創作企画「冥冥の澱」
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ウルトラスーパーハッピー! 私は、私だけの宝石を見付けました!
終わらない祭り囃子の中にいるみたい。
「宵、聞いているのか?」
「はい!」
「もう、あの店には行かないな?」
「はい! 嫌です!」
「お前…………」
兄の小言なんて、どうでもいい!
「逆らうのか? 俺に」
「はい!」
「……また、座敷牢に入れられたいか?」
「嫌です! 逃げまーす! コン!」
私は、兄の横をすり抜け、玄関から外へ出る。後ろから、兄の怒鳴り声がするが、知ったことではない。
気持ちのいい朝! 爽やかな風! なんだか、世界が、きらきらしてる!
「あははっ!」
きっと、今日も明日も、素敵な日になる。ずっとずっと、お祭りを続けようよ。そこに、あなたもいてくれたなら。私は、凄く嬉しい。
◆◆◆
講義が終わり、休憩時間になった。大学構内のベンチに座り、スマホでメッセージアプリを開こうとしたところで、新着メッセージがくる。
『宵くん この間話してた お出かけの話なんだけど』
『こことかどうかな?』
以下、複数のURL。
「……えっ」
私は思わず、声を出した。驚きと、じわじわやって来る幸福感。
どうしよう。陽一さんが、あの時の話を覚えていてくれて。真剣に考えてくれて。私と、ふたりで旅行をしてくれる?
どうしよう。顔が熱い。どうしよう。嫌われてなかったんだ。
「どうしよう…………」
父に直訴してみる? いや、すでに兄が私の“素行の悪さ”を伝えているはずだ。きっと、却下される。
知ったことか。無断外泊は、まだしたことがない。けれど私は、もう大人なんだし、自由だ。勝手に行こう。
それじゃあ、どこへ行きましょう?
URLを、上から順にタップしていく。どこも魅力的だ。ひとつひとつ、吟味する。
あっ。これ。やってみたいな。
『陽一さん、旅行の件なんですが』
私は、意を決して、メッセージを送信した。
◆◆◆
早朝、私はスーツケースを抱え、抜き足差し足、玄関へ向かう。家人を、起こさないように。
いってきます。
そっと、戸を閉めて、鍵をかける。鍵につけられた、狐の根付けが揺れた。
目指すは、空港。待ち合わせ場所は、入り口前。バスから、電車。電車から、タクシー。目的地へと、向かう。
待ち合わせ時間より、一時間も早く着いた。
心臓が、どきどきする。
今日で、合ってるよね? ここで、合ってるよね?
落ち着かない。なんども、スマホのカレンダーを見る。
30分後に、陽一さんが来た。
「宵くん、おはよう。早いね」
「おはようございます。陽一さんも、早いですね」
双方、曖昧な笑いを浮かべる。陽一さんも、楽しみだったなら、嬉しいな。
「宵くん、写真撮ろう?」
「はい」
空港前。陽一さんが、自撮り棒を付けたスマホで、私たちを切り取る。
私は、いつもの狐で、陽一さんは、ピースをしていた。
とても穏やかに、私たちの二泊三日の旅行が始まる。
ロビーで話しながら、暇を潰す。
「宵くん、飛行機平気?」
「大丈夫です」
「エコノミークラスだけど」
「大丈夫ですよぉ」
ファーストクラスしか乗ったことがないが、エコノミークラス症候群に関する知識はあるし、ちゃんと気を付けるつもりだ。
時間がきた。飛行機に搭乗し、席に着く。今更ながら、隣にあなたがいるだけで、私は幸せだ。それなのに、この旅行中、ずっと行動を共にする訳で。幸せ過ぎて、どうにかなってしまいそう。
機内で、陽一さんと話したり、寝落ちたりしているうちに、那覇空港へ到着した。
沖縄県那覇市。本日の気温は、25℃だ。空気が、全然違う。いつもと、全然違う秋。
「…………」
「宵くん?」
「ここ……沖縄……?」
「うん、沖縄だね。もしかして、寝惚けてるの?」
