ポケモン
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列車やアーマーガアのそらとぶタクシーを乗り継いで、やって来たヨロイ島。かつては無人島だったこの島へ、俺は観光(半ば修行)にやって来た。
今のところ、野生のポケモンを観察したり、相棒ポケモンたちと共にキャンプをしたりと楽しく過ごしている。
ヨロイ島に来たのは、なんとなくなのだが、来て良かった。この数日間、とても充実している。
この時は、ただ、それだけだったのだが。
俺は、ポケモントレーナーとして短くない年月を生きているが、ポケモンバトルが苦手だった。
というのも、人を負かすことに強い罪悪感を覚えるからである。
負けるのは、人並みに悔しい。だから、当然研鑽を重ねる。そうして、初めて負かしたのは、自分の親だった。
勝った時の、あの辛さは、他人に理解されたことがない。
「俺なんかに負けないでほしい」という気持ちが、心の中で大きく響くのだ。それは、誰に勝っても同じようになる。
年齢が上がるに連れ、自己分析して分かったのは、俺は「強さ」を持つことを恐れているということ。「強さ」に見合う道徳心を欠いたら、と考えてしまい、恐ろしくなるのだ。自身が強くなればなるほど、「一体、誰が悪を為そうとする自分を止めてくれるのだろう?」と不安が募る。
要するに、俺は自分のことを信用していないのだ。
ある日、エスパータイプのジムに挑戦するまで、俺の世界は灰色で————おっと。物思いに耽っていると、砂浜に足を取られそうになった。
現在、俺は、ホエルオーを観察しようと海辺を歩いている。
すると、前方に見覚えのある後ろ姿を発見。
海岸を歩くその後ろ姿に、思わず走り出して、彼を呼び止めた。勝手に運命的なものを感じている彼を。
「よう、セイボリー。元気そうだな」
「おゲェッ!? サメハダーの如く急接近して来たあなたは、ナマエ!?」
トンチキな格好の男は、俺を見るなりトンチキな声を上げる。
自分が、サメハダーほど怖いとは思えないな。
「この場は戦略的にエスケープあるのみ! セイボリーテレポート!!」
「待て待て待て待て」
俺から走って逃げようとするセイボリーの腕を掴む。
「久し振りに会った友人から逃げるんじゃない」
「人違いです!」
「んな訳あるか!」
さっき、思いきりセイボリーって言ってたじゃないか。それに、顔を突き合わせておいて、それはないだろう。
俺の手から必死に逃れようとするセイボリーを、必死に止める俺。
少しの間、攻防が続いたが、観念したのか、セイボリーが動きを止めた。
そして、うつむきがちに口を開く。
「……ナマエ」
「ん?」
「以前、ワタクシがあなたにしたことは、エレガントではありませんでした。ですから、謝罪します。申し訳ありませんでした」
「セイボリー…………」
昔、セイボリーをポケモンバトルで負かしたことがあった。
その時、プライドがサイコブレイクしたらしいセイボリーに、俺はテレキネシスで空中高くに浮かされたのである。あれは、なかなか怖いものだった。
そのことを謝っているのだと分かる。
実は、俺の世界を灰色から塗り替えたのは、それなのである。世界には、様々な力があるということを、身をもって知った出来事だった。
サイキッカーの念動力。それは、俺を止めるに足る力である。
そういうものが、世界には溢れていることに気が付いた。それは、格闘家の技だったり、大自然の力だったり、様々だ。
君のテレキネシスは、特別な能力ではないのかもしれない。けれど、俺にとっては特別なんだ。
今でも、勝った時の罪悪感はないでもないが、昔と比べたら、ほとんどないと言ってもいいくらいだろう。
しかし、あのセイボリーが俺に謝罪をする日が来るなんて思っていなかったな。一体、彼に何が起きたのだろう。
