アイマス
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私の友達は、眠り姫だったらしい。
いや、起きてるんだけどさ。才能を眠らせていたらしいのだ。それも、とんでもない宝石みたいな才能を。
アイドルの才能を花開かせた友人の名前は、田中摩美々。
プロデューサーといたら面白そうだからアイドルになってみただけで、目標とかはないとか言ってた癖に、なんか凄いライブに出ることになったんだって。
私は、今までの摩美々のアイドル活動を出来るだけ追ってきている。
CD買ったり、雑誌買ったり、ラジオ聴いたり、ミニライブ行ったり。お渡し会と握手会は、恥ずかしいから行ってない。熱心に摩美々の活動を追っていることは、なんとなく内緒にしているし。
アイドルのタマゴになった頃の摩美々に、質問したことがある。
「プロデューサーってどんな人なのォ?」
「プロデューサーはぁ、ヘンな人ー」
「ふーん」
なんだか楽しそうで、私は嫉妬した。楽しそうなことをしている摩美々の隣に、私はいないのだ。寂しいってのが正直な気持ち。
私はアイドルにはなれないだろうな。才能ないし、努力なんて嫌いだし。
続いて、私は質問する。
「仕事どうだったァ?」
「フルーツタルトが美味しかったぁ」
「どういうこと……?」
食レポかなんか?
「プロデューサーからの差し入れー」
ああ、なるほどねェ。
私は、この時、少しほっとした。
やる気なんて、全然ないみたい。摩美々が一般人に戻る日は近いのかも。
私と一緒に、ずっと、だらけててほしいもん。汗を流してダンスしたり、歌ったりする摩美々なんて、摩美々じゃないよ。夜に、ふたりで、ふらふら歩いたり(ウチは門限が厳しくて、こっそり抜け出さないとだから、たまにしか出来ないけど)、爬虫類ショップに行ったり、服を見に行ったり。そういうのが、摩美々には似合ってる。
そうなのに、摩美々はアイドルユニットを組まされて、レッスンとかしてるワケだ。カワイソーだよ。
私が内申点のために、クラスで委員長をしているみたいな? いや、それよりずっと大変だと思うけど。とにかく、摩美々に努力は似合わないのである。
それから、アイドルになってしばらくしてから、摩美々に話を聞いてみると、努力とかしなくても、さらっとアイドルをこなせているようだった。だから、意外と長続きしてるのかァ、とこの時の私は納得する。
でもそれは、私の思い違いだったのだ。
だって摩美々は、W.I.N.G.っていう凄いライブに出られる資格を持っているのだから。
スマホで調べたところ、W.I.N.G.とは、ワンダーアイドルノヴァ・グランプリといって、新人アイドルの祭典なんだそうだ。それに出場するには厳しい審査が何度もあり、出場したらしたで、今度は優勝争いをするライブであるらしい。
摩美々と勝負事は、縁遠い存在だと思っていた。
しかし、W.I.N.G.に、摩美々は出場する。
眠り姫は起きたのだ。
才能がある上で、努力もしなくては立てないステージだと理解している。
摩美々は、私に努力してるところなんて見せない。でも、本当はしているのだと、私は考えている。
そんな彼女を、誰が応援せずにいられるだろう。
段々と、私は、摩美々の一歩引いたファンではなくなっていった。ただの熱心なファンの、出来上がりである。
私は、結局のところ、ただ単純に、田中摩美々が大好きなのだ。
だから私は、そのことを伝えることにしたのである。
夜の、ふたりきりの公園で、摩美々と並んでベンチに座った。綺麗な月が、私たちを照らしていて、きらきらの星空が、私たちの上に広がっている。
「それでぇ、なんの用なのー? ナマエ」
「私、ほんとはねェ、摩美々が思ってるより摩美々のこと応援してるんだァ……」
W.I.N.G.にも、絶対に応援に行きたい。摩美々に優勝してほしい。
「最初は、摩美々がアイドルなんて、すぐやめるに決まってるって思ってた。でも、摩美々がアイドルしてるとこ見てるとさァ、なんか嬉しくなるんだよねェ。私の友達はこんなに可愛いんだぞ~! 見たか~! みたいな」
「褒めてるー?」
