アイマス
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おうちで、ひとり。さみしく、ひとり。
小学生の頃、私は、いわゆる鍵っ子だった。
共働きしている両親に渡された家の鍵を、首から下げている子供。
当時の私は留守番が嫌いだった。
友達と遊んだ後、夕暮れの中を歩く。帰路を辿る足取りは重い。
ランドセルの背負い紐を両手でギュッと握り締める。
私は俯いて、足元の小石を軽く蹴った。小石は転がって側溝に落ちる。
頭上では、カラスたちが、なんだか哀れっぽい鳴き声を上げている。
「はぁ……」
溜め息がこぼれた。
家に帰れば、ひとりきりだ。
ひとりで夜ご飯を食べて、ひとりで遊び、ひとりで眠る。
面白くない。
ひとりでいても、泣きたくなることはないけど、面白くない。
小学生の頃の私にとって、自分の部屋は広い空白のようなものだった。
子供らしく、親に好かれるためにねだってみた、人形やぬいぐるみや絵本で溢れていたけど、私には、それらは「どうでもいいもの」である。
「どうでもいいもの」は無いのと同じ。空虚だ。
小学生の私の寂しさは、そこから来ている。
私の「本当に欲しいもの」は、欲しいと言えば怒られるから。気持ち悪いと言われるから。
毎日、「どうでもいいもの」に囲まれていた小学生の私。
でも、中学生になってから、あなたに出会って、私の世界は色付いたのだ。
あなたは、私とシュミが同じだったから。私と同じで、爬虫類や、少し不気味なものが好きだったから。
あなたがいたから、私は親に抗うことが出来たのだ。
感謝してもし足りない。
私たちの出会いは、きっと運命だったのだと思う。
そうじゃなかったとしても、私はそれを、自らの手で運命とするだろう。
◆◆◆
私の親友、田中摩美々はアイドルである。
アンティーカという、ゴシックな五人組のアイドルユニットで活動している。キャッチコピーは、「回せ、錆びついた運命の鍵を」。
希望を歌い上げる彼女たちに、いつも勇気付けられていて、アンティーカは、すっかり私の大切なものになっている。
今日は、そんな彼女との、ある約束の日。
摩美々は、自宅でラジオ収録のお仕事があるそうだ。それが終わったら、私とビデオ通話してくれるって。
帰宅して身支度を済ませてから、ペットのボールパイソン(ノーマル)とコーンスネーク(ブラッドレッド)の世話をする。
「よし」
餌やりとペットシーツの交換を終えた。
空いた時間、私はアンティーカの歌をミニコンポで流しながら、摩美々が載っている雑誌をチェックする。
もしかして、摩美々ってどこから見ても可愛いんじゃない? それに、何着ても似合うんじゃない? とか、思ってしまう。
いつものパンキッシュなファッションはもちろん、企画で着た甘ロリ系ファッションやフォーマルなパンツスーツも似合う。
さすがアイドル。
私も、ちょっと冒険した服を着てみたくもなる。
いつもは、パンツスタイルだけど、たまには可愛い感じのスカートを買ってみてもいいかもしれない。
スカートの私を見たら、摩美々、驚くかな? 摩美々の驚いた顔見たいな。
確かクローゼットの奥に、前に衝動買いしたけど、全然穿いてないスカートがあったはず。
引っ張り出して穿いてみよう。せっかくだから、上着もスカートに合わせて、と。
メイクとヘアスタイルも変えよう。
着替えなどをしているうちに、約束の時間が来た。
摩美々とビデオ通話を繋げる。
「摩美々、お仕事お疲れ様」
『ん。ありがとー』
スマホの画面越しに見る摩美々も可愛い。
これで、私の部屋は、全てが揃った完璧な部屋になった。
私の大切なペットたち。
私の大事なピアスコレクション。
私の大好きな親友、田中摩美々。
これが私のお気に入り。
「ほら、スカート穿いてみたの」