「いや、その、夢みたいで……」
「夢じゃないよー」
「はい……」
「よーし、ホテルにチェックインして、遊びに行こう!」
「はい!」
ふたりで、スーツケースを引きながら、歩く。空港前での、写真撮影を忘れずに。
◆◆◆
ホテルで半袖のシャツに着替えてから、私たちは、外へ出る。
「昼ごはんにしよっか?」
「そうですね」
あらかじめ決めていた、ホテル近くのレストランへ向かうことにした。
しばし並んで歩いていると、店の前に、貝殻や白い珊瑚の死骸が積まれている海鮮レストランを発見。入店して、案内された席に着く。
各々料理を注文した。陽一さん、私の倍以上注文したな。
料理がくると、陽一さんは、スマホでショート動画を撮り始めた。私は、それを興味深く見つめる。それから、ふたりで「いただきます」をした。
好きな人と時間を共有するって、こういうことか。陽一さんとは、四象のバーなどで共に過ごしたことがあるが、ふたりきりは初めてだし、好きだと意識してから、まだ日が浅いので、少し緊張する。
「美味しいですね」
「うん! あ、何か食べたいのあったら分けるよ?」
「いえ、大丈夫です」
あなたが、美味しそうに食事をしているのを見ているだけで、胸がいっぱいなので。
昼食を終えて店を出ると、私の目に、有名なアイスクリーム屋の沖縄本店の看板が飛び込んできた。
三段重ねがある!
「陽一さん、陽一さん」
「ん?」
「アイス食べましょう。三段重ねの映えるやつ」
「いいね!」
カラフルなアイスクリームを手に持ち、お互いを撮影してから、食べる。
「美味しいねー」
「はい」
ところで、私の家族のグループチャットには、物凄い数のメッセージが飛んできている訳ですが。那覇空港で撮った写真をトリミングして、陽一さんを消してから、送信。ばーか。追いかけて来れないでしょう。
その後は、気になった店を巡った。店先のサングラスをかけてみたり、アクセサリーショップを覗いたり。サメの歯を買ってみたり。
日が落ちて来る頃には、ふたりで海岸にいた。
靴と靴下を脱いで、足だけを海水に浸す。
「少し、風が強いですね」
「うん」
浜辺には、あまり人はおらず、静かな時間が流れた。手を伸ばせば、あなたに触れられる距離にいる。あなたの手を取れたらいいのに。
ほんの少し、手を伸ばしてから、私は途中でそれを戻す。
好きだなぁ。私なんかが、触れていいのかな?
「そろそろ、ホテルに戻ろうか?」
「……はい」
ホテルで摂った夕食も、ふたりの部屋でした他愛ない話も、全部、宝物みたいな時間だった。
先に入らせてもらったお風呂を出ると、陽一さんが、ベッドの上で、スマホ片手に眠っている。
「陽一さん」
起きない。すぅすぅ、寝息が聴こえた。
「陽一さん、私と一緒に……」
私は、眠っている彼に、話しかける。
「……死んでくれませんか?」
生きてくれ、なんて言えなかった。茨道だから。死ぬ方が易い。
「陽一さん! 起きてください!」
「ハイ……!」
「ふふ。お風呂、空きましたよ」
「あ、うん」
ぽやぽやしてる。可愛い。
好き。大好き。
お風呂場へ向かう陽一さんを見送ってから、私は自分のベッドに、うつぶせになった。家では、いつも畳の上に布団だから、新鮮だ。
メッセージアプリを開く。兄が、私を『糸の切れた凧か?』と罵っていた。なんでもいいよ。
いつもの仲間のグループチャットを開く。
『ふたりで沖縄!?』
『唐突』
『沖縄いいなー』
『楽しんでね~!』
『お土産、よろしく』
『気を付けて』
『何かあったら、連絡してね!』
いい人たちだなぁ。
明日は、この旅のメインイベントがある。楽しみだなぁ。
◆◆◆
目の前に広がる美しい青色に、私は感嘆した。きっと、隣のあなたも同じ。
現在、私たちは、スキューバダイビングをしている。沖縄本島恩納村、青の洞窟にて。