「めっちゃ褒めてるっしょ」
「ふふー。ありがとー」
隣の摩美々は、小悪魔っぽく笑っている。そんな表情も、凄く魅力的だ。
「摩美々はアイドル頑張ってるけど、それでも、私らは、だらけ友達のままだって。今は思ってるからね。これからも、よろしくね」
「なにそれぇ、ヘンなナマエー。ナマエは、だらけ友達だしぃ、爬虫類好き仲間だしぃ、めんどー嫌い同士だからぁ。つまり、これからもよろしく」
「うん!」
こうして私は、名実共に、田中摩美々のファンになったのである。
その後、W.I.N.G.で摩美々は優勝した。
私は、泣いた。ペンライトを握った両手の甲に、ボロボロと雫を落とす。
「摩美々……やったね…………」
思わず、小さく呟いた。
会場を出て、帰りの電車に乗ってから、スマホを取り出してお祝いメッセージを摩美々に送る。
「はぁ…………」
コンパクトを覗くと、少し目が腫れていた。摩美々のせいだ。
最寄り駅から道を歩き、自宅へと向かう。
空には、星々が美しく光り輝いている。
今日の摩美々は、星みたいに綺麗に輝いていた。けど、星みたいに遠い存在じゃない。そのことが嬉しくて、私は、また泣いた。
帰宅してからは、いつも通りにペットの可愛い蛇たちの世話をする。
ボールパイソン(ノーマル)とコーンスネーク(ブラッドレッド)が一匹ずつ。
ペットシーツの交換や水の交換、それから、今日は冷凍マウスを解凍し、ピンセットで挟んで食べさせた。
「よしよし」
久し振りに、摩美々に私のペットに会ってもらいたいな。それに、摩美々のペットたちにも会いたいな。今度、いつ遊べるかな。きっと忙しくなるから、しばらくはムリなんだろうな。
少しだけ寂しい。
そんなことを考えていると、スマホにメッセージが届いた。
摩美々からだ。
『お祝いありがとう。今度のオフの日に家に来ない? エンツォたちに会いに来てよ』
エンツォとは、摩美々が飼っている可愛いカメレオンの名前である。
願ってもない話だ。私は、ふたつ返事でオーケーした。
摩美々の終日オフの日。
私はウキウキと、普段は髪で隠れている耳を出して、お気に入りのピアスを着けた。そして、午前中から摩美々の家へと出かける。
手土産は、美味しいと評判のチョコレートケーキにした。
到着。家には摩美々しかいないらしい。
広々とした摩美々の自室は、相変わらず黒基調でまとめられていてお洒落で、綺麗に片付いている。
「元気? 最近忙しいでしょ。体調管理出来てるゥ?」
「元気元気ー。エンツォたちも元気だよー」
摩美々も相変わらずで、パンキッシュな私服を着こなしていた。このまま雑誌の表紙を飾れそうだ。
「そりゃよかった」
摩美々が用意したメロンソーダを飲み、手土産のケーキを食べ、談笑する。摩美々と話してると、あっという間に時間が過ぎていく。
その後は、エンツォたちと戯れたり、映画のDVDを観たりした。さよならの時間は、やっぱり、すぐに来た。
「アイドル活動、応援してるけど、ムリはしないよーに!」
「はぁい」
「じゃあ、またねェ」
「うん、またー」
◆◆◆
283プロダクションが、ファン感謝祭というライブを開催することが決定した。
もちろん、私は参戦するつもりだ。大好きな摩美々のためにも。
ライブ当日、ステージの上の摩美々は、アンティーカは、アイドルたちは、皆きらきらしていた。
圧倒された。素晴らしい時間を過ごせた。
けれど、何故か私はライブの詳細な記憶を失ってしまったので、早くブルーレイにして買わせてほしい。
感謝祭ライブから、しばらくして。
アンティーカの公式サイトをスマホでチェックしていると、グッドラフ・テラスという、泣いたら退去するルールのリアリティーショーの撮影開始というニュースが掲載されていた。
試験も近いのに、リアリティーショーもやるなんて、摩美々大変そう。
でも、摩美々なら心配ないか。頭悪くないし。
試験勉強一緒にやりたかったけど、撮影あるなら直帰かなァ。じゃなくても、アンティーカのメンバーと会うだろうしなァ。ザンネン。
この時は、軽くそう思っただけなのだが。
アンティーカの共同生活を映すリアリティーショーの第一回目がオンエアされた、次の日。
