待ち合わせ場所に現れた浮気相手は、褐色の美しい肌を持つ、美貌の青年であった。
　SNSで彼の方から声をかけられ、私は恋人がいるにも関わらず、彼とデートをすることにしてしまったのである。
　彼の見目の麗しさは、甘い毒のように、私の中に浸透していった。
　気付けば私は、彼と浮気デートをするための段取りを進めている。積極的に恋人を裏切ろうとしているのだ。今まで、私は恋人を一途に想ってきたし、浮気をしたいと思ったこともないというのに。
　彼に魅了され、私は操り人形みたいに、衝動に突き動かされている。
　彼に会えるまでの時間、私は自分自身を何度も慰めた。四六時中、彼のことが頭から離れない。寝ても覚めても、彼を想う。
　自分でも異常だと思うほどに、SNSで交換した顔写真を脳裏に浮かべては、性的興奮を抑えきれない。
　早く、実在する彼に会いたい。
　そして、時間は現在に戻る。

「はじめまして」

　実物の容姿はもちろん、声も想像以上に美しく、至上の旋律のようだ。
　お互いに簡単に自己紹介を済ませ、昼食を摂りに予約したレストランへと向かった。
　恥ずかしいことに、私の頬はずっと熱いままになっている。上気した頬のまま、レストランで味もよく分からないで料理を口に運ぶ。
　彼との会話も、自分が何を話しているのか、アルコールの勢いも手伝って何かとても大胆なことを言った気がするが、分からない。
　そして、あれよあれよという間に、ホテルの一室へともつれ込み、彼とセックスをすることになった。
　夢のような一夜を終えて、隣に寝ている彼に視線をやると、そこには私が裏切った恋人がいた。

「なっ…………！？」

　何故？　一体何が起きた？
　私が狼狽していると、恋人がむくりと上半身を起こし、「驚いた？」とイタズラっぽい笑みを浮かべる。
　驚いて声も出ない私は、みっともなく口をパクパクとさせた。
　恋人は、まばたきの間に、浮気相手の姿になったり、また元に戻ったりする。

「君は、なんなんだ……？」
「私は私。それだけさ」