創作企画「冥冥の澱」
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昼休み中の調査室で、怒号が響き渡った。
「テメェ、ゆるさねーぞ! 謝れ! 謝れぇ!」
砂江砂絵が、男の胸ぐらを掴み、吠えている。
「ちょっとした冗談じゃないですかぁ……!」
「うるせぇ! ぶん殴るぞ!」
「ひっ……!」
男は、砂江の逆鱗に触れてしまったのだ。
“砂江さんの配偶者って、どんな人なんですか? 頑なに情報を出さないのは、架空の人物だからですか?”
「砂江さん、落ち着いてください」
杜崎還は、静かに諫める。砂江の振り上げた拳を下ろさせないように、掴んだ。
「砂江さん、煙草、行きましょう」
「嫌です! コイツ、ぶっ飛ばします!」
「失礼します」
杜崎と比べて、砂江は明らかに小柄である。半ば引きずるように、喫煙室へ連れて行く。
「う、うううぅ…………」
廊下に出された砂江は、怒りのあまり涙を流し始めていた。
喫煙室で、ふたりきりになると、「すいません、杜崎さん」と謝る。
「でも、あの人、ワタシ、ワタシの大切な人がいないだなんて言うからぁ!」
「そうですね」
砂江はハンカチを取り出し、化粧っけのない顔を拭った。それから、黒くてゴツい見た目の電子煙草をスーツのポケットから出す。ボタンを押しながら、蒸気を肺に取り込んだ。辺りに、オレンジの香りが広がる。
一方、 杜崎は隣に座っているだけで、煙草は吸わない。それは、いつものことなので、砂江は気にしなかった。
「末代まで祟ってやる……」
「人が、そんなことを言うものではないですよ」
「……はい」
そうは言っても、やっぱり、砂江には、あの男がゆるせそうにない。
「ワタシ、間違ってますか? デスクの写真立てに、ハニーの写真を入れとくべきですか? ふたりで行った先での記念写真を見せびらかすべきですか? セクシャルマイノリティーが、配偶者の情報を一切明かさないのって、そんなに悪いことですか?」
「いいえ。砂江さんの好きなようにしてください。ただ、ああいう手合いの者は、これからも来ます」
なんとなく繋がっている既婚者仲間は、砂江にそう言った。ふたりは、お互いの配偶者について、本人が話す以上のことは詮索しないし、適度に“離れて”いる。
「知っての通り、ワタシは、“物語”が好きです。人は皆、ひとつの物語だと思っています。でも、だけど、ワタシは、ハニーに関してだけは、“物語”みたいに消費されたくないのです。コンテンツにされたくないのです。見世物にされたくないのです。それだけです」
本当はね、誰にもアナタを見せたくないよ。ずっと、独り占めしていたいよ。出来ることなら、閉じ込めてしまいたいよ。でも、そんなこと出来ないくらい、愛してるよ。
「砂江さん。それなら、毅然と立ち向かうしかないですよ」
「……そうですね」
杜崎は、どこまでも冷静に。砂江は、その冷たさに、怒りを鎮められる。
アナタの冷静沈着さを。
きみの激情を。
好ましく思っています。
「テメェ、ゆるさねーぞ! 謝れ! 謝れぇ!」
砂江砂絵が、男の胸ぐらを掴み、吠えている。
「ちょっとした冗談じゃないですかぁ……!」
「うるせぇ! ぶん殴るぞ!」
「ひっ……!」
男は、砂江の逆鱗に触れてしまったのだ。
“砂江さんの配偶者って、どんな人なんですか? 頑なに情報を出さないのは、架空の人物だからですか?”
「砂江さん、落ち着いてください」
杜崎還は、静かに諫める。砂江の振り上げた拳を下ろさせないように、掴んだ。
「砂江さん、煙草、行きましょう」
「嫌です! コイツ、ぶっ飛ばします!」
「失礼します」
杜崎と比べて、砂江は明らかに小柄である。半ば引きずるように、喫煙室へ連れて行く。
「う、うううぅ…………」
廊下に出された砂江は、怒りのあまり涙を流し始めていた。
喫煙室で、ふたりきりになると、「すいません、杜崎さん」と謝る。
「でも、あの人、ワタシ、ワタシの大切な人がいないだなんて言うからぁ!」
「そうですね」
砂江はハンカチを取り出し、化粧っけのない顔を拭った。それから、黒くてゴツい見た目の電子煙草をスーツのポケットから出す。ボタンを押しながら、蒸気を肺に取り込んだ。辺りに、オレンジの香りが広がる。
一方、 杜崎は隣に座っているだけで、煙草は吸わない。それは、いつものことなので、砂江は気にしなかった。
「末代まで祟ってやる……」
「人が、そんなことを言うものではないですよ」
「……はい」
そうは言っても、やっぱり、砂江には、あの男がゆるせそうにない。
「ワタシ、間違ってますか? デスクの写真立てに、ハニーの写真を入れとくべきですか? ふたりで行った先での記念写真を見せびらかすべきですか? セクシャルマイノリティーが、配偶者の情報を一切明かさないのって、そんなに悪いことですか?」
「いいえ。砂江さんの好きなようにしてください。ただ、ああいう手合いの者は、これからも来ます」
なんとなく繋がっている既婚者仲間は、砂江にそう言った。ふたりは、お互いの配偶者について、本人が話す以上のことは詮索しないし、適度に“離れて”いる。
「知っての通り、ワタシは、“物語”が好きです。人は皆、ひとつの物語だと思っています。でも、だけど、ワタシは、ハニーに関してだけは、“物語”みたいに消費されたくないのです。コンテンツにされたくないのです。見世物にされたくないのです。それだけです」
本当はね、誰にもアナタを見せたくないよ。ずっと、独り占めしていたいよ。出来ることなら、閉じ込めてしまいたいよ。でも、そんなこと出来ないくらい、愛してるよ。
「砂江さん。それなら、毅然と立ち向かうしかないですよ」
「……そうですね」
杜崎は、どこまでも冷静に。砂江は、その冷たさに、怒りを鎮められる。
アナタの冷静沈着さを。
きみの激情を。
好ましく思っています。