「テレビ観たよォ。グッドラフ・テラス」
「……あー観たんだー」
そりゃあ、観る。
それに、ナイショだけど、グッドラフのマスカラ買っちゃったし。今となっては買って良かったのかどうか、って感じだけど。
「ありがとー、ナマエ。番組、どうだったぁ?」
摩美々の表情が、明らかに暗い。
「恋鐘サン、料理上手過ぎでしょ~」
私は、努めて明るく振る舞った。
「ああ、あれねー。そうだねぇ」
摩美々が頷く。
「あとォ、摩美々の寝顔見れると思ったら、夜はカメラ止まるんだねェ」
「……そりゃそーだよー」
少しの、間。
沈黙の後にやって来たのは、摩美々からの、予想出来た質問。
「ねぇ、ナマエ。あの三峰のところ、どう思った?」
やっぱり、そう来るかァ。
私は、グッドラフ・テラスのネット評を検索済みだ。だから、あのシーンのネットでの評判を知っている。三峰サンを上げて、恋鐘サンを下げるカキコミの多いこと。
「んー、あれさ。テレビじゃん? ってことは、そのままのアンティーカじゃないワケでしょ?」
「そう……そうなんだよ…………」
摩美々の望む答えを返せたようだ。
彼女の表情が、僅かに明るくなった。
摩美々が落ち込んでいると、私まで落ち込んでしまう。早く、摩美々が抱えてるものが解決に向かうといいな。
私は家に帰ってから、グッドラフ・テラスの録画を消した。
驚いたことに、グッドラフ・テラスは、三回目の放送以降、熱血スポ根番組と化す。
高校組の3人が、試験の成績目標を決め、達成出来なければペナルティーポイントが計上されるというハードルを設定したのである。
私は、心の底からアンティーカを応援した。
神社へ行き、神頼みまでした。どうか、トータルで、好評のまま番組が終わりますように。摩美々が悲しむようなことが起こりませんように。
その後、グッドラフ・テラスは、全六回を好評のまま終えた。
また、摩美々がオフの日がきた。
今度は、私の家に彼女が遊びに来る。
午前中から摩美々が来て、彼女が好きなメロンクリームソーダを振る舞った。
それから、ふたりで蛇たちと戯れたり、お互いにネイルをしたりと、楽しい時間を過ごす。
「髪、伸びたねぇ。切るー?」
出し抜けに、摩美々が言った。
「あー。じゃあ、お願いしようかなァ」
家の庭で、摩美々に髪を切ってもらうことにする。
摩美々は、得意げにハサミをしゃきしゃきと鳴らして、私の髪を切る。
私は少しだけ緊張して、バスタオルを肩からかけて、椅子に座っている。
「んー。上手く出来たぁ」
「ほんと? 鏡貸してェ」
「はぁい」
手鏡で、正面から顔を映す。
いい感じになっている。
「ありがと。さっすが田中サン」
「ふふー。そうでしょー。さすが、まみみ」
摩美々は上機嫌だ。
暖かな陽が、私たちを照らす庭で、穏やかにふたりで過ごす時間を噛み締める私。
摩美々も、同じように思ってくれていたら、嬉しい。
◆◆◆
他人はよく、私と摩美々が何故つるんでいるのか分からないと言う。
それは、私が真面目な振りをしているからだろう。
私は、全力で手抜きをしながら、生きているというのに。
私、ミョウジナマエという人間は、めんどーなことが大嫌いだ。
前に、「私は、摩美々と違って良い子だからねェ」なんて、ふざけて言ったことがある。
私は、表面的な良い子になるのが得意なのだ。
摩美々の言う「悪い子」ではないけど、「良い子」でもない私は、きっと「普通の子」なのだろう。
漫然と中学から高校へと進学し、漫然と大学に進学しようかな、などと考えている。
けれど、なんだか最近、物足りなさを感じていた。
私の将来、なんとなくで決まっちゃうの?
なんだか、それって嫌だな。
そう思うようになった。
そして、私は考えた。考え抜いて出た結論は、「摩美々と仕事がしてみたい」だったのである。
例えば、どこかの会社で広報として働くとして、アンティーカを宣伝に起用することを提案するとか。
作曲家や作詞家になってみるとか、映像作家になってみるとか。
メイクアップアーティストになるとか、ファッションデザイナーになるとか。
私の夢、なにか見付かるだろうか?
