アイマス
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不審者情報のある公園へ赴き、人気のない園内を歩いて行くと、ベンチに着崩れたスーツの男が座っているのが見えた。
近付いていくと、その男が頭からケーキを滴らせていることに、若い警官は気付く。たぶん、ショートケーキだろう。生クリームやスポンジと、苺の欠片のようなものがひとつ、髪や頬や肩にベッタリ付いている。
男は、心ここに在らずといった様子で、ベンチに座ってボーっとしていた。
「こんにちは」
「え……ああ、こんにちは。何かあったんですか?」
警官の存在に気付いた男は、少しだけ動揺している。
「最近この公園に、小学生に爆竹を売り付ける男がいるらしくて」
「そうですか。平日の昼下がりに、ケーキ被って座ってますけど、僕は怪しい者じゃないです」
怪しさが服を着ているような男は、いかにも怪し気な主張をした。
「お名前は?」
「ミョウジナマエ」
「住所は?」
「さっき無くなりました。あそこの303号室に住んでました」
ミョウジは、道路を挟んで公園の向かいにあるマンションを指差した。
「追い出されたんですか?」
「同居人と喧嘩して。あいつが好きな店のケーキ買って帰って謝ったんですけど、バカにすんなって、ケーキ乗せた皿で殴られました。パイ投げじゃねーっての……」
「夕方に、この公園に来ることはありますか?」
「夕方は仕事中ですよ」
「お仕事は?」
「リサイクルショップをやってます」
恐らく、今晩は店の倉庫に寝袋を敷いて寝ることになるだろう。
「あれ? あいつは無事な方のケーキ食ってますよね、絶対。僕のこと許さないのにケーキは食べるって、それ、おかしくないですか? 何らかの法に触れてるでしょー? っていうか、ケーキひとつ食えなくしてる時点で犯罪でしょ。取り締まってください」
警官は、ミョウジの無茶な言い分を曖昧な表情で聞き流した。
「ちょっと聞いてくださいよ」
ミョウジはポケットティッシュを取り出し、ケーキの残骸を拭いながら語る。
「先月、僕が小火起こして消防車が来る事態になってから、ずーっと不機嫌なんですよ、同居人が。土下座して謝ったのに。僕の土下座には価値が無いんですって」
「はぁ……」
「あ、小火は事故ですよ? 不幸な事故です」
修理していたランプが発火したのが原因であり、自分は悪くないと、追い出された男は主張し出す。
「あの、質問の続きいいですか?」
「あー、はい」
警官は職務に忠実に、ケーキを拭い終えた不審な男から聴取を続ける。
◆◆◆
一通りの職務質問が終わり、男は胸を撫で下ろす。
(もう、ここで小学生相手に小銭稼ぐのやめよう。でも、俺は売り付けてないし。欲しいって言われたから売っただけだし。子供って、すーぐ嘘つく。持って帰らず、この場で全部使えって言ったのも守ってないんだろうな)
大方、保護者に爆竹を所持しているのが見付かった子供が証言し、鵜呑みにした保護者が警察に報せたのだろう。
火遊びの際の付き添いとして、それなりに気を付けていたつもりだが、自分には子供たちの面倒を見切るのは無理だと悟った。
(ま、在庫はハケたし、もう爆竹入荷しないし)
あとは、怖い顔の警官の前から去ればいいだけである。
そんなことを考えていると、公園にやって来たランドセルを背負った小学生男子が、入り口付近から大声を出す。
「おじさーん! バクチクほしーい!」
「タイミングーっ?!」
ミョウジは、小学生の下校時刻が過ぎてしまっていたことに、ようやく気付いた。
小学生の声は、当然警官にも聴こえている。
「今、爆竹って……?」
「今の聞きましたか? 20代の僕をおじさん呼ばわりですよ? 逮捕してくださいよ!」
