カルデアにギリシャ神話の英雄、アキレウスがやって来た。

「ヘクトォール！」

　彼は怒りながら、槍を片手に、もうひとりのギリシャ神話の英雄の名を呼ぶ。
　何故なら、石をぶつけられたから。その後、ヘクトールは脱兎の如く逃げて、姿をくらました。
　そのヘクトールはというと、現在、マスターの部屋に隠れている。

「石、を、投げないでください」

　ヘクトールから事の次第を聞いたマスターは、苦言を呈した。

「投げてませんよ。手が滑っただけで」

　彼は、いけしゃあしゃあと言う。

「投げた石で人を殺せる手を、滑らせないでください」

　マスターは真剣な表情で、諭すように声を出した。

「へいへい、善処しますよっと」

　一方で、ヘクトールは、いつものように飄々としている。

「ヘクトォール！！」

　廊下からは、ずっとアキレウスの怒号が響く。どうやら、この部屋のすぐ前にいるようだ。

「はぁ～」

　マスターは、溜め息を吐く。
　ギリシャ神話を読んだ今は、ふたりの確執のことを、よく理解している。
　アキレウスの親友、パトロクロスを殺したヘクトール。
　ヘクトールを殺したアキレウス。
　そして、ヘクトールの弟、パリスに射たれたアキレウス。
　自分などが、おいそれと口にしていい話題ではない、と思っていたのだが。まさか、ヘクトールが、アキレウスを召喚したその日のうちにちょっかいをかけるとは。
　頭が痛い。なにしてくれたんだ、このおじさん。

「ヘクトォール！　もう一度、一騎討ちだ！」

　あああ、アキレウスは血気盛んだし。ヘクトールは、そんなのどこ吹く風で、この部屋から出る気はないみたいだし。
　ふたりのサーヴァントのマスターは、頭を抱える。
　とりあえず、この事態を収束させるためにも、アキレウスとヘクトールの仲裁をしなくてはならない。
　マスターは覚悟を決めて、ヘクトールを引っ張りながら部屋を出る。
　その後、エルドラドのバーサーカーこと、ペンテシレイアがカルデアに召喚され、さらに事態は混沌を極めるのであった。