創作企画「冥冥の澱」
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好きなものはなんですか?
「狐です」
好きな色はなんですか?
「狐色です」
好きな食べ物はなんですか?
「油揚げです」
将来の夢はなんですか?
「狐ヶ崎の名に恥じない、立派な陰陽師になることです」
あなたは嘘つきですか?
「はい、そうです。私は嘘つきだから、3つも嘘をつきました」
好きな人は誰ですか?
「どういう意味です? 私は、“好き”や“信念”を持つ人が好きですが」
愛している人は誰ですか?
「愛って、一体なんですか?」
夢は、そこで途切れた。また、目が覚めてしまったなぁ、と思う。
時計の針は、6時を指している。いつまで経っても、同じ朝。それを無理矢理に塗り替えるように、私は今日も、“大切なもの”を探す。
欲張り。もう充分、持っているじゃないか。大切な人たち。その人たちから貰った、美しい輝き。
ふと、文机の上にある、作りかけのボトルシップが目に入った。初めてにしては、上手く出来ている。それなのに。この帆船は、遠い何処かへ行くことはないのだと、航海をすることはないのだと、暗い思考が過る。
「私と、おんなじ」
ぽつり、と呟いた。
切り替えよう。今日だって、布団から出る理由があるのだから。今日だって、お祭りを開けばいいのだから。
◆◆◆
「帆希さん、恋ってなんですか?」
一日の終わりに、四象のバーカウンターに座り、隣の幼馴染みに、私は尋ねる。
「え!? どうしたの、宵くん?! とうとう好きな人出来たの?!」
「よく分からないです。ただ、なんだか、気になって」
甘えたいと思ってしまって。
「う、うんうん。誰のことなの?」
「それは……まだ秘密です……」
何か、口にするのは、憚られた。迷惑をかけてしまうのではないか? だって、あなたは、“狐”が苦手ですもんね。
「……そう。宵くん、恋はね、世界で一番、その人のことが気になるってことだよ」
「帆希さんは、凌吾さんのことが、世界で一番気になるんですか?」
「わ、私のことは、いいから!」
ほんのり、頬を赤く染める帆希さん。恋をすると、こうなるのかな?
「世界で一番ですか…………」
それなら、あなたも私を“世界で一番”にしてくださいよ。そうじゃなきゃ、私は。私は?
「帆希さん、私、陽一さんが好きです」
「早っ!? あ、ごめんね。今日中に秘密解禁とは思ってなかったから……」
「好きなんだと、思います。なんだか、ぐちゃぐちゃしてますけど。私なりの恋だと思います」
「宵くん、恋は、きらきらしてるだけじゃないよ。独占欲とか、嫉妬心とかあって、綺麗なだけのものじゃないんだよ。宵くんの初恋を、私は応援するからね」
「そうなんですね。ありがとうございます、帆希さん。心強いです。ところで、今、私は笑えてますか?」
「いつもの笑顔だよ」
「よかった。まだ、陽一さんにはバレたくないので」
いつも通りがいい。私が、あなたをからかって。あなたが逃げ去って。
「あれ? 私、陽一さんに嫌われてません?」
「嫌われてはないよ。仲良し写真もあるし」
「いや、あれは酔ってたからですよね?」
サッと血の気が引いた。
「宵くん、顔! 笑顔消えてる!」
「え、ああ、はい」
ニコリ。口角を上げる。
「不自然…………」
「そんな」
「ほら、陽一さんが来たよ」
「えっ」
私は急いで、バーの入り口を見る。しかし、誰も来ていない。
「……いないじゃないですか」
「うん、嘘。宵くん、作り笑顔やめたら? さっきの宵くん、青くなったり、赤くなったり、がっかりしたりしてて、よかったよ。感情と表情が一致してるの、凄くいいと思うな」
「そんなこと、あるんですか?」
「恋する宵くん、とっても可愛いよ」
「可愛い?」
「うん」
人それぞれの、可愛さ。個々人が持っている宝石。それが好きだと、リリアンさんは言っていた。
私の恋心は、宝石ですか? 歪な気がしますが、輝いていますか? きっと、不純物が入っていますが。
「インクルージョン…………」
「なあに? 宝石の話?」
「はい。前に、宝石展へ行ったんですよ。そこで、宝石に取り込まれた不純物を、インクルージョンと呼ぶと知りました」
「うん」
「宝石の個性とも言われている。それが、私は凄くいいな、と思って。そういうものが、私にもあればいいな、と思って」
「うん」
「わ、私の恋も、宝石みたいだといいんですが……」
なんだろう。地に足が着いてない気がする。頭から、足先まで、ふわふわする。
「そうなりたいなら、なれるよ」
帆希さんは、優しく微笑んだ。
◆◆◆
ああ、おかしい。私は、足取り軽く、夜道を歩いている。
ステップ。ステップ。アンド、ターン。
ダンス教室で教わった、基礎的なステップを踏む。
リズムが大事。ステップ。ステップ。アンド、ターン。
「わっ」
自分で自分の足に躓き、私は河川敷の草むらを滑り落ちた。寝転がって見上げた空には、月と星が輝いている。
「はは。あははっ!」
恋なんて、出来たんだ! 宝石なんて、持てたんだ! 嬉しい。嬉しいな。
「私もう、死んでもいいや」
「狐です」
好きな色はなんですか?
