創作企画「冥冥の澱」
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ホールケーキになっていた。私は、切り分けられて、食べられる。咀嚼され、呑み込まれる。それが、とても嬉しくて。なんだか、凄く…………。
「…………はしたない」
夢から醒めた私は、自身を恥ずかしく思った。両手で顔を覆い、赤面する。
「はぁ」
溜め息、ひとつ。上体を起こして、窓の外を見る。朝日が、濡れた秋色の紫陽花を照らしていた。
寝ても覚めても、あなたのことばかり。ずっと、陽一さんのことを考えている。
恋って、そういうものなんですか?
帆希さんに訊いてみようかな。いや、でも、羞恥心が勝つ。
それに、全く不快ではないし。むしろ、なんだか、毎日が煌めいている。
「宵様? 起きていらっしゃいますか?」
「は、はい!」
田中さんの声に驚いてしまった。
ああ、朝はどうして、こんなに早く過ぎていくのだろう?
あなたといる時間は、何故、一瞬で終わるのだろう?
いけない。いい加減、身支度を済ませなくては。
今日も、きっと楽しい一日になる。
◆◆◆
「宵チャン、最近、ふわふわしとるのう」
「え?」
「家族とのいざこざが一段落しただけじゃないじゃろ?」
私は、隣のレジ前に座るリリアンさんを見つめた。ふたりとも、手には駄菓子を持って、いつも通りの歓談をしていたのだが。いきなり、私の内を見透かされたようで、固まってしまった。
「あの、もしかして澱み討伐に支障が?」
「いやいや、そんなことはないぞ。宵チャンとワシは最強じゃからの!」
「あはは。そうですね」
内心、ほっとする。
「では、ふわふわというのは?」
「うーむ。なーんか、幸せそうに見えるのう」
「それは、まあ、そうですね。幸せですよ。私は、自分の宝石が見えるようになったんです」
「はー。やっとか、と言いたいところじゃが。宵チャンには、きっとこれが、べすとたいみんぐじゃったのじゃ」
リリアンさんは、足をパタパタさせて、微笑んだ。
「はい。私がもがいてきた20年は、花実をつけました。満足しています。けれど…………」
渇望。1をもらえば、10が欲しくなる。
「私、恋をしています」
「宵チャンのコイバナ!?」
興味津々といった様子のリリアンさん。
「それも、その、成就したと言いますか。受け入れていただいたのですが」
「いやいやいや、相手! 誰じゃ?!」
「陽一さんです」
「ほーう? なるほど。めでたいの!」
「ありがとうございます」
「四象で、ぱーてぃーを開きたいのう」
「それは……めちゃくちゃ楽しそうですね……!」
「じゃろ? ぐるちゃでも報告するんじゃ! ほれほれ」
「それは、陽一さんの許可を取ってからですね」
「むー」
あはは、と笑って、私は不満顔のリリアンさんを宥めた。
大切な仲間たちに祝福されたら、物凄く嬉しいだろうな、と考える。近いうちに、そうなったらいいな。
◆◆◆
なんとなく、どこにも辿り着かない道を歩いている気がした。しかし、途中で、あなたに出会ったから。私の真っ暗だった道は、優しい明かりに照らされている。どこへ着くのかは、まだ分からないけれど、あなたが隣にいるのなら、それでいい。それがいい。
あなたのこと、苦手でした。あなたも、私が苦手だったのでは?
