アイマス
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『いっぱいいっぱい』
あの頃は、眼鏡のアイドルが珍しかったんだよ。
俺が、あの娘を初めて見たのは、小さなライブハウスの警備のバイトをしてた時。
眼鏡と三つ編みが印象的なアイドル。秋月律子さん。
元気な子だと思った。元気をもらえた。
夜空に輝く星のような人。
気付けば俺は、彼女のCDやらグッズやらを買い、リリースイベントやミニライブに行くようになった。
それが、俺のアイドルオタクデビュー。すでに成人してたけど、別に遅くはないだろ?
765プロのアイドルである彼女を、ずっと応援して生きてくんだと思ってた。でも、秋月律子さんは、アイドルを辞めて、プロデューサーになったんだ。それが、彼女の夢だから。
悲しかった。でも、765プロのアイドルたちを追っていると、たまにスーツ姿のあなたが見切れていたりして。俺は、その姿に救われた。
律子さんも、プロデューサーとして頑張ってるんだから、俺も頑張ろう。そう思えた。
それから、しばらくして。運良く参加出来た竜宮小町のシークレットライブで、サプライズ的に秋月律子さんがステージに立った。後で分かったんだが、おたふく風邪になった三浦あずささんの代役で。
いつか見た彼女のソロ曲が披露されて、客席がグリーンのペンライトの海になる。
また、この景色が見られるなんて。
涙を堪えて、“アイドル”の秋月律子さんを見続けた。
律子さんの歌は、「私の眼鏡、好き? 嫌い?」で締めくくられる。
俺は、大きな声で、「大好きーっ!」とコールした。
笑顔で手を振りながら捌ける彼女。
その後。ライブが終わってから、どうやって家まで帰ったのか覚えてない。
それどころか、ライブの内容も、どんどんおぼろ気になっていく。だけど、いいライブだった。それだけは確かで、揺るがない。
俺は、SNSで、今日のライブの感想を漁った。セトリを挙げている人。レポート漫画を上げている人。感想を連ねている人。様々な人が体験したライブの欠片を集めて、少しだけ記憶を取り戻す。
そして俺は、趣味でやってるブログを更新する。
もちろん、竜宮小町のライブに出た、秋月律子さんについて書いた。
とても驚いたこと。嬉しかったこと。感動したこと。思いっきりコールをしたこと。記憶を固定するように、全部を書いた。
あなたがいたから、暗闇の中でも、星を見付けて生きてこれたんです。
ありがとう。愛してる。
『お願い!シンデレラ』
きっと、あの子はシンデレラなんだ。
俺、ミョウジナマエは、フリーのwebライターという胡乱な商売をしている。
趣味は、中学生の頃からやってるブログの更新。それと、アイドルを見ること。
そんな俺が見付けたシンデレラは、なんと、10歳である。
福山舞さんのことは、勝手に娘のように思って、応援している俺。それくらい、歳が離れている。
舞さんは、真面目な子で、きちんとした敬語を使う人だ。
大人にも子供にも好かれている。
キュートな衣装を着ていることが多いが、たまに大人っぽい衣装を着ることもあって、色々な表情を見せてくれた。
舞さんが所属しているプロダクションのジュニアアイドルを集めたライブへ行った時、俺は、子供たちが、こんなに素晴らしいパフォーマンスをすることに感動した。みんな、プロのアイドルなんだ。
俺も、プロとして恥ずかしくない仕事をしよう。そう思った。
web記事は、誇張したタイトルをつけた方が伸びる。でも、俺は、大袈裟なものや、ほとんど嘘のようなタイトルはつけたくない。
誠実でありたい。舞さんのように、素直で真っ直ぐに。
対立煽りもしたくないし、ステルスマーケティングもしたくないし、何かを貶める文章も書きたくない。
幸い、それでも仕事はあった。なんてことないエンタメ記事ばかり書いているけど、誇らしく思える。
そんな日常を送っていた、ある日。
「アイドルについて、ですか?」
ビデオ通話で、クライアントと話していると、意外な展開になった。
『ミョウジさん、ブログでアイドルのことを書いてますよね? あんな感じで、アイドルを題材にしたエッセイを書きませんか?』
「書きたいです……!」
『では、詳細は、メールで追ってご連絡します』
「よろしくお願いします」
通話を終え、俺は、「よっしゃあ!」と声を上げる。
仕事でも、アイドルのことを書いていいんだ!
