アイマス
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『プロローグ』
15歳から17歳の少女たちが、突然変死を遂げ、その死体がゾンビとなって蘇り、人間を襲って喰らうという現象が世界中で蔓延している。
いつしか、屍少女たちは、「ステーシー」と呼ばれるようになった。
「プロデューサーさん、再殺の権利をもらってほしいっす」
事務所のソファーに座る芹沢あさひは、事も無げにそう言った。
まるで、今日のおやつを決めるみたいに、そんなことを決意したのである。
再殺。ステーシーになった少女を165分割して、二度目の死を与えること。
「あさひは、まだ14歳じゃないか…………」
「でも、早ければ来年、ステーシーになるっすよ?」
「それは…………」
「プロデューサーさんなら、再殺してくれるっすよね? 冬優子ちゃんと愛依ちゃんには断られたっすけど」
ストレイライトのふたりには、酷だろう。
「分かった。その権利、もらおう」
「ありがとうっす!」
あさひは、笑顔を向けた。それがまだ、ニアデスハピネスでないことが救いだ。
ニアデスハピネスとは、ステーシー化が近い少女に見られる、特有の多幸感に満ちた状態で、言動も支離滅裂となっていくことである。
「あさひは、死ぬのが怖いか?」
「うーん。死んだことないから、分からないっす」
「そうか」
実に、あさひらしい答えだった。
プロデューサーは、彼女を、彼女たちを喪うことが怖い。再殺を行うことも怖かった。
それでも。誰かがやらなくてはならないのなら、自分がやろう。
そう考えている。
小型チェーンソーで、死んでから起き上がった芹沢あさひを細切れにする日が、いつか来るのだろう。
芹沢あさひというアイドルを、永遠に残したい。だから、男はプロデュースを続ける。
少女の死を望んでいるのか? 死よりも酷いことを望んでいるのか?
プロデューサーには、よく分からなくなってきていた。
「お疲れ~! なんの話してんの?」
「お疲れ様」
「お疲れっす!」
ストレイライトの三人が揃う。
「あさ…………」
「プロデューサーさんが、再殺の権利をもらってくれたっす!」
止める間もなく、あさひがふたりに言った。
「そっか…………」
「そう…………」
愛依と冬優子は、憂いを帯びた眼差しをプロデューサーに向ける。
「心配ない。俺なら、大丈夫だよ」
弱音を吐くワケにはいかない。
プロデューサーは、強がりを言った。
夏の終わり。
まだ、283プロダクションの誰もがステーシーになっていない頃の一幕であった。
『市川雛菜』
あはは。うふふ。
少女の笑い声が聴こえる。
「やは~」
「雛菜…………」
「なあに? プロデューサー」
「いや、ずいぶん楽しそうだな」
「うん。雛菜、楽しいよ」
車の助手席に座る市川雛菜は、くすくす笑う。
「雛菜ね、もうすぐ死んじゃうんだ」
「ニアデスハピネスか」
「そうだよ。だから、再殺の権利をもらってほしいな」
「俺が?」
「うん。雛菜、プロデューサーのこと好きだから」
そうだった。別の時空の自分にも譲らないほどに、雛菜はプロデューサーとの出会いを大切に思っている。
「ちゃんと、雛菜を再殺してね?」
「……ああ」
「あは~。ニア・デス・ハピ・ネス~」
雛菜は、即興の歌を口ずさみ始めた。プロデューサーは、何も言えずに、それをただ聴いている。
「プロデューサーは、雛菜の運命の人だね」
あはは。うふふ。
雛菜は、多幸感に包まれ、笑い続けた。
283プロダクションで最初にステーシーになったのは、市川雛菜だった。
雛菜から、再殺の権利をもらってから、数日後。彼女は、うめき声を上げ、人肉を求める屍少女になった。
「あァ……うあァ…………」
小型チェーンソーを持ち、雛菜と相対する男。
「すまない。雛菜…………」
プロデューサーは、彼女を切り刻む。そして、165分割にした。
「はぁ……はぁ…………ッ」
初めての再殺は、本当に気分の悪いもので。プロデューサーは、雛菜だった肉片を片付けた後、トイレで吐いた。
「うえ…………げほっ…………」
市川雛菜は、永い眠りにつき、もう目覚めないだろう。そのことだけが、彼の救いだった。
「雛菜、しあわせだよ」
彼女の最期の言葉。それが、繰り返し繰り返し、脳内で再生される。
本当に、雛菜は幸せだったのだろうか?
