アイマス
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目覚めると、男は病院のベッドの上だった。
台風の日に、飛んで来た瓦が頭を直撃したのだと聞いた。額を何針か縫ったらしい。
席を外していた同居人は、意識が戻ったことを知らされると病室に飛んできて、「心配かけるな、バカ」と言った。
開口一番は文句だったが、見舞いの品を持ってきてくれていて、自分は意外と愛されているなぁ、とミョウジナマエは思う。
見舞いの品は果物と、明るい色の花をクリアケースに入れたプリザーブドフラワーだ。
人が作ったものが置いてあると、病室が日常的な空間になった気がして、落ち着く。
帰り際に同居人が、暇だろうから、とMP3プレイヤーを置いていった。
(落語しか入ってねぇ……ここぞとばかりに趣味を推してきたよ、あいつ……)
別に不満はない。
華道や三味線や着付けや、他にも色々と嗜む和風趣味の同居人らしくて、むしろ心が和んで元気が出た。
その後。退院し、同居人が旅立つ日になった。
「おめでとう。ほんと、今までありがとう。直前まで迷惑かけっ放しで、ごめん。困ったことがあったら連絡してね。時差は気にしないでいいから。それじゃあ、元気で」
空港で、仕事の都合で海外へ行く同居人を見送る。
帰りに腹が鳴り、もう料理が出来る者はいないのだと気付き、コンビニで弁当を買った。
自宅に着き、空き部屋になった和室を眺める。
もういない部屋の主は、綺麗に掃除してから去ったらしい。
部屋には自分が贈った三面鏡が、ぽつんと残されていた。
本当に行ってしまったのだと、かなりの寂しさが心の中を埋めていく。
掛けられている布製カバーを外して鏡を開くと、そこにはスーツを着た自分がいる。
「いつどこで見ても似合ってねぇな」
世界で一番、スーツが似合わない男が鏡に映されていて、思わず呟く。
鏡は、自分を肯定してくれない。
自分の一番の理解者は、もういない。
いつも自分を支えてくれた人。
その声を、すぐに思い出せる人。
“脇が甘い”
“隙が多い”
“迂闊”
“間抜け”
“それは不運じゃなくて、身から出た錆”
怒声しか聴こえて来なかった。
「あれ?」
軽佻浮薄をなじられた記憶は鮮明に。主に自分が、ろくでもない。
今年に限って、何故こんなにもトラブルメーカー的な存在になってしまったのか。
いや、わりと昔からこんな感じだったような気もするが、流石にここまで酷くはなったはず。
これが常だったかような記憶の上書きは困る。ミョウジは、なんとか霞んでしまいそうになった綺麗な思い出を取り戻した。
“ナマエの好きなものは、それなんだよ”
“物好き”
“全部を大切にするしかないよ”
同居人と別れてから、光陰は矢のように過ぎ去り。部屋の掃除をまともに出来るようになり、料理のレパートリーもかなり増えた頃。
もうずっと儲からないわ、何度か詐欺呼ばわりされるわでミョウジナマエの心は疲弊し、店を畳もうかと考えた。
一番身近にいた者が遠くへ行ってしまったことも、じわじわと毒になっているようだった。
過去、客と揉めて裁判沙汰になりかけた嫌な記憶が呼び起こされる。
むしろ、客の言いがかりが名誉毀損や業務妨害ではないかという話だった。
その後、思った以上に物騒な人間であった向こうが逮捕されるという結末を迎えたが、良い思い出にはなりようもない。
こういう気分になると、次から次へと気に食わないものが目に付く。これが続くと、人は絶望して死ぬこともあるのだろう。
世界が残酷なものであることが、この世の真実の半分に過ぎないという考えは、心が健康でないと浮かばないものだ。
ショーウィンドウに映るスーツ姿の自分に苛立ちながら商店街を歩き、液晶テレビが並ぶ電器店の前を通り掛かると、流れているテレビ番組に目が止まった。
聞き覚えのない名前のアイドルユニットが、画面の中で歌い、踊っている。人の心を掴み、その期待に応え続けるものが、眩く輝いていた。
彼らが輝いているのは、ファンと、様々な演出技術と、本人たちの努力によるものだろう。
ミョウジは、そういった人が作り上げたものが好きだった。
もう少し、頑張ろう。まだ出来ることあるはずだと、自然と思えた。
自分は人が作ったものに生かされている。
(もっと、店にあるものの魅力を上手く伝えられるようになりたい)
真面目じゃないことなら、いくらでも言えるというのに。
自分の信用度の問題では?
