ジュヴナイル
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「ここは……?」
薄暗い。後ろ手に縛られ、柱に括り付けられている。両脇に棚がある。古書や壷や置物が見える。どうやら蔵のようだ。
思い出した。ここは、アイツの。
ギィ、と音を立てて戸が開いた。見えるのは、夕日に照らされたアイツの姿だった。
「ナマエ、起きたのかい?」
戸が閉められた。
「翡翠……どういうつもりだ? 俺に何を飲ませた?」
「こうでもしないと君は僕の傍にいてくれないだろう? だから少し眠ってもらったんだよ。君が気紛れで来てくれたから、いい機会だと思ってね」
何を言ってるんだ? 翡翠の言葉が、行動が理解出来ない。
「君はすぐ何処かへ行ってしまうから心配なんだ。また大怪我でもしてるんじゃないかと」
翡翠が近付いてくる。俺の前でしゃがむと、抱き締めてきた。
「愛してるよ、ナマエ。もう離さない。誰にも渡さない」
耳元で囁かれた言葉は甘く、粘性を持った冷たさが纏わり付いた。
彼は、壊れてしまった。俺が、壊した。
◆◆◆
「ナマエ、夕飯を持ってきたよ」
「……いらない」
何が混ざってるか分かったものではない。
「駄目だよ、ナマエ。ちゃんと食べないと」
「手が使えないんでな」
「何言ってるんだナマエ。僕が食べさせるに決まってるだろう」
「…………」
「ほら、口を開けて」
「嫌だ。こんなことして何になる? いつまでも続けられると思ってるのか?」
「ナマエ、どうしてそんなことを言うんだ?」
「俺は、お前を選べない。あの春に、そう言っただろ」
カシャ、と箸が落ちた。
「僕を……選べない……? はは、そんなはずない。だって、選んだから僕に会いに来たはず。僕は選ばれた。そうじゃないと僕は、僕は……」
「翡翠……?」
「ほら、ナマエが呼んでる。僕は必要とされてる」
「……翡翠」
「好きだよ、ナマエ」
きつく抱き締められた。
「翡翠……俺もお前が好きだよ……」
「ナマエ……」
そっと頬に手が添えられ、キスされた。
これは罰だ。身勝手だった自分への。だから君が選んだ道を行こう。
◆◆◆
やはり食事には何か混ざっているらしく、最近は頭がぼうっとする。
「ナマエ、口を開けて」
「うん……」
咀嚼し、飲み込む。翡翠はクスリと笑い、俺の口の端を拭った。
「美味しいかい?」
「うん……」
「ナマエは、僕を好きだろう?」
「うん……」
「好きだよ、ナマエ」
「うん……すき……」
ひすいのことがだいすき。だけど、なにかわすれてるようなきがする。だいすきなのはだめだったはず。だけど、おれをだきしめてくれるのもすきといってくれるのもあいしてくれるのも、ひすいだけなのに。なにがだめなんだろう。よくわからない。
「ナマエ……」
ひすいにだきしめられるとうれしい。だから、だきしめかえそうとした。けれど、できない。おれのうでがなかった。いつのまになくなったんだろう。だきしめたいのに。
◆◆◆
今日は思考がはっきりしている。
「翡翠、縄を解いてくれないか?」
「どうして?」
「翡翠に触れたい」
「……わかった」
縄が解かれた。手首に痕が付いている。
「おいで、翡翠」
両手を広げると、翡翠は嬉しそうに抱き締められた。
「ナマエは、僕のものだ……」
「ああ。俺は翡翠のものだよ。だから、もっと一緒にいたい」
「ナマエ?」
「ここから出してくれ。翡翠の傍から離れないから」
「わかったよ、ナマエ」
「ありがとう」
◆◆◆
監禁から抜け出し、軟禁になった。薬入りの食事もなくなった。だが、翡翠が毎日毎日俺からの愛をねだるので困った。
「翡翠は今、幸せなのか?」
「幸せだよ、とても……」
「そうか……俺も幸せだよ……」
こんなの違う。かつては慈しみ合うことが出来たはずなのに。あの頃には戻れない。もう、遅いのだ。
「きっと今が一番幸せだろうな……」
「ナマエ……?」
これからは、もう沈むだけ。残された時の中では“今”が一番マシだろう。
「翡翠、愛してる。俺と一緒に死んでくれる?」
「……ああ。僕の運命は君と共にあるから」
「何処か遠く、綺麗なところへ行こう」