固定したスマホのカメラに映るように、距離を取って、くるりと回る。
『へー。似合ってるじゃーん』
「ありがと。お仕事どうだった?」
『うん、イイ感じだったよー』
「そっか。良かったァ」
摩美々の自宅に送られてきた収録機材の扱いは、意外と簡単だったそうだ。録音した音声データを送信して、摩美々の仕事は終わりだと言う。
『それで、相談ってなにー?』
そう。実は、今日は私の相談に乗ってほしいと言ってあったのだ。
漫然と中学から高校へと進学し、漫然と大学に進学しようかな、などと考えていた私。
けれど最近は、私の将来をなんとなくで決めてしまうのは嫌だな、と思っている。
そう思うようになったのは、アンティーカの、摩美々のお陰である。
そして、考え抜いて出た結論は、「摩美々と仕事がしてみたい」というものだった。
私は、「私の夢」を探している。
「摩美々は夢ってある? アイドルを続けて、トップアイドルになること?」
『んー。まあ、アイドルやるのが面白いうちはアイドルでいるつもりですケドー』
そんなことを言っている摩美々だが、彼女の努力を知っている。
摩美々は、本気でアイドルをやっている。
「私の夢は、アイドルの摩美々と仕事すること、なんだよねェ。具体的じゃなくてアレだけどさ」
『そーなんだ』
摩美々は少し、驚いたようだった。
『ふふー。一緒に仕事出来たら、楽しそうだね』
口角を上げて、摩美々は言う。珍しく、含みのなさそうな笑顔だ。
「それで、具体的にアイドルに関わる仕事でさ、なにを目指せばいいか分からなくて……」
『メイクアップアーティスト』
「え?」
『向いてると思う。前にメイクしてもらった時に、センスあるなぁって思ったしー』
「ほんと? じゃあ、美容系の専門学校に入ろうかな」
摩美々の一声で、私の意志は固まった。
人にメイクするのは好きだし、良い選択に思える。
『メイクアップアーティストは、メイクアップとヘアスタイリング両方やることになるから、頑張ってねー』
「そっか、ヘアスタイリングもやるのか。頑張る……!」
きらきら輝くアイドルに灯された夢は、どんどん具体性を帯びていく。私は、それが嬉しい。
普段は真面目な委員長の皮を被っている私は、勉強するのが得意だ。さっそく今日からメイクとヘアスタイリングの勉強をしよう。
「私、メイクアップアーティストになるから、見ててね、摩美々……!」
『応援してるよ』
ここから始まる私の夢に、真摯に向き合うことを、摩美々と約束した。
◆◆◆
私の親友は、実は不真面目である。
クラス委員をしているのは内申点を稼ぐためで、人目のないところでは全力で手抜きをしている。
普段は髪で隠している耳には、ピアスがたくさん着けてある。
そんな親友が、夢を持った。生まれて初めて、嘘ではない将来の夢を持ったのだという。
私がアイドルをやっているところを見たのが、きっかけらしい。
嬉しい。
アンティーカの、私の歌が届いたのだ。
委員長は、自ら運命を切り開こうとしている。
彼女は、だらけ友達だし、めんどー嫌い同士。でも、夢を見付けた委員長は、瞳をきらきらと輝かせていて、どんなめんどーも惜しまないという覚悟もあるみたいだった。
私にとってのアイドルが、彼女にとっては、メイクアップアーティストになったのだろう。
彼女とは、夢が出来てから、毎日のようにビデオ通話をしている。
メイクやヘアスタイリングの本を買い込んで、毎日勉強しているそうだ。
まだ、私以外には夢のことを話していないらしい。
ひとり、自室で頑張っている委員長を思う。
ひとり、祈りを捧げるみたいに。
錆び付いた運命の鍵を回し始めた、あなたへ。
暗い絶望に囚われませんように。
口を開けた闇に落ちそうになった時、光に触れられますように。
いつか、彼女を傷付ける矢が刺さった時に、それを自分で抜けますように。