近頃、“推し”という言葉が流行ってきているから、需要はありそうだな。
自分の中の星空に輝く一等星。それが、俺にとっての“推し”である。
さて。喜んでばかりもいられない。もうすぐ〆切の、ソシャゲの紹介記事を書かなくては。
俺は、実際にアプリをプレイしての所感を綴る。
たまに、コーヒーを飲んだり、煙草を吸ったりして、休憩を挟みながら、3時間ほどで書き上がった。
クライアントにテキストを送信し、あとは返事待ちになる。
「ふう」
ほんの少しでも、仕事でアイドルと関われるのは、幸せなことだ。
舞さんみたいに、輝いてるシンデレラのことを書き残そう。
『だってあなたはプリンセス』
焼きマシュマロとウミウシが好きな、可愛いアイドル。徳川まつりさん。
彼女は、まさにお姫様だ。
まつりさんが、エミリー・スチュアートさんと歌っている曲を聴いて、思ったことがある。
俺もプリンセスになれるんじゃね?
思い立ったが吉日。
俺は、美味しいと評判のホテルのアフタヌーンティーに行くことにした。
フリルやレースの付いたドレスは持ってないから、一番お洒落な白いチャイナ服を着る。
髪は、いつもより念入りにとかした。眼鏡も、綺麗に拭いた。ピアスも、オーケー。
あとは、そうだな。ネイルしてみようかな。指先まで美しくするのが、プリンセスだから。
爪を真っ黒に塗る。
「よし!」
気合いを入れて、予約したホテルのカフェ・ラウンジへ向かった。
こういうところに、あんまり縁がないし、ひとりなので少し緊張する。
席に座り、待っていると、ティースタンドが運ばれてきた。
1,2段目には、苺のムースとエディブルフラワーを添えたレモンジュレ。それから、薔薇の香りのクリームのパイとピスタチオ風味のエクレア。ショコラとマカロン。
3段目には、花束のような野菜のサラダとサーモンのマリネ。菜の花とベーコンのキッシュ。飾り切りされたポテト。
そして、スコーンとジャムと、オススメされた紅茶。
こんな華やかな食べ物を目にするのは、初めてかもしれない。
しかし、俺はプリンセスなので、慌てず、アフタヌーンティーを楽しむんだ。
まつりさんなら、きっとそうする。
俺は、ゆっくりとお洒落なお菓子を口に運び、紅茶を飲んだ。
そうだ。忘れてた。
俺は、まつりさんのアクスタをテーブルの隅に置き、彼女とお茶会をしてる気分で、アフタヌーンティーを続ける。
穏やかな時間が流れた。
窓の外を見れば、晴れ渡った空。優しく射し込む光。プリンセスの俺。
最高の午後だ。
向かいに座るまつりさんも、笑いかけてくれてるし。
優雅なアフタヌーンティーを終えて、帰路につく。
素晴らしい体験だった。まつりさんたちの歌がなければ、アフタヌーンティーをせずに生涯を終えていたかもしれない。
アイドルは、いつも俺の背中を押してくれる。
徳川まつりさんは、自分の理想のアイドルをしてるんだと思う。プロフェッショナルで、美しい。燦然と輝く、ふわふわでラブリーなアイドルだ。
今日のことは、ちゃんとブログに記録しておこう。写真も撮ったし。
まつりさんは、和も似合う人だから、今度は和風のお茶会もしようかな。
『Reversed Masquerade』
もし、俺が悪魔でも、好きと言ってくれますか?