ミョウジは勢いよく立ち上がり、小学生を指差した。
「いや、今回はしませんよ。怪我人もいませんから」
「僕を逮捕しろなんて言ってませんよ!」
「身分証明書の提示をお願いします」
警官は、ミョウジを無視して言葉を続ける。
「さっき、夕方は仕事中と言ったのは虚偽ということに――」
「いえ、夕方はここで実演販売してたという意味です」
男は、財布から運転免許証を取り出しながら言った。
「そういうことは公園管理者の許可を――」
「そうですね! ゆるしてください! 初犯です! あと爆竹は、店に子供がよく来るから駄菓子とかと一緒に置いてただけで、火薬量も違法じゃないですしぃ……それに、僕は別に押し売りした訳では……」
「火薬量については把握しています。現物が届けられたので」
「そーですかー」
最初から、自分にアタリを付けられていたのだろうか。
ミョウジは溜め息を吐く。先月といい、今月といい、一度お祓いでもした方がいいのかもしれない。
警官と、犯人と言えなくもない男が話しているところに、先程の小学生が泣きそうな顔でやって来た。
「おじさんをタイホしないで! まだブツの取引してないから!」
警官といるミョウジを見て何を思ったのか、彼を庇おうとして、ふたりの間に割って入った小学生。以前、ミョウジが子供に教えた言葉は、不穏な雰囲気を醸し出している。
「なんの話ですか?」
「レアカードの話です」
この小学生男子は、よくミョウジの店にトレーディングカードを見に来る。
彼には欲しいレアカードがあるのだが、金が足りない。金が貯まるまでにカードが売れてしまわないか心配で、近頃は毎日のように店に来てはケース越しにカードを確認している。ミョウジが付けた渾名は「レアカード小僧」で、それを省略して「レアぞー」と呼ぶようになった。
「ひっ……」
「どうした?」
「おまわりさん、顔がコワイ……」
(子供ー! 嘘つきか正直者かどっちかにしろ子供ー!)
男は、内心で子供という生き物に対して文句を叫ぶ。
「…………」
「警官ってみんな基本的に顔が怖いんで、大丈夫ですよ」
口をついて出た言葉は、フォローとしてはイマイチなものだった。
「レアぞー君、謝りたまえよ。大人だって傷付くんだぜ?」
「……ごめんなさい」
正直な少年は頭を下げ、素直に謝る。
「いや、いいんだ。よく言われるから」
「このお巡りさんは優しいから、僕のことを警察に連れてかないってよ」
「いえ、逮捕はないと思いますけど、署には来てもらいます」
「マジで?」
「はい」
「……あー。そういうことだから、今日は遊べないよ、レアぞー」
それを聞いた少年は悲しそうな顔をして、弱々しい声を出した。
「おじさんに言わなきゃいけないことがあって……」
「少し、時間もらってもいいですか?」
「かまいません」
警官の返事を聞き、ミョウジはしゃがんで少年と目を合わせる。
「僕に話があるの?」
「お母さんが、カードなんて、ただの紙なんだから買うのやめなさいって……」
「金も、ただの紙だろ。気にせず使いな」
「保護者の許可なく未成年者が高額商品を購入した場合、返金請求されることもありますよ」
いつの間にか警官もしゃがみ込んで、妙な取り合わせの会合が開かれていた。
「高いっちゃあ高いですけど、千円ですよ」
「金額は問題なさそうですね」
ミョウジは少しの間、思案顔になると、何かを思い付いて手を打つ。
「レアぞーのお母さんの好きなものって何?」
「服……?」
「服なんて、ただの布じゃんって言ってやれよ」
「親子喧嘩に発展しそうな入れ知恵しないでください」
警官はミョウジを制し、少年に質問する。
「お母さんは、他に何か言ってなかった?」
「そのうち買ったことをコーカイするって」