神秘的な青色の中に、私たちと、ひとりのインストラクターはいる。それから、熱帯魚も。
今日は晴れているので、太陽の光が差し込み、明るい透明感のある青色が輝いている。
死ぬなら、こういうところがいいな。あなたと一緒がいいな。
やめよう。そんなことを考えるのは。
でも、美しいものって、何故か死の気配がする。
ダメだってば。
50分の体験ダイビングは、あっという間に終わり。身支度をしてから、水中カメラで撮った写真をもらって、帰る。
道すがら、「凄かったね!」「熱帯魚の群れ、あんな近くで見られるんだね!」「帰ったら、みんなに自慢しちゃお~」とか、色々話す。
ホテルで夕食や入浴を済ませて、私は、ベッドに寝転がった。
明日は、お土産を買って、お昼前にはチェックアウトだ。
「嫌だな」
いつもの“あれ”。我が儘。ずっと、お祭りの中にいられると思っていたけど、そんなの、やっぱり無理だったね。
宝石を抱き締めていよう。また、お祭りを開こう。きっと、大丈夫だから。
あなたたちには、なんにもあーげない。
家族には、なんにもやらない。話してもやらない。
「宵くん、起きてる?」
「……はい」
いつの間にか、陽一さんが、お風呂から上がっていた。
体を起こして、ベッドに腰かける。
「どうかした?」
「いや、明日には帰るんだなって。少し……いえ、かなり、寂しいな、と思いまして」
「またすぐ会えるのに?」
「すぐ、会えるか分からなくて」
「え!? どうして?」
だって、帰ったら、座敷牢行きです。しばらく、外出禁止です。
「それは、家業が色々と…………」
あれ?
「宵くん!?」
涙が、はらはらとこぼれた。張り付けた笑みが、ふやけて剥がれてしまう。私のメッキが、薄皮が、溶ける。
「見ないでください」
私は、両手で顔を覆った。真横に、陽一さんが座る気配。
「宵くん、どうして泣いてるの?」
両手を優しく取られた。涙は流れ続けている。
「わ、わたしのいえ……おかしいんです……ずっと昔から、そうなんです……」
「うん」
「あんな人たちと血が繋がってるなんて、恥ずかしい…………」
「うん」
「家に、帰りたくないよぉ……」
「宵くん…………」
陽一さんは、私を抱き締めてくれた。私は、その背中にすがり付く。
「ずっと、あなたと旅が出来たらいいのに……」
終わらない祭り囃子の中にいるみたい。
「宵、聞いているのか?」
「はい!」
「もう、あの店には行かないな?」
「はい! 嫌です!」
「お前…………」
兄の小言なんて、どうでもいい!
「逆らうのか? 俺に」
「はい!」
「……また、座敷牢に入れられたいか?」
「嫌です! 逃げまーす! コン!」
私は、兄の横をすり抜け、玄関から外へ出る。後ろから、兄の怒鳴り声がするが、知ったことではない。
気持ちのいい朝! 爽やかな風! なんだか、世界が、きらきらしてる!
「あははっ!」
きっと、今日も明日も、素敵な日になる。ずっとずっと、お祭りを続けようよ。そこに、あなたもいてくれたなら。私は、凄く嬉しい。
◆◆◆
講義が終わり、休憩時間になった。大学構内のベンチに座り、スマホでメッセージアプリを開こうとしたところで、新着メッセージがくる。
『宵くん この間話してた お出かけの話なんだけど』
『こことかどうかな?』
以下、複数のURL。
「……えっ」
私は思わず、声を出した。驚きと、じわじわやって来る幸福感。
どうしよう。陽一さんが、あの時の話を覚えていてくれて。真剣に考えてくれて。私と、ふたりで旅行をしてくれる?
どうしよう。顔が熱い。どうしよう。嫌われてなかったんだ。
「どうしよう…………」
父に直訴してみる? いや、すでに兄が私の“素行の悪さ”を伝えているはずだ。きっと、却下される。
知ったことか。無断外泊は、まだしたことがない。けれど私は、もう大人なんだし、自由だ。勝手に行こう。
それじゃあ、どこへ行きましょう?
