ポケモン
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キバナにはパートナーがいる。
この場合は、ポケモンのことではなく、人間のことだ。
そう、この俺。俺は、キバナの恋人である。
彼がスマホロトムで撮った写真に、稀に見切れていたりする。SNSに上げられた写真から、熱心なファンなら、何かしらの関係性を考察していたりするのだろうか?
まあ、その答えは恋人、なのだけれど。
彼が恋人の存在を公表しないでいるのは、俺がメディアに晒されるのを避けるためだ。俺は、目立つのが好きではないから。公私ともに支えられたら、と思わないでもないが、俺は人目どころか、人間が基本的に嫌いである。
天涯孤独だった俺に光を与えてくれたのは、他でもない、キバナだ。彼は、人嫌いの俺の心を開かせた。
初めはもちろん、キバナのことも嫌っていたのだが。
俺は、ナックルシティのヘアサロンで、最小限しか口を開かない美容師として働いている。美容師と会話をしたくない客は、少なくない。わざわざ俺を指名してくれるお客さんとは、なんとなく心が通じている気がして嬉しいものだ。
そんな、平和に日々を送っていた俺は、ある日、嵐に巻き込まれた。
「好きだ! オレの恋人になってくれ!」
「ええ…………?」
思わず後退る。あからさまに引いてしまう。
終業時刻まで待っていたらしい長身の男は、俺の手を握る。
「オレさまの名前は————」
「キバナさん、ですよね?」
ナックルシティのジムリーダーのことは、ポケモントレーナーではない俺でも当然知っている。日の下で輝いている人間が、何故俺みたいな日陰者に好意を告げてきたのだろう。分からない。
「俺たち、初対面では?」
疑問を素直に口にすると、彼は照れくさそうに答えた。
ヘアサロンの窓ガラス越しに、仕事をする俺をずっと前から見ていたのだと。気付いたら好きになっていたのだと。真っ直ぐに俺の目を見て、そう答えた。
「その、まずは、お友達からで…………」
なんということだろう!
彼の真摯な様子に、思わずそんな言葉が漏れてしまったのである。人嫌いの癖に。
友達から、恋人になるまでには紆余曲折あったのだが、割愛する。
とにかく、現在の俺はキバナを愛しているのだ。
◆◆◆
チャンピオンタイムイズオーバー。
その時の訪れは、俺には唐突過ぎた。
「嘘だろ…………」
自宅でテレビ中継を観ていた俺は、思わず呟いてしまう。
テレビには、新チャンピオンが大写しになっている。
キバナがライバル視しているダンデは、俺にとっても特別な存在だ。
勝利を目指し、ポケモンバトルに挑むキバナは、いつだって力強く、格好いい。俺には、ダンデに挑むキバナは、一等眩く輝いて見えたものだ。
それなのに。
チャンピオンのダンデに勝つことは、もう出来ない?
「そんな……」
そんな残酷なことが?
「……キバナ」
無意識の内に、ここにいない者の名を呼ぶ。
勝負とは、元より残酷なものである。近頃の俺は、それを失念していたようだ。心の中で、驚愕や寂寥感などが吹き荒れる。
非情なことに、チャンピオンのダンデを倒すことは、もう叶わないのだ。
それでも、チャンピオンのダンデに固執するのならば、それは死者への恋慕のようだと思う。
彼に、キバナに、この件について訊くのは、正直怖い。
「それ」が欲しいと、一体何度思ったことだろう。君が、ダンデに向ける情熱的な感情を。
「それが欲しい」なんて、くだらない嫉妬に過ぎないのではないかと、一体何度考えたことだろう。冷静な俺の頭が、思考する。
君の想いを全て、俺が受け取れたらなんて、大それた願いだ。
星の如きカミサマを撃ち落としたポケモントレーナーは、一体どんな気持ちでいるのだろう?