男の脳裏によぎる疑問。
ニアデスハピネスのせいではないのか?
「なあ、雛菜…………」
問いかけても、答えが返ってくることはない。
後日。市川雛菜の葬儀が執り行われた。
プロデューサーは、喪服を着て参列する。
遺影の中の雛菜は、いつもの笑顔を浮かべていた。
バラバラにされた彼女の遺体は、見えないように窓のない棺桶に入れられている。
焼香の際に、男は祈った。
どうか、安らかな眠りを。
帰り際、浅倉透に話しかけられた。
「プロデューサー」
「どうした?」
「ううん。なんでもない。あはは」
それが、ニアデスハピネスの兆候だということは、後に知ることになる。
『浅倉透』
再殺の権利をもらってほしいと、浅倉透は言った。
「あはは。樋口と約束してたんだよね。どっちかがステーシーになったら、再殺するって」
透は、約束通り樋口円香を再殺したのである。
「ふふ。樋口はもういないから、プロデューサーが私を再殺してよ」
「どうして俺なんだ?」
「私を忘れないでほしいから」
今度こそ、忘れないで。
あのジャングルジムに登った大切な思い出が、透の脳裏にはあった。
「分かったよ。透のことは、絶対に忘れない」
「ははは。ふふ。ありがとう、プロデューサー」
ニアデスハピネスによるものなのか、安心したのか。透は笑い続ける。
「幸せか?」
プロデューサーは、つい訊いてしまった。
「あはは。幸せだよ。ねえ、プロデューサー」
「なんだ?」
「デートしようよ」
「デート?」
「公園に行きたいな」
男は、少女の望みを出来るだけ叶えてやりたい。ふたりは、公園へ向かった。
彼女の目的は決まっているらしく、一直線にジャングルジムへ行く。
「登ろう、プロデューサー」
「ああ…………」
てっぺんまで登る、少女と男。
「いい眺めだね。ははは」
「そうだな」
「世界が私のものみたい」
楽しそうに、透は言った。
秋の夕暮れ。紫がかったオレンジ色の空が美しい。
「キレイな世界。ふふ。たくさんの女の子が死んじゃってるのにね。変なの」
「ああ、綺麗だ」
少女たちを再殺しなくてはならない非情な摂理が生まれたのは、何故なのだろう?
ああ、でも、この世は元から“そう”だった。
花が散る世界。いずれ花が枯れる世界。終わらないものはなく、全ては消えゆく運命 。
それを、納得出来るかどうかは別として。
「楽しいなぁ。歌おうかな」
透は、童謡の赤とんぼを歌い出す。
透き通った歌声。懐かしい気持ちにさせる歌だった。
少女の歌唱が終わると、プロデューサーは拍手をする。
「はは。ありがとう、プロデューサー」
「透の歌声が、いつまでも残るといいな」
「ふーん。プロデューサー、そんなこと考えてたんだ?」
「まあな」
「じゃあ、ますますプロデューサーは忘れちゃダメだね、私のこと」
「忘れないよ」
「指切りしよう」
ふたりは、小指と小指を合わせた。
「嘘ついたら、針千本呑ーます」と、透は笑顔で言う。
時は流れ、宵闇が迫っていた。
「そろそろ帰ろう。送っていく」
「うん」
透とプロデューサーは、帰路についた。
後に、彼は、浅倉透を再殺。彼女を永い眠りにつかせた。
『七草にちか』
不本意だった。嫌々だった。消去法だった。
「プロデューサーさん、私の再殺の権利をあげます」
283プロダクションの事務所で、コーヒーを飲んでいるプロデューサーに言う七草にちか。
「どうして俺に?」
「だって、お姉ちゃんにも美琴さんにも社長にも頼めませんよ、こんなこと」
「そうか。それじゃあ、もらうよ」
「ありがとう、ございます」
拍子抜けした後、ああ、そういえばこの人は、もう何人も再殺しているんだ。と、思い出した。
少女たちの間では、好きな人に再殺の権利をあげるのが流行っている。
もちろん、にちかは、プロデューサーが好きな人だから再殺を頼んだワケではない。
姉や美琴に辛い思いをしてほしくないから。それだけだ。
「にちかは、好きな人はいないのか?」
「あ、それセクハラですよ!」
「悪い。謝るよ」
「はぁ。いたら、プロデューサーさんに再殺なんて頼みませんよ」
いや、どうだろうか? 好きな人に、「私を165分割にして」なんて言うのは、異常ではないのか?
