刀
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その10歳の少年には、母親がいなかった。
それに、父親が誰なのかも分からないでいる。
息子を産んですぐに亡くなった母、世良輝子 は、誰が訊いても父親の名を決して喋らなかった。
時は流れて。
審神者だった母の本丸、光華城 を継いだ世良照太 は、今日も元気に過ごしていた。
「蜻蛉切!」
「どうなさいました? 主」
「見て! デッケェカマキリ!」
「見事ですね」
「だろ?!」
自慢気に言ってから、指先で持ったカマキリを虫籠に戻す照太。
「今日は、コイツを描くんだ」
「なるほど。また図鑑の完成に近付きますな」
「うん!」
少年は、ニコニコとした顔を近侍に向けている。
小さな主は、絵を描くのが好きで、自分の力で図鑑を作成するのが夢であった。
その夢を、蜻蛉切を始めとした刀剣男士たちは微笑ましく見守っている。
照太は、蜻蛉切と話しながらカマキリを描いた。
色鉛筆で紙に描かれたそれは、よく特徴を捉えられている。
「ねえ」
「はい」
「図鑑が出来たら、母さんも喜んでくれるかな?」
「ええ、もちろん。輝子様は、研究者気質の知的な方でしたから」
「そっか」
照太は、嬉しそうに笑った。
審神者の私室には、亡き母の写真が飾られている。写真の中の輝子は、白衣を着て、理知的に微笑んでいた。
「主、そろそろ昼餉の時間です」
「やだ! 今日は、虫取りとお絵描きしかしない!」
「しかし、主……」
「やだやだやだやだ!」
「……失礼します」と、一応断ってから、蜻蛉切は駄々をこねる少年を抱え上げる。
「うわーっ!? ズルい! 大人って!」
「そう思うのでしたら、しっかり食事を摂り、大きくなってください」
「ぎぃ~!」
照太は、じたばたと手足を動かすが、蜻蛉切の両腕はびくともしない。
そのまま審神者は、茶の間へと連れて行かれた。
厨番が用意した昼食は、栄養価と彩りを考えられたもので、非常に美味しそうである。
渋々と席に着いた照太だったが、結局は笑顔でそれを完食した。
「ごちそうさま! 虫取って来る!」
弾丸のように外へ飛び出す少年の後を、蜻蛉切がすぐに追う。
「主、お待ちください!」
そんな、ささやかで目映い日常の風景。
しかし、光があれば影もある。
とある刀剣男士は、ふたりを密かに観察していた。
いつか、真実に辿り着いた時。少年は何を思うのだろうか?
嘆くのか、怒るのか。はたまた両方か。
今はまだ、誰にも分からない。
観測者は、黙したまま。
暁と黄昏は、似た色をしている。
◆◆◆
これは、少し昔の話。
白衣の審神者の世良輝子と、その刀である南海太郎朝尊の物語。
「南海」
「なにかな? 主」
「アタシたちは、刀剣男士について研究している。そうだな?」
「ああ、もちろん」
「ひとつ、実験をしたいのだけれど、キミに協力してほしい」
「ふむ」
その実験とは、人間と刀剣男士の間に子供が出来るか? というものだった。
南海は、少し思案した後、輝子の実験に協力することを了承する。
ふたりは、その晩から実験を始めた。
「とりあえず、キミは寝ていればいい。アタシがリードするから」
輝子が南海の上に跨がり、性行為が始まる。
体内に南海のモノを受け入れ、「ここに子宮がある」と、輝子は下腹部に手を滑らせた。
「いいな? 南海」
「分かっているよ」
「続けよう」
「ああ」
研究者たちは、夜毎に“実験”をする。
そんな日々が続いた、ある日。
世良輝子は、妊娠した。
「南海、研究室に来てくれ」
南海を呼び出し、実験の結果を告げる輝子。
「興味深い結果だ」
「あとは、無事に産まれることを祈るしかないな」と、輝子は腹をさすった。
果たして、生まれて来る子は、どのような姿をしているのだろうか?
