「マレウスが覚えていてくれる限り、ずっと傍にいるから」

　昔、あの人の子は、そう言っていた。
　妖精族の末裔である僕と、ただの人間。その寿命差は、お互い承知の上での恋だった。
　お前が、この世からいなくなってから、幾年月が流れただろうか。
　ふとした瞬間、自分の心の深いところに、ひとつのトゲが刺さっているかのような気持ちになることがある。
　それを刺したのは、他でもない、お前だ。

「マレウス、あなたを愛したから、この地に骨を埋めることにした」

　その言葉の通りに、今は冷たい土の下にいる。
　墓石を前にし、そっと手を伸ばすが、それはどこにも届くことはなかった。
　触れたい者は、もういない。
　しかし、どこにも届くはずのなかった手に、冷たい何かが触れる。

「…………！？」

　正確に言えば、触れられてはいない。
　それは、墓石から伸びる冷たいゴーストの手だった。

「誰だ……？」
「忘れちゃった？」

　墓石から飛び出て来たのは、愛しい影。
　あの、懐かしのナイトレイブンカレッジでの生活を思い出す姿をしているゴーストだった。

「ずっと傍にいるって言ったでしょ？」

　何故今になって現れた？
　疑問が浮かぶが、そんなことはどうでもいい。

「ずっと、お前に会いたかった…………」
「会いに来たよ……！」

　抱き締めることは叶わない。それでも、掻き抱くように、愛しい者に触れようとする。
　出会いは唐突で、別れは必然で、再会は運命なのだと、僕は信じたかった。
　世界が一変した気がする。空は、こんなにも美しかったか？　風は、こんなにも心地好かったか？　花は、こんなにも咲き誇っていたか？　水は、こんなにも澄んでいたか？
　急に世界の解像度が上がったような感じがする。
　お前という魂は、美しい。こんなにも美しいものを、僕は他には知らない。

「お前は、本当に僕を困らせる存在だな……」
「マレウス？」
「言葉を間違えた。お前は、本当に強く僕に刻み込まれた存在だな」

　元オンボロ寮の監督生は、ニヤリと笑った。