カリギュラ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
物事を前向きに捉えるための理論武装と、努めて人格的で他者に優しくあろうとする思想基盤を持っている。
それから、持たされた心的外傷を抱え、彼は創られた楽園へと堕ちた。
◆◆◆
君の、その羽。千切れたら痛いのだろうか。
ナマエが戦闘終了後に訊いてみると、「さあ」と鍵介に素っ気なく返された。
試す訳にもいかないので、この話題は、ここで終わり。
カタルシスエフェクトを解き、一息つく。
「先輩って、現実でもその姿なんですか?」
今度は、鍵介の方がナマエに質問した。続けて、別に答えたくないなら答えなくていいと言いながらも、彼の目は答えてほしいと訴えていた。
「この姿に9年足せば現実の俺だよ」
「ってことは26歳ですか。まあ、歳上っぽいとは思ってましたけど」
「君は本当、19歳って感じ」
「すいませんね、子供っぽくて」
鍵介は、ナマエを軽く睨む。
「いや、そうじゃなくて」
「なくて?」
「可愛いよね。好き」
「……バカにしてます?」
「してないよ?」
「はぁ。あんまり嬉しくないです」
そのまま「愛す可し」という意味で言ったのだが、鍵介にはバカにしているように聞こえてしまったようだ。「好き」と付け加えたのも、逆効果だったのかもしれない。
「ごめん。でも、今のうちに言っておこうと思って。ここから帰ったら、言えなくなるからね」
「はぁ、そうですか」
鍵介は、別に怒っているのではなかった。ただ、ナマエの言葉を聞いて湧き上がる感情が理解出来ず、その感情の処理も出来なかっただけで。
「ところで、先輩は……今でも、現実に帰りたいですか? メビウスは先輩にとっては良くないものなんですか?」
「メビウスでは世界の方が変わってくれるから、自分を変えなくて済んで、楽でいいと思うよ。でも残念ながら、この世界は強くない。いずれ終わりが来るように思える。俺は逃げ切れないなら、逃げない主義なんだ」
思うに、メビウスは楽園ではない。
この不完全は、不安定は、楽園にあってはならないものだ。
μが人を誤解していること。不完全なメビウスの女神。
彼女が負の感情を溜め込み、おかしくなっていること。不安定なメビウスの女神。
それらの要素は、メビウスの土台が酷く危ういものだと認識させる。
ここが真に楽園だったのなら、帰りたいとは言わなかっただろう。
「もしも現実の世界を変えられるなら、理想的だよなぁ」
「現実は、そう簡単には変わらないですよね」
「うん。だから、やっぱり現実の自分を変えるしかない。仕方ないね」
ナマエの諦念の中には、一種の強さのようなものが見えた。
μの状態を見てメビウスの道理を悟り、現実へと立ち戻るべきだと考えている。そんな彼が、帰還という目的を完遂するところを、やっぱり鍵介は見てみたいと思った。
それから、時が過ぎて。いよいよ、最終決戦とでも言うべきものが迫って来た頃。
「現実に戻ったら、僕と会ってくれませんか? いや、ていうか、現実でも僕と話をすることが、先輩がとるべき責任だと思うんですけどぉ」
「いいよ」
「約束ですよ? あと、ふたりで会うんですからね?」
「ああ。分かった」
しょうがないなぁ、と。柔らかな笑顔で約束する彼の優しさに、すっかり頼るようになってしまった自分に、鍵介は少し呆れた。
◆◆◆
メビウスから帰還し、約束を果たす日が来た。
晴れやかな空の下、待ち合わせ場所へと進む。
「先輩、ですよね?」
シンプルなワイシャツにループタイをしている、メビウスでの姿を大人にした男が、公園のベンチに座っている。
話しかけられた男は携帯電話に文字を打つと、鍵介に見せた。
『そうだ。ミョウジナマエで合ってる。声が出ないから、これで許して』