「分かった。いつかカードに飽きたら、買った時より高く売るって言えばいいよ。新カードのせいで価値が暴落しなければイケるぞ」
「他に何かないんですか?」
「これもダメ?」
不満そうな顔をしつつ、男は新たに考えを巡らせた。
「服もカードも同じ、人が作ったものなのになー。服だって飽きることあるんじゃないかなー。生きるのにカード必要ないとか言い出したら、大抵のものは不必要になるよなー。効率的な人生は、生まれた瞬間に墓に入ることになるんじゃないのかなー」
「また喧嘩腰になってます」
「んー。大人になったら、なんでこんなもの集めてたんだろうって思うかもしれないけど、いい思い出にすればいいだけじゃないの? 楽しかったっていう記憶があれば充分じゃない?」
「そうですね」
「以上、終わり。お母さんに言ってみて。あのカードあれば、レアぞーの好きなヒトマル式戦車が輝くから楽しいだろ?」
「うん!」
元気を取り戻してくれたらしい少年を、今日は、もう帰るように促す。
(親が許さないなら、こっそり買えばいいんだよ)
さすがに口にはしなかったが、子供なんて親には言えないことの10や20ぐらいあってもいいだろうと思っている。
「子供って、かわいいなー」
「子供って、かわいいですよね」
並び立つふたりの男は同時に、違う感情を同じ言葉にして出力した。
片方は、純粋に微笑ましく思って。片方は、少しの哀れみと、愚直さを笑って。
ふたりに見送られた少年は、公園の入り口で、あることを思い出して叫んだ。
「もうすぐ夏休みだから、いっしょにサッカーと、あと虫取り行こー!」
「オッケー」
ミョウジが両腕を上げて作った丸を確認し、彼は手を振りながら帰って行った。
「ミョウジさん、とても好かれてるんですね」
ミョウジは、一般的な大人が教えないようなことを喋ることで子供に慕われ、保護者には嫌われるタイプである。
彼は子供を特別好いても嫌ってもいない。ただ、ごく普通に対人関係を築いているつもりでいるのだ。
「俺が大人じゃないからでしょう」
自嘲するような色を浮かべながら言葉をこぼし、男は緩められたネクタイを更に緩めた。
2017/12/17
近付いていくと、その男が頭からケーキを滴らせていることに、若い警官は気付く。たぶん、ショートケーキだろう。生クリームやスポンジと、苺の欠片のようなものがひとつ、髪や頬や肩にベッタリ付いている。
男は、心ここに在らずといった様子で、ベンチに座ってボーっとしていた。
「こんにちは」
「え……ああ、こんにちは。何かあったんですか?」
警官の存在に気付いた男は、少しだけ動揺している。
「最近この公園に、小学生に爆竹を売り付ける男がいるらしくて」
「そうですか。平日の昼下がりに、ケーキ被って座ってますけど、僕は怪しい者じゃないです」
怪しさが服を着ているような男は、いかにも怪し気な主張をした。
「お名前は?」
「ミョウジナマエ」
「住所は?」
「さっき無くなりました。あそこの303号室に住んでました」
ミョウジは、道路を挟んで公園の向かいにあるマンションを指差した。
「追い出されたんですか?」
「同居人と喧嘩して。あいつが好きな店のケーキ買って帰って謝ったんですけど、バカにすんなって、ケーキ乗せた皿で殴られました。パイ投げじゃねーっての……」
「夕方に、この公園に来ることはありますか?」
「夕方は仕事中ですよ」
「お仕事は?」
「リサイクルショップをやってます」
恐らく、今晩は店の倉庫に寝袋を敷いて寝ることになるだろう。
「あれ? あいつは無事な方のケーキ食ってますよね、絶対。僕のこと許さないのにケーキは食べるって、それ、おかしくないですか? 何らかの法に触れてるでしょー? っていうか、ケーキひとつ食えなくしてる時点で犯罪でしょ。取り締まってください」