田中摩美々がアイドルであることが、彼女への励ましになると信じている。
小学生の頃、私は、いわゆる鍵っ子だった。
共働きしている両親に渡された家の鍵を、首から下げている子供。
当時の私は留守番が嫌いだった。
友達と遊んだ後、夕暮れの中を歩く。帰路を辿る足取りは重い。
ランドセルの背負い紐を両手でギュッと握り締める。
私は俯いて、足元の小石を軽く蹴った。小石は転がって側溝に落ちる。
頭上では、カラスたちが、なんだか哀れっぽい鳴き声を上げている。
「はぁ……」
溜め息がこぼれた。
家に帰れば、ひとりきりだ。
ひとりで夜ご飯を食べて、ひとりで遊び、ひとりで眠る。
面白くない。
ひとりでいても、泣きたくなることはないけど、面白くない。
小学生の頃の私にとって、自分の部屋は広い空白のようなものだった。
子供らしく、親に好かれるためにねだってみた、人形やぬいぐるみや絵本で溢れていたけど、私には、それらは「どうでもいいもの」である。
「どうでもいいもの」は無いのと同じ。空虚だ。
小学生の私の寂しさは、そこから来ている。
私の「本当に欲しいもの」は、欲しいと言えば怒られるから。気持ち悪いと言われるから。
毎日、「どうでもいいもの」に囲まれていた小学生の私。
でも、中学生になってから、あなたに出会って、私の世界は色付いたのだ。
あなたは、私とシュミが同じだったから。私と同じで、爬虫類や、少し不気味なものが好きだったから。
あなたがいたから、私は親に抗うことが出来たのだ。
感謝してもし足りない。
私たちの出会いは、きっと運命だったのだと思う。
そうじゃなかったとしても、私はそれを、自らの手で運命とするだろう。
◆◆◆
私の親友、田中摩美々はアイドルである。
アンティーカという、ゴシックな五人組のアイドルユニットで活動している。キャッチコピーは、「回せ、錆びついた運命の鍵を」。
希望を歌い上げる彼女たちに、いつも勇気付けられていて、アンティーカは、すっかり私の大切なものになっている。
今日は、そんな彼女との、ある約束の日。
摩美々は、自宅でラジオ収録のお仕事があるそうだ。それが終わったら、私とビデオ通話してくれるって。
帰宅して身支度を済ませてから、ペットのボールパイソン(ノーマル)とコーンスネーク(ブラッドレッド)の世話をする。
「よし」
餌やりとペットシーツの交換を終えた。
空いた時間、私はアンティーカの歌をミニコンポで流しながら、摩美々が載っている雑誌をチェックする。
もしかして、摩美々ってどこから見ても可愛いんじゃない? それに、何着ても似合うんじゃない? とか、思ってしまう。
いつものパンキッシュなファッションはもちろん、企画で着た甘ロリ系ファッションやフォーマルなパンツスーツも似合う。
さすがアイドル。
私も、ちょっと冒険した服を着てみたくもなる。
いつもは、パンツスタイルだけど、たまには可愛い感じのスカートを買ってみてもいいかもしれない。
スカートの私を見たら、摩美々、驚くかな? 摩美々の驚いた顔見たいな。
確かクローゼットの奥に、前に衝動買いしたけど、全然穿いてないスカートがあったはず。
引っ張り出して穿いてみよう。せっかくだから、上着もスカートに合わせて、と。
メイクとヘアスタイルも変えよう。
着替えなどをしているうちに、約束の時間が来た。
摩美々とビデオ通話を繋げる。
「摩美々、お仕事お疲れ様」
『ん。ありがとー』
スマホの画面越しに見る摩美々も可愛い。
これで、私の部屋は、全てが揃った完璧な部屋になった。
私の大切なペットたち。
私の大事なピアスコレクション。
私の大好きな親友、田中摩美々。
これが私のお気に入り。
「ほら、スカート穿いてみたの」
固定したスマホのカメラに映るように、距離を取って、くるりと回る。
『へー。似合ってるじゃーん』
