アイマス
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
学校帰りに、あまり行ったことのない所へ行こうと思い立ち、店が並ぶ通りを見ながら歩いていると、ガラス越しに木彫りのウサギの置物と目が合った。
目が合ってしまったからには、この店に入るしかない。
ここはリサイクルショップらしいが、リサイクルもリユースも請け負うと店先の張り紙に書いてある。
もう一度ウサギに目をやってから、店の中へと足を踏み入れた。
店内には、聞き覚えのあるクラシック音楽が流れている。
カウンターの向こうで座っているツナギの男は、難しい顔で特殊加工されたハードカバーの小説を読んでいた。
マグカップの底面にコルクのコースターが張り付いているが、気付かないままにカフェオレを飲んでおり、客が来ていることにも気付いていない。
少ししてから。男は、読んでいる小説から顔を上げると「いらっしゃいませ」と言い、またすぐ本に目を落とした。
しばらく、店内を見て回る。そのうち、暖房で暑くなってきたので、マフラーを外すと。
「あーっ!?」
店の壁に掛けられた鏡に映る髪がーー正確にはウィッグがーー静電気で、ちりちりと縮れている。
今すぐ、どこかに隠れたい衝動に駆られた。
焦燥感が心を支配するが、動けない。
「耐熱ファイバー?……ですか?」
何をどう判断したのか、驚き顔の男はそう訊いて来る。
「そう、です」
「今、そっち行きます」
ツナギの男は、カウンターから出て、近付いて来た。
そして、店の奥にある洗面所へと、案内して。
「水とお湯出るから、ぬるま湯にして使ってください」
「ありがとうございます……」
会釈すると、男は、へらっと笑った。
「あたし、ほんとに助かりました」
「いいんですよ、これくらい」
カウンターに戻ってますね。と、言って男はドアを閉める。
言われた通り、ぬるま湯でウィッグの縮れを直していると、新たに客らしき者が来た。
「ミョウジ~!」
眠そうな男子高校生は、店に入るや否や、一応大人であるミョウジを呼び捨てにし、一直線にカウンターへやって来る。
「呼んだー? バカ高校生」
「代行もういいわ。センセーに勘付かれた」
「マジかよ?! 筆跡完璧なのに……」
「いや、そういう問題じゃねぇんだよ。宿題出来てるのに小テストの点が死んでたから、怪しまれてさ~」
「お前の頭の問題じゃねーか」
親しみのある……あり過ぎる会話が、漏れ聴こえてきた。どうやら、ミョウジは、男子高校生の宿題を代わりにやっていたらしい。
「まあな。あ~、弟がなんとかって格ゲーで勝負しろってよ」
「お前の弟、何度も負かすと泣きながらキレるんだよな」
「何度も負かすからだろ」
「負けなきゃダメぇ?」
「好きにしろよ」
本当に親しい仲のようだ。
「で、勉強に専念すんの?」
「先月、ミョウジが突然、しばらく店閉める~とか言ってきたせいで目標額に微妙に届いてないんだよな!」
彼は、ギターを買うために金を貯めている。
「だから、土日は出る」
「んー分かった」
「じゃあな~」
男子高校生は、間延びした挨拶をすると、振り返らずに出て行った。
一方、ウィッグを整え終わった者は、カウンターに座る男の元へ来て、「ありがとうございました」と、再度お礼を言う。
「僕はミョウジ。一応店長ですよ、お客さん」
「そうなんだ。あたしは……呼ぶ時は咲ちゃんでよろしく、店長さん。咲ぴょんでもいいよ」
「咲ぴょん」
「なに?」
「ごめん、声に出してみたかっただけ」
そう言って笑いながら、男は、ドレスを着た古めかしい西洋人形をカウンター裏から取り出す。
「その子、かわいいね」
「そうだろう? ドレスのシミ抜きとか、化粧直しとか、してあげたんだ。僕の娘だからね」
「そっかぁ。家に連れて帰りたいなぁ。でも、ミョウジさんが寂しくなっちゃう?」
「お買い上げありがとうございまーす。10万円ピッタリになりまーす」
「……ちょっと、手が出ないかな。ドールって、やっぱり高いんだね」
「この子には、そんな価値はないよ。俺がタダで引き取って売り物にしただけの、ガラクタなんだ。価値のある人形に見えたらいいのになーって思ってるけど」
「見える」
「そう?」
「見えるよ」
ミョウジは、「これ、高値で吹っかけてから値段下げて見せて、相場より高く売るやつだからね」と冗談を言おうとしていたが、咲の真剣な顔を見てやめた。
「人形……だけじゃないけど、モノを作れる人ってスゴイよね」
「君も作れてるよ。君が作った君は可愛い」