ナマエは、これを文章読み上げ機能を用いて発話する。
「風邪……って訳じゃないみたいですね」
『心因性のもので、失声症という』
「心因性……」
少なからず、狼狽した。
そうだ、彼も現実が嫌でメビウスに来たはず。彼にも悩みがあるのだ。
失念していたが、メビウスにいたのだから当たり前だろう。彼の情緒が、あまりにも安定していたこともあり、その考えは鍵介の頭から抜け落ちていた。
足元が、ぐらつくような感覚に襲われ、誤魔化すようにベンチに腰を下ろす。
「人の相談に乗ってる場合だったんですか? 先輩」
『職業病かな』
「先輩の職業って?」
『高校の保険医』
「先輩じゃなくて先生だったんですか……なるほど……」
『なるほど?』
「先輩が面倒見いいのも、厳しいのも納得です」
『そんなに厳しい?』
逃げ道を全て塞いだ癖に、厳しくないつもりでいるのか。
「厳しいですよ。そのおかげで色々吹っ切れましたけど」
『つまり、俺に頼ると厳しくされるってことか。俺は、俺に頼るのはやめとこう。問題を解決しようとしがちだもんな』
別に、共感だけを望む相手に解決策を提案したりはしないが、そうでない場合は、確かに厳しいことを言っているのかもしれなかった。
「問題、ねぇ。僕の今の問題もなんとかしてくれませんかねぇ」
『何かあったの?』
「先輩って付き合ってる人います?」
『いない』
「そうですか。先輩って男じゃないですか」
『うん』
「現実で先輩を見れば、消えるのかなぁと思ってたんですけど……」
『消える?』
「先輩のこと好きです」
鍵介はナマエを横目で伺いながら、ばつが悪そうに告げた。
視界の端に、公園の花壇のパンジーが映る。白や紫や黄の花が、能天気に咲いていた。
この感情に消えてほしかったような、消えてほしくなかったような、どっち付かずの想いを抱えている。
消えなかった感情を吐いてはみたものの、この先、消えないとも限らない。言ってしまって良かったのだろうかと、既に後悔が始まっている。
「はぁ……なんでこんなことに……すいません、忘れてください」
スピーカーから、『やだ』の一言が発せられる。
「やだって、先輩――」
おもむろに携帯電話をポケットにしまったナマエの両手が、目を逸らすなというように、鍵介の顔に添えられた。
そして、顔を目の前に近付けたナマエの唇は4つの文字を描く。
“すきだよ”
「か、んがえなおした方がいいですよ。僕と付き合っても、いいこと無いですもん」
『そういう問題? 迷ってるなら、鍵介が答えを出すまで俺が待てばいいって話じゃない?』
ナマエは携帯電話を素早く取り出し、軽快に指を踊らせた。
「それ、アリなんですか?」
容赦なくモラトリアムを削った張本人が、今度は猶予期間を与えてくるのか。と思ったが、それとこれとは別だろう。もう少し冷静になれ、と自分に言い聞かせる。
『ありだろ』
「先輩がいいなら、僕もいいです」
『これからもよろしく』
「よろしくお願いします」
ふたりは固く握手をした。
「先輩の……先輩って呼ぶの変、ですかね?」
『呼びたいように呼ぶといい』
「うーん。ナマエさん、とか?」
『なんか良いな』
「なんか恥ずかしくなってきました」
そんな鍵介を、ナマエは上機嫌でニコニコと微笑みながら見つめている。
「ナマエさんのこと、僕に教えてください。好きな曲とか、悩みとか……なんでも……」
微笑む彼のことを、自分は何も知らない。
一番、気になることは、理由だ。
「どうして、メビウスに来てしまったんですか……?」
『君の時間を少しもらうことになるけど』
それからナマエは、とつとつと語り始めた。メビウスに至るきっかけの事件を。
聞けば、悩みの相談をしてきたひとりの生徒に逆恨みされたのが発端で、校内でバッシングを受けたのだという。
