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人生に完成があるとしたら、それはもう叶わないのだと思った。
必要なパーツが、欠片が、足りないのだ。
自分が生まれてから少しの間、彼女はこの世にいなかったというのに、こんなことを思うなんて不思議なものだ。
妹を喪った日に、置いて逝かれた兄はそう考えた。
世界なんて最早どうでもよかったが、妹なら、世界を救おうとするだろうと思った。
だから、少年は妹の思考を真似て、世界を救うなどという偉業へ邁進したのだ。
しかし、ある些細なことをきっかけに、少年の心は砕けてしまった。
「こんな世界、滅びてしまえ!」
夢の中で妹は叫んでいた。
怒りを顕にし、自分を殺した世界を呪っていた。
(世界を救っても、妹は救えない)
そんなことは分かっていたが、それでも妹が愛した世界を救いたかった。
だが、死んでしまった妹は世界を愛していなかったら?
世界を救おうとする自分が、妹の敵だったら?
死者の気持ちは分からない。
けれどナマエは、世界を救いたいという気持ちが、自分の中から吐息のように出て行くのを止められなかった。
「ヘクトール。オレ、世界救うの止めようかと思うんだ」
「…………そう」
「ついて来てくれる?」
「マスターが望むなら、お供しますよ」
「……ありがとう」
ふたりは、静かに全てを投げ出すことを決めた。
そして翌日、適当な理由をでっち上げてオケアノスへとレイシフトし、カルデアとの通信を意図的に切った。
「海、綺麗だね」
「そうだねぇ」
海岸にて、寄せては返す波を眺めた。
潮風が頬を撫でる。
しばらくそうしていたが、ナマエは決心して重い口を開いた。
「オレはね、ずっと偽物だったんだ」
「偽物?」
「妹の偽物。妹のしそうなことを、ずっとなぞって来たんだよ。妹だったら、こうするだろうってことを続けてたんだ。世界を救おうとする。絶望的な状況下で、あがいて生きようとする。どっちも妹のしそうなことだよ。オレには、向いてなかった。少し悲しいけど、肩の荷が降りた気分だ」
「……そうか」
海を眺めたまま、会話を続ける。
お互いに相手の表情は分からない。
「オレじゃなくて、妹がここにいたら良かったね」
「どうだろうね。この際だから訊くけど、マスターの妹はどうして死んだんだい?」
「妹は、登山中に崖から落ちて死んだんだって。その登山、本当はオレが行くはずだったんだよ」
まるで、自分の死の運命を肩代わりするかのように死んだ妹を悼む。
「どうして妹の方が死んだんだろうって、ずっと思ってた」
「そっか…………」
ふたりとも、それきり何も喋らずに海岸を後にした。
海岸の北には森がある。
更に北には山があり、上からは川が流れている。
晴天なのも相まって、滅びかけの世界とは思えないほど、のどかな風景だ。
ナマエとヘクトールは、どちらからともなく山を目指した。
「何してんだろうね、オレたち」
「さぁ? なんなんでしょうね?」
何をしているのか、というと山登りをしている。
手荷物から水分補給したり、休憩を挟んだりしつつ、まるで休暇にアウトドアを楽しむかのように登る。
ナマエの表情は、嘘みたいに明るい。
数時間かけて、ふたりが頂上に着いた頃、空には夕日が輝いていた。
その暗くなる前触れの輝きは、美しくも物悲しく感じられて、郷愁にも似た想いを呼び起こす。
(好きだったなぁ…………)
それは世界へ向けてか、妹へ向けてか、はたまた隣に立つ者へ向けた言葉か。
ナマエ自身にも分からなかった。
「ヘクトール」
「なんだい? マスター」
「オレを殺してくれ」
ナマエはヘクトールを真っ直ぐ見て、残酷な言葉を響かせた。
「俺に世界を滅ぼさせるんだ?」
「そうだよ。前は、自分で止めた癖にね」
「嫌だと言ったら?」
「自分で、ナイフで頸動脈でも切るよ。答えは分かってたでしょう?」
「……まあね」
「頼むよ。夕日が沈む前に」
彼女の髪色のような、綺麗な光が消える前に、殺してほしかった。
「了解」
「ありがとう、ヘクトール…………ごめんね、愛してる…………」
それが、ミョウジナマエの最期の言葉になった。
槍で心臓を一突きされ、彼は永遠の眠りへと落ちたのだ。
ヘクトールは、槍はそのままに、力が抜けたナマエの体を抱えて地に座る。
そして、手で光を失った碧い瞳を閉じさせると、強く抱き締めた。
「好きだったなぁ…………」
海のような、その瞳が好きだった。
日の光を受けて輝く水面の、裏表のない好意的な眼差し。
凪いだように静かで、真剣な眼差し。
雫を溢す、悲しみを浮かべた眼差し。
全ては生きていた頃の光だ。
彼には、もう二度と会えない。
生者ではないヘクトールは、彼を思い出すことも出来なくなるだろう。
熱を失いつつあるナマエの体を、自身に刻み付けるように、きつく抱き締めた。
必要なパーツが、欠片が、足りないのだ。
自分が生まれてから少しの間、彼女はこの世にいなかったというのに、こんなことを思うなんて不思議なものだ。
妹を喪った日に、置いて逝かれた兄はそう考えた。
世界なんて最早どうでもよかったが、妹なら、世界を救おうとするだろうと思った。
だから、少年は妹の思考を真似て、世界を救うなどという偉業へ邁進したのだ。
しかし、ある些細なことをきっかけに、少年の心は砕けてしまった。
「こんな世界、滅びてしまえ!」
夢の中で妹は叫んでいた。
怒りを顕にし、自分を殺した世界を呪っていた。
(世界を救っても、妹は救えない)
そんなことは分かっていたが、それでも妹が愛した世界を救いたかった。
だが、死んでしまった妹は世界を愛していなかったら?