「えっ?」
咲は驚き、肩をびくりと震わせる。
「もしかして、褒めてるように聞こえなかった? ごめんね」
誤解を招く言い方をしてしまっただろうか。
偽物というニュアンスの、作り物に聞こえただろうか。それとも、ナンパのように聞こえただろうか。
もう警察沙汰は勘弁したい。
なんとか伝えられたら良いのだが。必死に言葉を探す。
「身に着けている物、話し方、学んだもの。君が選んで、形作るものが君だろうから……そういうものが俺は…………」
しばし、言い淀む。
「頑張って笑顔を作るとか、好きなものの良さを伝えようとするとか、そういうのを見るのが……俺は凄く好きで……」
「そっかぁ。ありがっとー!」
眩しいほどの笑顔だ。瞳が輝いている。
「しまった! 油断したー!」
「えっ?!」
「ひー真面目なこと言っちゃった。話逸らさねぇと」
「ええー?!」
カウンター裏から、ある物を取り出すミョウジ。
「ほら貝。吹いてみる?」
「えっ? いいの?」
「近所迷惑だからダメでーす」
「からかわれた?!」
「マジでスッゲー音出るよ。僕、めちゃくちゃ怒られたからね」
「ほんとかなぁ? じゃなくて~! さっきの続きは~?」
咲は、少し頬を膨らませている。
「好きなものの話、もっと聞かせてよ~」
「もう店じまいです」
ミョウジは、嘯く。
「そうだ。咲ちゃん、うちでバイトしない?」
「もうしてるから、ごめんね」
そう言う咲の表情から、素敵なところで働いているんだろうなぁ、と男は思った。
「どこで働いてるの?」
「ヒントはね~、みんなにハッピーを届けるもの!」
「サンタクロースだ!」
「違うよ~。それも素敵だけどね! あたし、カフェメイドなんだ」
「おおー」
「よかったら、カフェパレードに来てね!」
「今度行くよ。それで? “お客さん”は、何が欲しいんですか?」
「あそこにある、ウサギの置物!」
「はーい。包みますねー」
ミョウジは、のそのそとウサギのいる所へ行き、カウンターに戻ると、ラッピングを始める。
「この子は、一点ものでね。可愛がってあげてくださいね」
「はーい!」
「お買い上げ、ありがとうございます」
「ありがっとー! 大切にするね」
咲は、丁寧にウサギを鞄に締まった。
宝物が増えたみたい。そう思う。
かわいいもの。それが、咲のお気に入り。
リサイクルショップを後にしてから、「また、ミョウジさんと会える日が楽しみだな」と考えた。
目が合ってしまったからには、この店に入るしかない。
ここはリサイクルショップらしいが、リサイクルもリユースも請け負うと店先の張り紙に書いてある。
もう一度ウサギに目をやってから、店の中へと足を踏み入れた。
店内には、聞き覚えのあるクラシック音楽が流れている。
カウンターの向こうで座っているツナギの男は、難しい顔で特殊加工されたハードカバーの小説を読んでいた。
マグカップの底面にコルクのコースターが張り付いているが、気付かないままにカフェオレを飲んでおり、客が来ていることにも気付いていない。
少ししてから。男は、読んでいる小説から顔を上げると「いらっしゃいませ」と言い、またすぐ本に目を落とした。
しばらく、店内を見て回る。そのうち、暖房で暑くなってきたので、マフラーを外すと。
「あーっ!?」
店の壁に掛けられた鏡に映る髪がーー正確にはウィッグがーー静電気で、ちりちりと縮れている。
今すぐ、どこかに隠れたい衝動に駆られた。
焦燥感が心を支配するが、動けない。
「耐熱ファイバー?……ですか?」
何をどう判断したのか、驚き顔の男はそう訊いて来る。
「そう、です」
「今、そっち行きます」
ツナギの男は、カウンターから出て、近付いて来た。
そして、店の奥にある洗面所へと、案内して。
「水とお湯出るから、ぬるま湯にして使ってください」
「ありがとうございます……」
会釈すると、男は、へらっと笑った。
「あたし、ほんとに助かりました」
「いいんですよ、これくらい」
カウンターに戻ってますね。と、言って男はドアを閉める。
言われた通り、ぬるま湯でウィッグの縮れを直していると、新たに客らしき者が来た。
「ミョウジ~!」
眠そうな男子高校生は、店に入るや否や、一応大人であるミョウジを呼び捨てにし、一直線にカウンターへやって来る。
「呼んだー? バカ高校生」
「代行もういいわ。センセーに勘付かれた」
「マジかよ?! 筆跡完璧なのに……」
「いや、そういう問題じゃねぇんだよ。宿題出来てるのに小テストの点が死んでたから、怪しまれてさ~」
「お前の頭の問題じゃねーか」