まだ遅くないはずだ。探してみよう。
私が自身の机で頬杖をついて思案していると、クラスメイトが話しかけてきた。
「委員長、カラオケ行かない?」
「行く!」
カラオケは、私の趣味のひとつだ(ちなみに、もうひとつの趣味は散歩)。
歌う曲はもちろん、運命を切り開く歌である。
2020/06/19
いや、起きてるんだけどさ。才能を眠らせていたらしいのだ。それも、とんでもない宝石みたいな才能を。
アイドルの才能を花開かせた友人の名前は、田中摩美々。
プロデューサーといたら面白そうだからアイドルになってみただけで、目標とかはないとか言ってた癖に、なんか凄いライブに出ることになったんだって。
私は、今までの摩美々のアイドル活動を出来るだけ追ってきている。
CD買ったり、雑誌買ったり、ラジオ聴いたり、ミニライブ行ったり。お渡し会と握手会は、恥ずかしいから行ってない。熱心に摩美々の活動を追っていることは、なんとなく内緒にしているし。
アイドルのタマゴになった頃の摩美々に、質問したことがある。
「プロデューサーってどんな人なのォ?」
「プロデューサーはぁ、ヘンな人ー」
「ふーん」
なんだか楽しそうで、私は嫉妬した。楽しそうなことをしている摩美々の隣に、私はいないのだ。寂しいってのが正直な気持ち。
私はアイドルにはなれないだろうな。才能ないし、努力なんて嫌いだし。
続いて、私は質問する。
「仕事どうだったァ?」
「フルーツタルトが美味しかったぁ」
「どういうこと……?」
食レポかなんか?
「プロデューサーからの差し入れー」
ああ、なるほどねェ。
私は、この時、少しほっとした。
やる気なんて、全然ないみたい。摩美々が一般人に戻る日は近いのかも。
私と一緒に、ずっと、だらけててほしいもん。汗を流してダンスしたり、歌ったりする摩美々なんて、摩美々じゃないよ。夜に、ふたりで、ふらふら歩いたり(ウチは門限が厳しくて、こっそり抜け出さないとだから、たまにしか出来ないけど)、爬虫類ショップに行ったり、服を見に行ったり。そういうのが、摩美々には似合ってる。
そうなのに、摩美々はアイドルユニットを組まされて、レッスンとかしてるワケだ。カワイソーだよ。
私が内申点のために、クラスで委員長をしているみたいな? いや、それよりずっと大変だと思うけど。とにかく、摩美々に努力は似合わないのである。
それから、アイドルになってしばらくしてから、摩美々に話を聞いてみると、努力とかしなくても、さらっとアイドルをこなせているようだった。だから、意外と長続きしてるのかァ、とこの時の私は納得する。
でもそれは、私の思い違いだったのだ。
だって摩美々は、W.I.N.G.っていう凄いライブに出られる資格を持っているのだから。
スマホで調べたところ、W.I.N.G.とは、ワンダーアイドルノヴァ・グランプリといって、新人アイドルの祭典なんだそうだ。それに出場するには厳しい審査が何度もあり、出場したらしたで、今度は優勝争いをするライブであるらしい。
摩美々と勝負事は、縁遠い存在だと思っていた。
しかし、W.I.N.G.に、摩美々は出場する。
眠り姫は起きたのだ。
才能がある上で、努力もしなくては立てないステージだと理解している。
摩美々は、私に努力してるところなんて見せない。でも、本当はしているのだと、私は考えている。
そんな彼女を、誰が応援せずにいられるだろう。
段々と、私は、摩美々の一歩引いたファンではなくなっていった。ただの熱心なファンの、出来上がりである。
私は、結局のところ、ただ単純に、田中摩美々が大好きなのだ。
だから私は、そのことを伝えることにしたのである。
夜の、ふたりきりの公園で、摩美々と並んでベンチに座った。綺麗な月が、私たちを照らしていて、きらきらの星空が、私たちの上に広がっている。
「それでぇ、なんの用なのー? ナマエ」
「私、ほんとはねェ、摩美々が思ってるより摩美々のこと応援してるんだァ……」
W.I.N.G.にも、絶対に応援に行きたい。摩美々に優勝してほしい。
「最初は、摩美々がアイドルなんて、すぐやめるに決まってるって思ってた。でも、摩美々がアイドルしてるとこ見てるとさァ、なんか嬉しくなるんだよねェ。私の友達はこんなに可愛いんだぞ~! 見たか~! みたいな」
「褒めてるー?」