セイボリーに尋ねると、ヨロイ島に来てからのことを、ぽつぽつと話してくれた。
シショーや、その家族のこと。マスター道場の仲間のこと。汚い手を使った上で、後輩に負けたこと。
それらが彼に与えた影響。前より刺々しさがなくなったセイボリー。
彼が、心を読めなくて良かった。俺は、彼から失われたものも好きだったから。けれど、彼にとっては良い変化であろうことは否定出来ない。複雑な気持ちだ。
「ワタクシのことを赦さなくても構いません。しかし、今のワタクシは、あなたという存在を大切に想っていることだけは知っておいていただきたい……」
セイボリーは少し恥ずかしそうにして、俺から目を逸らしている。
「赦すとか赦さないとか、そんなことは、どうだっていいよ。俺は、君のこと好きだよ。昔も今も」
俺は両手でセイボリーの顔をこちらに向かせて、そう囁いた。
目と鼻の先に、セイボリーの端正な顔がある。
「えっ…………?」
彼の美しい瞳が、驚きに見開かれた。
「ナマエ……? 今、なんと?」
「好きだよ、セイボリー」
「…………っ!?」
彼が、シルクハットの周りに漂わせていたモンスターボールが、ぼたぼたと砂浜に落ちる。顔を真っ赤にしたセイボリーは、何か言おうと口を開くが、声にならない声が出るだけだった。
しばらくして。
「あ、悪タイプを使うだけでは飽き足らず、身も心も悪タイプに染まったのですか?! そのような嘘をつくなんて!」
と、目を潤ませながら、俺を非難した。
「いやいやいや、分かるだろ? 俺が嘘を言ってないって」
心が読めなくたって、理解出来るはず。
「分かりません!」
「それじゃあ、悪タイプらしく噛みつきますか」
俺は、セイボリーにキスをした。さらに、舌を捩じ込み、深く口付けると、彼はびくりと体を震わせる。
「はっ……あ…………んんっ……!」
息を荒くして、俺の背にしがみつくセイボリー。そんな彼が、愛おしい。
どれくらいそうしていたのか。気付けば、セイボリーを砂浜に押し倒していた。
「あー……これ以上はマズいな、うん」
「あ、あなたは、やはりサメハダーのような狂暴性を持っているではないですか……」
両腕を身を守るように構えているセイボリーは、震える声で言う。
「嫌だった?」
「そういう問題ではありません! あなたは、ノン・エレガントだと言っているのです!」
どういう問題だ。
「じゃあ、手本を見せて?」
「……いいでしょう!」
セイボリーは勢いよく起き上がると、シルクハットを被り直した。そして、俺の手を優しく取り、手の甲にキスを落とす。
「これがエレガントというものです!」
さっきまでとは打って変わって、得意げにしている。そんなところも好きだけど。
「俗悪な俺には物足りないよ」
少し笑って、俺はセイボリーの髪を一房手にして、口付けた。
「油断も隙もない!」
大袈裟に一歩下がり、距離を取られる。
「それで? 俺と付き合う?」
「つ……つき…………!?」
さらに、一歩下がられてしまう。俺は、その分前に出て、彼との距離を詰めた。
「俺たち、恋人になろうよ。相性も良さそうだしさ」
「あり得ぬ……いやアリ・エーヌ! エスパータイプと悪タイプの相性が良い訳がないのと同じ!」
「手持ちポケモンのタイプ相性は関係ないだろう。俺のことが好きなのかどうか、教えてくれよ」
そっと、セイボリーの手を取り、俺は尋ねる。彼はうつむき、答えを言いよどんでいる。
潮騒が響き、ふたりの間を流れていった。
「ワタクシ、あなたのことが……す、好き、ですが……」
「ですが?」
「……好きですっ!」
ぎゅっと目を閉じながら、言い放つ。
「ありがとうっ!」
俺は、そんなセイボリーを力いっぱい抱き締めた。
「全く、奇特な人ですよ、あなたは。あのような行いをしたワタクシの友人を名乗り続け、さらにはワタクシを好きだと言う。そういうあなたを、ワタクシは特別に思ってしまった……」
