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処理し切れない。
ギリシャ神話など勉強するべきではなかった。記憶を消したい。
バレンタインデーにヘクトールにチョコを贈ったところ、お返しとして渡されたトロイの木馬のミニチュアを眺め、ナマエは溜め息を吐いた。
ベッド近くのサイドテーブルに置いたそれを、指先で軽くつつく。トロイア戦争の顛末を知った後の自分は、この木馬に込められた想いの深さに戸惑ってしまう。
ヘクトールのことを、信頼している。しかし彼の言葉は、いまいち信用ならない。
彼は自分を、身命を賭して守ろうとしたトロイアのように愛していると言う。彼は、自分が彼を愛するように、自分を愛していると宣う。
(それって、嘘なんでしょう……?)
想いが通じていると思わせておいた方が、マスターのためになるから。マスターを守るために必要なことだから、嘘をついているのかもしれない。結局のところ、聞き分けのない子供を黙らせたいだけなのではないかと、ナマエは疑い続けている。
なんだか頭が痛くなって、彼はベッドに横になり天井を見上げた。このまま眠ってしまおうかとも思った。だが一度、ヘクトールが真実を告げていると信じたつもりで、思考を巡らせてみることにした。
“今のオジサンにとっちゃあ、マスターがトロイアです”
それが真実なのだとしたら、なんと嬉しいことだろうか。そして、その愛に自分のものと同じものを含んでいるとしたら、なんと幸福なことだろう。
故に、それは受け入れ難いのだ。
◆◆◆
「ヘクトールが真実、オレを愛してくれていたとしたら、その愛はオレなんかには相応しくないんじゃないかと」
自室にヘクトールを呼び、思いの丈を打ち明けた。
「でも、先に相応しくないもの寄越したのはマスターですよ?」
「え…………?」
すると、予想外の返しが待っていた。
(ヘクトールに何かあげたっけ?)
考えてみても、チョコレート以外は特に出て来なかった。
「聖杯9つ」
「あ…………」
呆れ顔のヘクトールに言われてみれば、思い当たる節がある。それを使った理由に。
「オレ、もしかして戦力的な意味でヘクトールに聖杯使ったんじゃなくて、好きだから使った? 贔屓で?」
「だと思いますよ」
「嘘……全然気付かなかった…………え、でも、なんで誰も止めなかったの?」
ナマエは青ざめた顔で、声のトーンを落として訊いた。
「初めから、マスターが誰に使ってもいいものだったんじゃないかね」
恐らく、ダ・ヴィンチやカルデアのスタッフたちは、そのことを折り込み済みだったのだ。
「つまりアレは、オレが安心するためのお守りみたいなものだったのか……」
「そうそう。マスターは、戦力なんて度外視でオジサンをお守りに選んでくれちゃったってこと」
「オレって公平なマスターじゃない?!」
「人間ってそういうもんですよ」
「秘密だから! 聖杯使ったことも、本命チョコあげたことも!」
聖杯を使ったことはダ・ヴィンチらには知られているが、それ以上は広めたくないし、例のチョコレートの方はヘクトールが喋らなければ、レイシフト先で渡した時にモニタリングしていたスタッフ以外には知られずに済むはずだ。
「へいへい、了解」
「約束破ったら、トロイの木馬呑み込んで死ぬからな!」
「さすがにその死なれ方はキツい」
照れ隠しを口にしながら、ナマエは少し前向きな考えを持った。お互いに相手に相応しくないものを贈っていたなんて。案外、このサーヴァントに相応しいマスターとして在ることが出来ているのかもしれない、と。
2017/03/13
ギリシャ神話など勉強するべきではなかった。記憶を消したい。
バレンタインデーにヘクトールにチョコを贈ったところ、お返しとして渡されたトロイの木馬のミニチュアを眺め、ナマエは溜め息を吐いた。
ベッド近くのサイドテーブルに置いたそれを、指先で軽くつつく。トロイア戦争の顛末を知った後の自分は、この木馬に込められた想いの深さに戸惑ってしまう。
ヘクトールのことを、信頼している。しかし彼の言葉は、いまいち信用ならない。
彼は自分を、身命を賭して守ろうとしたトロイアのように愛していると言う。彼は、自分が彼を愛するように、自分を愛していると宣う。
(それって、嘘なんでしょう……?)
想いが通じていると思わせておいた方が、マスターのためになるから。マスターを守るために必要なことだから、嘘をついているのかもしれない。結局のところ、聞き分けのない子供を黙らせたいだけなのではないかと、ナマエは疑い続けている。
なんだか頭が痛くなって、彼はベッドに横になり天井を見上げた。このまま眠ってしまおうかとも思った。だが一度、ヘクトールが真実を告げていると信じたつもりで、思考を巡らせてみることにした。
“今のオジサンにとっちゃあ、マスターがトロイアです”
それが真実なのだとしたら、なんと嬉しいことだろうか。そして、その愛に自分のものと同じものを含んでいるとしたら、なんと幸福なことだろう。
故に、それは受け入れ難いのだ。
◆◆◆
「ヘクトールが真実、オレを愛してくれていたとしたら、その愛はオレなんかには相応しくないんじゃないかと」
自室にヘクトールを呼び、思いの丈を打ち明けた。
「でも、先に相応しくないもの寄越したのはマスターですよ?」
「え…………?」
すると、予想外の返しが待っていた。
(ヘクトールに何かあげたっけ?)
考えてみても、チョコレート以外は特に出て来なかった。
「聖杯9つ」
「あ…………」
呆れ顔のヘクトールに言われてみれば、思い当たる節がある。それを使った理由に。
「オレ、もしかして戦力的な意味でヘクトールに聖杯使ったんじゃなくて、好きだから使った? 贔屓で?」
「だと思いますよ」
「嘘……全然気付かなかった…………え、でも、なんで誰も止めなかったの?」
ナマエは青ざめた顔で、声のトーンを落として訊いた。
「初めから、マスターが誰に使ってもいいものだったんじゃないかね」
恐らく、ダ・ヴィンチやカルデアのスタッフたちは、そのことを折り込み済みだったのだ。
「つまりアレは、オレが安心するためのお守りみたいなものだったのか……」
「そうそう。マスターは、戦力なんて度外視でオジサンをお守りに選んでくれちゃったってこと」
「オレって公平なマスターじゃない?!」
「人間ってそういうもんですよ」
「秘密だから! 聖杯使ったことも、本命チョコあげたことも!」
聖杯を使ったことはダ・ヴィンチらには知られているが、それ以上は広めたくないし、例のチョコレートの方はヘクトールが喋らなければ、レイシフト先で渡した時にモニタリングしていたスタッフ以外には知られずに済むはずだ。
「へいへい、了解」
「約束破ったら、トロイの木馬呑み込んで死ぬからな!」
「さすがにその死なれ方はキツい」
照れ隠しを口にしながら、ナマエは少し前向きな考えを持った。お互いに相手に相応しくないものを贈っていたなんて。案外、このサーヴァントに相応しいマスターとして在ることが出来ているのかもしれない、と。
2017/03/13