私が「好き」と言える数少ないもののひとつを、あなたが苦手だったから、子供っぽい嫌がらせを続けていました。それが、私は楽しくて。たぶん、ずっと前から「好き」だったんですね。あなたのこと。
あなたに伸ばすことすら出来なかった手を取ってくれて、ありがとう。見付けてくれて、ありがとう。
あとは、そう、目下の問題は。インターホンが、押せないこと。
「…………」
陽一さんの住むアパートに来たのが、10分前。ドア前で、立ち続けている。早く押しなさい。不審者だよ、これじゃ。
でも、これって家デートですよね? 陽一さんからお誘いを受けて、断る理由なんてなくて、ここまで来たけれど。家デートって何をするのか、よく分からない。そもそも、今まで、デートというものをしたことがない。
「……えい」
小さく声を出しながら、押した。チャイムが鳴る。
『はい』
陽一さんの声。
「コンばんは。宵です」
『宵くん! 待ってたよー。今、開けるね』
待ってたんだ。嬉しい。あと、すいません。結構前からいました。
ドアを開けた陽一さんに導かれて、部屋に入る。
入ってすぐに浴室らしき部屋? しきりのないところに流し台? 同じ部屋に洗濯機? 不思議なお家。
靴を脱ぎ、上がらせてもらう。
「お邪魔します」
「はーい。いらっしゃい」
「そうでした。これ、お土産の羊羹です」
「わー。ありが……エッ!?」
「えっ?」
「コレ、あの、スゴイ高いやつですよね?!」
「いえ、五千円くらいかと」
「高いよ!」
陽一さんは、シンクの横に紙袋を置き、そっと中身を取り出した。
「やっぱりコレ、皇室に献上されるやつだ!?」
「そうなんですか? 食には疎いもので」
失礼のないように、自分が食べて美味しかったものを持ってきたのだが。あなたにも食べてほしくて。
「わー、コレ、わー…………」
「動画撮ってもいいですよ」
「いいの?! すぐ済む! すぐ済むから!」
「ふふ。はい」
可愛い。
陽一さんは、ショート動画を撮り始めた。私はそれを、少し離れて、静かに見る。
美味しいものは、分かるけど、好きなものは、分からない。でも、あなたが一緒なら、それも見付けられるかも。
「宵くん、撮り終わった、よ…………?」
自分でも驚いた。私は自然に、陽一さんの首元に両腕を絡め、キスをしていた。瞬間、しんと静まり返る部屋。
「好きですよ」
唇を離してから、そう言った。
「アッハイ! 僕も好きです!」
「知ってます」
10をもらうと、100が欲しくなる。
「…………はしたない」
夢から醒めた私は、自身を恥ずかしく思った。両手で顔を覆い、赤面する。
「はぁ」
溜め息、ひとつ。上体を起こして、窓の外を見る。朝日が、濡れた秋色の紫陽花を照らしていた。
寝ても覚めても、あなたのことばかり。ずっと、陽一さんのことを考えている。
恋って、そういうものなんですか?
帆希さんに訊いてみようかな。いや、でも、羞恥心が勝つ。
それに、全く不快ではないし。むしろ、なんだか、毎日が煌めいている。
「宵様? 起きていらっしゃいますか?」
「は、はい!」
田中さんの声に驚いてしまった。
ああ、朝はどうして、こんなに早く過ぎていくのだろう?
あなたといる時間は、何故、一瞬で終わるのだろう?
