創作企画「冥冥の澱」
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夜明け。それが、兄の名前。狐ヶ崎家の第一子。いずれ当主になる嫡男。
夜の初め。それが、私の名前。狐ヶ崎家の次男、という型に嵌まってさえいればいい存在。
私の家は、家父長制の家だ。現在は、家長である父が絶対的支配権を持ち、それは兄の狐ヶ崎明に引き継がれる。私は、兄と“区別”されて育てられてきた。
父の機嫌を損ねないように。兄の影すら踏まないように。私は、そうやって過ごしてきた。
兄を盾にしている? 兄を上手く“使えて”いる? 私は、“狐ヶ崎宵”をやれている? 結局、“狐ヶ崎の次男”でしかない?
幼い頃に見た光は、私の指針となり、それに生かされているだけかもしれない。
帆希さんが、世界は広いと教えてくれたから。庭に囲われている狐たちに自由を見出だすような子供は、一度、救われている。
それなのに、私はまだ、暗がりにいるのだ。独りで、日暮れの中にいる。
幼馴染みだって、友人だって、仲間だって、いるのに。渇いている。「誰か、私を選んで」と、特別を渇望している。
「私って、何者にもなれないのかも」
独り言は、虚空に吸い込まれて消えた。
独りでいると、どうも良くない。悪いことばかり考えてしまう。自室を出て、こんな家を出て、外へ行きたい。
あいにく、今夜は嵐で。兄は私に、「外へ出るな」と言った。だから私は、外へ行けない。
「コンな日に、外へ行くはずないじゃないですかぁ」なんて、片手で狐を作って呑気な振りして返事をした。
嵐の夜に出歩くのも、一度くらいいいじゃないか。それで死んでも、文句言わないから。
窓から覗く外は、真っ暗だ。暴風が吹き荒れ、強く雨が降っている。
「どうせいつも、真っ暗闇にいるんだし」
狐ヶ崎の家にいる自分は、いつもそうだ。だから、なるべく私は、外へ行く。
大学とか、四象のバーとか、習い事とか、体験教室とか。そして、一時の充足感を得るのだ。
ああ、そうだ。私は、ふと、思い出した。
陽一さんのチャンネル。見よう。配信は、してないか。動画を見よう。
私は、まだ見ていなかった動画を再生した。
「コン」
いつもの癖で、片手で狐を作る。スマホの画面の中の陽一さんは、びくびくしたりしない。
それがなんだか、物足りなくて。
「陽一さん、今、何をしているのかなぁ?」
会いたいな。
男。陰陽師。細い目。名前の響き。結構寂しがりなところ。
あなたと私って少し似ていて、でもやっぱり、全然別の存在で。
陽一さんって、太陽みたいな人だから。私の影を、いっそう濃くする。
あなたみたいな人が、兄だったらな。名前も対みたいになっているし。
実の兄は、「落ち着きのない奴」「みっともない」「恥を知れ」「狐ヶ崎家に泥を塗るな」と言う。
しかし、兄弟仲は普通なのだ。だって、そういう家だから。私が、取り繕っているから。
「申し訳ありません」「ごめんなさい」「お兄様のおっしゃる通りです」「精進いたします」などの、台詞を吐く私は、喉から鋭利なガラスの破片を出しているような心地がする。喉も、口の中も、血塗れだ。でも、それを言わなくては、ここでは生きていけない。
父は、この家の殿様で。母は、父に怒鳴られても微笑んでいるような人で。兄は、優秀で、そつがなく、傲慢で、不遜で、よき息子だ。
そんな奴ら、どこ吹く風で生きてやる。私は、昔、自分にそう誓った。“楽”の感情だけ、外へ出しておけばいい。
でも、だけど、時折、私は粉々に砕かれそうになる。
どなたか、助けてくださいませんか?
「甘えるな」という、兄の声が脳内に響く。
「嫌です。私は……甘えたい人がいる……」
部屋に、陽一さんの笑い声が流れた。
あなたに「助けて」と言えたなら、狐ヶ崎宵は、幸せになれるのだろうか?
