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「あっ」と、思わず声が出てしまった。
銭湯の浴場から出て、脱衣所で隣になった若い男が、自分と同じ派手な柄のパンツを穿いている。
しばしの沈黙。カチコチと時計の針の音が響く。
「いや~、奇遇っすね!」
なんだか嬉しくなってきたオレは、ハキハキとした話しぶりで口を開いた。
「本当に。びっくりしましたよ」
目を丸くしていた彼も、声を出す。
笑い合っているふたり共、パンツ一枚である。
いつまでもそのままでいる訳にもいかないので、服を着ながら、お互い軽く自己紹介した。
「映司くん、21歳かぁ。若いなぁ。オレ、26歳だよ。いやぁ、しかし、お互い根なし草ってとこも一緒だとは驚いたなぁ!」
「いやぁ、俺も驚きました」
オレは、たまたま今日、日本に帰って来た身である。エスニックな服を着た映司くんは、素直にびっくりしている様だ。
意気投合したオレたちは、髪を乾かした後も、牛乳を飲みながら話をする。旅をしていて楽しかったこと、遭遇した不思議な出来事、ちょっとした失敗談など、様々なことをふたりで話した。
しばらく、話に花を咲かせていたが、そろそろ行かなくてはならないところがある。
別れ際は、いつだって寂しい。
「また、どっかで会おうね~!」と、彼の背後から声をかけると、一度振り向いて、手を振ってくれた。
本当に、また世界のどこかで会えるといい。
◆◆◆
「ごめんなさい」
オレは、遠くなった映司くんの背中に向かって謝った。嘘をついたことを、謝った。またどこかで会えることなど、ないのだから。
これから、死にに行こうと思う。あの世があるのなら、そこへ行こう。
ろくでもない人生だった。
そりゃあ、楽しいこともあったけど、人に言えないような過去なんて山ほどあるし。
オレは思考を続けながら、死に場所に定めた崖上を目指す。
両親を含む親類とは縁が切れているし。
歩みを進める。
友達はいないし、職歴はないし。
ほとんど走るみたいに、オレは前進する。
けれど。
足を止めた。
仲間が、出来てしまった。
きっと、彼にも過去がある。旅をする理由がある。オレと同じとは言えないまでも、似ているかもしれない彼。その存在に、自分が決定的に救われてしまったのだ。よりによって、今日。
少しだけ、涙を流した。
銭湯の浴場から出て、脱衣所で隣になった若い男が、自分と同じ派手な柄のパンツを穿いている。
しばしの沈黙。カチコチと時計の針の音が響く。
「いや~、奇遇っすね!」
なんだか嬉しくなってきたオレは、ハキハキとした話しぶりで口を開いた。
「本当に。びっくりしましたよ」
目を丸くしていた彼も、声を出す。
笑い合っているふたり共、パンツ一枚である。
いつまでもそのままでいる訳にもいかないので、服を着ながら、お互い軽く自己紹介した。
「映司くん、21歳かぁ。若いなぁ。オレ、26歳だよ。いやぁ、しかし、お互い根なし草ってとこも一緒だとは驚いたなぁ!」
「いやぁ、俺も驚きました」
オレは、たまたま今日、日本に帰って来た身である。エスニックな服を着た映司くんは、素直にびっくりしている様だ。
意気投合したオレたちは、髪を乾かした後も、牛乳を飲みながら話をする。旅をしていて楽しかったこと、遭遇した不思議な出来事、ちょっとした失敗談など、様々なことをふたりで話した。
しばらく、話に花を咲かせていたが、そろそろ行かなくてはならないところがある。
別れ際は、いつだって寂しい。
「また、どっかで会おうね~!」と、彼の背後から声をかけると、一度振り向いて、手を振ってくれた。
本当に、また世界のどこかで会えるといい。
◆◆◆
「ごめんなさい」
オレは、遠くなった映司くんの背中に向かって謝った。嘘をついたことを、謝った。またどこかで会えることなど、ないのだから。
これから、死にに行こうと思う。あの世があるのなら、そこへ行こう。
ろくでもない人生だった。
そりゃあ、楽しいこともあったけど、人に言えないような過去なんて山ほどあるし。
オレは思考を続けながら、死に場所に定めた崖上を目指す。
両親を含む親類とは縁が切れているし。
歩みを進める。
友達はいないし、職歴はないし。
ほとんど走るみたいに、オレは前進する。
けれど。
足を止めた。
仲間が、出来てしまった。
きっと、彼にも過去がある。旅をする理由がある。オレと同じとは言えないまでも、似ているかもしれない彼。その存在に、自分が決定的に救われてしまったのだ。よりによって、今日。
少しだけ、涙を流した。