俺の仮面の下。あんまり見せない表情がある。
よく、チャラそうとか、へらへらしてるとか言われるけど、それが俺の全てじゃない。
ありのままの自分を肯定出来るようになったのは、成人してからだ。
ありのままの自分を愛せるようになったのは、カフェパレードと出会ったから。
私服がチャイナ服なのは変って、散々言われた。webライターなんかで食っていけるのかって、しょっちゅう言われる。
親から、「髪を染めるなんて」とか「ピアスをするなんて」とか言われたこともある。
でも、俺は、俺の“好き”を曲げなくてもいいんだ。
アラカルトな“大好き”を持つ彼らが、俺は、大好きだから。
人の輪に入って、笑ってるのも俺。ひとりで、無表情でいるのも俺。
そこに嘘はない。つかない。
大切なものは、リングのように抱き締めている。絶対に捨てるもんか。
俺にだって、きっと、世界にひとつだけの輝く色があるはずだ。
東雲荘一郎さんの夢は、世界一の洋菓子を作ることらしい。アイドルもパティシエもしてる凄い人だ。
以前、荘一郎さんの手作りのお菓子を食べられるイベントがあった。
あのとびきり美味しい、幸せな時間のことは、いつまでも覚えている。
大事な宝物だから、心の中の宝石箱にしまってある。
どんどん遠くなるあなたを、必死に追いかけていると、俺も美しい景色が見られる気がした。
荘一郎さんたちは、どこまでも“お客様”を連れてってくれるだろう。
アイドルは、俺の人生を整え、照らしている。綺羅星のように。
俺は、愛する者のために、文章を綴ろう。その軌跡を書き記そう。
俺には、それが出来るから。
ペンを持ってることが、俺の個性だ。この先も、それを誇らしく思うだろう。
くじけそうになる度に、人生に絶望する度に、俺は、アイドルに助けられてきた。
でも、新譜が出るまで生きよう。ライブまで生きよう。あなたに会えるまで生きようって思うよ。
そういう、少し先の幸せに手を伸ばしながら、俺は、なんとか生きてくんだろう。この、綺麗なだけじゃない世界で。
ベランダで煙草を吸いながら、そんなことを考えた。あとで、ブログにまとめよう。
今夜は、あいにくの曇り空で、空には宵闇が広がっている。
だけど、星灯りは、いつまでも俺の夜空の中にあるんだ。
荘一郎さんにかけられた魔法は、永遠だから。
『ラビリンス・レジスタンス』
辛いことがあった。
ミョウジナマエは、別に有名人ってワケでもないが、名前を出して仕事をしてる以上、アンチもいる。
俺の大切なものを、「くだらない」と言われた。
連鎖的に、親の無理解も思い出してしまう。
こういう時は、アンティーカのあの曲を聴く。刺さった心臓貫く矢を、自分で抜く歌だ。
この歌は、俺に勇気をくれる。
スマホにイヤフォンを刺して、再生した。そのままベランダに出て、煙草を吸う。
田中摩美々さんのパートがきて、彼女について考える。
どんな気持ちで、放浪するんだろう?
確か、放浪してた時に、プロデューサーにスカウトされたんだよな。
ひとりで街を歩くのが趣味なのを、散歩でも散策でもなく、“放浪”という理由とは?
どこか孤独な印象がする言葉だ。
放浪とは、あてもなくさまよい歩くこと。
放浪する18歳の少女を見付けたのが、まともな大人で良かった。
摩美々さんは、不良少女というワケではないと思うけど。夜にふらついていたみたいだし。
「ふー」
煙草の煙を吐く。
黄昏時の空に、紫煙が立ち上った。
アイドルのことを想うと、俺は独りじゃないと思える。向かい風にも負けない心で生きていける。
これは、信仰心か? いや、違うな。アイドルだって普通の人間なんだから、信仰するのは健全ではないと思う。
俺は、ただ、好きなものを応援して、応援されているんだ。
その循環を、嬉しく思う。
摩美々さんは、気怠そうに喋る子だけど、たゆまぬ努力をしているんだろう。じゃなきゃ、あんなに見事なパフォーマンスは出来ないはず。
そういえば、グッドラフ・テラスの時は、色々心配になったもんだ。
あの共同生活リアリティーショーは、ネットで心ない感想が散見された。
アンティーカを、彼女たちを、勝手に歪めて物語にしないでくれ。
まあ、トータルでは、好評のまま放送を終えたんだけど。
でも、あれは、番組のスタッフじゃなくて、アンティーカの力だと思う。
結局、彼女たちの努力を、美しい物語として、俺は消費しているに過ぎないのだろうか?
