創作企画「冥冥の澱」
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ねぇ、なんで? どうして痛くするの?
ああ、そっか。私が全部、悪いんですね。
謝ったら、ゆるしてくれますか?
ごめんなさい。ごめんなさい。
もう聞き飽きた? そうですか。すいません。
申し訳ありません、お兄様。
◆◆◆
「宵チャン、宵チャン。この世界で一番可愛いのは誰じゃ?」
「それはですね、リリアンさん、あなたです」
「その通りじゃな!」
昼下がりの駄菓子店にて、私たちは、白雪姫の出ない白雪姫ごっこをした。リリアンさんは、レジ前に腰かけていて、私は、その左隣の椅子に座っている。
世界で一番可愛いのは、自分。リリアンさんは、本当はそうは思っていない。かつての、やり取りを思い出す。
「みんながみんな、十人十色の可愛さを持っておるのじゃ。ひとりひとりが持つ、目映い宝石が、ワシは好きなのじゃ!」
「それって、私にもありますか?」
「当然じゃ! お主は、可愛いぞ。べりーきゅーとじゃ!」
「ふふ。ありがとうございます。リリアンさんは、チャーミングですよね」
「うむ。ワシは、ちゃーみんぐな傾向があるぞ」
私とリリアンさんが、澱み討伐の際の相方になってから、それなりの月日が経つ。私は、ずっと、この方を尊敬している。
ふたりで、他愛のない話をしながら、口の中でパチパチする駄菓子を食べていると、対澱み討伐機関から、呼び出しがかかった。
廃病院にて、異形発生。事前調査によると、脅威レベルは「竹」。速やかに現場へ赴き、対処せよ、とのこと。
「あの廃病院は、心霊スポットとして有名ですから、さっさと済ませた方がよさそうですね」
「そうじゃな。行くぞ」
私たちは、現場へ急行した。戦闘服を着用し、各々武器を持つ。人からの視認を防ぐための制服には、陰陽師と妖、それぞれのシンボルが入っている。
私とリリアンさんは、B棟の入り口から中に入った。
「うーむ。広いの」
「ですね」
ボロボロの院内を進む。
道中読んだ、機関から送られてきた資料によると、この棟には、「何人もの患者を密かに殺害してきた医師の幽霊が出る」という噂があるそうだ。いかにも、廃病院と言ったところか。しかし、そのような事件があったという記録はない。つまりは、そういうこと。
「……来るぞ」
「はい」
相方と一瞬目を合わせ、呼吸を整える。ここは、目的の場所、“手術室”だ。
「ぎ、ぎィいぃ…………!」
古い金属扉の開閉音みたいな叫び声。それは、この部屋の奥の闇から、ずるりと出て来た。ところどころ破れ、血で汚れた白衣を身にまとった異形。手には、錆び付いたメスを持っている。この場所に積もりに積もった、人々の恐怖の感情の具現化。存在し得ないはずの怪異。
「ぎゃは、ぎゃあァ…………!」
「ふん。あやつ笑っておるのか?」
「獲物が来て嬉しいんですかねぇ」
まあ、知能はないのだが。
「誰が獲物じゃ」
「私たちからしたら、向こうですね」
「ん。出るぞ……!」
「はい!」
リリアンさんが、床を蹴る。異形の頭部へ、トンカチを振り下ろした。
「はぁッ!」
何度も、何度も。異形が振り回すメスを、華麗に避けながら。
私は、袖の中から、呪符を取り出し、念入りに呪言を唱える。相手は、「竹」の澱み。先んじて書いておいた呪だけでは足りない。
呪符に、狐火が灯った。
「今じゃ!」
「はっ!」
私が放った呪符は、異形の頭部に貼り付く。その上から、跳び上がったリリアンさんが、トンカチを打ち下ろす。
「あァ……が、ぎィ……」
「終わりじゃな」
異形は雲散霧消し、辺りに清浄な空気が流れる。
「お疲れ様です」
「宵チャンも、お疲れ!」
すとっと着地したリリアンさんと、私は、お互いを労う。
「さて、帰るかの」
「……はい」
帰る。帰るのかぁ。嫌だなぁ。
スキップしながら前を行くリリアンさんを、慌てて追う。
病院を出ると、黄昏時が訪れていた。
迫る夕闇。遠ざかる輝き。そんな空が、疎ましくて。どうしようもなくて、私は小さく、「コン」と鳴いた。
「宵チャン?」
「はい」
「家、寄っていくじゃろ? 一緒に、新作こんびにすいーつを制覇するのじゃ!」
「はい……! って、私の座る場所あるんですか?」
「足の踏み場もないわ!」
「やれやれ。じゃあ、一緒に掃除しましょうね」
「うむ! 宵チャンは、頼りになるのう」
笑顔で、そう言われ、私も笑みを返す。
「リリアンさん、ロボット掃除機買いません? 私、興味があるんですよ」
「んー。床に物置かなくなるだけじゃろ」
「ええー」
◆◆◆
夜中。布団の中で考える。私には見えない、私の宝石について。
ずっと、蔑ろにしていたから、くすんでしまったの?
きっと、大切にするから。どうか、この手に掴ませてほしい。その輝きを持たせてほしい。
いや、贅沢は言わない。私だけには見えない宝石がある。そう考えよう。それがあるのなら、私は生きていけるはずだ。
ああ、そっか。私が全部、悪いんですね。
謝ったら、ゆるしてくれますか?