「めっちゃ褒めてるっしょ」
「ふふー。ありがとー」
隣の摩美々は、小悪魔っぽく笑っている。そんな表情も、凄く魅力的だ。
「摩美々はアイドル頑張ってるけど、それでも、私らは、だらけ友達のままだって。今は思ってるからね。これからも、よろしくね」
「なにそれぇ、ヘンなナマエー。ナマエは、だらけ友達だしぃ、爬虫類好き仲間だしぃ、めんどー嫌い同士だからぁ。つまり、これからもよろしく」
「うん!」
こうして私は、名実共に、田中摩美々のファンになったのである。
その後、W.I.N.G.で摩美々は優勝した。
私は、泣いた。ペンライトを握った両手の甲に、ボロボロと雫を落とす。
「摩美々……やったね…………」
思わず、小さく呟いた。
会場を出て、帰りの電車に乗ってから、スマホを取り出してお祝いメッセージを摩美々に送る。
「はぁ…………」
コンパクトを覗くと、少し目が腫れていた。摩美々のせいだ。
最寄り駅から道を歩き、自宅へと向かう。
空には、星々が美しく光り輝いている。
今日の摩美々は、星みたいに綺麗に輝いていた。けど、星みたいに遠い存在じゃない。そのことが嬉しくて、私は、また泣いた。
帰宅してからは、いつも通りにペットの可愛い蛇たちの世話をする。
ボールパイソン(ノーマル)とコーンスネーク(ブラッドレッド)が一匹ずつ。
ペットシーツの交換や水の交換、それから、今日は冷凍マウスを解凍し、ピンセットで挟んで食べさせた。
「よしよし」
久し振りに、摩美々に私のペットに会ってもらいたいな。それに、摩美々のペットたちにも会いたいな。今度、いつ遊べるかな。きっと忙しくなるから、しばらくはムリなんだろうな。
少しだけ寂しい。
そんなことを考えていると、スマホにメッセージが届いた。
摩美々からだ。
『お祝いありがとう。今度のオフの日に家に来ない? エンツォたちに会いに来てよ』
エンツォとは、摩美々が飼っている可愛いカメレオンの名前である。
願ってもない話だ。私は、ふたつ返事でオーケーした。
摩美々の終日オフの日。
私はウキウキと、普段は髪で隠れている耳を出して、お気に入りのピアスを着けた。そして、午前中から摩美々の家へと出かける。
手土産は、美味しいと評判のチョコレートケーキにした。
到着。家には摩美々しかいないらしい。
広々とした摩美々の自室は、相変わらず黒基調でまとめられていてお洒落で、綺麗に片付いている。
「元気? 最近忙しいでしょ。体調管理出来てるゥ?」
「元気元気ー。エンツォたちも元気だよー」
摩美々も相変わらずで、パンキッシュな私服を着こなしていた。このまま雑誌の表紙を飾れそうだ。
「そりゃよかった」
摩美々が用意したメロンソーダを飲み、手土産のケーキを食べ、談笑する。摩美々と話してると、あっという間に時間が過ぎていく。
その後は、エンツォたちと戯れたり、映画のDVDを観たりした。さよならの時間は、やっぱり、すぐに来た。
「アイドル活動、応援してるけど、ムリはしないよーに!」
「はぁい」
「じゃあ、またねェ」
「うん、またー」
◆◆◆
283プロダクションが、ファン感謝祭というライブを開催することが決定した。
もちろん、私は参戦するつもりだ。大好きな摩美々のためにも。
ライブ当日、ステージの上の摩美々は、アンティーカは、アイドルたちは、皆きらきらしていた。
圧倒された。素晴らしい時間を過ごせた。
けれど、何故か私はライブの詳細な記憶を失ってしまったので、早くブルーレイにして買わせてほしい。
感謝祭ライブから、しばらくして。
アンティーカの公式サイトをスマホでチェックしていると、グッドラフ・テラスという、泣いたら退去するルールのリアリティーショーの撮影開始というニュースが掲載されていた。
試験も近いのに、リアリティーショーもやるなんて、摩美々大変そう。
でも、摩美々なら心配ないか。頭悪くないし。
試験勉強一緒にやりたかったけど、撮影あるなら直帰かなァ。じゃなくても、アンティーカのメンバーと会うだろうしなァ。ザンネン。
この時は、軽くそう思っただけなのだが。
アンティーカの共同生活を映すリアリティーショーの第一回目がオンエアされた、次の日。
「テレビ観たよォ。グッドラフ・テラス」
「……あー観たんだー」
そりゃあ、観る。