「ははは。変ですよね、世の中。私を殺してって好きな人に言うんですよ?」
「そうだな」
「ふふ。ふふふ。ああ、おかしい」
この時から、にちかにニアデスハピネスが見られるようになった。
「あはは。プロデューサーさん、私が再殺されるところ、配信しましょうよ。伝説のアイドルになれますよ」
「断る」
「冗談ですって。あはは」
多幸感でふわふわした頭でも、理解している。もう、自分にはトップアイドルになる時間はないのだと。
じゃあ、もういいか。プロデューサーさんの傷になれれば。
一生、私たちを再殺したことを抱えて生きてくださいね。プロデューサーさん。
「ふふふ」
にちかは、そんなことを考えながら、プロデューサーを見て笑った。
「にちかは、何かしたいことはあるか?」
「したいことだらけですよ。とにかく、仕事をさせてください。最期まで、アイドルやりたいんで」
「分かったよ」
男は、少女の願いを了承する。
七草にちかがステーシー化したのは、シーズの単独ミニライブの後だった。
「ライブ中じゃなくてよかった」と、彼女なら言うだろう。
プロデューサーは、小型チェーンソーを持ち、にちかと相対する。
「さよなら」
「あァ! うァッ!」
「間違いなく、七草にちかは、最期まで輝く星だったよ」
男は、ステーシーを再殺した。
そして。彼女の葬式の日。
「プロデューサーさん」
「はい」
「にちかは、幸せ者ですね」
「彼女は、素晴らしいアイドルです。きっと多くの人の心に残り続ける」
はづきの涙を、男は出来るだけ見ないようにした。
『エピローグ』
雛菜も透も小糸も真乃も灯織もめぐるも樹里も凛世も、俺が再殺した。
「はは…………」
男はひとり、自室で酒を煽る。
芹沢あさひと再殺の約束をしてから、一年が経っていた。
「プロデューサー」
それは、誰の声だったか。
「ありがとう、プロデューサーさん」
もう覚えていない。
自分の手で輝かせてきた少女たちを、同じ手が殺した。
ステーシーとはいえ、見知った彼女たちを。
でも、少女たちの望みに、男は応え続けた。そうするしかなかった。
死にゆく彼女たちに、少しでも希望を与えてやりたくて。
「疲れたな…………」
男は、床にうずくまった。
明日も仕事だ。プロデューサーは、風呂に入り、寝支度をする。
そして、明日の予定をチェックしてから就寝した。
翌日。彼は絶望することになる。
「あはは。ふふっ!」
「あさひ…………」
芹沢あさひに、ニアデスハピネスが見られた。
冬優子と愛依は、悲しそうにしている。
ああ。これから、ストレイライトも“欠けていく”んだ。
イルミネーションスターズとノクチルは、もういない。
放課後クライマックスガールズは、欠けてしまったし、果穂もいずれはステーシーになるのだろう。
アルストロメリアは、甜花が甘奈を再殺し、千雪が甜花を再殺した。
シーズは、ひとりになって。
コメティックは、ルカがはるきを再殺済み。
悪夢のような現実。その悪夢は、決して覚めることがない。
「プロデューサーさん」
「なんだ? あさひ」
「わたし、もうすぐ死ぬみたいっす。ふふっ」
「そうだな」
それからの日々を、取り繕うように過ごした。いつも通りに。現場に送迎したり、レッスンに差し入れを持って行ったり。
そして、芹沢あさひは、ステーシーになった。
約束通り、プロデューサーは、再殺をする。
葬儀の終わりに、恋鐘から提案があった。それは、唯一誰もステーシーになっていないアンティーカだからこそ、レクイエムを歌いたいというもの。
プロデューサーは、真剣に検討した。
アンティーカの色ならば、鎮魂歌は似合うだろう。それに、事務所の仲間を弔ってやりたいのも同じ気持ちだった。
「プロデューサー、どうする?」
「社長……俺は、アンティーカにも“死”を背負わせることになるんですか?」
「アイドルたっての望みだ」
「そうですね…………」
そして、魔法使いは覚悟をする。
アンティーカの新曲のタイトルは、「ステーシーズ」に決めた。
15歳から17歳の少女たちが、突然変死を遂げ、その死体がゾンビとなって蘇り、人間を襲って喰らうという現象が世界中で蔓延している。