ごめんなさい。ごめんなさい。
もう聞き飽きた? そうですか。すいません。
申し訳ありません、お兄様。
◆◆◆
「宵チャン、宵チャン。この世界で一番可愛いのは誰じゃ?」
「それはですね、リリアンさん、あなたです」
「その通りじゃな!」
昼下がりの駄菓子店にて、私たちは、白雪姫の出ない白雪姫ごっこをした。リリアンさんは、レジ前に腰かけていて、私は、その左隣の椅子に座っている。
世界で一番可愛いのは、自分。リリアンさんは、本当はそうは思っていない。かつての、やり取りを思い出す。
「みんながみんな、十人十色の可愛さを持っておるのじゃ。ひとりひとりが持つ、目映い宝石が、ワシは好きなのじゃ!」
「それって、私にもありますか?」
「当然じゃ! お主は、可愛いぞ。べりーきゅーとじゃ!」
「ふふ。ありがとうございます。リリアンさんは、チャーミングですよね」
「うむ。ワシは、ちゃーみんぐな傾向があるぞ」
私とリリアンさんが、澱み討伐の際の相方になってから、それなりの月日が経つ。私は、ずっと、この方を尊敬している。
ふたりで、他愛のない話をしながら、口の中でパチパチする駄菓子を食べていると、対澱み討伐機関から、呼び出しがかかった。
廃病院にて、異形発生。事前調査によると、脅威レベルは「竹」。速やかに現場へ赴き、対処せよ、とのこと。
「あの廃病院は、心霊スポットとして有名ですから、さっさと済ませた方がよさそうですね」
「そうじゃな。行くぞ」
私たちは、現場へ急行した。戦闘服を着用し、各々武器を持つ。人からの視認を防ぐための制服には、陰陽師と妖、それぞれのシンボルが入っている。
私とリリアンさんは、B棟の入り口から中に入った。
「うーむ。広いの」
「ですね」
ボロボロの院内を進む。
道中読んだ、機関から送られてきた資料によると、この棟には、「何人もの患者を密かに殺害してきた医師の幽霊が出る」という噂があるそうだ。いかにも、廃病院と言ったところか。しかし、そのような事件があったという記録はない。つまりは、そういうこと。
「……来るぞ」
「はい」
相方と一瞬目を合わせ、呼吸を整える。ここは、目的の場所、“手術室”だ。
「ぎ、ぎィいぃ…………!」
古い金属扉の開閉音みたいな叫び声。それは、この部屋の奥の闇から、ずるりと出て来た。ところどころ破れ、血で汚れた白衣を身にまとった異形。手には、錆び付いたメスを持っている。この場所に積もりに積もった、人々の恐怖の感情の具現化。存在し得ないはずの怪異。
「ぎゃは、ぎゃあァ…………!」
「ふん。あやつ笑っておるのか?」
「獲物が来て嬉しいんですかねぇ」
まあ、知能はないのだが。
「誰が獲物じゃ」
「私たちからしたら、向こうですね」
「ん。出るぞ……!」
「はい!」
リリアンさんが、床を蹴る。異形の頭部へ、トンカチを振り下ろした。
「はぁッ!」
何度も、何度も。異形が振り回すメスを、華麗に避けながら。
私は、袖の中から、呪符を取り出し、念入りに呪言を唱える。相手は、「竹」の澱み。先んじて書いておいた呪だけでは足りない。
呪符に、狐火が灯った。
「今じゃ!」
「はっ!」
私が放った呪符は、異形の頭部に貼り付く。その上から、跳び上がったリリアンさんが、トンカチを打ち下ろす。
「あァ……が、ぎィ……」
「終わりじゃな」
異形は雲散霧消し、辺りに清浄な空気が流れる。
「お疲れ様です」
「宵チャンも、お疲れ!」
すとっと着地したリリアンさんと、私は、お互いを労う。
「さて、帰るかの」
「……はい」
帰る。帰るのかぁ。嫌だなぁ。
スキップしながら前を行くリリアンさんを、慌てて追う。
病院を出ると、黄昏時が訪れていた。
迫る夕闇。遠ざかる輝き。そんな空が、疎ましくて。どうしようもなくて、私は小さく、「コン」と鳴いた。
「宵チャン?」
「はい」
「家、寄っていくじゃろ? 一緒に、新作こんびにすいーつを制覇するのじゃ!」
「はい……! って、私の座る場所あるんですか?」
「足の踏み場もないわ!」
「やれやれ。じゃあ、一緒に掃除しましょうね」
「うむ! 宵チャンは、頼りになるのう」
笑顔で、そう言われ、私も笑みを返す。
「リリアンさん、ロボット掃除機買いません? 私、興味があるんですよ」
「んー。床に物置かなくなるだけじゃろ」
「ええー」
◆◆◆
夜中。布団の中で考える。私には見えない、私の宝石について。
ずっと、蔑ろにしていたから、くすんでしまったの?
きっと、大切にするから。どうか、この手に掴ませてほしい。その輝きを持たせてほしい。
いや、贅沢は言わない。私だけには見えない宝石がある。そう考えよう。それがあるのなら、私は生きていけるはずだ。