は、腕組みをして頷きながら、しみじみと言った。
「司さんも、かなり不思議ですけどね」
「俺?」
「だって、いきなり結婚したじゃないですか」
「そら、俺の全てを賭けろ言われたら、賭けるやろ」
「なるほど。キラーワードですね」
自身が“世界で一番好き”というキラーワードを言ったことを、宵は知らない。
「私には、恋なんて、架空のお話でした。20年も、恋愛的な意味で人を好きになったことがなかったので。それどころか、好きな色も、食べ物も、全然分からなくて……辛かったです……」
「それ、家に殺されかけとったんやろな」
こともなげに言う司。“鍵野”であることを求められ、それを早々に拒否した者は、宵の反骨心を気に入っている。
「宵ちゃん、好きな色は?」
「夕焼け色です」
「好きな食べもんは?」
「和風おろしハンバーグです」
「上出来やん!」
ちなみに、司の好きな色は、赤と白。好きな食べ物は、酒のつまみ・串カツ・粉ものである。
「飴ちゃん、やるわ。何味がええんや?」
バッグから、飴玉を5つ取り出し、両手のひらに広げた。
「そうですね。では、りんご味で」
「ええで」
「ありがとうございます」
宵は、りんご味の飴を、指でつまんで、上着のポケットに入れる。
少し前まで、“狐ヶ崎”に囚われていた者。
10代の頃には、すでに“鍵野”をやめていた者。
人は、生まれながらに自由である。願わくは、全ての人が、思うままに生きられるように。今が闇の中でも、どうか、諦めないでほしい。
明けない夜はない? いつ明けるの? その時、自分は生きているの?
一粒の光を握り締められますように。
一筋の光が、あなたの側に差しますように。
夜が明けるまで、あなたが生まれた時から持っている宝石の光を灯していて。