警官は、ミョウジの無茶な言い分を曖昧な表情で聞き流した。
「ちょっと聞いてくださいよ」
ミョウジはポケットティッシュを取り出し、ケーキの残骸を拭いながら語る。
「先月、僕が小火起こして消防車が来る事態になってから、ずーっと不機嫌なんですよ、同居人が。土下座して謝ったのに。僕の土下座には価値が無いんですって」
「はぁ……」
「あ、小火は事故ですよ? 不幸な事故です」
修理していたランプが発火したのが原因であり、自分は悪くないと、追い出された男は主張し出す。
「あの、質問の続きいいですか?」
「あー、はい」
警官は職務に忠実に、ケーキを拭い終えた不審な男から聴取を続ける。
◆◆◆
一通りの職務質問が終わり、男は胸を撫で下ろす。
(もう、ここで小学生相手に小銭稼ぐのやめよう。でも、俺は売り付けてないし。欲しいって言われたから売っただけだし。子供って、すーぐ嘘つく。持って帰らず、この場で全部使えって言ったのも守ってないんだろうな)
大方、保護者に爆竹を所持しているのが見付かった子供が証言し、鵜呑みにした保護者が警察に報せたのだろう。
火遊びの際の付き添いとして、それなりに気を付けていたつもりだが、自分には子供たちの面倒を見切るのは無理だと悟った。
(ま、在庫はハケたし、もう爆竹入荷しないし)
あとは、怖い顔の警官の前から去ればいいだけである。
そんなことを考えていると、公園にやって来たランドセルを背負った小学生男子が、入り口付近から大声を出す。
「おじさーん! バクチクほしーい!」
「タイミングーっ?!」
ミョウジは、小学生の下校時刻が過ぎてしまっていたことに、ようやく気付いた。
小学生の声は、当然警官にも聴こえている。
「今、爆竹って……?」
「今の聞きましたか? 20代の僕をおじさん呼ばわりですよ? 逮捕してくださいよ!」
ミョウジは勢いよく立ち上がり、小学生を指差した。
「いや、今回はしませんよ。怪我人もいませんから」
「僕を逮捕しろなんて言ってませんよ!」
「身分証明書の提示をお願いします」
警官は、ミョウジを無視して言葉を続ける。
「さっき、夕方は仕事中と言ったのは虚偽ということに――」
「いえ、夕方はここで実演販売してたという意味です」
男は、財布から運転免許証を取り出しながら言った。
「そういうことは公園管理者の許可を――」
「そうですね! ゆるしてください! 初犯です! あと爆竹は、店に子供がよく来るから駄菓子とかと一緒に置いてただけで、火薬量も違法じゃないですしぃ……それに、僕は別に押し売りした訳では……」
「火薬量については把握しています。現物が届けられたので」
「そーですかー」
最初から、自分にアタリを付けられていたのだろうか。
ミョウジは溜め息を吐く。先月といい、今月といい、一度お祓いでもした方がいいのかもしれない。
警官と、犯人と言えなくもない男が話しているところに、先程の小学生が泣きそうな顔でやって来た。
「おじさんをタイホしないで! まだブツの取引してないから!」
警官といるミョウジを見て何を思ったのか、彼を庇おうとして、ふたりの間に割って入った小学生。以前、ミョウジが子供に教えた言葉は、不穏な雰囲気を醸し出している。
「なんの話ですか?」
「レアカードの話です」
この小学生男子は、よくミョウジの店にトレーディングカードを見に来る。
彼には欲しいレアカードがあるのだが、金が足りない。金が貯まるまでにカードが売れてしまわないか心配で、近頃は毎日のように店に来てはケース越しにカードを確認している。ミョウジが付けた渾名は「レアカード小僧」で、それを省略して「レアぞー」と呼ぶようになった。
「ひっ……」
「どうした?」
「おまわりさん、顔がコワイ……」
(子供ー! 嘘つきか正直者かどっちかにしろ子供ー!)