たまに、こうして自問する。
生身の人間が偶像に、物語になること。ファンとして、ひとりの人間に向き合うこと。
摩美々さんには、自由に生きてほしい。
でも、出来れば、アイドルで居続けてほしい。
ワガママだな、俺は。
その後。煙草を灰皿に押し付け、沈む夕日を眺めて過ごした。
『Fluorite』
仕事で、初星学園に取材に来ている。アイドル科やプロデューサー科などがあるのが特色だ。
取材を進める中で、ひとりの生徒が目に止まる。
有村麻央さんという高等部の三年生。
蛍石のような輝きを持つその人は、可憐さとカッコよさをあわせ持つアイドルだった。
ピックアップアイドルとして、俺は、彼女を選ぶ。
自分らしさとは、自己受容とは。そんなことを考えさせる在り方だ。
自分を愛せないと他人も愛せない。かどうかは、俺には分からないけど、好きな自分でいられることの大切さは分かってる。
幾度もの挫折を繰り返し、そこに至った麻央さんは、美しい。
彼女にインタビューしたところ、プロデューサーと出会った影響が大きいようだ。
王子様に憧れて、王子様になりたい女の子。
俺だって、お姫様になりたい日があったし、誰でも何にでもなれる世界がいい。
人は、何度でも変われる。
人間は、不可能性の生き物とは言うけど、俺は、無限の可能性を秘めているとも思ってるから。
内なる光を信じて生きていたい。
取材を終えて、帰宅する。
パソコンに向かい、文章を綴っていく。
いつだって、俺は、アイドルと真剣に向き合い、その光に照らされてきた。
一介のドルオタに過ぎないけど、俺にはペンを握る力がある。だから、今日も書くんだ。
美しい煌めきのことを。目映い光のことを。そこにある影のことを。過去があって、現在があることを。
いつでも、両目で星灯りを見つめている。両手を、星に伸ばしている。
ありふれた人生を、アイドルたちに極彩色にしてもらって。俺は、歩いて行く。
星のようなアイドルたちの魅力を、少しでも多くの人に伝えたくて、俺は、ライターになったんだ。
一仕事終えると、空には夜の帳が降りている。
ベランダに出て、煙草を吸いながら、星を眺めた。
「ふー」と、紫煙を吐く。
あの星々は、もう死んでいるんだろうか?
星の輝きが永遠じゃなくても、大切な想いは、ずっと残るものだ。
いずれ、麻央さんが本格的にアイドルデビューする日が来る。
その時を楽しみに、俺は、生き伸びなきゃならない。
「また、死ねない理由が出来たな」
ひとり、星と月が飾られた夜空に呟いた。
あなたのために、俺のために、生きていこう。
戻る道はない。戻りたい過去はない。
ミョウジナマエは、これからも、ただ真っ直ぐに進んで行くんだ。
あの頃は、眼鏡のアイドルが珍しかったんだよ。
俺が、あの娘を初めて見たのは、小さなライブハウスの警備のバイトをしてた時。
眼鏡と三つ編みが印象的なアイドル。秋月律子さん。
元気な子だと思った。元気をもらえた。
夜空に輝く星のような人。
気付けば俺は、彼女のCDやらグッズやらを買い、リリースイベントやミニライブに行くようになった。
それが、俺のアイドルオタクデビュー。すでに成人してたけど、別に遅くはないだろ?
765プロのアイドルである彼女を、ずっと応援して生きてくんだと思ってた。でも、秋月律子さんは、アイドルを辞めて、プロデューサーになったんだ。それが、彼女の夢だから。
悲しかった。でも、765プロのアイドルたちを追っていると、たまにスーツ姿のあなたが見切れていたりして。俺は、その姿に救われた。
律子さんも、プロデューサーとして頑張ってるんだから、俺も頑張ろう。そう思えた。
それから、しばらくして。運良く参加出来た竜宮小町のシークレットライブで、サプライズ的に秋月律子さんがステージに立った。後で分かったんだが、おたふく風邪になった三浦あずささんの代役で。
いつか見た彼女のソロ曲が披露されて、客席がグリーンのペンライトの海になる。