URLを、上から順にタップしていく。どこも魅力的だ。ひとつひとつ、吟味する。
あっ。これ。やってみたいな。
『陽一さん、旅行の件なんですが』
私は、意を決して、メッセージを送信した。
◆◆◆
早朝、私はスーツケースを抱え、抜き足差し足、玄関へ向かう。家人を、起こさないように。
いってきます。
そっと、戸を閉めて、鍵をかける。鍵につけられた、狐の根付けが揺れた。
目指すは、空港。待ち合わせ場所は、入り口前。バスから、電車。電車から、タクシー。目的地へと、向かう。
待ち合わせ時間より、一時間も早く着いた。
心臓が、どきどきする。
今日で、合ってるよね? ここで、合ってるよね?
落ち着かない。なんども、スマホのカレンダーを見る。
30分後に、陽一さんが来た。
「宵くん、おはよう。早いね」
「おはようございます。陽一さんも、早いですね」
双方、曖昧な笑いを浮かべる。陽一さんも、楽しみだったなら、嬉しいな。
「宵くん、写真撮ろう?」
「はい」
空港前。陽一さんが、自撮り棒を付けたスマホで、私たちを切り取る。
私は、いつもの狐で、陽一さんは、ピースをしていた。
とても穏やかに、私たちの二泊三日の旅行が始まる。
ロビーで話しながら、暇を潰す。
「宵くん、飛行機平気?」
「大丈夫です」
「エコノミークラスだけど」
「大丈夫ですよぉ」
ファーストクラスしか乗ったことがないが、エコノミークラス症候群に関する知識はあるし、ちゃんと気を付けるつもりだ。
時間がきた。飛行機に搭乗し、席に着く。今更ながら、隣にあなたがいるだけで、私は幸せだ。それなのに、この旅行中、ずっと行動を共にする訳で。幸せ過ぎて、どうにかなってしまいそう。
機内で、陽一さんと話したり、寝落ちたりしているうちに、那覇空港へ到着した。
沖縄県那覇市。本日の気温は、25℃だ。空気が、全然違う。いつもと、全然違う秋。
「…………」
「宵くん?」
「ここ……沖縄……?」
「うん、沖縄だね。もしかして、寝惚けてるの?」
「いや、その、夢みたいで……」
「夢じゃないよー」
「はい……」
「よーし、ホテルにチェックインして、遊びに行こう!」
「はい!」
ふたりで、スーツケースを引きながら、歩く。空港前での、写真撮影を忘れずに。
◆◆◆
ホテルで半袖のシャツに着替えてから、私たちは、外へ出る。
「昼ごはんにしよっか?」
「そうですね」
あらかじめ決めていた、ホテル近くのレストランへ向かうことにした。
しばし並んで歩いていると、店の前に、貝殻や白い珊瑚の死骸が積まれている海鮮レストランを発見。入店して、案内された席に着く。
各々料理を注文した。陽一さん、私の倍以上注文したな。
料理がくると、陽一さんは、スマホでショート動画を撮り始めた。私は、それを興味深く見つめる。それから、ふたりで「いただきます」をした。
好きな人と時間を共有するって、こういうことか。陽一さんとは、四象のバーなどで共に過ごしたことがあるが、ふたりきりは初めてだし、好きだと意識してから、まだ日が浅いので、少し緊張する。
「美味しいですね」
「うん! あ、何か食べたいのあったら分けるよ?」
「いえ、大丈夫です」
あなたが、美味しそうに食事をしているのを見ているだけで、胸がいっぱいなので。
昼食を終えて店を出ると、私の目に、有名なアイスクリーム屋の沖縄本店の看板が飛び込んできた。
三段重ねがある!
「陽一さん、陽一さん」
「ん?」
「アイス食べましょう。三段重ねの映えるやつ」
「いいね!」
カラフルなアイスクリームを手に持ち、お互いを撮影してから、食べる。
「美味しいねー」
「はい」
ところで、私の家族のグループチャットには、物凄い数のメッセージが飛んできている訳ですが。那覇空港で撮った写真をトリミングして、陽一さんを消してから、送信。ばーか。追いかけて来れないでしょう。
その後は、気になった店を巡った。店先のサングラスをかけてみたり、アクセサリーショップを覗いたり。サメの歯を買ってみたり。
日が落ちて来る頃には、ふたりで海岸にいた。
靴と靴下を脱いで、足だけを海水に浸す。
「少し、風が強いですね」
「うん」
浜辺には、あまり人はおらず、静かな時間が流れた。手を伸ばせば、あなたに触れられる距離にいる。あなたの手を取れたらいいのに。
ほんの少し、手を伸ばしてから、私は途中でそれを戻す。
好きだなぁ。私なんかが、触れていいのかな?