そのストレスで失声症になった彼の内に湧き上がっていた感情は――――――人間関係が煩わしい。周りは自分を理解してくれない。みんな、消えてしまえばいい。
語り終えると、ナマエの口から疑問がこぼれた。
『俺の何が悪かったんだろう?』
「思ったんですけど、先輩……ナマエさんは悪くないんじゃないですか?」
『え?』
「あなたは情緒が安定しているというか、気持ちのコントロールが上手いというか。そのせいで、冷たいと誤解されていたんじゃないですかねぇ」
鍵介は、真剣に考えを巡らせている様子だ。
「きっとナマエさんは、人より負の感情を抱かない性質なんでしょう。誰かを恨んだり、妬んだりって、あんまりしたことないんじゃないですか?」
『んー』
人生を振り返ってみると、小学校の高学年辺りから徐々にそういう性質が顕著になっていったような気がする。以降、周りの人間からは度々、「冷たい」と言われた。
『そう、かも?』
「自分より余裕のありそうな人間を妬ましく思う気持ち、僕には分かりますよぉ……それで、ちょっとした嫌がらせのつもりで悪評広めたら、思いの外、大事になってしまって相手も後悔してるんじゃないですかぁ? ただの憶測ですけど」
彼は、厭世的な笑みを浮かべて肩をすくめる。その様を、じっと見てから、ナマエは指先で言葉を紡いだ。
『なんていうか、鍵介、俺のこと大好き?』
「はぁ?! 今、そんな話してないでしょう?!」
もっともらしく、自分の話を好意的に解釈する彼のことが、愛しい。
徐々に自身が放った台詞を思い返して、頬を赤く染めるところが可愛らしい。
「いや、だって……僕は、あなたの側の話しか知らないですし……! だから、あなたを擁護するのは当然じゃないですか?!」
『そう?』
「そうですよ!」
響鍵介がミョウジナマエを理解しているかどうかはともかく、彼が自分の味方であることは間違いないのだ。それは以前、自分が欲していた得難い存在なのである。
メビウスから持ち帰った、この繋がりを鼓動が続く限り、心を尽くして大切にしたい。
これから、どんな言葉を伝えよう。
2018/04/14
それから、持たされた心的外傷を抱え、彼は創られた楽園へと堕ちた。
◆◆◆
君の、その羽。千切れたら痛いのだろうか。
ナマエが戦闘終了後に訊いてみると、「さあ」と鍵介に素っ気なく返された。
試す訳にもいかないので、この話題は、ここで終わり。
カタルシスエフェクトを解き、一息つく。
「先輩って、現実でもその姿なんですか?」
今度は、鍵介の方がナマエに質問した。続けて、別に答えたくないなら答えなくていいと言いながらも、彼の目は答えてほしいと訴えていた。
「この姿に9年足せば現実の俺だよ」
「ってことは26歳ですか。まあ、歳上っぽいとは思ってましたけど」
「君は本当、19歳って感じ」
「すいませんね、子供っぽくて」
鍵介は、ナマエを軽く睨む。
「いや、そうじゃなくて」
「なくて?」
「可愛いよね。好き」
「……バカにしてます?」
「してないよ?」
「はぁ。あんまり嬉しくないです」
そのまま「愛す可し」という意味で言ったのだが、鍵介にはバカにしているように聞こえてしまったようだ。「好き」と付け加えたのも、逆効果だったのかもしれない。
「ごめん。でも、今のうちに言っておこうと思って。ここから帰ったら、言えなくなるからね」
「はぁ、そうですか」
鍵介は、別に怒っているのではなかった。ただ、ナマエの言葉を聞いて湧き上がる感情が理解出来ず、その感情の処理も出来なかっただけで。
「ところで、先輩は……今でも、現実に帰りたいですか? メビウスは先輩にとっては良くないものなんですか?」
「メビウスでは世界の方が変わってくれるから、自分を変えなくて済んで、楽でいいと思うよ。でも残念ながら、この世界は強くない。いずれ終わりが来るように思える。俺は逃げ切れないなら、逃げない主義なんだ」