また、この景色が見られるなんて。
涙を堪えて、“アイドル”の秋月律子さんを見続けた。
律子さんの歌は、「私の眼鏡、好き? 嫌い?」で締めくくられる。
俺は、大きな声で、「大好きーっ!」とコールした。
笑顔で手を振りながら捌ける彼女。
その後。ライブが終わってから、どうやって家まで帰ったのか覚えてない。
それどころか、ライブの内容も、どんどんおぼろ気になっていく。だけど、いいライブだった。それだけは確かで、揺るがない。
俺は、SNSで、今日のライブの感想を漁った。セトリを挙げている人。レポート漫画を上げている人。感想を連ねている人。様々な人が体験したライブの欠片を集めて、少しだけ記憶を取り戻す。
そして俺は、趣味でやってるブログを更新する。
もちろん、竜宮小町のライブに出た、秋月律子さんについて書いた。
とても驚いたこと。嬉しかったこと。感動したこと。思いっきりコールをしたこと。記憶を固定するように、全部を書いた。
あなたがいたから、暗闇の中でも、星を見付けて生きてこれたんです。
ありがとう。愛してる。
『お願い!シンデレラ』
きっと、あの子はシンデレラなんだ。
俺、ミョウジナマエは、フリーのwebライターという胡乱な商売をしている。
趣味は、中学生の頃からやってるブログの更新。それと、アイドルを見ること。
そんな俺が見付けたシンデレラは、なんと、10歳である。
福山舞さんのことは、勝手に娘のように思って、応援している俺。それくらい、歳が離れている。
舞さんは、真面目な子で、きちんとした敬語を使う人だ。
大人にも子供にも好かれている。
キュートな衣装を着ていることが多いが、たまに大人っぽい衣装を着ることもあって、色々な表情を見せてくれた。
舞さんが所属しているプロダクションのジュニアアイドルを集めたライブへ行った時、俺は、子供たちが、こんなに素晴らしいパフォーマンスをすることに感動した。みんな、プロのアイドルなんだ。
俺も、プロとして恥ずかしくない仕事をしよう。そう思った。
web記事は、誇張したタイトルをつけた方が伸びる。でも、俺は、大袈裟なものや、ほとんど嘘のようなタイトルはつけたくない。
誠実でありたい。舞さんのように、素直で真っ直ぐに。
対立煽りもしたくないし、ステルスマーケティングもしたくないし、何かを貶める文章も書きたくない。
幸い、それでも仕事はあった。なんてことないエンタメ記事ばかり書いているけど、誇らしく思える。
そんな日常を送っていた、ある日。
「アイドルについて、ですか?」
ビデオ通話で、クライアントと話していると、意外な展開になった。
『ミョウジさん、ブログでアイドルのことを書いてますよね? あんな感じで、アイドルを題材にしたエッセイを書きませんか?』
「書きたいです……!」
『では、詳細は、メールで追ってご連絡します』
「よろしくお願いします」
通話を終え、俺は、「よっしゃあ!」と声を上げる。
仕事でも、アイドルのことを書いていいんだ!
近頃、“推し”という言葉が流行ってきているから、需要はありそうだな。
自分の中の星空に輝く一等星。それが、俺にとっての“推し”である。
さて。喜んでばかりもいられない。もうすぐ〆切の、ソシャゲの紹介記事を書かなくては。
俺は、実際にアプリをプレイしての所感を綴る。
たまに、コーヒーを飲んだり、煙草を吸ったりして、休憩を挟みながら、3時間ほどで書き上がった。
クライアントにテキストを送信し、あとは返事待ちになる。
「ふう」
ほんの少しでも、仕事でアイドルと関われるのは、幸せなことだ。
舞さんみたいに、輝いてるシンデレラのことを書き残そう。
『だってあなたはプリンセス』
焼きマシュマロとウミウシが好きな、可愛いアイドル。徳川まつりさん。
彼女は、まさにお姫様だ。
まつりさんが、エミリー・スチュアートさんと歌っている曲を聴いて、思ったことがある。
俺もプリンセスになれるんじゃね?
