「実は」

　目の前のジェイドが、唐突に、呟くように言う。

「実は僕は、あなたという存在が嫌いです」

　彼は、ワタシが嫌いなのだそうだ。
　嫌われるような心当たりは、ない。
　ワタシが無神経に傷付けてしまったのだとしたら、申し訳ない。
　ジェイドは、言葉を続ける。

「あなたときたら、泳げないですし、そこはかとなく鈍くさいですし、人の心の機微をよく理解していないですし。最低ですね」

　現在のジェイドの顔は、無表情に近い。そして、彼は一度唇をキュッと結ぶと、ワタシを睨んだ。

「あなたが嫌い。その筈なのに……」

　今度は泣き出しそうな表情をしている。ワタシは、どうすればいいのか分からず、彼の手を握った。

「落ち着いて、ジェイド」
「あっ……な、なんで……？」

　何故、手を握るのか。そう訊きたいらしい。

「ワタシはジェイドが大切だからね」
「……答えになってませんよ」

　はぁ、と深い溜め息を吐くジェイド。
「そんなあなたが、僕は好きみたいです」

　心の奥底で燻った感情を浴びたワタシは、赤面し、「ワタシも君が好きだよ」と返した。