思うに、メビウスは楽園ではない。
この不完全は、不安定は、楽園にあってはならないものだ。
μが人を誤解していること。不完全なメビウスの女神。
彼女が負の感情を溜め込み、おかしくなっていること。不安定なメビウスの女神。
それらの要素は、メビウスの土台が酷く危ういものだと認識させる。
ここが真に楽園だったのなら、帰りたいとは言わなかっただろう。
「もしも現実の世界を変えられるなら、理想的だよなぁ」
「現実は、そう簡単には変わらないですよね」
「うん。だから、やっぱり現実の自分を変えるしかない。仕方ないね」
ナマエの諦念の中には、一種の強さのようなものが見えた。
μの状態を見てメビウスの道理を悟り、現実へと立ち戻るべきだと考えている。そんな彼が、帰還という目的を完遂するところを、やっぱり鍵介は見てみたいと思った。
それから、時が過ぎて。いよいよ、最終決戦とでも言うべきものが迫って来た頃。
「現実に戻ったら、僕と会ってくれませんか? いや、ていうか、現実でも僕と話をすることが、先輩がとるべき責任だと思うんですけどぉ」
「いいよ」
「約束ですよ? あと、ふたりで会うんですからね?」
「ああ。分かった」
しょうがないなぁ、と。柔らかな笑顔で約束する彼の優しさに、すっかり頼るようになってしまった自分に、鍵介は少し呆れた。
◆◆◆
メビウスから帰還し、約束を果たす日が来た。
晴れやかな空の下、待ち合わせ場所へと進む。
「先輩、ですよね?」
シンプルなワイシャツにループタイをしている、メビウスでの姿を大人にした男が、公園のベンチに座っている。
話しかけられた男は携帯電話に文字を打つと、鍵介に見せた。
『そうだ。ミョウジナマエで合ってる。声が出ないから、これで許して』
ナマエは、これを文章読み上げ機能を用いて発話する。
「風邪……って訳じゃないみたいですね」
『心因性のもので、失声症という』
「心因性……」
少なからず、狼狽した。
そうだ、彼も現実が嫌でメビウスに来たはず。彼にも悩みがあるのだ。
失念していたが、メビウスにいたのだから当たり前だろう。彼の情緒が、あまりにも安定していたこともあり、その考えは鍵介の頭から抜け落ちていた。
足元が、ぐらつくような感覚に襲われ、誤魔化すようにベンチに腰を下ろす。
「人の相談に乗ってる場合だったんですか? 先輩」
『職業病かな』
「先輩の職業って?」
『高校の保険医』
「先輩じゃなくて先生だったんですか……なるほど……」
『なるほど?』
「先輩が面倒見いいのも、厳しいのも納得です」
『そんなに厳しい?』
逃げ道を全て塞いだ癖に、厳しくないつもりでいるのか。
「厳しいですよ。そのおかげで色々吹っ切れましたけど」
『つまり、俺に頼ると厳しくされるってことか。俺は、俺に頼るのはやめとこう。問題を解決しようとしがちだもんな』
別に、共感だけを望む相手に解決策を提案したりはしないが、そうでない場合は、確かに厳しいことを言っているのかもしれなかった。
「問題、ねぇ。僕の今の問題もなんとかしてくれませんかねぇ」
『何かあったの?』
「先輩って付き合ってる人います?」
『いない』
「そうですか。先輩って男じゃないですか」
『うん』
「現実で先輩を見れば、消えるのかなぁと思ってたんですけど……」
『消える?』
「先輩のこと好きです」
鍵介はナマエを横目で伺いながら、ばつが悪そうに告げた。
視界の端に、公園の花壇のパンジーが映る。白や紫や黄の花が、能天気に咲いていた。
この感情に消えてほしかったような、消えてほしくなかったような、どっち付かずの想いを抱えている。
消えなかった感情を吐いてはみたものの、この先、消えないとも限らない。言ってしまって良かったのだろうかと、既に後悔が始まっている。
「はぁ……なんでこんなことに……すいません、忘れてください」