抱き締め返された腕のぬくもりを感じる。
「愛してますよ、ナマエ」
「俺も愛してるよ、セイボリー」
2020/07/11
今のところ、野生のポケモンを観察したり、相棒ポケモンたちと共にキャンプをしたりと楽しく過ごしている。
ヨロイ島に来たのは、なんとなくなのだが、来て良かった。この数日間、とても充実している。
この時は、ただ、それだけだったのだが。
俺は、ポケモントレーナーとして短くない年月を生きているが、ポケモンバトルが苦手だった。
というのも、人を負かすことに強い罪悪感を覚えるからである。
負けるのは、人並みに悔しい。だから、当然研鑽を重ねる。そうして、初めて負かしたのは、自分の親だった。
勝った時の、あの辛さは、他人に理解されたことがない。
「俺なんかに負けないでほしい」という気持ちが、心の中で大きく響くのだ。それは、誰に勝っても同じようになる。
年齢が上がるに連れ、自己分析して分かったのは、俺は「強さ」を持つことを恐れているということ。「強さ」に見合う道徳心を欠いたら、と考えてしまい、恐ろしくなるのだ。自身が強くなればなるほど、「一体、誰が悪を為そうとする自分を止めてくれるのだろう?」と不安が募る。
要するに、俺は自分のことを信用していないのだ。
ある日、エスパータイプのジムに挑戦するまで、俺の世界は灰色で————おっと。物思いに耽っていると、砂浜に足を取られそうになった。
現在、俺は、ホエルオーを観察しようと海辺を歩いている。
すると、前方に見覚えのある後ろ姿を発見。
海岸を歩くその後ろ姿に、思わず走り出して、彼を呼び止めた。勝手に運命的なものを感じている彼を。
「よう、セイボリー。元気そうだな」
「おゲェッ!? サメハダーの如く急接近して来たあなたは、ナマエ!?」
トンチキな格好の男は、俺を見るなりトンチキな声を上げる。
自分が、サメハダーほど怖いとは思えないな。
「この場は戦略的にエスケープあるのみ! セイボリーテレポート!!」
「待て待て待て待て」
俺から走って逃げようとするセイボリーの腕を掴む。
「久し振りに会った友人から逃げるんじゃない」
「人違いです!」
「んな訳あるか!」
さっき、思いきりセイボリーって言ってたじゃないか。それに、顔を突き合わせておいて、それはないだろう。
俺の手から必死に逃れようとするセイボリーを、必死に止める俺。
少しの間、攻防が続いたが、観念したのか、セイボリーが動きを止めた。
そして、うつむきがちに口を開く。
「……ナマエ」
「ん?」
「以前、ワタクシがあなたにしたことは、エレガントではありませんでした。ですから、謝罪します。申し訳ありませんでした」
「セイボリー…………」
昔、セイボリーをポケモンバトルで負かしたことがあった。
その時、プライドがサイコブレイクしたらしいセイボリーに、俺はテレキネシスで空中高くに浮かされたのである。あれは、なかなか怖いものだった。
そのことを謝っているのだと分かる。
実は、俺の世界を灰色から塗り替えたのは、それなのである。世界には、様々な力があるということを、身をもって知った出来事だった。
サイキッカーの念動力。それは、俺を止めるに足る力である。
そういうものが、世界には溢れていることに気が付いた。それは、格闘家の技だったり、大自然の力だったり、様々だ。
君のテレキネシスは、特別な能力ではないのかもしれない。けれど、俺にとっては特別なんだ。
今でも、勝った時の罪悪感はないでもないが、昔と比べたら、ほとんどないと言ってもいいくらいだろう。
しかし、あのセイボリーが俺に謝罪をする日が来るなんて思っていなかったな。一体、彼に何が起きたのだろう。
セイボリーに尋ねると、ヨロイ島に来てからのことを、ぽつぽつと話してくれた。
シショーや、その家族のこと。マスター道場の仲間のこと。汚い手を使った上で、後輩に負けたこと。