いつしか、屍少女たちは、「ステーシー」と呼ばれるようになった。
「プロデューサーさん、再殺の権利をもらってほしいっす」
事務所のソファーに座る芹沢あさひは、事も無げにそう言った。
まるで、今日のおやつを決めるみたいに、そんなことを決意したのである。
再殺。ステーシーになった少女を165分割して、二度目の死を与えること。
「あさひは、まだ14歳じゃないか…………」
「でも、早ければ来年、ステーシーになるっすよ?」
「それは…………」
「プロデューサーさんなら、再殺してくれるっすよね? 冬優子ちゃんと愛依ちゃんには断られたっすけど」
ストレイライトのふたりには、酷だろう。
「分かった。その権利、もらおう」
「ありがとうっす!」
あさひは、笑顔を向けた。それがまだ、ニアデスハピネスでないことが救いだ。
ニアデスハピネスとは、ステーシー化が近い少女に見られる、特有の多幸感に満ちた状態で、言動も支離滅裂となっていくことである。
「あさひは、死ぬのが怖いか?」
「うーん。死んだことないから、分からないっす」
「そうか」
実に、あさひらしい答えだった。
プロデューサーは、彼女を、彼女たちを喪うことが怖い。再殺を行うことも怖かった。
それでも。誰かがやらなくてはならないのなら、自分がやろう。
そう考えている。
小型チェーンソーで、死んでから起き上がった芹沢あさひを細切れにする日が、いつか来るのだろう。
芹沢あさひというアイドルを、永遠に残したい。だから、男はプロデュースを続ける。
少女の死を望んでいるのか? 死よりも酷いことを望んでいるのか?
プロデューサーには、よく分からなくなってきていた。
「お疲れ~! なんの話してんの?」
「お疲れ様」
「お疲れっす!」
ストレイライトの三人が揃う。
「あさ…………」
「プロデューサーさんが、再殺の権利をもらってくれたっす!」
止める間もなく、あさひがふたりに言った。
「そっか…………」
「そう…………」
愛依と冬優子は、憂いを帯びた眼差しをプロデューサーに向ける。
「心配ない。俺なら、大丈夫だよ」
弱音を吐くワケにはいかない。
プロデューサーは、強がりを言った。
夏の終わり。
まだ、283プロダクションの誰もがステーシーになっていない頃の一幕であった。
『市川雛菜』
あはは。うふふ。
少女の笑い声が聴こえる。
「やは~」
「雛菜…………」
「なあに? プロデューサー」
「いや、ずいぶん楽しそうだな」
「うん。雛菜、楽しいよ」
車の助手席に座る市川雛菜は、くすくす笑う。
「雛菜ね、もうすぐ死んじゃうんだ」
「ニアデスハピネスか」
「そうだよ。だから、再殺の権利をもらってほしいな」
「俺が?」
「うん。雛菜、プロデューサーのこと好きだから」
そうだった。別の時空の自分にも譲らないほどに、雛菜はプロデューサーとの出会いを大切に思っている。
「ちゃんと、雛菜を再殺してね?」
「……ああ」
「あは~。ニア・デス・ハピ・ネス~」
雛菜は、即興の歌を口ずさみ始めた。プロデューサーは、何も言えずに、それをただ聴いている。
「プロデューサーは、雛菜の運命の人だね」
あはは。うふふ。
雛菜は、多幸感に包まれ、笑い続けた。
283プロダクションで最初にステーシーになったのは、市川雛菜だった。
雛菜から、再殺の権利をもらってから、数日後。彼女は、うめき声を上げ、人肉を求める屍少女になった。
「あァ……うあァ…………」
小型チェーンソーを持ち、雛菜と相対する男。
「すまない。雛菜…………」
プロデューサーは、彼女を切り刻む。そして、165分割にした。
「はぁ……はぁ…………ッ」
初めての再殺は、本当に気分の悪いもので。プロデューサーは、雛菜だった肉片を片付けた後、トイレで吐いた。
「うえ…………げほっ…………」
市川雛菜は、永い眠りにつき、もう目覚めないだろう。そのことだけが、彼の救いだった。
「雛菜、しあわせだよ」
彼女の最期の言葉。それが、繰り返し繰り返し、脳内で再生される。
本当に、雛菜は幸せだったのだろうか?
