創作企画「冥冥の澱」
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“口閉じれへんの?”
“なんか、思てたんとちゃう”
“は? ギャンブル? しょーもな”
“品がないねんな”
昔の男に言われたことを思い出す。
別に、ええわ。俺は、鍵野司以外にはなれんねん。
人生は、ひとりでも楽しい。人生なんて、伸るか反るかの大博打みたいなもんやん。毎日が勝負や。毎日がギャンブルや。スリルのない人生なんて、つまらへんやん。
そないな生き方は、大抵白い目で見られる。親も頭抱えとるし。
せやけど、アンタは、なんでか知らんけど、受け入れてくれて。アンタの隣は、居心地がよかった。ずっと一緒におれる訳でもないのに。
俺の、楽しい楽しい人生に、空白が出来た。アンタがおらへんという、空白が。
「どないしよ…………」
嫌やねん。湿っぽいのは。こんなん、鍵野司やない。
“司、なんでそないに男勝りになってもうたん? お母ちゃん、心配やわ”
“早よ、結婚せぇ、司”
“劣等の鍵野の女”
“いや、ありえへんわ、ギャンブルカスとか”
うっさいわ。オカンもオトンも、狐ヶ崎のぼんも、名前も忘れた男も。俺に、“役割”を押し付けんなや。
「しんど…………」
もう、ええわ。家帰って酒飲んで寝るわ。
◆◆◆
ひらひらと舞う、蝶を見ていた。美しい翅で飛ぶ姿を、ただ、じっと見ていた。
そうしていたら、自分の手に、蝶が止まって。けれど、それは刹那の出来事だったから。何も出来ずに、俺の前からいなくなった。
諦めよう。今までが、過ぎた幸福だったのだから。
そう考えたはずなのに、気付いた時には、鍵野司を追いかけていた。
「……司!」
「へ? アンタ、なんで…………」
振り向いた彼女は、目を丸くする。
「愛してるから、置いて行くな」
自分より、小さな体を抱き締めた。繊細なガラスで出来た翅を壊さないように、優しく。
「な、なんなん? 俺みたいなもんに、そないなこと言うて……からかわんといてや……」
声が震えている。あの、豪放磊落で、いつも明るい司が。
「俺の全てを、お前に賭けるから……お前の全てを、俺に賭けてくれ……」
「その賭け……のったるわ……」
司に抱き締め返された。夕日に照らされて、ふたりの影が重なる。
◆◆◆
純白のウェディングパンツスーツに身を包んだ花嫁が、鏡に映る。
普通のウェディングドレスにせんの? とかなんとか、オカンに言われたが、知らん。
伝統ある鍵野の神前式にせんか? とかなんとか、オトンに言われたが、知らん。
あとは、まあ、陰陽師や妖仲間に、「いきなり結婚?!」言われたわ。せやな。このスピードに振り落とされんよう、着いて来いや。
「ほな、行こか」
「お、おう」
なんか、俺より緊張してへん? オトン。
バージンロードでコケたりせぇへんやろな?
俺は、歩く。いつも通り、堂々と。
式場のドアが開かれる。どこ向いても知った顔やなぁ。
バージンロードの先、祭壇の前に、靖及さんがいる。お手製の黒いタキシードを着て。めっちゃ、かっこええやん。
好きやなぁ。
靖及さんと並んで、なんか神父にごちゃごちゃ言われる。そんなんは、別にどうでもええんやけど。まあ、形式的に。
で、指輪を靖及さんから受け取る。
「では、おふたりで、誓いのキスを」
これだけでええんちゃう?