「そろそろ、ホテルに戻ろうか?」
「……はい」
ホテルで摂った夕食も、ふたりの部屋でした他愛ない話も、全部、宝物みたいな時間だった。
先に入らせてもらったお風呂を出ると、陽一さんが、ベッドの上で、スマホ片手に眠っている。
「陽一さん」
起きない。すぅすぅ、寝息が聴こえた。
「陽一さん、私と一緒に……」
私は、眠っている彼に、話しかける。
「……死んでくれませんか?」
生きてくれ、なんて言えなかった。茨道だから。死ぬ方が易い。
「陽一さん! 起きてください!」
「ハイ……!」
「ふふ。お風呂、空きましたよ」
「あ、うん」
ぽやぽやしてる。可愛い。
好き。大好き。
お風呂場へ向かう陽一さんを見送ってから、私は自分のベッドに、うつぶせになった。家では、いつも畳の上に布団だから、新鮮だ。
メッセージアプリを開く。兄が、私を『糸の切れた凧か?』と罵っていた。なんでもいいよ。
いつもの仲間のグループチャットを開く。
『ふたりで沖縄!?』
『唐突』
『沖縄いいなー』
『楽しんでね~!』
『お土産、よろしく』
『気を付けて』
『何かあったら、連絡してね!』
いい人たちだなぁ。
明日は、この旅のメインイベントがある。楽しみだなぁ。
◆◆◆
目の前に広がる美しい青色に、私は感嘆した。きっと、隣のあなたも同じ。
現在、私たちは、スキューバダイビングをしている。沖縄本島恩納村、青の洞窟にて。
神秘的な青色の中に、私たちと、ひとりのインストラクターはいる。それから、熱帯魚も。
今日は晴れているので、太陽の光が差し込み、明るい透明感のある青色が輝いている。
死ぬなら、こういうところがいいな。あなたと一緒がいいな。
やめよう。そんなことを考えるのは。
でも、美しいものって、何故か死の気配がする。
ダメだってば。
50分の体験ダイビングは、あっという間に終わり。身支度をしてから、水中カメラで撮った写真をもらって、帰る。
道すがら、「凄かったね!」「熱帯魚の群れ、あんな近くで見られるんだね!」「帰ったら、みんなに自慢しちゃお~」とか、色々話す。
ホテルで夕食や入浴を済ませて、私は、ベッドに寝転がった。
明日は、お土産を買って、お昼前にはチェックアウトだ。
「嫌だな」
いつもの“あれ”。我が儘。ずっと、お祭りの中にいられると思っていたけど、そんなの、やっぱり無理だったね。
宝石を抱き締めていよう。また、お祭りを開こう。きっと、大丈夫だから。
あなたたちには、なんにもあーげない。
家族には、なんにもやらない。話してもやらない。
「宵くん、起きてる?」
「……はい」
いつの間にか、陽一さんが、お風呂から上がっていた。
体を起こして、ベッドに腰かける。
「どうかした?」
「いや、明日には帰るんだなって。少し……いえ、かなり、寂しいな、と思いまして」
「またすぐ会えるのに?」
「すぐ、会えるか分からなくて」
「え!? どうして?」
だって、帰ったら、座敷牢行きです。しばらく、外出禁止です。
「それは、家業が色々と…………」
あれ?
「宵くん!?」
涙が、はらはらとこぼれた。張り付けた笑みが、ふやけて剥がれてしまう。私のメッキが、薄皮が、溶ける。
「見ないでください」
私は、両手で顔を覆った。真横に、陽一さんが座る気配。
「宵くん、どうして泣いてるの?」
両手を優しく取られた。涙は流れ続けている。
「わ、わたしのいえ……おかしいんです……ずっと昔から、そうなんです……」
「うん」
「あんな人たちと血が繋がってるなんて、恥ずかしい…………」
「うん」
「家に、帰りたくないよぉ……」
「宵くん…………」
陽一さんは、私を抱き締めてくれた。私は、その背中にすがり付く。
「ずっと、あなたと旅が出来たらいいのに……」