それに、ナイショだけど、グッドラフのマスカラ買っちゃったし。今となっては買って良かったのかどうか、って感じだけど。
「ありがとー、ナマエ。番組、どうだったぁ?」
摩美々の表情が、明らかに暗い。
「恋鐘サン、料理上手過ぎでしょ~」
私は、努めて明るく振る舞った。
「ああ、あれねー。そうだねぇ」
摩美々が頷く。
「あとォ、摩美々の寝顔見れると思ったら、夜はカメラ止まるんだねェ」
「……そりゃそーだよー」
少しの、間。
沈黙の後にやって来たのは、摩美々からの、予想出来た質問。
「ねぇ、ナマエ。あの三峰のところ、どう思った?」
やっぱり、そう来るかァ。
私は、グッドラフ・テラスのネット評を検索済みだ。だから、あのシーンのネットでの評判を知っている。三峰サンを上げて、恋鐘サンを下げるカキコミの多いこと。
「んー、あれさ。テレビじゃん? ってことは、そのままのアンティーカじゃないワケでしょ?」
「そう……そうなんだよ…………」
摩美々の望む答えを返せたようだ。
彼女の表情が、僅かに明るくなった。
摩美々が落ち込んでいると、私まで落ち込んでしまう。早く、摩美々が抱えてるものが解決に向かうといいな。
私は家に帰ってから、グッドラフ・テラスの録画を消した。
驚いたことに、グッドラフ・テラスは、三回目の放送以降、熱血スポ根番組と化す。
高校組の3人が、試験の成績目標を決め、達成出来なければペナルティーポイントが計上されるというハードルを設定したのである。
私は、心の底からアンティーカを応援した。
神社へ行き、神頼みまでした。どうか、トータルで、好評のまま番組が終わりますように。摩美々が悲しむようなことが起こりませんように。
その後、グッドラフ・テラスは、全六回を好評のまま終えた。
また、摩美々がオフの日がきた。
今度は、私の家に彼女が遊びに来る。
午前中から摩美々が来て、彼女が好きなメロンクリームソーダを振る舞った。
それから、ふたりで蛇たちと戯れたり、お互いにネイルをしたりと、楽しい時間を過ごす。
「髪、伸びたねぇ。切るー?」
出し抜けに、摩美々が言った。
「あー。じゃあ、お願いしようかなァ」
家の庭で、摩美々に髪を切ってもらうことにする。
摩美々は、得意げにハサミをしゃきしゃきと鳴らして、私の髪を切る。
私は少しだけ緊張して、バスタオルを肩からかけて、椅子に座っている。
「んー。上手く出来たぁ」
「ほんと? 鏡貸してェ」
「はぁい」
手鏡で、正面から顔を映す。
いい感じになっている。
「ありがと。さっすが田中サン」
「ふふー。そうでしょー。さすが、まみみ」
摩美々は上機嫌だ。
暖かな陽が、私たちを照らす庭で、穏やかにふたりで過ごす時間を噛み締める私。
摩美々も、同じように思ってくれていたら、嬉しい。
◆◆◆
他人はよく、私と摩美々が何故つるんでいるのか分からないと言う。
それは、私が真面目な振りをしているからだろう。
私は、全力で手抜きをしながら、生きているというのに。
私、ミョウジナマエという人間は、めんどーなことが大嫌いだ。
前に、「私は、摩美々と違って良い子だからねェ」なんて、ふざけて言ったことがある。
私は、表面的な良い子になるのが得意なのだ。
摩美々の言う「悪い子」ではないけど、「良い子」でもない私は、きっと「普通の子」なのだろう。
漫然と中学から高校へと進学し、漫然と大学に進学しようかな、などと考えている。
けれど、なんだか最近、物足りなさを感じていた。
私の将来、なんとなくで決まっちゃうの?
なんだか、それって嫌だな。
そう思うようになった。
そして、私は考えた。考え抜いて出た結論は、「摩美々と仕事がしてみたい」だったのである。
例えば、どこかの会社で広報として働くとして、アンティーカを宣伝に起用することを提案するとか。
作曲家や作詞家になってみるとか、映像作家になってみるとか。
メイクアップアーティストになるとか、ファッションデザイナーになるとか。
私の夢、なにか見付かるだろうか?
まだ遅くないはずだ。探してみよう。
私が自身の机で頬杖をついて思案していると、クラスメイトが話しかけてきた。
「委員長、カラオケ行かない?」
「行く!」
カラオケは、私の趣味のひとつだ(ちなみに、もうひとつの趣味は散歩)。
歌う曲はもちろん、運命を切り開く歌である。
2020/06/19