(クソ、俺がアイドルじゃないばかりに……)
冗談はともかく、知名度のある存在に依頼するというのは良い案ではないかと思う。アイドルに宣伝してもらうには、いくら積めばいいのか調べようと考えた。
人の手から離れるには惜しいものを、もう一度人の手に渡したい。
それが、ミョウジが今の仕事をしている理由である。
初心を思い出した男は、決意を新たにした。
せっかく、いつかの悪夢みたいな9月を乗り越えたのだから。
誤解されて嫌われるのなんか、ごめんだ。
自分は良くはないが悪くもないと思っていたが、伝えることを怠ったのが罪だったのか。好きなものを素直に言えば良かったのか。
「負けてらんない」
ミョウジは、笑顔を取り戻した。
◆◆◆
「久し振り。こっちは18時だけど、そっちは何時?」
向こうは、午前10時だそうだ。
「それって、アイドルの? なんでって、最近少しアイドルを、というかその事務所を調べてて…………うん。え?! お前、今フランスだよな? あ、俺が? ああ、グッズとかをね。うん。分かった、頼まれた。初めて見た時、好きそうだなーって思ったよ。分かりやすいシュミー」
台風の日に、飛んで来た瓦が頭を直撃したのだと聞いた。額を何針か縫ったらしい。
席を外していた同居人は、意識が戻ったことを知らされると病室に飛んできて、「心配かけるな、バカ」と言った。
開口一番は文句だったが、見舞いの品を持ってきてくれていて、自分は意外と愛されているなぁ、とミョウジナマエは思う。
見舞いの品は果物と、明るい色の花をクリアケースに入れたプリザーブドフラワーだ。
人が作ったものが置いてあると、病室が日常的な空間になった気がして、落ち着く。
帰り際に同居人が、暇だろうから、とMP3プレイヤーを置いていった。
(落語しか入ってねぇ……ここぞとばかりに趣味を推してきたよ、あいつ……)
別に不満はない。
華道や三味線や着付けや、他にも色々と嗜む和風趣味の同居人らしくて、むしろ心が和んで元気が出た。
その後。退院し、同居人が旅立つ日になった。
「おめでとう。ほんと、今までありがとう。直前まで迷惑かけっ放しで、ごめん。困ったことがあったら連絡してね。時差は気にしないでいいから。それじゃあ、元気で」
空港で、仕事の都合で海外へ行く同居人を見送る。
帰りに腹が鳴り、もう料理が出来る者はいないのだと気付き、コンビニで弁当を買った。
自宅に着き、空き部屋になった和室を眺める。
もういない部屋の主は、綺麗に掃除してから去ったらしい。
部屋には自分が贈った三面鏡が、ぽつんと残されていた。
本当に行ってしまったのだと、かなりの寂しさが心の中を埋めていく。
掛けられている布製カバーを外して鏡を開くと、そこにはスーツを着た自分がいる。
「いつどこで見ても似合ってねぇな」
世界で一番、スーツが似合わない男が鏡に映されていて、思わず呟く。
鏡は、自分を肯定してくれない。
自分の一番の理解者は、もういない。
いつも自分を支えてくれた人。
その声を、すぐに思い出せる人。
“脇が甘い”
“隙が多い”
“迂闊”
“間抜け”
“それは不運じゃなくて、身から出た錆”
怒声しか聴こえて来なかった。
「あれ?」
軽佻浮薄をなじられた記憶は鮮明に。主に自分が、ろくでもない。
今年に限って、何故こんなにもトラブルメーカー的な存在になってしまったのか。
いや、わりと昔からこんな感じだったような気もするが、流石にここまで酷くはなったはず。
これが常だったかような記憶の上書きは困る。ミョウジは、なんとか霞んでしまいそうになった綺麗な思い出を取り戻した。
“ナマエの好きなものは、それなんだよ”
“物好き”
“全部を大切にするしかないよ”
同居人と別れてから、光陰は矢のように過ぎ去り。部屋の掃除をまともに出来るようになり、料理のレパートリーもかなり増えた頃。
もうずっと儲からないわ、何度か詐欺呼ばわりされるわでミョウジナマエの心は疲弊し、店を畳もうかと考えた。
一番身近にいた者が遠くへ行ってしまったことも、じわじわと毒になっているようだった。
過去、客と揉めて裁判沙汰になりかけた嫌な記憶が呼び起こされる。
むしろ、客の言いがかりが名誉毀損や業務妨害ではないかという話だった。
その後、思った以上に物騒な人間であった向こうが逮捕されるという結末を迎えたが、良い思い出にはなりようもない。
こういう気分になると、次から次へと気に食わないものが目に付く。これが続くと、人は絶望して死ぬこともあるのだろう。
世界が残酷なものであることが、この世の真実の半分に過ぎないという考えは、心が健康でないと浮かばないものだ。
ショーウィンドウに映るスーツ姿の自分に苛立ちながら商店街を歩き、液晶テレビが並ぶ電器店の前を通り掛かると、流れているテレビ番組に目が止まった。
聞き覚えのない名前のアイドルユニットが、画面の中で歌い、踊っている。人の心を掴み、その期待に応え続けるものが、眩く輝いていた。
彼らが輝いているのは、ファンと、様々な演出技術と、本人たちの努力によるものだろう。
ミョウジは、そういった人が作り上げたものが好きだった。
もう少し、頑張ろう。まだ出来ることあるはずだと、自然と思えた。
自分は人が作ったものに生かされている。
(もっと、店にあるものの魅力を上手く伝えられるようになりたい)
真面目じゃないことなら、いくらでも言えるというのに。
自分の信用度の問題では?
(クソ、俺がアイドルじゃないばかりに……)
冗談はともかく、知名度のある存在に依頼するというのは良い案ではないかと思う。アイドルに宣伝してもらうには、いくら積めばいいのか調べようと考えた。
人の手から離れるには惜しいものを、もう一度人の手に渡したい。
それが、ミョウジが今の仕事をしている理由である。
初心を思い出した男は、決意を新たにした。
せっかく、いつかの悪夢みたいな9月を乗り越えたのだから。
誤解されて嫌われるのなんか、ごめんだ。
自分は良くはないが悪くもないと思っていたが、伝えることを怠ったのが罪だったのか。好きなものを素直に言えば良かったのか。
「負けてらんない」
ミョウジは、笑顔を取り戻した。
◆◆◆
「久し振り。こっちは18時だけど、そっちは何時?」
向こうは、午前10時だそうだ。
「それって、アイドルの? なんでって、最近少しアイドルを、というかその事務所を調べてて…………うん。え?! お前、今フランスだよな? あ、俺が? ああ、グッズとかをね。うん。分かった、頼まれた。初めて見た時、好きそうだなーって思ったよ。分かりやすいシュミー」