夜の初め。それが、私の名前。狐ヶ崎家の次男、という型に嵌まってさえいればいい存在。
私の家は、家父長制の家だ。現在は、家長である父が絶対的支配権を持ち、それは兄の狐ヶ崎明に引き継がれる。私は、兄と“区別”されて育てられてきた。
父の機嫌を損ねないように。兄の影すら踏まないように。私は、そうやって過ごしてきた。
兄を盾にしている? 兄を上手く“使えて”いる? 私は、“狐ヶ崎宵”をやれている? 結局、“狐ヶ崎の次男”でしかない?
幼い頃に見た光は、私の指針となり、それに生かされているだけかもしれない。
帆希さんが、世界は広いと教えてくれたから。庭に囲われている狐たちに自由を見出だすような子供は、一度、救われている。
それなのに、私はまだ、暗がりにいるのだ。独りで、日暮れの中にいる。
幼馴染みだって、友人だって、仲間だって、いるのに。渇いている。「誰か、私を選んで」と、特別を渇望している。
「私って、何者にもなれないのかも」
独り言は、虚空に吸い込まれて消えた。
独りでいると、どうも良くない。悪いことばかり考えてしまう。自室を出て、こんな家を出て、外へ行きたい。
あいにく、今夜は嵐で。兄は私に、「外へ出るな」と言った。だから私は、外へ行けない。
「コンな日に、外へ行くはずないじゃないですかぁ」なんて、片手で狐を作って呑気な振りして返事をした。
嵐の夜に出歩くのも、一度くらいいいじゃないか。それで死んでも、文句言わないから。
窓から覗く外は、真っ暗だ。暴風が吹き荒れ、強く雨が降っている。
「どうせいつも、真っ暗闇にいるんだし」
狐ヶ崎の家にいる自分は、いつもそうだ。だから、なるべく私は、外へ行く。
大学とか、四象のバーとか、習い事とか、体験教室とか。そして、一時の充足感を得るのだ。
ああ、そうだ。私は、ふと、思い出した。
陽一さんのチャンネル。見よう。配信は、してないか。動画を見よう。
私は、まだ見ていなかった動画を再生した。
「コン」
いつもの癖で、片手で狐を作る。スマホの画面の中の陽一さんは、びくびくしたりしない。
それがなんだか、物足りなくて。
「陽一さん、今、何をしているのかなぁ?」
会いたいな。
男。陰陽師。細い目。名前の響き。結構寂しがりなところ。
あなたと私って少し似ていて、でもやっぱり、全然別の存在で。
陽一さんって、太陽みたいな人だから。私の影を、いっそう濃くする。
あなたみたいな人が、兄だったらな。名前も対みたいになっているし。
実の兄は、「落ち着きのない奴」「みっともない」「恥を知れ」「狐ヶ崎家に泥を塗るな」と言う。
しかし、兄弟仲は普通なのだ。だって、そういう家だから。私が、取り繕っているから。
「申し訳ありません」「ごめんなさい」「お兄様のおっしゃる通りです」「精進いたします」などの、台詞を吐く私は、喉から鋭利なガラスの破片を出しているような心地がする。喉も、口の中も、血塗れだ。でも、それを言わなくては、ここでは生きていけない。
父は、この家の殿様で。母は、父に怒鳴られても微笑んでいるような人で。兄は、優秀で、そつがなく、傲慢で、不遜で、よき息子だ。
そんな奴ら、どこ吹く風で生きてやる。私は、昔、自分にそう誓った。“楽”の感情だけ、外へ出しておけばいい。
でも、だけど、時折、私は粉々に砕かれそうになる。
どなたか、助けてくださいませんか?
「甘えるな」という、兄の声が脳内に響く。
「嫌です。私は……甘えたい人がいる……」
部屋に、陽一さんの笑い声が流れた。
あなたに「助けて」と言えたなら、狐ヶ崎宵は、幸せになれるのだろうか?