普通の人間か、それとも。
日に日に大きくなる腹。他の刀剣男士には、父親は誰かと訊かれたが、審神者は口を割らなかった。
時は流れて。
輝子は出産した。赤子は、元気な男子だった。
「見た目は、普通みたいだな……?」
「そうだね」
輝子は、床についている。産後の彼女は、とても弱っていた。
「名前は、照太にする」
「うん。いい名前だ」
南海の腕の中の赤子は、すやすやと寝ている。
「少し疲れた。寝る。その子の世話は、持ち回りで頼む。キミが父親であることは、誰にも言わないように」
「分かった」
輝子が眠りにつくのを見届けてから、南海は部屋から出た。
一週間後。輝子は、目に見えて具合が悪そうだった。
私室に南海を呼び、弱々しく口を開く。
「南海、アタシはもうすぐ死ぬ。おそらく、キミの神気に体が耐えられなかったのだろう。ひとりでも、実験を続けてほしい。あの子を、照太を観測し続けてくれ。頼む」
「ああ。しかと承った。任せてほしい」
「ありがとう。もうひとつだけ、頼みがある」
「なんだい?」
「一度だけでいい、キスしてくれ……」
「…………」
南海は、輝子の望みを叶えた。
ふたりが口付けをしたのは、この一度切り。
「刀たちを呼んで来てくれ。キミだけに看取らせるのは、よくない」
「ああ、すぐに戻るよ」
そして、刀剣男士たちが集められてから、輝子は遺言を残す。
「キミたち全員に頼みがある。アタシの子供、照太のことを助けてやってくれ。アタシは、あの子にもう何もしてやれなくなる。残念だが」
皆が黙り込む中、輝子は一呼吸置いてから続けた。
「……素晴らしい研究者人生だったな」
それが、最期の言葉。
審神者、世良輝子は息を引き取った。
刀剣男士たちは、悲しそうにしたり、泣いたり、歯を食い縛ったり、様々である。
南海太郎朝尊は、ただ、その様子を静かに見ていた。
実験は、まだ終わっていない。
世良照太の観測を続けることが、主への手向けだ。
自分は、愛した女に誓ったのだから。
それに、父親が誰なのかも分からないでいる。
息子を産んですぐに亡くなった母、
時は流れて。
審神者だった母の本丸、
「蜻蛉切!」
「どうなさいました? 主」
「見て! デッケェカマキリ!」
「見事ですね」
「だろ?!」
自慢気に言ってから、指先で持ったカマキリを虫籠に戻す照太。
「今日は、コイツを描くんだ」
「なるほど。また図鑑の完成に近付きますな」
「うん!」
少年は、ニコニコとした顔を近侍に向けている。
小さな主は、絵を描くのが好きで、自分の力で図鑑を作成するのが夢であった。
その夢を、蜻蛉切を始めとした刀剣男士たちは微笑ましく見守っている。
照太は、蜻蛉切と話しながらカマキリを描いた。
色鉛筆で紙に描かれたそれは、よく特徴を捉えられている。
「ねえ」
「はい」
「図鑑が出来たら、母さんも喜んでくれるかな?」
「ええ、もちろん。輝子様は、研究者気質の知的な方でしたから」
「そっか」
照太は、嬉しそうに笑った。
審神者の私室には、亡き母の写真が飾られている。写真の中の輝子は、白衣を着て、理知的に微笑んでいた。
「主、そろそろ昼餉の時間です」
「やだ! 今日は、虫取りとお絵描きしかしない!」
「しかし、主……」
「やだやだやだやだ!」
「……失礼します」と、一応断ってから、蜻蛉切は駄々をこねる少年を抱え上げる。
「うわーっ!? ズルい! 大人って!」
「そう思うのでしたら、しっかり食事を摂り、大きくなってください」
「ぎぃ~!」
照太は、じたばたと手足を動かすが、蜻蛉切の両腕はびくともしない。
そのまま審神者は、茶の間へと連れて行かれた。
厨番が用意した昼食は、栄養価と彩りを考えられたもので、非常に美味しそうである。
渋々と席に着いた照太だったが、結局は笑顔でそれを完食した。
「ごちそうさま! 虫取って来る!」
弾丸のように外へ飛び出す少年の後を、蜻蛉切がすぐに追う。
「主、お待ちください!」
そんな、ささやかで目映い日常の風景。
しかし、光があれば影もある。
とある刀剣男士は、ふたりを密かに観察していた。
いつか、真実に辿り着いた時。少年は何を思うのだろうか?