「狐色です」
好きな食べ物はなんですか?
「油揚げです」
将来の夢はなんですか?
「狐ヶ崎の名に恥じない、立派な陰陽師になることです」
あなたは嘘つきですか?
「はい、そうです。私は嘘つきだから、3つも嘘をつきました」
好きな人は誰ですか?
「どういう意味です? 私は、“好き”や“信念”を持つ人が好きですが」
愛している人は誰ですか?
「愛って、一体なんですか?」
夢は、そこで途切れた。また、目が覚めてしまったなぁ、と思う。
時計の針は、6時を指している。いつまで経っても、同じ朝。それを無理矢理に塗り替えるように、私は今日も、“大切なもの”を探す。
欲張り。もう充分、持っているじゃないか。大切な人たち。その人たちから貰った、美しい輝き。
ふと、文机の上にある、作りかけのボトルシップが目に入った。初めてにしては、上手く出来ている。それなのに。この帆船は、遠い何処かへ行くことはないのだと、航海をすることはないのだと、暗い思考が過る。
「私と、おんなじ」
ぽつり、と呟いた。
切り替えよう。今日だって、布団から出る理由があるのだから。今日だって、お祭りを開けばいいのだから。
◆◆◆
「帆希さん、恋ってなんですか?」
一日の終わりに、四象のバーカウンターに座り、隣の幼馴染みに、私は尋ねる。
「え!? どうしたの、宵くん?! とうとう好きな人出来たの?!」
「よく分からないです。ただ、なんだか、気になって」
甘えたいと思ってしまって。
「う、うんうん。誰のことなの?」
「それは……まだ秘密です……」
何か、口にするのは、憚られた。迷惑をかけてしまうのではないか? だって、あなたは、“狐”が苦手ですもんね。
「……そう。宵くん、恋はね、世界で一番、その人のことが気になるってことだよ」
「帆希さんは、凌吾さんのことが、世界で一番気になるんですか?」
「わ、私のことは、いいから!」
ほんのり、頬を赤く染める帆希さん。恋をすると、こうなるのかな?
「世界で一番ですか…………」
それなら、あなたも私を“世界で一番”にしてくださいよ。そうじゃなきゃ、私は。私は?
「帆希さん、私、陽一さんが好きです」
「早っ!? あ、ごめんね。今日中に秘密解禁とは思ってなかったから……」
「好きなんだと、思います。なんだか、ぐちゃぐちゃしてますけど。私なりの恋だと思います」
「宵くん、恋は、きらきらしてるだけじゃないよ。独占欲とか、嫉妬心とかあって、綺麗なだけのものじゃないんだよ。宵くんの初恋を、私は応援するからね」
「そうなんですね。ありがとうございます、帆希さん。心強いです。ところで、今、私は笑えてますか?」
「いつもの笑顔だよ」
「よかった。まだ、陽一さんにはバレたくないので」
いつも通りがいい。私が、あなたをからかって。あなたが逃げ去って。
「あれ? 私、陽一さんに嫌われてません?」
「嫌われてはないよ。仲良し写真もあるし」
「いや、あれは酔ってたからですよね?」
サッと血の気が引いた。
「宵くん、顔! 笑顔消えてる!」
「え、ああ、はい」
ニコリ。口角を上げる。
「不自然…………」
「そんな」
「ほら、陽一さんが来たよ」
「えっ」
私は急いで、バーの入り口を見る。しかし、誰も来ていない。
「……いないじゃないですか」
「うん、嘘。宵くん、作り笑顔やめたら? さっきの宵くん、青くなったり、赤くなったり、がっかりしたりしてて、よかったよ。感情と表情が一致してるの、凄くいいと思うな」
「そんなこと、あるんですか?」
「恋する宵くん、とっても可愛いよ」
「可愛い?」
「うん」
人それぞれの、可愛さ。個々人が持っている宝石。それが好きだと、リリアンさんは言っていた。
私の恋心は、宝石ですか? 歪な気がしますが、輝いていますか? きっと、不純物が入っていますが。
「インクルージョン…………」
「なあに? 宝石の話?」
「はい。前に、宝石展へ行ったんですよ。そこで、宝石に取り込まれた不純物を、インクルージョンと呼ぶと知りました」
「うん」
「宝石の個性とも言われている。それが、私は凄くいいな、と思って。そういうものが、私にもあればいいな、と思って」
「うん」
「わ、私の恋も、宝石みたいだといいんですが……」
なんだろう。地に足が着いてない気がする。頭から、足先まで、ふわふわする。
「そうなりたいなら、なれるよ」
帆希さんは、優しく微笑んだ。
◆◆◆
ああ、おかしい。私は、足取り軽く、夜道を歩いている。
ステップ。ステップ。アンド、ターン。
ダンス教室で教わった、基礎的なステップを踏む。
リズムが大事。ステップ。ステップ。アンド、ターン。
「わっ」
自分で自分の足に躓き、私は河川敷の草むらを滑り落ちた。寝転がって見上げた空には、月と星が輝いている。
「はは。あははっ!」
恋なんて、出来たんだ! 宝石なんて、持てたんだ! 嬉しい。嬉しいな。
「私もう、死んでもいいや」