「ありがと。お仕事どうだった?」
『うん、イイ感じだったよー』
「そっか。良かったァ」
摩美々の自宅に送られてきた収録機材の扱いは、意外と簡単だったそうだ。録音した音声データを送信して、摩美々の仕事は終わりだと言う。
『それで、相談ってなにー?』
そう。実は、今日は私の相談に乗ってほしいと言ってあったのだ。
漫然と中学から高校へと進学し、漫然と大学に進学しようかな、などと考えていた私。
けれど最近は、私の将来をなんとなくで決めてしまうのは嫌だな、と思っている。
そう思うようになったのは、アンティーカの、摩美々のお陰である。
そして、考え抜いて出た結論は、「摩美々と仕事がしてみたい」というものだった。
私は、「私の夢」を探している。
「摩美々は夢ってある? アイドルを続けて、トップアイドルになること?」
『んー。まあ、アイドルやるのが面白いうちはアイドルでいるつもりですケドー』
そんなことを言っている摩美々だが、彼女の努力を知っている。
摩美々は、本気でアイドルをやっている。
「私の夢は、アイドルの摩美々と仕事すること、なんだよねェ。具体的じゃなくてアレだけどさ」
『そーなんだ』
摩美々は少し、驚いたようだった。
『ふふー。一緒に仕事出来たら、楽しそうだね』
口角を上げて、摩美々は言う。珍しく、含みのなさそうな笑顔だ。
「それで、具体的にアイドルに関わる仕事でさ、なにを目指せばいいか分からなくて……」
『メイクアップアーティスト』
「え?」
『向いてると思う。前にメイクしてもらった時に、センスあるなぁって思ったしー』
「ほんと? じゃあ、美容系の専門学校に入ろうかな」
摩美々の一声で、私の意志は固まった。
人にメイクするのは好きだし、良い選択に思える。
『メイクアップアーティストは、メイクアップとヘアスタイリング両方やることになるから、頑張ってねー』
「そっか、ヘアスタイリングもやるのか。頑張る……!」
きらきら輝くアイドルに灯された夢は、どんどん具体性を帯びていく。私は、それが嬉しい。
普段は真面目な委員長の皮を被っている私は、勉強するのが得意だ。さっそく今日からメイクとヘアスタイリングの勉強をしよう。
「私、メイクアップアーティストになるから、見ててね、摩美々……!」
『応援してるよ』
ここから始まる私の夢に、真摯に向き合うことを、摩美々と約束した。
◆◆◆
私の親友は、実は不真面目である。
クラス委員をしているのは内申点を稼ぐためで、人目のないところでは全力で手抜きをしている。
普段は髪で隠している耳には、ピアスがたくさん着けてある。
そんな親友が、夢を持った。生まれて初めて、嘘ではない将来の夢を持ったのだという。
私がアイドルをやっているところを見たのが、きっかけらしい。
嬉しい。
アンティーカの、私の歌が届いたのだ。
委員長は、自ら運命を切り開こうとしている。
彼女は、だらけ友達だし、めんどー嫌い同士。でも、夢を見付けた委員長は、瞳をきらきらと輝かせていて、どんなめんどーも惜しまないという覚悟もあるみたいだった。
私にとってのアイドルが、彼女にとっては、メイクアップアーティストになったのだろう。
彼女とは、夢が出来てから、毎日のようにビデオ通話をしている。
メイクやヘアスタイリングの本を買い込んで、毎日勉強しているそうだ。
まだ、私以外には夢のことを話していないらしい。
ひとり、自室で頑張っている委員長を思う。
ひとり、祈りを捧げるみたいに。
錆び付いた運命の鍵を回し始めた、あなたへ。
暗い絶望に囚われませんように。
口を開けた闇に落ちそうになった時、光に触れられますように。
いつか、彼女を傷付ける矢が刺さった時に、それを自分で抜けますように。
田中摩美々がアイドルであることが、彼女への励ましになると信じている。