嘆くのか、怒るのか。はたまた両方か。
今はまだ、誰にも分からない。
観測者は、黙したまま。
暁と黄昏は、似た色をしている。
◆◆◆
これは、少し昔の話。
白衣の審神者の世良輝子と、その刀である南海太郎朝尊の物語。
「南海」
「なにかな? 主」
「アタシたちは、刀剣男士について研究している。そうだな?」
「ああ、もちろん」
「ひとつ、実験をしたいのだけれど、キミに協力してほしい」
「ふむ」
その実験とは、人間と刀剣男士の間に子供が出来るか? というものだった。
南海は、少し思案した後、輝子の実験に協力することを了承する。
ふたりは、その晩から実験を始めた。
「とりあえず、キミは寝ていればいい。アタシがリードするから」
輝子が南海の上に跨がり、性行為が始まる。
体内に南海のモノを受け入れ、「ここに子宮がある」と、輝子は下腹部に手を滑らせた。
「いいな? 南海」
「分かっているよ」
「続けよう」
「ああ」
研究者たちは、夜毎に“実験”をする。
そんな日々が続いた、ある日。
世良輝子は、妊娠した。
「南海、研究室に来てくれ」
南海を呼び出し、実験の結果を告げる輝子。
「興味深い結果だ」
「あとは、無事に産まれることを祈るしかないな」と、輝子は腹をさすった。
果たして、生まれて来る子は、どのような姿をしているのだろうか?
普通の人間か、それとも。
日に日に大きくなる腹。他の刀剣男士には、父親は誰かと訊かれたが、審神者は口を割らなかった。
時は流れて。
輝子は出産した。赤子は、元気な男子だった。
「見た目は、普通みたいだな……?」
「そうだね」
輝子は、床についている。産後の彼女は、とても弱っていた。
「名前は、照太にする」
「うん。いい名前だ」
南海の腕の中の赤子は、すやすやと寝ている。
「少し疲れた。寝る。その子の世話は、持ち回りで頼む。キミが父親であることは、誰にも言わないように」
「分かった」
輝子が眠りにつくのを見届けてから、南海は部屋から出た。
一週間後。輝子は、目に見えて具合が悪そうだった。
私室に南海を呼び、弱々しく口を開く。
「南海、アタシはもうすぐ死ぬ。おそらく、キミの神気に体が耐えられなかったのだろう。ひとりでも、実験を続けてほしい。あの子を、照太を観測し続けてくれ。頼む」
「ああ。しかと承った。任せてほしい」
「ありがとう。もうひとつだけ、頼みがある」
「なんだい?」
「一度だけでいい、キスしてくれ……」
「…………」
南海は、輝子の望みを叶えた。
ふたりが口付けをしたのは、この一度切り。
「刀たちを呼んで来てくれ。キミだけに看取らせるのは、よくない」
「ああ、すぐに戻るよ」
そして、刀剣男士たちが集められてから、輝子は遺言を残す。
「キミたち全員に頼みがある。アタシの子供、照太のことを助けてやってくれ。アタシは、あの子にもう何もしてやれなくなる。残念だが」
皆が黙り込む中、輝子は一呼吸置いてから続けた。
「……素晴らしい研究者人生だったな」
それが、最期の言葉。
審神者、世良輝子は息を引き取った。
刀剣男士たちは、悲しそうにしたり、泣いたり、歯を食い縛ったり、様々である。
南海太郎朝尊は、ただ、その様子を静かに見ていた。
実験は、まだ終わっていない。
世良照太の観測を続けることが、主への手向けだ。
自分は、愛した女に誓ったのだから。