思い立ったが吉日。
俺は、美味しいと評判のホテルのアフタヌーンティーに行くことにした。
フリルやレースの付いたドレスは持ってないから、一番お洒落な白いチャイナ服を着る。
髪は、いつもより念入りにとかした。眼鏡も、綺麗に拭いた。ピアスも、オーケー。
あとは、そうだな。ネイルしてみようかな。指先まで美しくするのが、プリンセスだから。
爪を真っ黒に塗る。
「よし!」
気合いを入れて、予約したホテルのカフェ・ラウンジへ向かった。
こういうところに、あんまり縁がないし、ひとりなので少し緊張する。
席に座り、待っていると、ティースタンドが運ばれてきた。
1,2段目には、苺のムースとエディブルフラワーを添えたレモンジュレ。それから、薔薇の香りのクリームのパイとピスタチオ風味のエクレア。ショコラとマカロン。
3段目には、花束のような野菜のサラダとサーモンのマリネ。菜の花とベーコンのキッシュ。飾り切りされたポテト。
そして、スコーンとジャムと、オススメされた紅茶。
こんな華やかな食べ物を目にするのは、初めてかもしれない。
しかし、俺はプリンセスなので、慌てず、アフタヌーンティーを楽しむんだ。
まつりさんなら、きっとそうする。
俺は、ゆっくりとお洒落なお菓子を口に運び、紅茶を飲んだ。
そうだ。忘れてた。
俺は、まつりさんのアクスタをテーブルの隅に置き、彼女とお茶会をしてる気分で、アフタヌーンティーを続ける。
穏やかな時間が流れた。
窓の外を見れば、晴れ渡った空。優しく射し込む光。プリンセスの俺。
最高の午後だ。
向かいに座るまつりさんも、笑いかけてくれてるし。
優雅なアフタヌーンティーを終えて、帰路につく。
素晴らしい体験だった。まつりさんたちの歌がなければ、アフタヌーンティーをせずに生涯を終えていたかもしれない。
アイドルは、いつも俺の背中を押してくれる。
徳川まつりさんは、自分の理想のアイドルをしてるんだと思う。プロフェッショナルで、美しい。燦然と輝く、ふわふわでラブリーなアイドルだ。
今日のことは、ちゃんとブログに記録しておこう。写真も撮ったし。
まつりさんは、和も似合う人だから、今度は和風のお茶会もしようかな。
『Reversed Masquerade』
もし、俺が悪魔でも、好きと言ってくれますか?
俺の仮面の下。あんまり見せない表情がある。
よく、チャラそうとか、へらへらしてるとか言われるけど、それが俺の全てじゃない。
ありのままの自分を肯定出来るようになったのは、成人してからだ。
ありのままの自分を愛せるようになったのは、カフェパレードと出会ったから。
私服がチャイナ服なのは変って、散々言われた。webライターなんかで食っていけるのかって、しょっちゅう言われる。
親から、「髪を染めるなんて」とか「ピアスをするなんて」とか言われたこともある。
でも、俺は、俺の“好き”を曲げなくてもいいんだ。
アラカルトな“大好き”を持つ彼らが、俺は、大好きだから。
人の輪に入って、笑ってるのも俺。ひとりで、無表情でいるのも俺。
そこに嘘はない。つかない。
大切なものは、リングのように抱き締めている。絶対に捨てるもんか。
俺にだって、きっと、世界にひとつだけの輝く色があるはずだ。
東雲荘一郎さんの夢は、世界一の洋菓子を作ることらしい。アイドルもパティシエもしてる凄い人だ。
以前、荘一郎さんの手作りのお菓子を食べられるイベントがあった。
あのとびきり美味しい、幸せな時間のことは、いつまでも覚えている。
大事な宝物だから、心の中の宝石箱にしまってある。
どんどん遠くなるあなたを、必死に追いかけていると、俺も美しい景色が見られる気がした。
荘一郎さんたちは、どこまでも“お客様”を連れてってくれるだろう。
アイドルは、俺の人生を整え、照らしている。綺羅星のように。
俺は、愛する者のために、文章を綴ろう。その軌跡を書き記そう。
俺には、それが出来るから。
ペンを持ってることが、俺の個性だ。この先も、それを誇らしく思うだろう。
くじけそうになる度に、人生に絶望する度に、俺は、アイドルに助けられてきた。
でも、新譜が出るまで生きよう。ライブまで生きよう。あなたに会えるまで生きようって思うよ。
そういう、少し先の幸せに手を伸ばしながら、俺は、なんとか生きてくんだろう。この、綺麗なだけじゃない世界で。
ベランダで煙草を吸いながら、そんなことを考えた。あとで、ブログにまとめよう。
今夜は、あいにくの曇り空で、空には宵闇が広がっている。
だけど、星灯りは、いつまでも俺の夜空の中にあるんだ。
荘一郎さんにかけられた魔法は、永遠だから。
『ラビリンス・レジスタンス』
辛いことがあった。
ミョウジナマエは、別に有名人ってワケでもないが、名前を出して仕事をしてる以上、アンチもいる。
俺の大切なものを、「くだらない」と言われた。
連鎖的に、親の無理解も思い出してしまう。
こういう時は、アンティーカのあの曲を聴く。刺さった心臓貫く矢を、自分で抜く歌だ。
この歌は、俺に勇気をくれる。
スマホにイヤフォンを刺して、再生した。そのままベランダに出て、煙草を吸う。
田中摩美々さんのパートがきて、彼女について考える。
どんな気持ちで、放浪するんだろう?