世界を救おうとする自分が、妹の敵だったら?
死者の気持ちは分からない。
けれどナマエは、世界を救いたいという気持ちが、自分の中から吐息のように出て行くのを止められなかった。
「ヘクトール。オレ、世界救うの止めようかと思うんだ」
「…………そう」
「ついて来てくれる?」
「マスターが望むなら、お供しますよ」
「……ありがとう」
ふたりは、静かに全てを投げ出すことを決めた。
そして翌日、適当な理由をでっち上げてオケアノスへとレイシフトし、カルデアとの通信を意図的に切った。
「海、綺麗だね」
「そうだねぇ」
海岸にて、寄せては返す波を眺めた。
潮風が頬を撫でる。
しばらくそうしていたが、ナマエは決心して重い口を開いた。
「オレはね、ずっと偽物だったんだ」
「偽物?」
「妹の偽物。妹のしそうなことを、ずっとなぞって来たんだよ。妹だったら、こうするだろうってことを続けてたんだ。世界を救おうとする。絶望的な状況下で、あがいて生きようとする。どっちも妹のしそうなことだよ。オレには、向いてなかった。少し悲しいけど、肩の荷が降りた気分だ」
「……そうか」
海を眺めたまま、会話を続ける。
お互いに相手の表情は分からない。
「オレじゃなくて、妹がここにいたら良かったね」
「どうだろうね。この際だから訊くけど、マスターの妹はどうして死んだんだい?」
「妹は、登山中に崖から落ちて死んだんだって。その登山、本当はオレが行くはずだったんだよ」
まるで、自分の死の運命を肩代わりするかのように死んだ妹を悼む。
「どうして妹の方が死んだんだろうって、ずっと思ってた」
「そっか…………」
ふたりとも、それきり何も喋らずに海岸を後にした。
海岸の北には森がある。
更に北には山があり、上からは川が流れている。
晴天なのも相まって、滅びかけの世界とは思えないほど、のどかな風景だ。
ナマエとヘクトールは、どちらからともなく山を目指した。
「何してんだろうね、オレたち」
「さぁ? なんなんでしょうね?」
何をしているのか、というと山登りをしている。
手荷物から水分補給したり、休憩を挟んだりしつつ、まるで休暇にアウトドアを楽しむかのように登る。
ナマエの表情は、嘘みたいに明るい。
数時間かけて、ふたりが頂上に着いた頃、空には夕日が輝いていた。
その暗くなる前触れの輝きは、美しくも物悲しく感じられて、郷愁にも似た想いを呼び起こす。
(好きだったなぁ…………)
それは世界へ向けてか、妹へ向けてか、はたまた隣に立つ者へ向けた言葉か。
ナマエ自身にも分からなかった。
「ヘクトール」
「なんだい? マスター」
「オレを殺してくれ」
ナマエはヘクトールを真っ直ぐ見て、残酷な言葉を響かせた。
「俺に世界を滅ぼさせるんだ?」
「そうだよ。前は、自分で止めた癖にね」
「嫌だと言ったら?」
「自分で、ナイフで頸動脈でも切るよ。答えは分かってたでしょう?」
「……まあね」
「頼むよ。夕日が沈む前に」
彼女の髪色のような、綺麗な光が消える前に、殺してほしかった。
「了解」
「ありがとう、ヘクトール…………ごめんね、愛してる…………」
それが、ミョウジナマエの最期の言葉になった。
槍で心臓を一突きされ、彼は永遠の眠りへと落ちたのだ。
ヘクトールは、槍はそのままに、力が抜けたナマエの体を抱えて地に座る。
そして、手で光を失った碧い瞳を閉じさせると、強く抱き締めた。
「好きだったなぁ…………」
海のような、その瞳が好きだった。
日の光を受けて輝く水面の、裏表のない好意的な眼差し。
凪いだように静かで、真剣な眼差し。
雫を溢す、悲しみを浮かべた眼差し。
全ては生きていた頃の光だ。
彼には、もう二度と会えない。
生者ではないヘクトールは、彼を思い出すことも出来なくなるだろう。
熱を失いつつあるナマエの体を、自身に刻み付けるように、きつく抱き締めた。