◆◆◆
新チャンピオンが誕生した日から、数日が経つ。
今日は、自宅にキバナを招き入れ、いわゆる家デートをしている。
しかし、俺は、あの日のショックが抜け切っておらず、気もそぞろだ。
キバナの方は、いつも通りに見える。もう新しい風を受け入れているのだろうか? 彼は強いから、充分にあり得る。
一方、俺は弱いので、受け入れられていない。
「なあ、なにか悩みでもあるのか?」
そう、キバナに訊かれてしまう。
今の俺は、一体どんな顔をしているのだろう。心配をかけてしまったことが、申し訳ない。
「ちょっと疲れ気味なだけだよ。キバナと一緒にいれば、すぐに回復するさ」
「それならいいけど……なにかあったら、いつでもオレさまに言えよ?」
「そうする」
「ああ」
「……ねえ」
キバナの手に指を絡ませる。
「……キスしていい?」
俺の珍しく積極的な態度に、キバナは面食らったようだが、少し照れながら頷いた。
「ん……」
初めは、優しくキスをする。
舌を絡ませ、次第に激しくなっていく。
息が荒くなり、貪るように口付けを交わす。そのまま、ふたりでベッドまで縺れ込み、互いに服を脱いだ。
キバナの引き締まった肉体に手を滑らせる。
腰から脇腹へ。脇腹から胸へ。そして、するりと首に手をかけた。両の手で、君の首を絞めるように。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
キバナは、俺が何をしようとしたか気付いていないらしい。
想像したのは、ハサミだ。
俺の仕事道具。俺の魂。
シャキリ。刃を鳴らす。
君の首に、縄のようになって結ばれている「それ」。俺の頭の中で具現化した、感情を表す線。君の首の縄の先は、ダンデに結ばれている。
シャキリ。ハサミが鳴った。
シャキシャキ。シャキリ。
俺は、利き手に持ったハサミの刃を縄にかける。
もう少し力を入れたら、切ることが出来るだろう。
けれど、俺はやらなかった。
セックスをした後、シャワーを浴びながら、冷静な頭で思考する。
やはり、恋人と話し合うべきだと。
そうだ。俺の首にも、縄がかかっている。
俺がダンデに抱いている感情は、嫉妬と呼ぶにはあまりにおぞましいものだ。
妄念、に近いものだと思う。
シャワールームを出て、髪を拭きながら、思考を続ける。
誰よりも、チャンピオンのダンデをキバナに倒してほしかったのは自分なのだ。
バスローブを着て、キバナのいるリビングへ向かう。
「キバナ、話したいことがある」
「なんだ?」
深く息を吐く。浅く息を吸う。
「俺は、ダンデに執着していたらしい。正確に言うと、チャンピオンのダンデを倒すキバナという美しい物語を期待、というか信仰していたんだと思う……」
それが崩れて、俺は動揺した。
けれど。
「……それはもうやめようと考えてる。でも、俺はきっと、キバナの一番のファンだから。だから、俺のためにも勝ってくれ。ガラルで一番のポケモントレーナーになってくれ……!」
信仰は形を変え、前より更に欲張りなものへと変化してしまったのかもしれない。
ああ、勝負をする者は、どれほど他人からの期待を背負って生きていくのだろう。
それは重くはないのだろうか? 疲れはしないのだろうか?
俺は恋人として、一時勝負を忘れさせて癒す存在であるべきではないのか?
そんなことも考えた。しかし、自分に、なによりキバナに嘘はつけなかった。
「オレさまの恋人は情熱的だな」
キバナは、歯を見せて笑う。その挑発的な笑みが、俺は大好きである。
身勝手な俺の心を受け止めてくれたのだと分かった。
「俺の中に、こんなに我が儘な感情があるなんて知らなかったよ」
「オマエの我が儘をぶつけられて、オレは凄く嬉しい」
キバナに抱き締められる。それは、愛しさに満ち溢れた抱擁だった。
俺も、そっと抱き締め返す。
「オマエは、これからもオレさまの勝ちを信じていてくれ……!」
「ああ……ああ! いつでもキバナを信じているよ」
力いっぱい、恋人を抱き締めた。
この執着を情熱にしてくれる君を、愛している。
この場合は、ポケモンのことではなく、人間のことだ。
そう、この俺。俺は、キバナの恋人である。
彼がスマホロトムで撮った写真に、稀に見切れていたりする。SNSに上げられた写真から、熱心なファンなら、何かしらの関係性を考察していたりするのだろうか?