確か、放浪してた時に、プロデューサーにスカウトされたんだよな。
ひとりで街を歩くのが趣味なのを、散歩でも散策でもなく、“放浪”という理由とは?
どこか孤独な印象がする言葉だ。
放浪とは、あてもなくさまよい歩くこと。
放浪する18歳の少女を見付けたのが、まともな大人で良かった。
摩美々さんは、不良少女というワケではないと思うけど。夜にふらついていたみたいだし。
「ふー」
煙草の煙を吐く。
黄昏時の空に、紫煙が立ち上った。
アイドルのことを想うと、俺は独りじゃないと思える。向かい風にも負けない心で生きていける。
これは、信仰心か? いや、違うな。アイドルだって普通の人間なんだから、信仰するのは健全ではないと思う。
俺は、ただ、好きなものを応援して、応援されているんだ。
その循環を、嬉しく思う。
摩美々さんは、気怠そうに喋る子だけど、たゆまぬ努力をしているんだろう。じゃなきゃ、あんなに見事なパフォーマンスは出来ないはず。
そういえば、グッドラフ・テラスの時は、色々心配になったもんだ。
あの共同生活リアリティーショーは、ネットで心ない感想が散見された。
アンティーカを、彼女たちを、勝手に歪めて物語にしないでくれ。
まあ、トータルでは、好評のまま放送を終えたんだけど。
でも、あれは、番組のスタッフじゃなくて、アンティーカの力だと思う。
結局、彼女たちの努力を、美しい物語として、俺は消費しているに過ぎないのだろうか?
たまに、こうして自問する。
生身の人間が偶像に、物語になること。ファンとして、ひとりの人間に向き合うこと。
摩美々さんには、自由に生きてほしい。
でも、出来れば、アイドルで居続けてほしい。
ワガママだな、俺は。
その後。煙草を灰皿に押し付け、沈む夕日を眺めて過ごした。
『Fluorite』
仕事で、初星学園に取材に来ている。アイドル科やプロデューサー科などがあるのが特色だ。
取材を進める中で、ひとりの生徒が目に止まる。
有村麻央さんという高等部の三年生。
蛍石のような輝きを持つその人は、可憐さとカッコよさをあわせ持つアイドルだった。
ピックアップアイドルとして、俺は、彼女を選ぶ。
自分らしさとは、自己受容とは。そんなことを考えさせる在り方だ。
自分を愛せないと他人も愛せない。かどうかは、俺には分からないけど、好きな自分でいられることの大切さは分かってる。
幾度もの挫折を繰り返し、そこに至った麻央さんは、美しい。
彼女にインタビューしたところ、プロデューサーと出会った影響が大きいようだ。
王子様に憧れて、王子様になりたい女の子。
俺だって、お姫様になりたい日があったし、誰でも何にでもなれる世界がいい。
人は、何度でも変われる。
人間は、不可能性の生き物とは言うけど、俺は、無限の可能性を秘めているとも思ってるから。
内なる光を信じて生きていたい。
取材を終えて、帰宅する。
パソコンに向かい、文章を綴っていく。
いつだって、俺は、アイドルと真剣に向き合い、その光に照らされてきた。
一介のドルオタに過ぎないけど、俺にはペンを握る力がある。だから、今日も書くんだ。
美しい煌めきのことを。目映い光のことを。そこにある影のことを。過去があって、現在があることを。
いつでも、両目で星灯りを見つめている。両手を、星に伸ばしている。
ありふれた人生を、アイドルたちに極彩色にしてもらって。俺は、歩いて行く。
星のようなアイドルたちの魅力を、少しでも多くの人に伝えたくて、俺は、ライターになったんだ。
一仕事終えると、空には夜の帳が降りている。
ベランダに出て、煙草を吸いながら、星を眺めた。
「ふー」と、紫煙を吐く。
あの星々は、もう死んでいるんだろうか?
星の輝きが永遠じゃなくても、大切な想いは、ずっと残るものだ。
いずれ、麻央さんが本格的にアイドルデビューする日が来る。
その時を楽しみに、俺は、生き伸びなきゃならない。
「また、死ねない理由が出来たな」
ひとり、星と月が飾られた夜空に呟いた。
あなたのために、俺のために、生きていこう。
戻る道はない。戻りたい過去はない。
ミョウジナマエは、これからも、ただ真っ直ぐに進んで行くんだ。