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夕暮れ時。校舎裏で煙草を吸っていると、見知らぬトレンチコートを着た男が声をかけてきた。
人見広介には気付けないことだが、男は、人見と瓜二つである。明確な違いと言えば、その表情。張り付けたような笑みを浮かべている。
「はじめまして。私、探偵のミョウジナマエと申します」
「探偵?」
「はい。ここの生徒さんのひとりがね、行方不明なんですよ」
「それは…………」
合わせ鏡のように、ミョウジと視線を重ねた。
「事件なのか、事故なのか。はたまた、ただの家出なのか。まだ分かりません」
「それで、僕になんの用が?」
「私に協力してくれませんか? 人見先生」
名前を知られていることに、驚く。
「協力?」
「その娘ね、あなたが教育実習をしているクラスの生徒なんですよ」
そんな話は知らない。胡乱な自称探偵は、言葉を続けた。
「神田聖 さん、もう3日も家に帰ってないそうです。先生も心配でしょう?」
「……そうだな」
言われてみれば、そんな娘がいたような気がする。
それから、人見とミョウジは、放課後に話すようになった。
「神田聖さんという子はね、とても真面目で、穏やかな優しい人だそうで」
「ああ」
「そんな子が、家出なんてするでしょうか?」
「ストレスで限界になったとか?」
「まあ、あり得ますね」
「純白は、黒に等しいからな」
「そう。彼女ときたら、あなたを愛してるなどと宣うのです」
芝居がかったミョウジの台詞。
「造花のような美しい少女でありながら、聖女のような笑みを浮かべながら、あなたを誘惑したのです」
明朗な男の言葉。
「さて。今日は、お暇します。ではまた、人見先生」
「…………」
真っ黒なカラスが、一声鳴いた。
◆◆◆
ミョウジナマエは、喫煙所にいる人見広介の隣に座り、怪しげなオカルト雑誌を読んでいる。
「神の長き不在によって、我々はボロボロですね」
「……ああ」
不完全な双児形。ずっと笑顔の男と、ずっと陰気な顔をしている男。
ふたりは、何を話すでもなく、静かに並んでいた。
やがて、ミョウジは帰り、人見も帰る。
にゃあ、と猫の鳴き声がした。
翌日。やはり、ふたりの男は相対する。
「神田聖さん、見付かりませんね」
「そうだな」
「案外、近くにいるのでしょうか?」
「どうだろう?」
会話しながら、校舎の中を歩いた。
ミョウジは、一部屋ずつ観察している。
途中、つんとしたホルマリンの匂いがした。
一通り見終わると、ミョウジが口を開く。
「今日は、帰ります。また明日」
「ああ」
宣言通り、ミョウジは次の日もやって来た。
「私、メリーさん。今、あなたの前にいるの」
ミョウジは、古びた人形を持ちながら、ふざけたことを言う。
「馬鹿やってないで、働いたらどうなんだ?」
「ごもっとも」
ニッと笑うミョウジ。人形をそこらに置いて、調査を始めた。
一時間ほどして、彼は人見の目を見つめて話し始める。
「私、知ってますよ。犯人が、あなただってこと」
「は?」
「高田望美さん。田町まひるさん。目黒御幸さん。上野こよりさん。そして、神田聖さん。みんな、人見先生が加害したのでしょう?」
「な、にを……言って…………?」
「あなたは、裁かれなくてはならない」
ミョウジの強い言葉に、人見は狼狽えた。
「お前は×××××だ!」
「あなたには、俺が、そう見えるんだね」
少しだけ、寂しそうに笑うミョウジ。
「さよなら」
人見は、ミョウジナマエを古びた焼却炉に入れて、燃やした。
どす黒い煙が立ち上る。
「理想の国を、内ではなく外へ創るべきだったのですよ」
煙が喋った。
「うるさい! うるさいうるさいうるさい!」
「あなたは、自身を愛し、他人を愛すべきだった」
「黙れ!」