スピーカーから、『やだ』の一言が発せられる。
「やだって、先輩――」
おもむろに携帯電話をポケットにしまったナマエの両手が、目を逸らすなというように、鍵介の顔に添えられた。
そして、顔を目の前に近付けたナマエの唇は4つの文字を描く。
“すきだよ”
「か、んがえなおした方がいいですよ。僕と付き合っても、いいこと無いですもん」
『そういう問題? 迷ってるなら、鍵介が答えを出すまで俺が待てばいいって話じゃない?』
ナマエは携帯電話を素早く取り出し、軽快に指を踊らせた。
「それ、アリなんですか?」
容赦なくモラトリアムを削った張本人が、今度は猶予期間を与えてくるのか。と思ったが、それとこれとは別だろう。もう少し冷静になれ、と自分に言い聞かせる。
『ありだろ』
「先輩がいいなら、僕もいいです」
『これからもよろしく』
「よろしくお願いします」
ふたりは固く握手をした。
「先輩の……先輩って呼ぶの変、ですかね?」
『呼びたいように呼ぶといい』
「うーん。ナマエさん、とか?」
『なんか良いな』
「なんか恥ずかしくなってきました」
そんな鍵介を、ナマエは上機嫌でニコニコと微笑みながら見つめている。
「ナマエさんのこと、僕に教えてください。好きな曲とか、悩みとか……なんでも……」
微笑む彼のことを、自分は何も知らない。
一番、気になることは、理由だ。
「どうして、メビウスに来てしまったんですか……?」
『君の時間を少しもらうことになるけど』
それからナマエは、とつとつと語り始めた。メビウスに至るきっかけの事件を。
聞けば、悩みの相談をしてきたひとりの生徒に逆恨みされたのが発端で、校内でバッシングを受けたのだという。
そのストレスで失声症になった彼の内に湧き上がっていた感情は――――――人間関係が煩わしい。周りは自分を理解してくれない。みんな、消えてしまえばいい。
語り終えると、ナマエの口から疑問がこぼれた。
『俺の何が悪かったんだろう?』
「思ったんですけど、先輩……ナマエさんは悪くないんじゃないですか?」
『え?』
「あなたは情緒が安定しているというか、気持ちのコントロールが上手いというか。そのせいで、冷たいと誤解されていたんじゃないですかねぇ」
鍵介は、真剣に考えを巡らせている様子だ。
「きっとナマエさんは、人より負の感情を抱かない性質なんでしょう。誰かを恨んだり、妬んだりって、あんまりしたことないんじゃないですか?」
『んー』
人生を振り返ってみると、小学校の高学年辺りから徐々にそういう性質が顕著になっていったような気がする。以降、周りの人間からは度々、「冷たい」と言われた。
『そう、かも?』
「自分より余裕のありそうな人間を妬ましく思う気持ち、僕には分かりますよぉ……それで、ちょっとした嫌がらせのつもりで悪評広めたら、思いの外、大事になってしまって相手も後悔してるんじゃないですかぁ? ただの憶測ですけど」
彼は、厭世的な笑みを浮かべて肩をすくめる。その様を、じっと見てから、ナマエは指先で言葉を紡いだ。
『なんていうか、鍵介、俺のこと大好き?』
「はぁ?! 今、そんな話してないでしょう?!」
もっともらしく、自分の話を好意的に解釈する彼のことが、愛しい。
徐々に自身が放った台詞を思い返して、頬を赤く染めるところが可愛らしい。
「いや、だって……僕は、あなたの側の話しか知らないですし……! だから、あなたを擁護するのは当然じゃないですか?!」
『そう?』
「そうですよ!」
響鍵介がミョウジナマエを理解しているかどうかはともかく、彼が自分の味方であることは間違いないのだ。それは以前、自分が欲していた得難い存在なのである。
メビウスから持ち帰った、この繋がりを鼓動が続く限り、心を尽くして大切にしたい。
これから、どんな言葉を伝えよう。
2018/04/14