男の脳裏によぎる疑問。
ニアデスハピネスのせいではないのか?
「なあ、雛菜…………」
問いかけても、答えが返ってくることはない。
後日。市川雛菜の葬儀が執り行われた。
プロデューサーは、喪服を着て参列する。
遺影の中の雛菜は、いつもの笑顔を浮かべていた。
バラバラにされた彼女の遺体は、見えないように窓のない棺桶に入れられている。
焼香の際に、男は祈った。
どうか、安らかな眠りを。
帰り際、浅倉透に話しかけられた。
「プロデューサー」
「どうした?」
「ううん。なんでもない。あはは」
それが、ニアデスハピネスの兆候だということは、後に知ることになる。
『浅倉透』
再殺の権利をもらってほしいと、浅倉透は言った。
「あはは。樋口と約束してたんだよね。どっちかがステーシーになったら、再殺するって」
透は、約束通り樋口円香を再殺したのである。
「ふふ。樋口はもういないから、プロデューサーが私を再殺してよ」
「どうして俺なんだ?」
「私を忘れないでほしいから」
今度こそ、忘れないで。
あのジャングルジムに登った大切な思い出が、透の脳裏にはあった。
「分かったよ。透のことは、絶対に忘れない」
「ははは。ふふ。ありがとう、プロデューサー」
ニアデスハピネスによるものなのか、安心したのか。透は笑い続ける。
「幸せか?」
プロデューサーは、つい訊いてしまった。
「あはは。幸せだよ。ねえ、プロデューサー」
「なんだ?」
「デートしようよ」
「デート?」
「公園に行きたいな」
男は、少女の望みを出来るだけ叶えてやりたい。ふたりは、公園へ向かった。
彼女の目的は決まっているらしく、一直線にジャングルジムへ行く。
「登ろう、プロデューサー」
「ああ…………」
てっぺんまで登る、少女と男。
「いい眺めだね。ははは」
「そうだな」
「世界が私のものみたい」
楽しそうに、透は言った。
秋の夕暮れ。紫がかったオレンジ色の空が美しい。
「キレイな世界。ふふ。たくさんの女の子が死んじゃってるのにね。変なの」
「ああ、綺麗だ」
少女たちを再殺しなくてはならない非情な摂理が生まれたのは、何故なのだろう?
ああ、でも、この世は元から“そう”だった。
花が散る世界。いずれ花が枯れる世界。終わらないものはなく、全ては消えゆく
それを、納得出来るかどうかは別として。
「楽しいなぁ。歌おうかな」
透は、童謡の赤とんぼを歌い出す。
透き通った歌声。懐かしい気持ちにさせる歌だった。
少女の歌唱が終わると、プロデューサーは拍手をする。
「はは。ありがとう、プロデューサー」
「透の歌声が、いつまでも残るといいな」
「ふーん。プロデューサー、そんなこと考えてたんだ?」
「まあな」
「じゃあ、ますますプロデューサーは忘れちゃダメだね、私のこと」
「忘れないよ」
「指切りしよう」
ふたりは、小指と小指を合わせた。
「嘘ついたら、針千本呑ーます」と、透は笑顔で言う。
時は流れ、宵闇が迫っていた。
「そろそろ帰ろう。送っていく」
「うん」
透とプロデューサーは、帰路についた。
後に、彼は、浅倉透を再殺。彼女を永い眠りにつかせた。
『七草にちか』
不本意だった。嫌々だった。消去法だった。
「プロデューサーさん、私の再殺の権利をあげます」
283プロダクションの事務所で、コーヒーを飲んでいるプロデューサーに言う七草にちか。
「どうして俺に?」
「だって、お姉ちゃんにも美琴さんにも社長にも頼めませんよ、こんなこと」
「そうか。それじゃあ、もらうよ」
「ありがとう、ございます」
拍子抜けした後、ああ、そういえばこの人は、もう何人も再殺しているんだ。と、思い出した。
少女たちの間では、好きな人に再殺の権利をあげるのが流行っている。
もちろん、にちかは、プロデューサーが好きな人だから再殺を頼んだワケではない。
姉や美琴に辛い思いをしてほしくないから。それだけだ。
「にちかは、好きな人はいないのか?」
「あ、それセクハラですよ!」
「悪い。謝るよ」
「はぁ。いたら、プロデューサーさんに再殺なんて頼みませんよ」
いや、どうだろうか? 好きな人に、「私を165分割にして」なんて言うのは、異常ではないのか?