煙を散らすように、両腕をめちゃくちゃに動かす人見。
「はぁっ……はぁ…………」
静寂。自分の乱れた呼吸だけが聴こえる。
夕日を背に、人見広介は崩れ落ちた。
人見広介には気付けないことだが、男は、人見と瓜二つである。明確な違いと言えば、その表情。張り付けたような笑みを浮かべている。
「はじめまして。私、探偵のミョウジナマエと申します」
「探偵?」
「はい。ここの生徒さんのひとりがね、行方不明なんですよ」
「それは…………」
合わせ鏡のように、ミョウジと視線を重ねた。
「事件なのか、事故なのか。はたまた、ただの家出なのか。まだ分かりません」
「それで、僕になんの用が?」
「私に協力してくれませんか? 人見先生」
名前を知られていることに、驚く。
「協力?」
「その娘ね、あなたが教育実習をしているクラスの生徒なんですよ」
そんな話は知らない。胡乱な自称探偵は、言葉を続けた。
「
「……そうだな」
言われてみれば、そんな娘がいたような気がする。
それから、人見とミョウジは、放課後に話すようになった。
「神田聖さんという子はね、とても真面目で、穏やかな優しい人だそうで」
「ああ」
「そんな子が、家出なんてするでしょうか?」
「ストレスで限界になったとか?」
「まあ、あり得ますね」
「純白は、黒に等しいからな」
「そう。彼女ときたら、あなたを愛してるなどと宣うのです」
芝居がかったミョウジの台詞。
「造花のような美しい少女でありながら、聖女のような笑みを浮かべながら、あなたを誘惑したのです」
明朗な男の言葉。
「さて。今日は、お暇します。ではまた、人見先生」
「…………」
真っ黒なカラスが、一声鳴いた。
◆◆◆
ミョウジナマエは、喫煙所にいる人見広介の隣に座り、怪しげなオカルト雑誌を読んでいる。
「神の長き不在によって、我々はボロボロですね」
「……ああ」
不完全な双児形。ずっと笑顔の男と、ずっと陰気な顔をしている男。
ふたりは、何を話すでもなく、静かに並んでいた。
やがて、ミョウジは帰り、人見も帰る。
にゃあ、と猫の鳴き声がした。
翌日。やはり、ふたりの男は相対する。
「神田聖さん、見付かりませんね」
「そうだな」
「案外、近くにいるのでしょうか?」
「どうだろう?」
会話しながら、校舎の中を歩いた。
ミョウジは、一部屋ずつ観察している。
途中、つんとしたホルマリンの匂いがした。
一通り見終わると、ミョウジが口を開く。
「今日は、帰ります。また明日」
「ああ」
宣言通り、ミョウジは次の日もやって来た。
「私、メリーさん。今、あなたの前にいるの」
ミョウジは、古びた人形を持ちながら、ふざけたことを言う。
「馬鹿やってないで、働いたらどうなんだ?」
「ごもっとも」
ニッと笑うミョウジ。人形をそこらに置いて、調査を始めた。
一時間ほどして、彼は人見の目を見つめて話し始める。
「私、知ってますよ。犯人が、あなただってこと」
「は?」
「高田望美さん。田町まひるさん。目黒御幸さん。上野こよりさん。そして、神田聖さん。みんな、人見先生が加害したのでしょう?」
「な、にを……言って…………?」
「あなたは、裁かれなくてはならない」
ミョウジの強い言葉に、人見は狼狽えた。
「お前は×××××だ!」
「あなたには、俺が、そう見えるんだね」
少しだけ、寂しそうに笑うミョウジ。
「さよなら」
人見は、ミョウジナマエを古びた焼却炉に入れて、燃やした。
どす黒い煙が立ち上る。
「理想の国を、内ではなく外へ創るべきだったのですよ」
煙が喋った。
「うるさい! うるさいうるさいうるさい!」
「あなたは、自身を愛し、他人を愛すべきだった」
「黙れ!」
煙を散らすように、両腕をめちゃくちゃに動かす人見。
「はぁっ……はぁ…………」
静寂。自分の乱れた呼吸だけが聴こえる。
夕日を背に、人見広介は崩れ落ちた。