男は、内心で子供という生き物に対して文句を叫ぶ。
「…………」
「警官ってみんな基本的に顔が怖いんで、大丈夫ですよ」
口をついて出た言葉は、フォローとしてはイマイチなものだった。
「レアぞー君、謝りたまえよ。大人だって傷付くんだぜ?」
「……ごめんなさい」
正直な少年は頭を下げ、素直に謝る。
「いや、いいんだ。よく言われるから」
「このお巡りさんは優しいから、僕のことを警察に連れてかないってよ」
「いえ、逮捕はないと思いますけど、署には来てもらいます」
「マジで?」
「はい」
「……あー。そういうことだから、今日は遊べないよ、レアぞー」
それを聞いた少年は悲しそうな顔をして、弱々しい声を出した。
「おじさんに言わなきゃいけないことがあって……」
「少し、時間もらってもいいですか?」
「かまいません」
警官の返事を聞き、ミョウジはしゃがんで少年と目を合わせる。
「僕に話があるの?」
「お母さんが、カードなんて、ただの紙なんだから買うのやめなさいって……」
「金も、ただの紙だろ。気にせず使いな」
「保護者の許可なく未成年者が高額商品を購入した場合、返金請求されることもありますよ」
いつの間にか警官もしゃがみ込んで、妙な取り合わせの会合が開かれていた。
「高いっちゃあ高いですけど、千円ですよ」
「金額は問題なさそうですね」
ミョウジは少しの間、思案顔になると、何かを思い付いて手を打つ。
「レアぞーのお母さんの好きなものって何?」
「服……?」
「服なんて、ただの布じゃんって言ってやれよ」
「親子喧嘩に発展しそうな入れ知恵しないでください」
警官はミョウジを制し、少年に質問する。
「お母さんは、他に何か言ってなかった?」
「そのうち買ったことをコーカイするって」
「分かった。いつかカードに飽きたら、買った時より高く売るって言えばいいよ。新カードのせいで価値が暴落しなければイケるぞ」
「他に何かないんですか?」
「これもダメ?」
不満そうな顔をしつつ、男は新たに考えを巡らせた。
「服もカードも同じ、人が作ったものなのになー。服だって飽きることあるんじゃないかなー。生きるのにカード必要ないとか言い出したら、大抵のものは不必要になるよなー。効率的な人生は、生まれた瞬間に墓に入ることになるんじゃないのかなー」
「また喧嘩腰になってます」
「んー。大人になったら、なんでこんなもの集めてたんだろうって思うかもしれないけど、いい思い出にすればいいだけじゃないの? 楽しかったっていう記憶があれば充分じゃない?」
「そうですね」
「以上、終わり。お母さんに言ってみて。あのカードあれば、レアぞーの好きなヒトマル式戦車が輝くから楽しいだろ?」
「うん!」
元気を取り戻してくれたらしい少年を、今日は、もう帰るように促す。
(親が許さないなら、こっそり買えばいいんだよ)
さすがに口にはしなかったが、子供なんて親には言えないことの10や20ぐらいあってもいいだろうと思っている。
「子供って、かわいいなー」
「子供って、かわいいですよね」
並び立つふたりの男は同時に、違う感情を同じ言葉にして出力した。
片方は、純粋に微笑ましく思って。片方は、少しの哀れみと、愚直さを笑って。
ふたりに見送られた少年は、公園の入り口で、あることを思い出して叫んだ。
「もうすぐ夏休みだから、いっしょにサッカーと、あと虫取り行こー!」
「オッケー」
ミョウジが両腕を上げて作った丸を確認し、彼は手を振りながら帰って行った。
「ミョウジさん、とても好かれてるんですね」
ミョウジは、一般的な大人が教えないようなことを喋ることで子供に慕われ、保護者には嫌われるタイプである。
彼は子供を特別好いても嫌ってもいない。ただ、ごく普通に対人関係を築いているつもりでいるのだ。
「俺が大人じゃないからでしょう」
自嘲するような色を浮かべながら言葉をこぼし、男は緩められたネクタイを更に緩めた。
2017/12/17