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巣鴨睦月が退院したと聞いた。
元カレのせいで入院した彼女。回復して何よりだ。
そういう俺も、元カレなんだけれど。
高校にも復帰したらしい。違うクラスだから、噂でしか知らない。
睦月さんのクラスの奴が、俺に教科書を借りに来た時、それとなく訊いてみることにした。
「なあ、巣鴨さんて来てるの?」
「来てるよ。まだ本調子じゃなさそうだけど。よく保健室行ってる」
「そう」
友人は、数学の教科書を受け取り、去って行く。
午後は、眠たかったが、なんとか居眠りせずに授業をこなした。
放課後、図書室に本を返しに行く。
江戸川乱歩の「パノラマ島綺譚」だ。
俺は、乱歩は怪奇ものよりミステリが好きみたいで、あんまり合わなかった。
借りた本を返却し、新しく借りる本を探す。そうしていると、本棚の間に、巣鴨睦月がいるのが見えた。
本を見ながら、少しずつ近付いていく。
「睦月さん」
「あっ。ミョウジくん…………」
「久し振り。何か借りるの?」
「うん。心が落ち着くような話が読みたくて」
「そうか。天の光はすべて星とか、どう? SFが苦手じゃなければ」
睦月さんは、少し考えてから、うなずいた。
「それにする。タイトルが素敵だし」
「うん」
「ミョウジくんは?」
「俺は、考え中」
小説の棚で、探索を続ける。
「おっ」
一冊の文庫本を手に取った。
「不思議の国のアリス?」と、睦月さん。
「意外と読んでなかったなって」
「そうなんだ」
睦月さんの背後。窓から、夕日が射し込んでいる。彼女を、神秘的に照らす。
「借りてくる」
「うん、私も」
ふたりで本を借りて、なんとなく並んで下校した。
「…………」
俺たちは、沈黙が苦になる間柄じゃないから、静寂が続く。
そして。
「じゃあ、俺、こっちだから」
「うん。さよなら」
「さよなら。またな」
「またね」
睦月さんと別れ、ひとりで夕暮れ時を進んだ。
今度会ったら、本の感想でも訊こうかな。
俺と彼女は、友達でも恋人でもない。何かは分からないけれど、見知らぬ他人でもない。
ただ、彼女には、笑っていてほしかった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
母に帰宅を知らせ、自室へ向かう。
制服から着替えて、ベッドに寝転んだ。
不思議の国のアリスをパラパラめくると、あるページが目に止まる。
“ほんとにもう、今日はなにもかもおかしいわ! きのうまではいつもどおりだったのに。一晩でわたし、変わってしまったのかしら? ええっと。今朝起きたときは、いつものわたしだったかな? なんかちょっと違う感じがしたような気もするんだけど。でも、ちがってたとしたら、『いったい全体、わたしってだれ?』ってことになるわ。ああ、それって大問題!”
人間の連続性は、眠りによって途切れるんだよな。
明日の睦月さんは、今日より幸せだといい。
元カレのせいで入院した彼女。回復して何よりだ。
そういう俺も、元カレなんだけれど。
高校にも復帰したらしい。違うクラスだから、噂でしか知らない。
睦月さんのクラスの奴が、俺に教科書を借りに来た時、それとなく訊いてみることにした。
「なあ、巣鴨さんて来てるの?」
「来てるよ。まだ本調子じゃなさそうだけど。よく保健室行ってる」
「そう」
友人は、数学の教科書を受け取り、去って行く。
午後は、眠たかったが、なんとか居眠りせずに授業をこなした。
放課後、図書室に本を返しに行く。
江戸川乱歩の「パノラマ島綺譚」だ。
俺は、乱歩は怪奇ものよりミステリが好きみたいで、あんまり合わなかった。
借りた本を返却し、新しく借りる本を探す。そうしていると、本棚の間に、巣鴨睦月がいるのが見えた。
本を見ながら、少しずつ近付いていく。
「睦月さん」
「あっ。ミョウジくん…………」
「久し振り。何か借りるの?」
「うん。心が落ち着くような話が読みたくて」
「そうか。天の光はすべて星とか、どう? SFが苦手じゃなければ」
睦月さんは、少し考えてから、うなずいた。
「それにする。タイトルが素敵だし」
「うん」
「ミョウジくんは?」
「俺は、考え中」
小説の棚で、探索を続ける。
「おっ」
一冊の文庫本を手に取った。
「不思議の国のアリス?」と、睦月さん。
「意外と読んでなかったなって」
「そうなんだ」
睦月さんの背後。窓から、夕日が射し込んでいる。彼女を、神秘的に照らす。
「借りてくる」
「うん、私も」
ふたりで本を借りて、なんとなく並んで下校した。
「…………」
俺たちは、沈黙が苦になる間柄じゃないから、静寂が続く。
そして。
「じゃあ、俺、こっちだから」
「うん。さよなら」
「さよなら。またな」
「またね」
睦月さんと別れ、ひとりで夕暮れ時を進んだ。
今度会ったら、本の感想でも訊こうかな。
俺と彼女は、友達でも恋人でもない。何かは分からないけれど、見知らぬ他人でもない。
ただ、彼女には、笑っていてほしかった。
「ただいま」
「おかえりなさい」
母に帰宅を知らせ、自室へ向かう。
制服から着替えて、ベッドに寝転んだ。
不思議の国のアリスをパラパラめくると、あるページが目に止まる。
“ほんとにもう、今日はなにもかもおかしいわ! きのうまではいつもどおりだったのに。一晩でわたし、変わってしまったのかしら? ええっと。今朝起きたときは、いつものわたしだったかな? なんかちょっと違う感じがしたような気もするんだけど。でも、ちがってたとしたら、『いったい全体、わたしってだれ?』ってことになるわ。ああ、それって大問題!”
人間の連続性は、眠りによって途切れるんだよな。
明日の睦月さんは、今日より幸せだといい。