「ははは。変ですよね、世の中。私を殺してって好きな人に言うんですよ?」
「そうだな」
「ふふ。ふふふ。ああ、おかしい」
この時から、にちかにニアデスハピネスが見られるようになった。
「あはは。プロデューサーさん、私が再殺されるところ、配信しましょうよ。伝説のアイドルになれますよ」
「断る」
「冗談ですって。あはは」
多幸感でふわふわした頭でも、理解している。もう、自分にはトップアイドルになる時間はないのだと。
じゃあ、もういいか。プロデューサーさんの傷になれれば。
一生、私たちを再殺したことを抱えて生きてくださいね。プロデューサーさん。
「ふふふ」
にちかは、そんなことを考えながら、プロデューサーを見て笑った。
「にちかは、何かしたいことはあるか?」
「したいことだらけですよ。とにかく、仕事をさせてください。最期まで、アイドルやりたいんで」
「分かったよ」
男は、少女の願いを了承する。
七草にちかがステーシー化したのは、シーズの単独ミニライブの後だった。
「ライブ中じゃなくてよかった」と、彼女なら言うだろう。
プロデューサーは、小型チェーンソーを持ち、にちかと相対する。
「さよなら」
「あァ! うァッ!」
「間違いなく、七草にちかは、最期まで輝く星だったよ」
男は、ステーシーを再殺した。
そして。彼女の葬式の日。
「プロデューサーさん」
「はい」
「にちかは、幸せ者ですね」
「彼女は、素晴らしいアイドルです。きっと多くの人の心に残り続ける」
はづきの涙を、男は出来るだけ見ないようにした。
『エピローグ』
雛菜も透も小糸も真乃も灯織もめぐるも樹里も凛世も、俺が再殺した。
「はは…………」
男はひとり、自室で酒を煽る。
芹沢あさひと再殺の約束をしてから、一年が経っていた。
「プロデューサー」
それは、誰の声だったか。
「ありがとう、プロデューサーさん」
もう覚えていない。
自分の手で輝かせてきた少女たちを、同じ手が殺した。
ステーシーとはいえ、見知った彼女たちを。
でも、少女たちの望みに、男は応え続けた。そうするしかなかった。
死にゆく彼女たちに、少しでも希望を与えてやりたくて。
「疲れたな…………」
男は、床にうずくまった。
明日も仕事だ。プロデューサーは、風呂に入り、寝支度をする。
そして、明日の予定をチェックしてから就寝した。
翌日。彼は絶望することになる。
「あはは。ふふっ!」
「あさひ…………」
芹沢あさひに、ニアデスハピネスが見られた。
冬優子と愛依は、悲しそうにしている。
ああ。これから、ストレイライトも“欠けていく”んだ。
イルミネーションスターズとノクチルは、もういない。
放課後クライマックスガールズは、欠けてしまったし、果穂もいずれはステーシーになるのだろう。
アルストロメリアは、甜花が甘奈を再殺し、千雪が甜花を再殺した。
シーズは、ひとりになって。
コメティックは、ルカがはるきを再殺済み。
悪夢のような現実。その悪夢は、決して覚めることがない。
「プロデューサーさん」
「なんだ? あさひ」
「わたし、もうすぐ死ぬみたいっす。ふふっ」
「そうだな」
それからの日々を、取り繕うように過ごした。いつも通りに。現場に送迎したり、レッスンに差し入れを持って行ったり。
そして、芹沢あさひは、ステーシーになった。
約束通り、プロデューサーは、再殺をする。
葬儀の終わりに、恋鐘から提案があった。それは、唯一誰もステーシーになっていないアンティーカだからこそ、レクイエムを歌いたいというもの。
プロデューサーは、真剣に検討した。
アンティーカの色ならば、鎮魂歌は似合うだろう。それに、事務所の仲間を弔ってやりたいのも同じ気持ちだった。
「プロデューサー、どうする?」
「社長……俺は、アンティーカにも“死”を背負わせることになるんですか?」
「アイドルたっての望みだ」
「そうですね…………」
そして、魔法使いは覚悟をする。
アンティーカの新曲のタイトルは、「ステーシーズ」に決めた。