彼女は、天使なんだと思う。
　ディラン・サンダースは、こちらに背を見せて歩いている。
　私には、彼女の背に天使の羽根が見えるのだ。

　彼女と恋人として付き合うようになってから、もう3ヶ月になる。
　最初に出会ったのは、バーのトイレに通じる狭い通路だった。お世辞にも素敵なロケーションとは言えないが、今となっては良い思い出である。
　酔っ払って、ふらふらしていた私を、見ず知らずの彼女が気遣って介抱してくれたのだ。
　天使が舞い降りたと思った。
　私は、当然のように彼女を好きになった。私にとっては運命的な出会いだったのだが、だいぶ格好の悪い私に、彼女は運命など感じてはいなかっただろう。しかし、私は出会った瞬間からディランのことばかりを考えるようになり、隙あらば彼女に会うように努力した。
　そうして、同じ時を過ごすようになり、彼女が私に微笑みかけてくれるようにもなった。

　そして現在、私は彼女の役に立とうと、勇気を出して前進している。
　ディランのストーカーを誘き寄せるべく、彼女に先行してもらっているのだが、男は現れない。今夜は来ないのだろうか？

◆◆◆

　さっきから、ひとりの男が不自然にディランに着いてきている。
　人気のないところを通っても何もしてこないので、強盗ではないようだ。
　痺れを切らしたディランは、角を曲がったところで振り向き、男を迎える。

「何か用？」
「何かって……どうしたんだい？　ディラン。寂しくなったのかい……？」
「はぁ？」
「大丈夫、私がついてるから！」
「…………ッ！」

　急にディランを抱き締めようとした男に、拳で鋭い一撃を入れた。
　男は、あえなく気絶。
　後から、あの男は自分と恋人同士だと思い込んでいたと聞かされて、ディランは寒気がした。そして、ディランの真の恋人を、ストーカーだと妄想していたのだという。