親しみのある……あり過ぎる会話が、漏れ聴こえてきた。どうやら、ミョウジは、男子高校生の宿題を代わりにやっていたらしい。
「まあな。あ~、弟がなんとかって格ゲーで勝負しろってよ」
「お前の弟、何度も負かすと泣きながらキレるんだよな」
「何度も負かすからだろ」
「負けなきゃダメぇ?」
「好きにしろよ」
本当に親しい仲のようだ。
「で、勉強に専念すんの?」
「先月、ミョウジが突然、しばらく店閉める~とか言ってきたせいで目標額に微妙に届いてないんだよな!」
彼は、ギターを買うために金を貯めている。
「だから、土日は出る」
「んー分かった」
「じゃあな~」
男子高校生は、間延びした挨拶をすると、振り返らずに出て行った。
一方、ウィッグを整え終わった者は、カウンターに座る男の元へ来て、「ありがとうございました」と、再度お礼を言う。
「僕はミョウジ。一応店長ですよ、お客さん」
「そうなんだ。あたしは……呼ぶ時は咲ちゃんでよろしく、店長さん。咲ぴょんでもいいよ」
「咲ぴょん」
「なに?」
「ごめん、声に出してみたかっただけ」
そう言って笑いながら、男は、ドレスを着た古めかしい西洋人形をカウンター裏から取り出す。
「その子、かわいいね」
「そうだろう? ドレスのシミ抜きとか、化粧直しとか、してあげたんだ。僕の娘だからね」
「そっかぁ。家に連れて帰りたいなぁ。でも、ミョウジさんが寂しくなっちゃう?」
「お買い上げありがとうございまーす。10万円ピッタリになりまーす」
「……ちょっと、手が出ないかな。ドールって、やっぱり高いんだね」
「この子には、そんな価値はないよ。俺がタダで引き取って売り物にしただけの、ガラクタなんだ。価値のある人形に見えたらいいのになーって思ってるけど」
「見える」
「そう?」
「見えるよ」
ミョウジは、「これ、高値で吹っかけてから値段下げて見せて、相場より高く売るやつだからね」と冗談を言おうとしていたが、咲の真剣な顔を見てやめた。
「人形……だけじゃないけど、モノを作れる人ってスゴイよね」
「君も作れてるよ。君が作った君は可愛い」
「えっ?」
咲は驚き、肩をびくりと震わせる。
「もしかして、褒めてるように聞こえなかった? ごめんね」
誤解を招く言い方をしてしまっただろうか。
偽物というニュアンスの、作り物に聞こえただろうか。それとも、ナンパのように聞こえただろうか。
もう警察沙汰は勘弁したい。
なんとか伝えられたら良いのだが。必死に言葉を探す。
「身に着けている物、話し方、学んだもの。君が選んで、形作るものが君だろうから……そういうものが俺は…………」
しばし、言い淀む。
「頑張って笑顔を作るとか、好きなものの良さを伝えようとするとか、そういうのを見るのが……俺は凄く好きで……」
「そっかぁ。ありがっとー!」
眩しいほどの笑顔だ。瞳が輝いている。
「しまった! 油断したー!」
「えっ?!」
「ひー真面目なこと言っちゃった。話逸らさねぇと」
「ええー?!」
カウンター裏から、ある物を取り出すミョウジ。
「ほら貝。吹いてみる?」
「えっ? いいの?」
「近所迷惑だからダメでーす」
「からかわれた?!」
「マジでスッゲー音出るよ。僕、めちゃくちゃ怒られたからね」
「ほんとかなぁ? じゃなくて~! さっきの続きは~?」
咲は、少し頬を膨らませている。
「好きなものの話、もっと聞かせてよ~」
「もう店じまいです」
ミョウジは、嘯く。
「そうだ。咲ちゃん、うちでバイトしない?」
「もうしてるから、ごめんね」
そう言う咲の表情から、素敵なところで働いているんだろうなぁ、と男は思った。
「どこで働いてるの?」
「ヒントはね~、みんなにハッピーを届けるもの!」
「サンタクロースだ!」
「違うよ~。それも素敵だけどね! あたし、カフェメイドなんだ」
「おおー」
「よかったら、カフェパレードに来てね!」
「今度行くよ。それで? “お客さん”は、何が欲しいんですか?」
「あそこにある、ウサギの置物!」
「はーい。包みますねー」
ミョウジは、のそのそとウサギのいる所へ行き、カウンターに戻ると、ラッピングを始める。
「この子は、一点ものでね。可愛がってあげてくださいね」
「はーい!」
「お買い上げ、ありがとうございます」
「ありがっとー! 大切にするね」
咲は、丁寧にウサギを鞄に締まった。
宝物が増えたみたい。そう思う。
かわいいもの。それが、咲のお気に入り。
リサイクルショップを後にしてから、「また、ミョウジさんと会える日が楽しみだな」と考えた。