「司」
「はい」
「愛してる」
「俺も、愛してるで」
ふたりで、キスをした。客が騒がしい。
ほんで、なんか、外出て、鐘が鳴る中を腕を組んで歩く。親戚の少女が俺らの前を歩き、籠から花びらをまいた。
めっちゃ写真撮られとるなぁ。
お次はなんや? あー、アレか。
「いくでー!」
ブーケトス。花束をキャッチしたのは、空也ちゃんやった。デッカくて可愛いやんな。
「靖及さん」
「なんだ?」
「これから、世界をふたり占めや!」
「そうだな」
せっかく人生賭けるんやから、ふたりで総取りするんで、よろしゅうな。
“なんか、思てたんとちゃう”
“は? ギャンブル? しょーもな”
“品がないねんな”
昔の男に言われたことを思い出す。
別に、ええわ。俺は、鍵野司以外にはなれんねん。
人生は、ひとりでも楽しい。人生なんて、伸るか反るかの大博打みたいなもんやん。毎日が勝負や。毎日がギャンブルや。スリルのない人生なんて、つまらへんやん。
そないな生き方は、大抵白い目で見られる。親も頭抱えとるし。
せやけど、アンタは、なんでか知らんけど、受け入れてくれて。アンタの隣は、居心地がよかった。ずっと一緒におれる訳でもないのに。
俺の、楽しい楽しい人生に、空白が出来た。アンタがおらへんという、空白が。
「どないしよ…………」
嫌やねん。湿っぽいのは。こんなん、鍵野司やない。
“司、なんでそないに男勝りになってもうたん? お母ちゃん、心配やわ”
“早よ、結婚せぇ、司”
“劣等の鍵野の女”
“いや、ありえへんわ、ギャンブルカスとか”
うっさいわ。オカンもオトンも、狐ヶ崎のぼんも、名前も忘れた男も。俺に、“役割”を押し付けんなや。
「しんど…………」
もう、ええわ。家帰って酒飲んで寝るわ。
◆◆◆
ひらひらと舞う、蝶を見ていた。美しい翅で飛ぶ姿を、ただ、じっと見ていた。
そうしていたら、自分の手に、蝶が止まって。けれど、それは刹那の出来事だったから。何も出来ずに、俺の前からいなくなった。
諦めよう。今までが、過ぎた幸福だったのだから。
そう考えたはずなのに、気付いた時には、鍵野司を追いかけていた。
「……司!」
「へ? アンタ、なんで…………」
振り向いた彼女は、目を丸くする。
「愛してるから、置いて行くな」
自分より、小さな体を抱き締めた。繊細なガラスで出来た翅を壊さないように、優しく。
「な、なんなん? 俺みたいなもんに、そないなこと言うて……からかわんといてや……」
声が震えている。あの、豪放磊落で、いつも明るい司が。
「俺の全てを、お前に賭けるから……お前の全てを、俺に賭けてくれ……」
「その賭け……のったるわ……」
司に抱き締め返された。夕日に照らされて、ふたりの影が重なる。
◆◆◆
純白のウェディングパンツスーツに身を包んだ花嫁が、鏡に映る。
普通のウェディングドレスにせんの? とかなんとか、オカンに言われたが、知らん。
伝統ある鍵野の神前式にせんか? とかなんとか、オトンに言われたが、知らん。
あとは、まあ、陰陽師や妖仲間に、「いきなり結婚?!」言われたわ。せやな。このスピードに振り落とされんよう、着いて来いや。
「ほな、行こか」
「お、おう」
なんか、俺より緊張してへん? オトン。
バージンロードでコケたりせぇへんやろな?
俺は、歩く。いつも通り、堂々と。
式場のドアが開かれる。どこ向いても知った顔やなぁ。
バージンロードの先、祭壇の前に、靖及さんがいる。お手製の黒いタキシードを着て。めっちゃ、かっこええやん。
好きやなぁ。
靖及さんと並んで、なんか神父にごちゃごちゃ言われる。そんなんは、別にどうでもええんやけど。まあ、形式的に。
で、指輪を靖及さんから受け取る。
「では、おふたりで、誓いのキスを」
これだけでええんちゃう?
「司」
「はい」
「愛してる」
「俺も、愛してるで」
ふたりで、キスをした。客が騒がしい。
ほんで、なんか、外出て、鐘が鳴る中を腕を組んで歩く。親戚の少女が俺らの前を歩き、籠から花びらをまいた。
めっちゃ写真撮られとるなぁ。
お次はなんや? あー、アレか。
「いくでー!」
ブーケトス。花束をキャッチしたのは、空也ちゃんやった。デッカくて可愛いやんな。
「靖及さん」
「なんだ?」
「これから、世界をふたり占めや!」
「そうだな」
せっかく人生賭けるんやから、ふたりで総取りするんで、よろしゅうな。