まあ、その答えは恋人、なのだけれど。
彼が恋人の存在を公表しないでいるのは、俺がメディアに晒されるのを避けるためだ。俺は、目立つのが好きではないから。公私ともに支えられたら、と思わないでもないが、俺は人目どころか、人間が基本的に嫌いである。
天涯孤独だった俺に光を与えてくれたのは、他でもない、キバナだ。彼は、人嫌いの俺の心を開かせた。
初めはもちろん、キバナのことも嫌っていたのだが。
俺は、ナックルシティのヘアサロンで、最小限しか口を開かない美容師として働いている。美容師と会話をしたくない客は、少なくない。わざわざ俺を指名してくれるお客さんとは、なんとなく心が通じている気がして嬉しいものだ。
そんな、平和に日々を送っていた俺は、ある日、嵐に巻き込まれた。
「好きだ! オレの恋人になってくれ!」
「ええ…………?」
思わず後退る。あからさまに引いてしまう。
終業時刻まで待っていたらしい長身の男は、俺の手を握る。
「オレさまの名前は————」
「キバナさん、ですよね?」
ナックルシティのジムリーダーのことは、ポケモントレーナーではない俺でも当然知っている。日の下で輝いている人間が、何故俺みたいな日陰者に好意を告げてきたのだろう。分からない。
「俺たち、初対面では?」
疑問を素直に口にすると、彼は照れくさそうに答えた。
ヘアサロンの窓ガラス越しに、仕事をする俺をずっと前から見ていたのだと。気付いたら好きになっていたのだと。真っ直ぐに俺の目を見て、そう答えた。
「その、まずは、お友達からで…………」
なんということだろう!
彼の真摯な様子に、思わずそんな言葉が漏れてしまったのである。人嫌いの癖に。
友達から、恋人になるまでには紆余曲折あったのだが、割愛する。
とにかく、現在の俺はキバナを愛しているのだ。
◆◆◆
チャンピオンタイムイズオーバー。
その時の訪れは、俺には唐突過ぎた。
「嘘だろ…………」
自宅でテレビ中継を観ていた俺は、思わず呟いてしまう。
テレビには、新チャンピオンが大写しになっている。
キバナがライバル視しているダンデは、俺にとっても特別な存在だ。
勝利を目指し、ポケモンバトルに挑むキバナは、いつだって力強く、格好いい。俺には、ダンデに挑むキバナは、一等眩く輝いて見えたものだ。
それなのに。
チャンピオンのダンデに勝つことは、もう出来ない?
「そんな……」
そんな残酷なことが?
「……キバナ」
無意識の内に、ここにいない者の名を呼ぶ。
勝負とは、元より残酷なものである。近頃の俺は、それを失念していたようだ。心の中で、驚愕や寂寥感などが吹き荒れる。
非情なことに、チャンピオンのダンデを倒すことは、もう叶わないのだ。
それでも、チャンピオンのダンデに固執するのならば、それは死者への恋慕のようだと思う。
彼に、キバナに、この件について訊くのは、正直怖い。
「それ」が欲しいと、一体何度思ったことだろう。君が、ダンデに向ける情熱的な感情を。
「それが欲しい」なんて、くだらない嫉妬に過ぎないのではないかと、一体何度考えたことだろう。冷静な俺の頭が、思考する。
君の想いを全て、俺が受け取れたらなんて、大それた願いだ。
星の如きカミサマを撃ち落としたポケモントレーナーは、一体どんな気持ちでいるのだろう?
