クラスメイトの佐倉双葉が、好きではない。いや、正直嫌いだ。
　まず、容姿が嫌い。さらさらの長い髪に、ぱっちりした目、大きな黒縁眼鏡、色白の肌。小動物みたいに小柄。
　それに、おどおどしていたり、天才ぶった言動をしたり、そんなところも鼻につく。
　一緒に日直になった時、あまりにも鈍くさくて、ほとんど全て私がやってやった。
　昼食時に、独りでいたから、一緒に食べてやった。
　翌朝、バカみたいに小さい声で「おはよう」と言ってきたものだから、挨拶を返してやった。
　それから、私は毎日毎日、佐倉双葉と話をする。嫌いだから。弱みを握りたいだけだ。
　私は、あなたが嫌い。
　私を、こんなに醜くさせる、あなたが嫌い。
　こんなの、私じゃない！
　私は嫌いな人間に構うような愚か者じゃなかったはずなのに！
　どうしてしまったの？　私の心は。私の世界は。
“世の中の関節は外れてしまった”というハムレットの台詞が、私の頭の中で響く。
　苦しい。とてつもなく、苦しい。
　私は日に日に、おかしくなっていく。彼女のことを、四六時中考えている。
　どうせ、帰ったらパソコンにかじりついてるんでしょ？
　どうせ、どうせ、どうせ！　私より、仲の良い人たちがいるんでしょ？
　私なんて、ただのクラスメイトなんでしょ？
　私なんていなくても、あなたの世界は揺らがないんでしょ？
　私は違うんだよ。あなたの一挙手一投足で、世界に激震が走るの。心の中が、ぐちゃぐちゃになるの。嵐が起きた後の街並みのように。私の精神は荒らされるの。
　こんな想いを抱えながらも、今日も登校する私。足取りは重い。鉛で出来た靴でも履いているみたいだ。
　教室に入ると、佐倉双葉がいる。

「お、おはよう」
「おはよう、佐倉さん」

　私は努めて笑顔で、そう返した。その笑顔の薄皮を剥がせば、私はどんな表情をしているのだろう。分からない。知りたくない。

「あ、あの……ふ、双葉って呼んでくれ、ないかな……？　わ、わたしたち友達だろ？」
「うん、分かった。じゃあ、双葉も私のこと名前で呼んでね」
「うん…………！」

　双葉は、嬉しそうにしている。
　私は、彼女のことが嫌いだ。