この汚濁を洗い流せるような。
2015/07/10サルベージ
薄暗い。後ろ手に縛られ、柱に括り付けられている。両脇に棚がある。古書や壷や置物が見える。どうやら蔵のようだ。
思い出した。ここは、アイツの。
ギィ、と音を立てて戸が開いた。見えるのは、夕日に照らされたアイツの姿だった。
「ナマエ、起きたのかい?」
戸が閉められた。
「翡翠……どういうつもりだ? 俺に何を飲ませた?」
「こうでもしないと君は僕の傍にいてくれないだろう? だから少し眠ってもらったんだよ。君が気紛れで来てくれたから、いい機会だと思ってね」
何を言ってるんだ? 翡翠の言葉が、行動が理解出来ない。
「君はすぐ何処かへ行ってしまうから心配なんだ。また大怪我でもしてるんじゃないかと」
翡翠が近付いてくる。俺の前でしゃがむと、抱き締めてきた。
「愛してるよ、ナマエ。もう離さない。誰にも渡さない」
耳元で囁かれた言葉は甘く、粘性を持った冷たさが纏わり付いた。
彼は、壊れてしまった。俺が、壊した。
◆◆◆
「ナマエ、夕飯を持ってきたよ」
「……いらない」
何が混ざってるか分かったものではない。
「駄目だよ、ナマエ。ちゃんと食べないと」
「手が使えないんでな」
「何言ってるんだナマエ。僕が食べさせるに決まってるだろう」
「…………」
「ほら、口を開けて」
「嫌だ。こんなことして何になる? いつまでも続けられると思ってるのか?」
「ナマエ、どうしてそんなことを言うんだ?」
「俺は、お前を選べない。あの春に、そう言っただろ」
カシャ、と箸が落ちた。
「僕を……選べない……? はは、そんなはずない。だって、選んだから僕に会いに来たはず。僕は選ばれた。そうじゃないと僕は、僕は……」
「翡翠……?」
「ほら、ナマエが呼んでる。僕は必要とされてる」
「……翡翠」
「好きだよ、ナマエ」
きつく抱き締められた。
「翡翠……俺もお前が好きだよ……」
「ナマエ……」
そっと頬に手が添えられ、キスされた。
これは罰だ。身勝手だった自分への。だから君が選んだ道を行こう。
◆◆◆
やはり食事には何か混ざっているらしく、最近は頭がぼうっとする。
「ナマエ、口を開けて」
「うん……」
咀嚼し、飲み込む。翡翠はクスリと笑い、俺の口の端を拭った。
「美味しいかい?」
「うん……」
「ナマエは、僕を好きだろう?」
「うん……」
「好きだよ、ナマエ」
「うん……すき……」
ひすいのことがだいすき。だけど、なにかわすれてるようなきがする。だいすきなのはだめだったはず。だけど、おれをだきしめてくれるのもすきといってくれるのもあいしてくれるのも、ひすいだけなのに。なにがだめなんだろう。よくわからない。
「ナマエ……」
ひすいにだきしめられるとうれしい。だから、だきしめかえそうとした。けれど、できない。おれのうでがなかった。いつのまになくなったんだろう。だきしめたいのに。
◆◆◆
今日は思考がはっきりしている。
「翡翠、縄を解いてくれないか?」
「どうして?」
「翡翠に触れたい」
「……わかった」
縄が解かれた。手首に痕が付いている。
「おいで、翡翠」
両手を広げると、翡翠は嬉しそうに抱き締められた。
「ナマエは、僕のものだ……」
「ああ。俺は翡翠のものだよ。だから、もっと一緒にいたい」
「ナマエ?」
「ここから出してくれ。翡翠の傍から離れないから」
「わかったよ、ナマエ」
「ありがとう」
◆◆◆
監禁から抜け出し、軟禁になった。薬入りの食事もなくなった。だが、翡翠が毎日毎日俺からの愛をねだるので困った。
「翡翠は今、幸せなのか?」
「幸せだよ、とても……」
「そうか……俺も幸せだよ……」
こんなの違う。かつては慈しみ合うことが出来たはずなのに。あの頃には戻れない。もう、遅いのだ。
「きっと今が一番幸せだろうな……」
「ナマエ……?」
これからは、もう沈むだけ。残された時の中では“今”が一番マシだろう。
「翡翠、愛してる。俺と一緒に死んでくれる?」
「……ああ。僕の運命は君と共にあるから」
「何処か遠く、綺麗なところへ行こう」
この汚濁を洗い流せるような。
2015/07/10サルベージ