◆◆◆
新チャンピオンが誕生した日から、数日が経つ。
今日は、自宅にキバナを招き入れ、いわゆる家デートをしている。
しかし、俺は、あの日のショックが抜け切っておらず、気もそぞろだ。
キバナの方は、いつも通りに見える。もう新しい風を受け入れているのだろうか? 彼は強いから、充分にあり得る。
一方、俺は弱いので、受け入れられていない。
「なあ、なにか悩みでもあるのか?」
そう、キバナに訊かれてしまう。
今の俺は、一体どんな顔をしているのだろう。心配をかけてしまったことが、申し訳ない。
「ちょっと疲れ気味なだけだよ。キバナと一緒にいれば、すぐに回復するさ」
「それならいいけど……なにかあったら、いつでもオレさまに言えよ?」
「そうする」
「ああ」
「……ねえ」
キバナの手に指を絡ませる。
「……キスしていい?」
俺の珍しく積極的な態度に、キバナは面食らったようだが、少し照れながら頷いた。
「ん……」
初めは、優しくキスをする。
舌を絡ませ、次第に激しくなっていく。
息が荒くなり、貪るように口付けを交わす。そのまま、ふたりでベッドまで縺れ込み、互いに服を脱いだ。
キバナの引き締まった肉体に手を滑らせる。
腰から脇腹へ。脇腹から胸へ。そして、するりと首に手をかけた。両の手で、君の首を絞めるように。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
キバナは、俺が何をしようとしたか気付いていないらしい。
想像したのは、ハサミだ。
俺の仕事道具。俺の魂。
シャキリ。刃を鳴らす。
君の首に、縄のようになって結ばれている「それ」。俺の頭の中で具現化した、感情を表す線。君の首の縄の先は、ダンデに結ばれている。
シャキリ。ハサミが鳴った。
シャキシャキ。シャキリ。
俺は、利き手に持ったハサミの刃を縄にかける。
もう少し力を入れたら、切ることが出来るだろう。
けれど、俺はやらなかった。
セックスをした後、シャワーを浴びながら、冷静な頭で思考する。
やはり、恋人と話し合うべきだと。
そうだ。俺の首にも、縄がかかっている。
俺がダンデに抱いている感情は、嫉妬と呼ぶにはあまりにおぞましいものだ。
妄念、に近いものだと思う。
シャワールームを出て、髪を拭きながら、思考を続ける。
誰よりも、チャンピオンのダンデをキバナに倒してほしかったのは自分なのだ。
バスローブを着て、キバナのいるリビングへ向かう。
「キバナ、話したいことがある」
「なんだ?」
深く息を吐く。浅く息を吸う。
「俺は、ダンデに執着していたらしい。正確に言うと、チャンピオンのダンデを倒すキバナという美しい物語を期待、というか信仰していたんだと思う……」
それが崩れて、俺は動揺した。
けれど。
「……それはもうやめようと考えてる。でも、俺はきっと、キバナの一番のファンだから。だから、俺のためにも勝ってくれ。ガラルで一番のポケモントレーナーになってくれ……!」
信仰は形を変え、前より更に欲張りなものへと変化してしまったのかもしれない。
ああ、勝負をする者は、どれほど他人からの期待を背負って生きていくのだろう。
それは重くはないのだろうか? 疲れはしないのだろうか?
俺は恋人として、一時勝負を忘れさせて癒す存在であるべきではないのか?
そんなことも考えた。しかし、自分に、なによりキバナに嘘はつけなかった。
「オレさまの恋人は情熱的だな」
キバナは、歯を見せて笑う。その挑発的な笑みが、俺は大好きである。
身勝手な俺の心を受け止めてくれたのだと分かった。
「俺の中に、こんなに我が儘な感情があるなんて知らなかったよ」
「オマエの我が儘をぶつけられて、オレは凄く嬉しい」
キバナに抱き締められる。それは、愛しさに満ち溢れた抱擁だった。
俺も、そっと抱き締め返す。
「オマエは、これからもオレさまの勝ちを信じていてくれ……!」
「ああ……ああ! いつでもキバナを信じているよ」
力いっぱい、恋人を抱き締めた。
この執着を情熱にしてくれる君を、愛している。