いけない。いい加減、身支度を済ませなくては。
今日も、きっと楽しい一日になる。
◆◆◆
「宵チャン、最近、ふわふわしとるのう」
「え?」
「家族とのいざこざが一段落しただけじゃないじゃろ?」
私は、隣のレジ前に座るリリアンさんを見つめた。ふたりとも、手には駄菓子を持って、いつも通りの歓談をしていたのだが。いきなり、私の内を見透かされたようで、固まってしまった。
「あの、もしかして澱み討伐に支障が?」
「いやいや、そんなことはないぞ。宵チャンとワシは最強じゃからの!」
「あはは。そうですね」
内心、ほっとする。
「では、ふわふわというのは?」
「うーむ。なーんか、幸せそうに見えるのう」
「それは、まあ、そうですね。幸せですよ。私は、自分の宝石が見えるようになったんです」
「はー。やっとか、と言いたいところじゃが。宵チャンには、きっとこれが、べすとたいみんぐじゃったのじゃ」
リリアンさんは、足をパタパタさせて、微笑んだ。
「はい。私がもがいてきた20年は、花実をつけました。満足しています。けれど…………」
渇望。1をもらえば、10が欲しくなる。
「私、恋をしています」
「宵チャンのコイバナ!?」
興味津々といった様子のリリアンさん。
「それも、その、成就したと言いますか。受け入れていただいたのですが」
「いやいやいや、相手! 誰じゃ?!」
「陽一さんです」
「ほーう? なるほど。めでたいの!」
「ありがとうございます」
「四象で、ぱーてぃーを開きたいのう」
「それは……めちゃくちゃ楽しそうですね……!」
「じゃろ? ぐるちゃでも報告するんじゃ! ほれほれ」
「それは、陽一さんの許可を取ってからですね」
「むー」
あはは、と笑って、私は不満顔のリリアンさんを宥めた。
大切な仲間たちに祝福されたら、物凄く嬉しいだろうな、と考える。近いうちに、そうなったらいいな。
◆◆◆
なんとなく、どこにも辿り着かない道を歩いている気がした。しかし、途中で、あなたに出会ったから。私の真っ暗だった道は、優しい明かりに照らされている。どこへ着くのかは、まだ分からないけれど、あなたが隣にいるのなら、それでいい。それがいい。
あなたのこと、苦手でした。あなたも、私が苦手だったのでは?
私が「好き」と言える数少ないもののひとつを、あなたが苦手だったから、子供っぽい嫌がらせを続けていました。それが、私は楽しくて。たぶん、ずっと前から「好き」だったんですね。あなたのこと。
あなたに伸ばすことすら出来なかった手を取ってくれて、ありがとう。見付けてくれて、ありがとう。
あとは、そう、目下の問題は。インターホンが、押せないこと。
「…………」
陽一さんの住むアパートに来たのが、10分前。ドア前で、立ち続けている。早く押しなさい。不審者だよ、これじゃ。
でも、これって家デートですよね? 陽一さんからお誘いを受けて、断る理由なんてなくて、ここまで来たけれど。家デートって何をするのか、よく分からない。そもそも、今まで、デートというものをしたことがない。
「……えい」
小さく声を出しながら、押した。チャイムが鳴る。
『はい』
陽一さんの声。
「コンばんは。宵です」
『宵くん! 待ってたよー。今、開けるね』
待ってたんだ。嬉しい。あと、すいません。結構前からいました。
ドアを開けた陽一さんに導かれて、部屋に入る。
入ってすぐに浴室らしき部屋? しきりのないところに流し台? 同じ部屋に洗濯機? 不思議なお家。
靴を脱ぎ、上がらせてもらう。
「お邪魔します」
「はーい。いらっしゃい」
「そうでした。これ、お土産の羊羹です」
「わー。ありが……エッ!?」
「えっ?」
「コレ、あの、スゴイ高いやつですよね?!」
「いえ、五千円くらいかと」
「高いよ!」
陽一さんは、シンクの横に紙袋を置き、そっと中身を取り出した。
「やっぱりコレ、皇室に献上されるやつだ!?」
「そうなんですか? 食には疎いもので」
失礼のないように、自分が食べて美味しかったものを持ってきたのだが。あなたにも食べてほしくて。
「わー、コレ、わー…………」
「動画撮ってもいいですよ」
「いいの?! すぐ済む! すぐ済むから!」
「ふふ。はい」
可愛い。
陽一さんは、ショート動画を撮り始めた。私はそれを、少し離れて、静かに見る。
美味しいものは、分かるけど、好きなものは、分からない。でも、あなたが一緒なら、それも見付けられるかも。
「宵くん、撮り終わった、よ…………?」
自分でも驚いた。私は自然に、陽一さんの首元に両腕を絡め、キスをしていた。瞬間、しんと静まり返る部屋。
「好きですよ」
唇を離してから、そう言った。
「アッハイ! 僕も好きです!」
「知ってます」
10をもらうと、100が欲しくなる。