それらが彼に与えた影響。前より刺々しさがなくなったセイボリー。
彼が、心を読めなくて良かった。俺は、彼から失われたものも好きだったから。けれど、彼にとっては良い変化であろうことは否定出来ない。複雑な気持ちだ。
「ワタクシのことを赦さなくても構いません。しかし、今のワタクシは、あなたという存在を大切に想っていることだけは知っておいていただきたい……」
セイボリーは少し恥ずかしそうにして、俺から目を逸らしている。
「赦すとか赦さないとか、そんなことは、どうだっていいよ。俺は、君のこと好きだよ。昔も今も」
俺は両手でセイボリーの顔をこちらに向かせて、そう囁いた。
目と鼻の先に、セイボリーの端正な顔がある。
「えっ…………?」
彼の美しい瞳が、驚きに見開かれた。
「ナマエ……? 今、なんと?」
「好きだよ、セイボリー」
「…………っ!?」
彼が、シルクハットの周りに漂わせていたモンスターボールが、ぼたぼたと砂浜に落ちる。顔を真っ赤にしたセイボリーは、何か言おうと口を開くが、声にならない声が出るだけだった。
しばらくして。
「あ、悪タイプを使うだけでは飽き足らず、身も心も悪タイプに染まったのですか?! そのような嘘をつくなんて!」
と、目を潤ませながら、俺を非難した。
「いやいやいや、分かるだろ? 俺が嘘を言ってないって」
心が読めなくたって、理解出来るはず。
「分かりません!」
「それじゃあ、悪タイプらしく噛みつきますか」
俺は、セイボリーにキスをした。さらに、舌を捩じ込み、深く口付けると、彼はびくりと体を震わせる。
「はっ……あ…………んんっ……!」
息を荒くして、俺の背にしがみつくセイボリー。そんな彼が、愛おしい。
どれくらいそうしていたのか。気付けば、セイボリーを砂浜に押し倒していた。
「あー……これ以上はマズいな、うん」
「あ、あなたは、やはりサメハダーのような狂暴性を持っているではないですか……」
両腕を身を守るように構えているセイボリーは、震える声で言う。
「嫌だった?」
「そういう問題ではありません! あなたは、ノン・エレガントだと言っているのです!」
どういう問題だ。
「じゃあ、手本を見せて?」
「……いいでしょう!」
セイボリーは勢いよく起き上がると、シルクハットを被り直した。そして、俺の手を優しく取り、手の甲にキスを落とす。
「これがエレガントというものです!」
さっきまでとは打って変わって、得意げにしている。そんなところも好きだけど。
「俗悪な俺には物足りないよ」
少し笑って、俺はセイボリーの髪を一房手にして、口付けた。
「油断も隙もない!」
大袈裟に一歩下がり、距離を取られる。
「それで? 俺と付き合う?」
「つ……つき…………!?」
さらに、一歩下がられてしまう。俺は、その分前に出て、彼との距離を詰めた。
「俺たち、恋人になろうよ。相性も良さそうだしさ」
「あり得ぬ……いやアリ・エーヌ! エスパータイプと悪タイプの相性が良い訳がないのと同じ!」
「手持ちポケモンのタイプ相性は関係ないだろう。俺のことが好きなのかどうか、教えてくれよ」
そっと、セイボリーの手を取り、俺は尋ねる。彼はうつむき、答えを言いよどんでいる。
潮騒が響き、ふたりの間を流れていった。
「ワタクシ、あなたのことが……す、好き、ですが……」
「ですが?」
「……好きですっ!」
ぎゅっと目を閉じながら、言い放つ。
「ありがとうっ!」
俺は、そんなセイボリーを力いっぱい抱き締めた。
「全く、奇特な人ですよ、あなたは。あのような行いをしたワタクシの友人を名乗り続け、さらにはワタクシを好きだと言う。そういうあなたを、ワタクシは特別に思ってしまった……」
抱き締め返された腕のぬくもりを感じる。
「愛してますよ、ナマエ」
「俺も愛してるよ、セイボリー」
2020/07/11